時刻は真夜中。天候は雨。
道路を縦断するように滑り込んだトラックにより封鎖された2車線道路。
黒い服の連中は、僕らを取り囲んで無数の銃口をこちらに向けている。
そんななかで、僕の手の中にある拳銃が銃声を響かせた。
目の前にあった薄茶色の頭が揺れて、額に赤い点が穿たれる。
そこから、真っ赤な血が伝い、雨と一緒に流れて行く。
何故、とっさに謝罪の言葉なんか浮かんだのでしょうかね?
ついこの前、彼の体を奪い、その意識を殺そうとしたばかりなのに。
不思議ですね。とっても、辛いんです。
体は手に入らねど、やっと念願かなって…殺せたのに。
あぁでも、もうすぐ僕の命も終わりですね。
きっと…もう二度と逢う事も無いのでしょう。
いつも、誰かの為にその力をふるっていた君と、己の欲望赴くままに殺戮を繰り返して来た僕とでは違いすぎる。
罪の重さも、命の重さも。
「構え。」
黒服達が改めて銃を構え直します。
こちら側からは誰も動く気配はありません。もう、足掻く気力もないのでしょう。
あぁ、連中が引き金に指を掛けます。
不思議ですね。これから僕は殺される。なのに、全然怖くないんです。
死ぬ間際って、もっと恐ろしいモノかと思っていました。
静かに目を閉じる。雨が、冷たい…。
とても、静か…。
「!!!!!!!!!!!!??」
突如響き渡る、知った声。
.
え、な、…なんで?えっと…?
ま…、まぁ、えっと、頭に死ぬ気の炎を灯した綱吉君が、パンツ一丁で、復活、しました。傷は、そのまま…残っているようです、ね?
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!死ーぬー気—でー…!」
……なるほど。今更理解しました。
僕が撃った銃弾、アレ、実は死ぬ気弾だったんですね。
まったく、要らん心配をしていたようです。勝手に人の寿命縮めないでくださいよ!!
黒服はまだ混乱していますね。無理もありません。
綱吉君が何をする気かは分かりませんが、僕は綱吉君を、超直感を信じます。
その"彼の実行しようとしている何か"が成就するまで時間を稼ぐのが、今の僕らの役目でしょうね!
「じゅうだいめぇぇぇぇぇっ!ご無事でぇぇっっ!お手伝いいたします!」
そう言って、獄寺隼人が血で汚れた手でダイナマイトを握ります。
「ツナはやっぱりヒーローなのな!」
山本武は傷ついた体で立ち上がり、バット…もとい刀を取り出す。
「やっぱり…やられっぱなしは、イヤ。」
雲雀恭弥はよろめきながらもトンファーを構え直しました。
「…はぁ、あなたたち、自分の状況分かってます?ぼろ雑巾はだまって下がってなさい。
…クフフ、時間稼ぎにおいて、幻術に勝るモノはありませんからね!」
「死ぬ気で直感!……………………ここだぁぁぁっっっっっ!!!」
そして綱吉君は死ぬ気の一撃を道路に放ちました…!
雨の中でも巻き上がる粉塵。その威力…。
もはや、こっちが幻覚のような気がして来ます…が、こちらは現実。幻じゃ希望は持てません。
死ぬ気の一撃はアスファルトを破壊し、大地をを突抜けて、道路に大穴を穿ちました。
そこに僕らは飛び込みます!
おや、結構深い。
着地したそこは、大きくて広い地下の下水道。しかも、整備用に通路が入ってます。
下水道の中、その片隅に、目を閉じた綱吉君が倒れていました。
あの、鮮やかな死ぬ気の炎は鎮火してしまったようですね。
さすがに、この怪我では長いこと死ぬ気状態をキープすることは出来なかったようです。
…まだ、他の連中は綱吉君に気がついていません。(「じゅーだいめー」とか叫んでますからね。)
さて!それじゃ、綱吉君を背負って彼らの元へ向かいますか。あぁ…やっぱり、あたたかい!
「綱吉君、居ましたよ。」
「……! 十代目、ご無事で…!…って、なんでまた骸が背負ってんだよ!」
「たしかに、ちょっとズルいのなー。」
「早い者勝ちなのです。トロくさいあなた達が悪いんですよ。」
「…ねぇ。病院はこっちの方角。たしか病院の近くに下水道からの、整備用の通用口があったハズ。影だから、よそ者の黒服達は知らないと思うけど六道骸死ねばいいのに。」
「あーそうですか、そりゃぁいいですねぇ。そこを目指しましょーか雲雀恭弥死ねばいいのに。」
「……。(綱吉さえいなければ過去最短タイムでかみ殺してやるのに!)」
「……。(今の状態の雲雀恭弥ならば、幻術がなくても楽勝なんですけど…綱吉君さえ居なければキレイさっぱり消してやるのに!)」
「………おーい、そろそろ行こーぜー…。」
下水道の中はわりかし明るかったです。というのもやはり整備用にぽつぽつと明かりが灯っていたからです。
黒服達は追って来てはいません。幻覚の足止めが功を奏しているのでしょう。さすが僕。
僕もちょっと浮かれていましたからねぇ、特上のをお見舞いしてあげました。そう簡単に呪縛からは逃れられないでしょうね。
しかし広いですね…。もうそろそろ地上に出ても良いのでは?
「こっち。」
「なぁ雲雀。」
「山本武。何か用?」
「いや、別に。…ただ、なんで道順わかるのかなーとか、思ってさ。下水道、入ったの初めてじゃないのか?」
「初めて。でも、下水道はほぼ道路の下にあるから、地上の道を覚えていれば問題ないよ。」
「…そーいう問題か?」
「違うの?」
「…いや、まぁ……そうかもな。」
そうこうしているうちに地上に出ました。
成程、ビルの後ろに出るのですね。
しかし、表通りにはやはり、黒い車がわんさか行き来しています。どれだけいるのでしょうね、あいつら。
まるで、一匹見たら数十匹…な、ゴキブリのようです。
「…さて!どうしましょうかね?」
「そんなの、決まってるだろ?」
「言わなきゃわからない?」
「十代目だけ死ぬ気にさせてたまるかってんだ!ラスト、ワンブロックで病院なんだ。俺たちも「“死ぬ気で突破”なのな。」
「山本この野「他に選択肢ないしね。」
「てめ、雲雀ま「ですね。多少痛い思いしても、どうせこれから病院ですし。それに、院内に入ってしまえばもう大丈夫でしょう。」
「…てめぇら、うるせぇ!」
「あれ?獄寺どした?目くじら立てて。なんかあったか?」
「……知るか!」
路地から通りに出て、一気に走り出します。
黒い車の連中も、すぐに気がついて追って来ますが、ダイナマイトの爆風が応戦し、刀とトンファーが守りを固めます。
が、やっぱり限界はありますよね。さっきから何発か足に喰らってます。走れない程痛い訳じゃないですけれど…。
先頭を走る僕ですらこの有様なのですから、後ろの連中はもっと酷い怪我を負っているのでしょうね。
…ま、自力で動いてる分には、大丈夫なのでしょうけど。
…本当ならば綱吉君、背負うのではなく抱えて行く方が良いのでしょうけれど…。
僕の腕力では、抱え続けるのは無理ですからね…。
ちょっと情けない気もしますが。
黒い車、さらに増えて来ましたね。武装集団が道を塞ごうとしていますが…。
あら?突然また別の黒い車が割り込んで、中から、鞭を持った金髪の男性が降りて来ました。
「ツナ!恭弥!大丈夫か?」
「……!」
「…あ。ツナの親戚の…ディーノさんだっけ?」
「へなちょこ!」
「おまえら相変わらずの対応だな。そうそう、病院までの道は開けた。あとは俺達キャバッローネに任せな!」
「…借りとく。」
「ははっ!恭弥ってば相変わらず可愛くねーの!」
キャバッローネと言えば、確かボンゴレの同盟でしたっけ。
先程のやり取りから見ても、まぁ味方でまず間違いないでしょうね。
やっと、病院の玄関が見えて来ました。もう、目の前です。
まだ持っていた、銃弾の尽きた銃を取り出してぶん投げ、病院の入り口にある、ガラスの自動ドアを破壊し、中に入ります。
ガラスの割れる音に驚いて、職員が集まって来ます。
「…君たち!一体何が…!?」
「見りゃ解るだろうが!急患だってんだよ!」
「あぁ、しかし、何をすればこんなに酷い怪我を…!」
「なんか、勘違いしてない?患者は一人だけだよ。」
「この、僕の背中で寝てる子だけです。残りは元気ですから…。」
「…確かに、ひどい重傷だ…!おい、今すぐに輸血を!手の空いている者は処置の準備を!」
「ツナ、行ったな………。」
「だな。これでもう、十代目、大丈夫だろ………。」
「…もうこんな時間。どうりで、眠たい、訳だ………。」
「この程度で、だらしない、です、よ………。」
あーあ、三人共、見事に崩れ落ちちゃって…格好わるい…。
でも、さすがに、あの行程はちょっと疲れたので、僕も横になります。
もう、一歩も歩けそうにないので、床でいいです。
とにかく、寝たい…。