夜がふけてきた。
木々の隙間を吹き抜けてゆく風がひんやりとしてくる。


「犬。」
「だぁぁ、うるせーびょん柿Pっ!」
「クローム、足は大丈夫ですね?藪にだけは気をつけなさい。」
「はい…」

「この辺らと思うんらけどなぁ…」



骸たちはここまで、犬の鼻と勘のみを頼りにここまで来ていた。


「そうですか…え。あー…こほん。綱吉くぅーん、居ますかぁー?居たら速攻で返事しなさぁーい!居なくても返事くらいしーなさぁーいっ!


骸の声が暗い山林に反響する。
4人は耳を澄ませる。
しかし、それっぽい返事はない。

「けっ、ほんとーに手が焼けるびょん!焼けすぎて煙れもれてきそうらびゃんっ!あ"ー腹立つ!」


犬が傍らの大木に八つ当たりする。
すると…

ドドサァッ!

おおきな音を立て、黒い塊が降ってきた。


「うわ!」
「きゃ!」
「な…なんだびゃん!?」

千種がそっと近寄って確認すると…

「これ…綱吉だ…。見た感じ気絶してる…。」


一瞬沈黙が流れる。
骸もそっとツナに近寄って…とりあえず少し開けた場所までツナをずりずりと引きずる。
そしてお祭りで、見かねた型抜き屋台の兄ちゃんが去り際にくれた景品(?)のペンライトを取り出す。

「あーあ…枝とか…いっぱいついてますよ…。あ、上着は無事のようですね、よかったですねクローム。…あれ。」

骸が、ツナの抱える上着を腕から引き剥がそうとするが、取れない。
どうやら、相当な力で上着を抱きしめているようだ。

「ボス…」
「これじゃ、シワになっちゃいますねぇ。」
「…いいの。でも上着の代わりにボスが傷だらけね。」
「そうですね。でもきっと、今日中には帰れないでしょうから……ま、大きな傷はないようですし、帰ったら消毒してあげましょうか。」
「…はい…!」
「きっとしみますよ…!いじめ甲斐がありそうですねぇ、楽しみです!」

「しかし骸様、綱吉…どうしますか。」
「犬。」
「んぁ?」
「さっきから時折風に乗って、水の音が聞こえます。それ、どの方角からかわかりますか。」
「んー…あっち!あっちらびょん!」
「千種。」
「…はい。」



先行する犬が持つペンライトを、クローム、ツナを担いだ千種、しんがりを骸の順で追いかける。

犬は、藪や小さな崖などを的確に避けて進んでゆく。
そのまましばらく進むと腐葉土の堆積したやわらかな地面がいきなり硬くなり、視界が一気に開けた。


「…せん、ろ?」


つぶやく犬の目の前にあったのは、草が生い茂り錆びたレールの走る、今はもう確実に使われていない線路だった。
線路の上を道沿いに少しだけ進むと、木製の小さな橋がかかる綺麗な沢があった。

「髑髏。金魚の袋、片方空けましょうか。犬、明かりをお願いします。」

髑髏は、金魚の大きな袋を開ける。そこに骸がもらった小さな金魚の袋を、水ごと移す。最後に口を絞って金魚が外に出ないようにし、水だけを金魚が泳ぐのに十分なだけ残して捨てる。

空になった小さな袋に沢の水を汲んで…

「千種、綱吉くんそこに寝かせなさい。」

そして…ツナの顔面に小袋の水をぶっかける。



「ぶほぉあ!なになに!?冷たい!うわ、鼻に水!ツーンってするよ、やだやだ、気持ち悪い!」


「やーっと起きたびょん!」
「まったく、手がかかるんですから。」
「…重かった。」

「ほえ、あ…俺山の上で気抜いたら山風に負けて…あ、上着!…少し汚れちゃったね…はい、ごめんね。」
「いいの、ボス。私こそありがとう。」

そう言ってクロームは嬉しそうに上着を抱きしめた後、皺になった上着に袖を通す。

「ねぇねぇ、ところで…ここはどこなの?えっ線路?」
「廃線になった線路みたいですよ。このまま進んでいったらきっと、黒耀の方に続いていると思うんです。山道は慣れないと辛いですしね、地面もしっかりしてるし、このまま行こうと思いますが問題ないですよね?」
「うん、ないよ!で、すぐに出発するの?」

「大丈夫ですよね?」
骸は周囲を軽く見渡す。犬、千種、髑髏は星明りの中うなずいた。



暗い山林を、そこだけ人工的な荒れた線路の上を、星明りだけを頼りに進んでゆく。
吹き抜ける濃い緑の風は、歩き続けて薄く汗ばんだ肌に心地良かった。
線路は幾度も曲がりながら峠を縫うように突き進む。

しばらく行くと、線路の脇に大きなコンクリートの足場が現れた。傍らには朽ちかけた小屋もセットになっている。

「何だろう、これ…まるでここに駅でもあるみたいだね。」
「昔、この線路が生きていた頃に…ここらで木を切って貨物にしていたんでしょうかね。それとも積み直しとか?もしくは作業員たちの休憩所だったのかもしれません。ま、想像ですが。」

千種は近くの針葉樹から適当な枝を折り、それをホウキの代わりにしてコンクリートのホームを掃除し始めた。

「骸しゃん、この小屋あんがい頑丈そうれすよー、ボロイけどー。」
「ならば問題ないですね。今夜はここで夜を明かしましょうか。」

「え、今日中に山を越えちゃわないの?」
「まずかったですか?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ。」
「夜の山道は危険ですよ。夜明けと共に歩き始めれば、帰っても宿題をやるのに十分な時間が取れるんじゃないでしょうかね。」
「…そうだね…宿題…あったんだよね…まだ……。」