それからぼくたちは、街のなかを歩きはじめたんです。
つな君のおとうさんとおかあさんを探すのが目的なんです。
ふたりで、街を歩きます。
きょうはもう、小銭ひろいはやんないのです。
つな君はとってもめざとくて、色んな物を見つけてぼくに教えてくれます。
気がついたら、つな君ってばぼくの腕をにぎって、ぼくの前に立って歩いてるんですよ!
「ねぇみて、あそこのお店!きれいなドレスだね。まっしろ!」
「それ、ぼく知ってます。"はなよめさん"が着るやつですよね?」
「"はなよめさん"って、だれ?」
「それはわかんないです…。」
「でも、あんなステキなドレスを着るんだよ。きっとすごくエラい人なんじゃない?」
「じゃぁ、"はなよめさん"ってとってもエラいんですね。」
「うん!きっと"おうさま"や"そうりだいじん"よりもえらいんだよ!」
「"そうりだいじん"ってだれなんですか?」
「んとね、テレビにいる人!」
「テレビ、すごいです!」
「ねぇねぇ、あの看板はなんて書いてあるのかなぁ?」
「えっと…たぶん"えいがかん"だと思います…。」
「"えいが"はツナ知ってるよ!」
「ぼく、わかんないです。」
「あのね、おっきい白いのに、おっきなロボットが出てくるんだよ!」
「えっと、なんかこわいですね。」
「こわくないよ!かっこいいの!わるいのやっつけるんだよ!」
「でも、おっきいのはこわいです…。」
「じゃぁ、ツナがいっしょにいてあげる!」
「でも、"えいがかん"の中に入るのにはお金がかかるみたいですよ?」
「おかねは、ないなぁ。」
「ぼくもない、です。」
「あっちの、ショーウインドゥの中でキラキラしてるの、とってもキレイです…。」
「ほうせき?」
「そうみたいです。いっぱいあります。」
「おかあさんの指輪についてるのよりもおっきい!」
「いろんな色があります。つな君だったらあの、黄色いのがにあいそうです。」
「えへへ…そぉ?きいろいの、にあう?」
「きいろいブローチ、とってもキレイです。オレンジのもすてきですね。」
「えっとね、XXくんなら青いのが似合うとおもうよ。目の色といっしょ!」
「ぼくの目はあんなにキレイな色してないです…。」
「そうかなぁ。んーと、言われてみるとそうかも?」
「そう、ですよ。」
「どっちかというと、あっちににてるよね。」
「あっちって?」
「うみ!遠くの方になると、こくなるよね。あんないろ!」
「ぼくの目、うみみたいですか?」
「うん!」
ぼくとつな君はいっぱいお話ししました。
街のなかを歩き回って、とっても疲れてるハズなのに、ぜんぜん元気です。
ぼくたちはそのうち、海に面した公園につきました。
ぼくたちは海に落ちないようにとついている"さく"によっかかって、きゅうけいしてます。
「もう、夕日が沈んじゃいますね。」
「おとうさんとおかあさん、見つかんないなー。」
「つな君のおとうさんとおかあさん、どんな人なんですか?」
「おとうさんはね、こうつうせいりの人なの!」
「こうつうせいり?」
「そうだよ!世界中の、いろんなところでこうつうせいりしてるの!」
「すごいです。なんかかっこいいです!」
「へへへ…そぉ?」
「はい!…おかあさんは?」
「おかあさんはねぇ…やさしくって、あったかくて、ツナ大好きなの!」
「へぇ…いいなぁ。」
「あとね、あとね、おかあさんの作るハンバーグ、すごくおいしいんだよ!ツナもお手伝いするんだけどね…」
つな君はとっても楽しそうに話してくれます。
いいなぁ、つな君は。
ぼくも、もっといっぱい、おとうさんと、おかあさんと一緒にいたかったな。
そして、ぼくもつな君みたいにいっぱい、いっぱい話せたらいいのにな。
いいなぁ、いいなぁ。
ぼーっと、つな君を見ていたら、つな君、それに気がついたみたいです。
「あ、ごめんね!ツナばっかりしゃべってた!」
「気にしなくっていいですよ、それにしても。」
「しても?」
「夕日がとってもきれいです。」
「うん。ツナ、海に沈んでくのはじめてみた!」
「こーしたら、もっときれいですよ。」
ぶわぁっと、足下から白い鳥がとびたちました。
「う、うわぁ!すごいや…あれ、でもさっきは鳥なんていなかったよね?」
「本物じゃないですよ。」
「おもちゃ?」
「ちがいます。"マボロシ"です。」
「マボロシ?」
「さわれないんです。みえるだけ。」
ぼくのうでの上に白い鳥がとまります。
つな君がさわろうとすると、するんとすり抜けちゃいます。
「ふしぎ!魔法みたいだね!」
「本当は、こういう事が出来るのはヒミツ、なんです。」
「じゃぁ、ツナに見せてよかったの?」
「…とくべつ、です。」
「うれしい!じゃぁ、ツナもみせたげる!」
「え、何を…?」
つな君が両手を伸ばすと、そこに小さなオレンジ色の火の玉がありました。
「熱くないんですか?」
「熱くないよ。さわってみて?」
言われたとおりにつついてみたり…さわってみたら、本当に熱くなかったです。
「マボロシ、なんですか?」
「ちがうよ。ツナもよくわかんないの。でもおとうさんに、あんまり人に見せちゃダメって言われちゃった。明日会うおじーちゃんが"ふういん"してくれるって言ってた。"ふういん"したら見れなくなっちゃうんだって。」
「せっかく、とってもキレイなのにざんねんですね。」
「そうだねぇ。でも炎が見えるだけだもの。使い道もないよ?」
「そうですか?」
「うん。だって、花火のローソクに火がつくワケでもなんでもないもの。あったかくもないし。」
「うーん。たしかに、使い道なさそうです。」
「でしょ?」
そう言ってぼくたちは笑いました。
周囲はどんどん暗くなっていきます。
その時。
「つっく〜ん!」
「ツナ〜!」
後ろから男の人と女の人の声。
「あ、おかあさん!おとうさんも居る!」
つな君は、公園の入り口にいる、おとうさんとおかあさんに向けて走っていこうとしました。
でも。
ぼくはとっさに、つな君のうでをつかまえちゃいました。
なんでこんな事したのかわかんないけど、でも、つかまえちゃったんです。
「どうしたの?」
「あ…。」
つな君が行っちゃったら、ぼくはまたひとりぼっちになっちゃいます。
そんなのヤです。さみしいのなんて、イヤ。
でもつな君、早くかえりたいだろうなぁ。
こんな、物乞いみたいなみすぼらしいヤツとなんかと一緒に居たいわけない。
でも、ぼくは…ぼく、は………!
ぼくはどうしたらいいかわからなくて、つな君のうでをにぎったまま、下を向いてしまいました。
困って困って、どうしようもなくて顔を上げたら、つな君と目が合いました。そしたら。
「また、会いにきていい?」
「…え?」
「あのね、XX君はツナのはじめてのお友達なの。だからまた、会いにきていい?」
「日本とここは、とっても遠いですよ。」
「でも、ツナが大きくなったら、お金いっぱい貯めてまた来るよ。」
「大きくなったらわかんなくなっちゃいますよ。きっとぼくの事忘れちゃいます!」
「大丈夫だよ!」
「どうして?」
「XX君の両目と髪の色、ツナの大好きな夕暮れの、夜のはじまりの空の色といっしょだもの!きっと毎日、この時間なったら思い出すよ。絶対にまちがえるもんか!」
「…ぼくの方が忘れちゃうかも。」
「ツナが覚えてるから大丈夫だよ!…でも、できたら忘れないでほしいなぁ…。」
「じゃぁ…忘れない、です。」
ぼくはつな君のうでをはなしてあげました。
そしたらつな君は自分の小指をさしだしてきたんです。
でも、それが何を意味するのかわかんなくて、じっと見ていたら
「?」
「しらないの?ゆびきり。」
「…えっと…ぼく…。」
「こゆび出してー。」
言われたとおりに小指を出しました。
そしたらつな君は指をからめて
「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーら、はーりせーんぼーんのーますっ!ゆーびきったっ!…絶対に忘れないから!」
「ぼ、ぼくだって!」
そう言ってつな君は走っていきました。
つな君、いっちゃいました。
でもね、つな君の背中を見ても、ぼくはもう寂しくなんかなかったです。
だって、約束したから!
ぼくは公園を出て、家…というか、ねぐらにした壊れた教会を目指します。
途中の店のショーウインドーのガラスには、ぼろぼろの服を着たぼさぼさ頭の青い目の子供が映りました。
顔ぐらい洗えばよかったな。とか、髪に油を塗ったらきれいに見えたかな。とか考えます。
…せめて、長すぎる前髪はまんなかで分けておこうかな?
でも。
とりあえず、明日からは働く場所を探さないと!
お金を貯めて、日本に行く為に。そして、つな君の事を驚かしたい!
ぼくは適当に生ゴミの中から食べられそうな物をあさってから帰り着きました。
もとの教会に帰り着くとそこには、黒い服の男の人と、白い服の研究員が数人居ました。
「こいつか?」
「あぁ。間違いなくJ49だな。」
「まったく、ガキなら代わりは幾らでもも居ただろう。」
「あの薬を投与して生き残ったのはコイツだけだった。それに、幻術の素養もある。もし上手く行けば…この世界でもトップクラスの生物兵器になる可能性がある。」
「…我が偉大なるエストラーネオに立ちはだかる愚か者どもを一掃できうるような?」
「造作もないだろうよ。…上手く行けばの話だがな。」
ぼくは怖くなって、後ろを向いて逃げ出そうとしました。
でも、大人達はすぐにおいかけてきて、おいつかれて…何か布を口元に当てられたら、真っ暗になりました。