骸の過去の物語です。
超ウルトラ捏造だよ。サギ師もびっくり。
グロいって程じゃないけれど、時折ちょっとキツめの表現があるので苦手な人は戻った方がいいかもしれない。

おっけー?














白い部屋に、たくさんの子供達が居ます。
子供達は、"ばらばら"です。人種も、性別も、ばらばら。しゃべる言葉も、"ばらばら"です。
彼らは、一人ですみっこに居たり、数人で固まっていたりしています。
ほとんどの子供は包帯を巻いていたり、綿を当てられたりしています。
そして、入り口の扉が開くたびに、あるいは人の話し声がするたびに子供達は、瞳に怯えた色を映して、身をこわばらせるんです。

そんな彼らには、一つだけ共通点があるんです。
それは、瞳。みんな澱んだ、濁った眼をしています。
ぼくもその中の一人です。
ずっと前にここにつれてこられてから、ここにいます。
身を寄せ合う人もいなくて、ひとりです。
しゃべる相手もいなくて、ひとりです。
ぼくの事を気遣ってくれるようなひともいません。
ひとりです。
ひとりぼっち、です。

ぼくはとびらを見ています。ノブが回りました。とびらが開きます。
子供達の眼に怯えた光が宿ります。
大きな袋をひきずった、白衣を着た大人達が入って来て、子供を2人、部屋に放して行きました。
白衣の大人達は、子供を放した後、袋をひきずって出て行きました。
出て行く時に、袋が破れたのを僕は見ました。
破れた所からは、子供の腕がはみだしていました。
そこを、ねとねとした赤い液体がつたって、床に変な紋様を残して扉の向こうに消えていきました。

連れてこられた茶髪の子は、笑っていました。背を丸めて、お腹を抱えて笑っています。眼を剥いて、舌を垂らして、よだれを滴らせて、笑っています。お腹を掻きむしりながら嗤っています。
やがて痙攣を起こして、掻きむしったお腹から血を流して、焦点の合わない目で天上を見上げて、涙を流して嗤ってます。
そのうち、自分の手を顔に持って来て、しげしげと眺めはじめました。その後、ゆっくりと自分の目に指を近づけて、突き刺しました。ぐちゃぐちゃにしているみたいです。
抉った眼球が床に転がります。それでも嗤っています。とっても幸せそうに嗤っています。しばらくしたら、その子は倒れて動かなくなりました。辺りには、血がいっぱい貯まっていて、雨漏りの水たまりみたいです。
別に珍しい事じゃないです。多分、手術の時に使った強い薬に当てられておかしくなったんだと思います。ここに置いて行ったって事は、多分失敗作なんだと思います。
明日、白衣の誰かが回収するまでここに放置されてるでしょう。

もう一人の子は、右目に眼帯をしていました。そこに血がにじんでいるのが見えます。だらしなく半開きになった口からはあぶくが滴ってています。うつろな左目は焦点が合っていないみたいです。
しばらくはぼうっと立っていましたが、そのうちにその場に倒れて、息を荒げてやっぱり痙攣しはじめました。もうしばらくしたら、動かなくなっていました。
倒れたら、その時の衝撃で眼帯がはずれました。眼帯が取れたら、そこから血がいっぱい、いっぱいいっぱい流れて出て来ました。血が出尽くしたら中が見えました。中身はからっぽでした。
その子の首には、C657と書かれた札がありました。

C657番。中国人の657番目という意味らしいです。僕の首には、J42とあります。日本人の42番です。この前、J39番が死んで、J40とJ41番が連れて行かれました。だから次は多分、僕だと思います。
この前、何かの注射をされました。だから、きっともうすぐです。

痛いのも怖いのも嫌だけれど、早く死にたいです。
死んだら多分、ぼくを置いて逝ったおとうさんとおかあさんに会えると思います。
そうしたら、ひとりぼっちじゃなくなります。
そうしたらもう、さみしくないです。


またとびらが開きました。大きな鍋を持った、白い服のおばさんたちが入って来ます。
一日に一回の、食事の時間みたいです。
骨の浮いた手で受け取って、おいしくないスープをすすります。
あとは寝るだけです。
早く明日にしたいです。
そう思って、施設の部屋のいつもいる隅っこに移動します。その時。
通気口が壊れて空いているのを見ました。
小さな穴だけど、通れそうです。
覗いていたら、背中に衝撃が走りました。誰かぶつかったのかもしれないです。

ぼくは、その通気口に押し込まれて、外に出されました。
外は真っ暗でした。久しぶりに吸った外の空気は冷たかったです。
ぼくは、逃げられるかもしれないと思いました。
逃げたって、行くあてなんかないけれども、見つかったらどうなるのか怖かったので、とりあえず走りました。
そうしてしばらく走っていたら土手で転んで、そのまま転がって行きました。頭の上を、有刺鉄線が過ぎて行くのも見えました。
崖も、落ちました。
そして、僕は気を失ったんです。














目が覚めたら、朝でした。
久しぶりに見た太陽はとってもまぶしかったです。
起き上がってしばらく歩くと、澄んだ水の流れる小さな川があったので、流れにそのまま口を付けて水を飲みました。ちょっと口の中に泥が入ったけれど、きのうのスープよりずっとおいしかったです。
水に映ったぼくの顔は、泥まみれの傷だらけだったので、顔も洗いました。
自分の顔なんて、久しぶりに見た気がしました。自分の青い色の髪と両目を見ていたら、お父さんを思い出してちょっとだけ寂しくなったので、川から離れて、歩きはじめる事にしました。
行くあてはないし、止まる事もできないけれど、だいじょうぶです。たぶん。








しばらく歩くと、町に出ました。わりと古風な港町みたいです。
立ち並ぶ建物がみんな白くてきれいです。
僕は海が見たいと思ったので、街に入って、港を目指すことにしました。



白い街の石畳を歩きます。
おいしそうな果物を売っている人が居ました。みずみずしい野菜を売っている人もいます。新鮮な魚を売る人も、鮮やかな染め物のスカーフを売る人も居ます。たくさんの人がそれらを買うために集まっています。
たくさん声の飛び交う市場を眺めていたら、僕のお腹が鳴りました。そういえば昨日食べたのは、あのおいしくないスープだけです。

そんな事を考えていたら、目の前を幼い子供が走って行きました。その子はお金を落としました。銀色のコインが7枚。僕は、子供にお金を返そうと、追いかけます。

お金を落とした子供は、道行く女の人に思い切り抱きつきました。どうやら、その子のお母さんみたいです。
女の人は優しい笑顔で子供の頭をなでてます。子供はうれしそうに笑っています。
ぼくもよく、ああやってお母さんに頭をなでてもらった思い出があります。
ちょっとだけ思い出したら、とってもうらやましくなりました。
だから、早くこの場を立ち去るために子供にお金を渡そうと思いました。
ぼくは親子に近づいて、声をかけようとしたけれど、長いこと誰ともしゃべらなかったせいか声が出ませんでした。のどがひゅーひゅー鳴るだけです。
親子は、怪訝そうな目で僕を見ています。
声が出ないならと、拾ったコインを差し出そうとました。
そしたら。

「物乞いに用はないよ!」

一蹴されて、思い切り頬をぶたれました。
そして、女性は歩いて行きました。
子供は、ぼくの姿を見てひとしきり笑った後、女性を追いかけて走って行きました。



僕はそのあと、拾ったコインでリンゴを一個買って、物陰に隠れるように座って、すこしリンゴを磨いてから食べました。
リンゴをかじってたら、涙が出ました。少しずつ、嗚咽も漏れはじめました。
久しぶりに声をあげて泣いた気がしました。こんな時ばっかり声が出るんだなって思いました。
買ったリンゴはとってもおいしかったので、芯も残さず食べました。
でも、ちょっとしょっぱかったのは、すごく残念でした。


それから、港を目指そうと思ったけれども、もう少しバザールをうろつくことにしました。
道に落ちているお金を拾うのが目的です。
今日の、15枚目のコインを拾った時、背中に痛みが走りました。
振り返ると、今度はあたまのうしろ。思わず閉じた目を薄く開けると、遠くで子供が笑うのが聞こえました。
そして、隣を石がかすめて行きました。


「バカ!おまえほんとーにヘタだな!」
「ヘタじゃないよ!今度はちゃんと当てるから!」
「ほんとう?じゃ、やってみてよ!」
「チャンスは一回だからな!」


また石が飛んできました。足に当たりました。いたい、です。
たぶん、向こうにいる子供達は、ぼくに石をぶつけて遊んでるみたいです。
困ったなと思って周りをみわたしたら、何人かの大人が僕をみていました。

ある人は困ったように。
ある人は可哀想なものをみるみたいに。
ある人は顔をしかめて。
ある人は笑いをこらえて。

どの人も、ぼくがそちらを見ると、決まってそっぽをむいて、歩いて行ってしまいます。
ひどいなと思ったけど、ぼくがこんな状況のみすぼらしい子供を見たら、ぼくが裕福だったらきっと、やっぱり無視して逃げると思います。
ぼくは通りすがる人を責める事はできない、みたいです。

そんな事を考えてたらまた石が飛んできました。今度は二の腕に当たりました。当たった所が切れて血が出ました。
続けて飛んで来た石はひざの近く。
痛いのは嫌なので逃げる事にします。
一生懸命はしります。
でも、子供達も追いかけて来ます。

そうしたら、石畳にぼろぼろの靴がひっかかって破けて、ぼくは転びました。
肩が、すごくいたい、です。
立ち上がろうとしたら、視界が暗くなりました。
ぼくの周りには、さっきの子供達が取り囲んでいます。
子供達は嗤ってます。
こわい、です。
すごく、こわい。
その中の、いちばん大きい子がぼくの靴をとりあげました。

「返して欲しかったら追っかけて来いよ!」

そう言って彼らは走り出しました。
ぼくは言われた通りに追いかけました。
裸足で石畳の上をはしります。すごくいたい、です。
石の角で足の裏を切ったり、転んでアザやキズを増やしながら子供達を追いかけます。
でも、ずっと研究所で丸くなってただけの、ぼくの足じゃぜんぜん追いつけない、です。
いたいし、歩けなくなりそう。でも、追いかけないと。
早く靴、ほしい、です。

ぼくが、やっとの思いで彼らに追いついた頃、彼らは港の見晴らしのいい場所にいました。
彼らは、彼らの親に叱られています。物乞いの子供にかかわるなって言ってるみたいです。
ぼくが靴を返してって、かすれた声をはりあげようとしたら、その子はぼくの方を見て嫌な嗤いを浮かべて、靴を思い切り海に投げ捨てました。

ぼろの靴は、すぐに海に沈んで行きました。
ぼくが呆然としていると、子供達は、その親は、去って行きました。親の方はぼろきれを落として行きました。一瞬、ぼくの方をすまなさそうに見たのは、何だったんでしょうか。
ぼろきれは、手ぬぐいみたいでした。
ぼくは、痛む足にそれを巻く事にしました。そして、その時になってようやく、自分の足跡にぺたぺたと血がついていた事に気がついたんです。

布を巻こうとかがんで、下を向いたら涙がたれてきました。泣いてるつもりはなかったのに、ちょっとふしぎでした。
もう、ゆうがたでした。








また、ぼくは歩きはじめます。

いっぱい走ったので、お腹がすいてます。
お金はちょっとだけあるけれど…あんまりつかいたくないです。だって、これから何があるかわかんないし。
だから、飲食店をさがすことにしました。
適当に、にぎわってる所に足を向けます。ちょうど良く、酒場がありました。
さっそく、野良猫を追っ払って残飯をあさる事にします。
野良猫達と格闘しながら、残飯をあさります。猫パンチ、結構痛いです。
でも、あんまり引っ掻かれなかったし、かまれたりもしなかったから、これでおっけーなのです。



すると、つぎの問題は寝る場所です。疲れたし、ねむたいです。
空がまっくらです。雨がふりそう。はやくみつかると…いいな。

用水路をのぞいてみたら、ネズミがいっぱいでてきました。指、かまれました。
路地の入り口は木箱が積み上がっています。ここは、むりそう。
マンホールをあけてみたら、先客がいました。追っ払われました。
教会なら誰でも入れたハズ、と思ったけれど…時間が遅くなってたせいか、扉は固くとざされていました。
船着き場のしたは…満ち潮なのか、足下まで水がきていました。行けそうだけど…足に海の水がちょっとついた時、声にならないくらい痛かったので、やめときます。今よりも水面が高くなったら…こわい。
けっきょく、ゴミ捨て場で板を何枚かひろってきて、天井のない、空き家みたいな物置小屋のすみに仮の屋根をつくって、やっぱりゴミ捨て場にあったボロい毛布にくるまって、丸くなって眠ります。
眠りにつく前に、ぱらぱらと音がしました。雨がふるまえに寝床が見つかってよかった、です。