これを読む前に、「邪眼使い六道骸」を読んどくといいかも。
別に見なくてもいいけど。

















昼下がり。
ツナは自室のテーブルでひたすらノートを開いて勉強をしている。
それを、今しがたいきなり押し掛けて来た骸がぼんやりと眺めている。



「ねー、綱吉君。」

「なにさ、骸?」

「ヒマです。」

「…じゃぁ、宿題手伝ってよ。」

「ヤです。」

「じゃぁ、そこでそうしてなよ。」

「それもヤです。」

「俺の宿題を手伝うか、そこでそうやってるか、二択!」

「…伝説の三つ目の選択肢!」

「三つ目は、えっと、帰れ!」

「…。」

「………四つ目の選択肢は、なしだよ?」

「折角来てあげたんだから、僕が退屈しない程度にかまって下さい…。」

「…あのねぇ…。俺明日テストなんだけど。今回赤点とったらリボーンによる盛大な蜂の巣確定なんだけど。来てくれたのはうれしいけれど、今日はなんにもできないよ。」

「いいじゃないですか。どうせ綱吉君一人死んだ所で、世界はなにも変わらないんですから。」

「そりゃぁ、世界的な目で見れば何も変わらないだろーさ。でもね、ダメツナの小さな、ミクロでマクロでちみっちぁぁーゃい小さな世界じゃ大問題なの!第一、まだ死にたくないし。」

「いーじゃないですか。それで死んだら綱吉君の野望”マフィアにならない”と、僕の望み”暇つぶし”がいっぺんに叶いますよ。まさに一石二鳥です。」

「うーん、それは魅力的かも…?でも俺、最後の一瞬でリボーンのすげぇいい笑顔みるの、やだなぁ。」

「じゃぁ、誰ならいいんですか?」

「うーん、それはやっぱり京子ちゃんかな?」

「むぅ。クロームならすぐに調達できるんですけどねぇ。まぁ、そこは幻覚で我慢して下さいな。」

「そっかぁ。それはしょうがな……はっ!…いやいや!俺は死なない、まだ死ねない!未練ある!
 …もう、骸ったらなに人の人生勝手に終わらそーとしてるのさ!」

「……あともーちょっとだったのに。」

「ちょっとじゃないからぁーーー!!俺まだ死なない!まだ若いし、やりたいこといっぱいあるし!」

「へぇ、誰とヤりたいんですか?」

「ちょっとそこー!へ、変な変換かけないっ!」

「ちょっと遊んだだけですぅ☆綱吉君純情ですねぇ。かぁーわいいっ。食べちゃいたいくらいですぅ☆」

「そこー!キモイからぁーーーーっ!引くぞ、ドン引きするぞ!あと、その妙な語尾なんとかしろぉぉーっっ!
 …っと、あぁっ!骸のペースに乗せられてる場合じゃないや。勉強、勉強っ!」

「ぶー。」

「はいはい、ぶーたれないの。」

「ぶーぶー。」

「ぶーぶー言わないの!折角の美形が台無しになるよ。」

「自分の顔じゃ退屈はまぎれません。お世辞言っても黙りませんよ。…それとも、僕に化粧でもしろと?」

「それはやめて。」















「……。」

「……。」

「……。」

「……。」

「……。」

「……。」

「……。」

「……ねぇ骸。」

「?」

「それ、ウザイからやめて。」

「僕、何もしてませんよ?ついでに喋ってもいないです。」

「してるでしょ。」

「してないです。」

「…じゃぁ、何で髑髏の姿になってるのさ!
 それにそれに!なんでさっきからちょくちょく、獄寺君だったり、ザンザスだったり…姿だけ変えるの!?もう、気になって勉強ぜんぜん手につかないよ!」

「綱吉君が言ったんでしょう?化粧でもして時間を潰してろって。僕は化粧道具を持っていませんからね、自前で、幻術で遊んでたんですよ。地獄道万歳ってカンジですよね。
 折角の幻術ですから、姿ごと変えてみました。…どうです?見事なものでしょう?」

「自分で言うなっ!」

「ちなみに、スカートの中もばっちり。」

…っうわぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!
 立ち上がるな、こっちを向くな、スカートをめくるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!」

「…え、そんな、絶叫する程見たいんですか?」

「盛大な勘違いをするなぁーーっ!やだ。ぜっっったいに、いやだ。」

「ただいま大サービス中ですよ?もったいないですよ?」

「たとえ、見た目かわいい髑髏でも、中身ばりばり骸だろ!?」

「文句あるんですか?」

「ありまくりだよ!」

「女の子じゃなくってごめんなさいねぇー!…このスケベ大魔王。」

「あ、いや…そうじゃなくてね?あの、そこはつっこむべきかなぁー…って。ほら、俺ってツッコミキャラじゃん?」

「なに必死になってるんですか?」

「あ…なんか。なんかとっても悲しくなってきたぞ?あれ?」

「ちなみに、もう座ってもいいですか?」

「あ、うん。勝手にすれば?」

「…つれないです。」

「それだけ楽しめれば、十分釣れてるんじゃない?」




「…ふぅ、やっと座ってくれた…………〜っ!だからって制服の上を脱ぎ始めない!この変態っ!」

「ちなみに中はTシャツですぅ。」

「…そうだね。」

「何か期待しました?ドスケベ大魔王こと綱吉君?」

「へんな称号つけないでーっ!それと、いいかげんデフォルトに戻れっ!」

「男の勲章ですよ?目指せ100人斬り!」

「なんでだよ!お前がやれ!」

「嫌です。カウント面倒くさい。」

「そこなんだ!…まぁ、骸ならよりどりみどりかもね。格好いいもの。…見た目だけは。」

「………誉めてもなにもでませんよ。それと、僕そんな浮気者じゃないです。」

「一途なんだ?」

「惚れたら、死ぬまで…いや、死んでも愛し抜きますよ。」

「へぇ。格好いいじゃん。でも、そこまでして愛し抜くなら絶対に死んじゃダメなんじゃない?」

「どうしてそう思います?」

「だって、いくら好きでも、死んじゃったらその人と会えないでしょ。
 困ってる時にそばに居てあげる事だってできないもの。それに、一人で取り残されるのは嫌でしょ?」

「まぁ、そりゃぁそうですけど?」

「…一人は、さみしいもんねぇ。俺なら絶対に、嫌。」

「……えーと、まぁ、あー…むぅ…そ、そりゃぁ、うれしいワケ、ないですけれど、ね?」

「……。」

「……。」








「ねぇ、綱吉君?」

「なぁに?」

「その、英語の問題の…問い4と問い5、間違ってますよ?」

「…そうなの?」

「過去分詞と現在進行、逆になってます。」

「…そうなんだ。」

「解答を見てみたらどうでしょう?」

「うん。あ、そこにあるから取って?」

「まったく、僕を使うなんて…。あなたくらいですよ。」

「いいじゃん。どーせヒマなんでしょ。」

「むぅ。まぁ、そうなんですけど。はい、解答集。」

「ん、ありがと。…?」

「……。」

「…?どーしたのさ、俺の腕、なんかついてる?」

「いえ…。ただ、傷跡いっぱいあるなぁ、と。」

「…あぁ。最近のはだいたい治ったけど、痕になってるのはねー。消えないんだよねー。」

「大分古いような感じがしますが?」

「うん、とっても古いよ。覚えてる限りで一番古いのは、こっちのかな?4つ位のころの。
 あと、こっちは一番痛かった時のヤツ。小学…四年生くらいの、かな?こまかいのは、ほとんど覚えてないや。」

「転んだにしては妙な位置ですね?それと、当時なら結構大きい傷なのでは?」

「まぁね。だってこれ、事故った時のだもの。」

「…聞いても?」

「いいけど、面白い話じゃないよ?」

「暇が潰れればなんでもいいです。」

「…うん、そーだね。骸だし。」

「なんですかソレ。」

「あはは。まぁ気にしない、きにしない。…あのさ、俺弱いじゃん?」

「えぇ、弱いですね。激ヨワでついでに雑魚です。」

「おまけに、頭悪くて、運動できなくって、運も悪い。」

「まさにダメツナという呼称がピッタリですよね。」

「そ。俺ってば昔っからダメダメでさ。よく近所の子達にいじめられてたんだよね。
 今思えば、ずいぶんな目にあってたなぁと思うけれど…当時の俺はぜんぜん、それがいじめられてる事だって事にも気がついていなかったんだよね。」

「昔からお馬鹿だったんですね。」

「そ。でもさ、さすがにボール盗られたり、足払いかけられたり、石投げられたりされる頃には理解したんだよね。
 自分が嫌われてるって、事。」

「……。」

「遊びに行く公園変えたり、いつもと違う子達と遊んだりしてもだいたい同じ。ダメなのはいけないんだなー、とか、思ったよ。」

「…子供ですからねぇ。」

「まぁね。でも、ダメツナでもいいからこっちおいでって言ってくれる子はいたよ。でもさ、その子も一緒に仲間はずれにされるんだよね。俺、それが嫌でさ。」

「……。」

「俺だけならまだいいんだ。我慢すればいいだけだもの。でもさ、俺じゃない人まで巻き込むのは嫌だったんだ。そう思うようになってからは、いっつも輪から離れて一人で遊んでた。そしてらさ。」

「?」

「いままではさ、なんとなくハブられてたけど…そうじゃない奴らに会ったよ。」

「と、言うと?」

「俺を狙ってくる奴ら。いわゆる、いじめっ子ってやつ。」

「……!」

「俺は弱いから反撃できないし、助けてくれたり、庇ってくれるような仲間も居なかったから、ずっと的だった。で、必死になって逃げるんだけど…俺は足、おそいから。すぐに捕まってボコられてたよ。効率のいい逃げかたが分るまでは、結構辛かったな。
 でも、小学校4年生くらいからかな?殴られる事は少なくなった。」

「…隠れるのが上手くなって来た、とか。」

「まさか。逃げかたがわかってきたんだよ。真っ先にパシリをやれば、とりあえず殴られない。とか、授業の合間にトンズラすれば、財布は無事、とかね。」

「学校に財布を持ってこなければ良い話ではないんですか?」

「そしたら、その代わりぶん殴られる。お金が惜しい時…まぁ、普段だけど。でも、たいていはこのパターン。
 まれに、いかにもヤバそうなのが来るから、その時のための保険さね。それでも一回さ、並盛デパートの近くの歩道橋で…あ、場所わかる?」

「えぇ、わかります。大丈夫です。」

「あの歩道橋、今でこそキレイだけど、昔はそりゃぁ錆だらけでボロかったんだ。当時はまだ交通量もさほどでなかったから放置されてた。
 あの道は俺の、よく使う逃げ道の一つでさ。…でも、あるとき逃げ損ねて、追って来た連中にあそこで思いっきり殴られて。錆だらけの手すりに思っきり叩き付けられた。」

「痛そうです…!」

「それだけじゃないよ。俺が叩き付けられた衝撃で、手すりが取れて落ちたんだ。俺も一緒に落ちちゃった。真っ逆さま。怖いというか、どうしようって感じだった。」

「…。」

「丁度車が走って来ていた所でさ。運良く車のボンネットのところに落ちたから助かったけど…錆びた手すりで思いっきり切っちゃってね。そ
れがここの…腕のキズ。」




「……ふーん…。それにしても…それ以外にも、本当にキズ痕だらけ…ですね?反対の腕にもいっぱいあるのでしょう?」

「まぁね。足にもあるよ。しょっちゅう転んでたからね。足はほんとう、かっこう悪いくらいにいっぱい!」

「顔にあんまりキズがなくって良かったですね。冴えない顔がさらに冴えなくなるトコロでした。」

「あうー…。それはまぁ、ラッキーってことで。……てか、つまんない話でごめんね?」

「あんまりつまんなくもなかったですよ。それに、ちょっと予想外でした。あんまり甘ったれだから、昔から…そりゃぁ大切にされていたのかと思いましたよ。」

「そぉ?今も昔も、ダメツナなところは変わらないよ。いまだにカツアゲされるしね…。
 獄寺君や山本が居る時はいいけど、そうじゃない時は…古い知り合い、特に小学校の時の知り合いには絶対に会いたくはないもの。」

「古い知り合いなんて、学校にいっぱい居るのでは?」

「ううん。あんまり居ないよ。皆そろって別の学校行ったもの。」

「えーと、ここの近所だと…?」

「俺さ、引っ越ししたんだよね。」

「どこから?」

「黒燿中の近くだよ。」

「あら、ご近所。」

「そ。ちなみに、何もなければ黒燿に進学してた。…家建てる時にさ、丁度進学の時期とかぶったし。あんまり遠くはちょっとって感じで。
 でも、学区は別の方がいいって事からかな。ちょっと母さんに気を使わせちゃったって思ったけど、まぁ、中学上がってもいじめられながら生活するの嫌だったし。いじめられるの分かってて、さらに荒れた学校行きたいと思う?それに、ウワサのせいもあったしね。」

「ウワサですか?」

「そ!ほら、並盛と黒燿、住所上の町は違えど、区切ってるの市民公園の脇の国道じゃん。渡るだけじゃん。ほぼ同じ街!
 俺、そこの道好きだったんだ。よく歩いてた。それに、そこのケーキ屋によく来てる京子ちゃん、並中行くらしいって聞いてたし。さらに…。」

「?」

「入学して一ヶ月。たった一人で、当時荒れ放題だった並盛中学校の不良を全部のして、更に彼らの頂点に君臨し、規律を敷いて統制したとい
う、トンファーを持った伝説のおにいさんが…」

「ちょっと待った、もう分りましたから。」

「…ね?でさ、そんな猛者が居る所なら白昼堂々いじめられることはなくなるかと、一抹の希望を胸に引っ越してきたワケ。」

「それで結果は?」

「やっぱりダメツナはダメツナでした。」

「…でしょうね。」

「でも、それでもね、前よりは本当マシになったんだよ?それに、獄寺君や山本、みんなに会えたし。」

「……あーあ、おとなしく黒燿に居てくれれば僕も楽だったのに。」

「うーん、本気で並盛に来て良かったなぁ。でもでも、俺、骸にも結構感謝してるんだよ?」

「僕何かしましたっけ?」

「うん。骸が黒燿中をシめるようになってから、黒燿生に会っても襲われる事は随分減った。」

「へー。」

「ウワサだと、というかなんかなんだけど、六道骸に目をつけられるとタダじゃ済まないくらい大変な事になっちゃうらしい。だからハデな行動は慎めって言うのを聞いた。」

「僕そんなにヒドい事してないですよ?」

「うそこけ。」

「本当ですって!最近はいじめっ子で済む程度までしかボコってませんって!僕は自分に火の粉が降り掛からないとボコりません!
 僕より雲雀恭弥の方がよっぽどヒドイと思いませんか!?だってあの鳥野郎、群れてるだけでボコりにくるんでしょう?その方がよっぽど理不尽でたちが悪いです!群れるだけなら害もクソもないでしょう!?」

「うん、まぁそこは否定しない。俺も被害者だから。」

「でしょ!僕こまで理不尽にボコりません!疲れるのイヤです!」

「…言われてみればそうかも?」

「理不尽に暴れてるのは犬だけです。」

「…あ、そ。止めないワケ?」

「だって面倒ですから。」

「そういえばさぁ、この前ちらっと聞いた話なんだけど…黒燿中の前の生徒会長さん。何かおかしくなっちゃって警察のお世話になった…って聞いたんだけど…。
 それって本当?それともデマ?」

「さぁ…?えっと、確か名前、多分、ヒツジ…とかなんとか。そんな名前だったかな?
 …まぁ、黒燿中じゃ珍しいくらい真面目な人って事で知ってましたけど。ある時を境に、一気に暴力的になって…当時の六道骸、ランチアですけど…にケンカを売った、とか千種が言っていたのを聞きました。」

「ふーん…。」

「黒燿中、僕が来た時も相当ひどかったですよ。その中で真面目な…って。
 嫌がらせとかもされていたのかもしれませんね。耐えられなくなって発狂しちゃったのかも?」

「あ”ーー怖っ!黒燿中行かなくて良かった!」

「綱吉君が黒燿中に居たら、部下にしてあげたのに。」

「…契約して?」

「もちろん。部下と言う名の下僕に。」

「うわぁー!黒燿中行かなくてマジ良かった!俺は人生の選択を間違えなかった!」

「つまんないですぅー。」

「安全第一だよ、ホントに!でも、なんで骸は黒燿中に転入することにしたの?」

「え、そんなの。」

「そんなの?」

「制服が好みだったからに決まっているじゃないですか。」

「…そんだけ?」

「何か問題でも?」

「…あのさ。」

「はい?」

「最初から並中に入ってくれば面倒な手順踏まなくても良かったんじゃない?」

「そうすると、住み着く場所が確保しづらかったんですよ。」

「なるほどぉ〜、納得!」

「あそこは水道も、電気も昔のままですからねぇ。」

「へぇ、そうなんだ。」

「おかげで、生活には不便していませんよ。」

「でも、じゃぁ、冬はどうするの?」

「無事な部屋はいくつかありますよ。だから大丈夫です。本格的にヤバくなったら地下もありますし…それに。」

「?」

「ま、その時は居候させてくださいね!」

「げ!」

「冷たい事言わないで下さいよ。板チョコくらい持参しますから。」

「…俺、冬ならみかんがいいなぁ。」

「じゃ、決まりですね。そうと決まれば!」

「そうときまれば?」

「さっさと宿題を終わらせなさい!」

「げっ…原点回帰っ!」

「おや、難しい言葉を知ってるじゃないですか。」

「さっきやった国語のプリントにのってた。」

「…なるほど。」













「うーーーーー〜!!」

「なんです、またわからないんですか?これで何回目です?」

「だって、だって全然わかんない!」

「まったく、さっきから言っているでしょう。コレは関数ですよ。なんで円すいの公式使ってんですか。」

「だって、公式…。」

「教科書を開くのを面倒くさがらない!」

「だってぇ…。」

「契約しますよ!」

「…うぅ、わかったよ…。」

「…まったくもう…!…あと3問でノルマ終わりじゃないですか。もーちょっとですよ。」

「でも、ココが山なんだよ…!むずかしいし、あと3問なら後でもいいような…。」

「じゃ、全部終わったらおもしろいものみせてあげますよ。だから頑張りなさい。」

「…手伝ってくれる?」

「わからない所だけ、ですよ?面倒だし。」

「やったぁ!」










「…ねぇ、ここは?」

「こっちの数を先に計算していくんですよ。何故だかわかります?」

「…引く、よりも割るのが優先、だから?」

「よくできました。…まぁ常識なんですけど。」

「で、こっちのほうの、公式?」

「計算できそうですか?」

「…無理っぽい。」

「なら違うのでは?」

「うぅ〜。」

「こちら、まだ約分できますよ。」

「あ、本当だ!それに、こっちまだちょっと動かせる!…あ、公式使えた…!」

「良かったじゃないですか。それじゃあ、これで終わりですね!」

「あ…ホントだ!やったぁ!全部終わったよっ!」

「おめでとうどざいます。時間すっごいかかりましたね。」

「うっさい!…じゃ、さっき言ってたよね、なに見せてくれるの?

「えーっと…。」

「あれ、ひょっとして考えてなかった系?」

「違いますよ。8割しかあってません!」

「8割あってたら十分じゃないの!?」

「むぅ…。あ、思いつきました!」

「なになに?」






「…。」

「あれ?」

「どうかしました?」

「…うぅん、ちょっと違和感あったけど…なんでもない…よ?」

「……やっぱり、わかるんですね。」

「幻覚つかった?」

「えぇ。正確には解除した…ですけど。」

「解除…?」

「えぇ、そうです。」






そうして骸は右手で右目にかかる前髪をかきあげた。

右目の周りの縫い痕と、その近辺の痣がよく見える。






「えっと、火傷のあと?」

「えぇ。場所的に、覚えがあるかもしれませんよね?」

「…痕になっちゃったんだね…。えっと、でも、」

「綱吉君がつけた火傷じゃないですよ。」

「え、でも場所」

「もし、あの時のが痕になっているのなら、少なくとも僕の顔の半分は二目と見られない状態でしょうね。」

「じゃぁ…」

「…この前、エストラーネオに連れて行かれる前に火事にあった事があると言ったでしょう?」

「えっと、家を焼かれたってやつ?」

「えぇ。この痕は、その時についたものです。他の箇所の痕は治って消えても、ここだけは治りませんでした。」

「へぇ…右目の周りの縫い痕も、その時の?」

「いいえ。こっちは右目を移植した時についたものです。」

「ふーん、そうなんだぁ…。とことん右目に縁があるというかなんというか。」

「まったくです。君に殴られたのも右目でしたし。」

「それはさぁ…なんというか。」

「わかってますって。しかし、ついでだから君に殴られた時のも、痣になって残れば良かったのに。」

「良くないって!そんな事になったらお前、本気で二目と見られない顔になるぞ!折角顔だけはいいのにもったいない!」

「顔だけってなんですか、顔だけって!」

「だって他あんまり認めたくないもん!」

「む。…まぁ、雑魚のひがみは置いといて。でも、例えどんなにヒドイ状態になっても、やっぱり欲しかったです。火傷のあと。
 …まぁ、死ぬ気の炎は厳密には炎じゃないのでしょうがないんですけど。」

「…なんでさ。傷跡なんてない方がいいに決まってるでしょ?」

「まぁ、普通はね。でも、ここまでくるとあきらめもつきます。ついでに僕、幻術つかえますし。いくらあっても男前は問題ないですし。」

「…でもさぁー…。」

「僕は、自分の生きた跡を恥じるつもりはないです。」

「?」

「右目の火傷も、縫い跡も、どっちも僕の人生を大幅に変えた事件の時についたものです。
 どっちも、あまり思い出したくはない出来事ですが…でも。絶対に忘れる訳にはいかないもの、です。」

「……。」

「僕は今の右目を手に入れた時に、対価として幾ばくかの記憶と、多少の思い出を失いました。」

「それは…」

「失ったというより、思い出せない、に近いかもしれません。
 ……今だってそう。僕はここに居て、生きています。人間が生きて行くには、物事を忘れる事は必要な事…でないと脳がパンクしちゃいますから。」

「忘れる…。」

「僕は、人間なんか嫌いです。でも…そんな事を言う僕だってただの人間でしかない。
 物事を忘れるのは止められる事じゃ、ないです。意識すれば覚えておけますけど…それでも限界はあります。
 しかれど、傷跡って違いますよね。どんなに成長しても、小さくなっても残って…なんだかんだで、見るたびにいろいろ思い出します。」

「大概、ろくでもない事だけどね。」

「ま、大抵はね。でも、跡が残る程の傷のついた出来事って、なかなか忘れないです。
 僕が覚えてる限りで一番古いのは、すっ転んだ時に腕の皮がずるむけたやつ…あぁ、これです。」

「ちいさいね?」

「当時は結構大きかったんですよー?傷口を洗って、消毒している時なんか、痛くてずっと泣いてた覚えがあります。」

「うーん、確かにおれも、小さい時の記憶は傷跡関連多いかも。」

「ですよねー。まぁ、モノによっては腹立たしいものも多いですけど。…手術のあととか。追われてる時についた銃創裂傷エトセトラの跡と
か。」

「…うわ。それは…痛そうだ。今、腕から少し見えるけれど…痛かっただろうな、とか、思ったり。」

「普段は幻術で隠してますけど、今服脱いだらすごいですよ?脱いであげましょうか?」

「えっと…」

「?」

「…っと…。」

「…。」

「…。」

「…もしもこの先、綱吉君が同じような傷を負う事があったら。」

「あった、ら。」

「その時に、見せてあげますね。」

「…気、つかわせちゃったね。ごめんね?」

「別に使ってないですよ。ただ。」

「ただ?」

「折角いろいろ話してもらったのに、僕はあんまり話してあげられるような事がなくってちょっと残念です。」

「そんなこと!」

「でも、右目の縫い跡の事は、犬と千種も知っていますが、火傷の事はいつ付けたものなのかは知らないハズです。…秘密、ですよ?」

「…うん、わかった!俺のも、言わないでね?…なさけないから…。」

「僕は君と違って、口は固いですから心配ないですよー。」

「それは、俺だって…口は固い方で通してるんだよ!」

「口は、ね。」

「…何が言いたいのさ。」

「べっつに〜。ただ、目は口程にモノを言うって言うでしょう?そっちはどうなのかな…って思いましてね。」

「えっと、大丈夫だよ!がんばるし!」

「…。」

「…がんばる、し!」

「…言った所で別に、怒りはしませんけどね?」

「言わないもん!」

「はいはい。…あ、ちなみに、今何時ですか?」

「あそこに時計があるよ。」





そう言って、ツナは掛け時計を指差す。





「げ!もうこんな時間なんですかぁ!?」

「そんなに遅くもないよ?…何か用事があったとか?」

「大アリですよ!もうすぐスーパーのタイムサービスが始まっちゃいますっ!ここでドジると、本日の晩ご飯が相当情けない事になりま
すっ!」

「時間、もうヤバイよ!今から行くって無理っぽくない?…いや、骸の足で全力疾走ならギリギリいけるかも?」

「…むぅ、微妙ですけど…でも、行くっきゃないでしょうね。おいしい晩ご飯のためにも!
 ならば、しゃべっている時間がもったいないので、僕はもう行きますね!今日はありがとうございました、楽しかったですよ?」

「そう、それはよかった。…それじゃ、またね!頑張ってねっ!」

「えぇ、それでは!」





そう言って骸は沢田家の階段を駆け下りる。

ツナは一人残った部屋の窓に歩み寄る。
直後に家から飛び出した長身の少年は、夕日に彩られながら弾かれるように走って行って、すぐに見えなくなった。

紅くなって来た空を見上げながら、ツナは大きく伸びをする。
夕日に照らされて、背後に影を背負いながら暮れゆく町を眺めている。
おちる影はくっきりと。かぶさる影ははっきりと。傷跡にかぶさる影は、いびつな皮膚の凹凸に歪みながらも、コントラストを強調し続けている。

しばらくすると、一階から子供の声が聞こえた。
ランボとイーピンとフゥ太が公園から帰って来たようである。
聞こえるのは、泣き声と困っている風な声。
どうやら、ランボがケガをしたようである。この泣き方だと恐らく、普段はしない規模のケガなのかもしれない。
奈々がビアンキに救急箱を取ってくるように言うのも聞こえる。

ツナはその様子を耳に入れながら、今晩あたりにランボから「歴戦の傷」か「名誉の大ケガ」の絆創膏を見せつけられる事を予想して、小さく笑うのだった。


おわり☆


ちょくちょく長編の合間に落書きしていたものを集めて、繋いでみました。そんだけ。
多少の無理矢理感はほっといてあげてください。
あと「邪眼使い~」の方が骸サイドの物語だったから今度はツナサイド。
…まぁ骸のお話は「黄昏の約束」にまとめて作ったんだけどさ。

ちなみに、イメージはマジでタルそうな中学生。まんまですね。
いや、私の小説を一言で説明すると、この「だらだら感」に尽きると思うので問題ないと思うけど。

あと、骸はツナを甘やかしたおせばいいと思う。腐的な意味をさっ引いてもね。
公式も、なんだかんだで甘いし。ツナに甘い甘いって言ってるけど、まずお前が甘いとツッコミを入れたくなるしな!
なんだかんだで雲雀も甘いしさ。 お ま え ら あ ま す ぎ !←もう私フィルターはいってるのかな…

まぁとりあえず、獄寺が右腕になるらしいから、腹心とかめざせばいいと思うよ。