「っびゃー!ムッカツクびょん!人多すぎ!ちっとも前に進めにゃーびゃんっ!」
「あわわわわわ!ちょ、押さないでってばぁ!ここでコケたら多分俺今度こそ死んじゃう!」
「…ねぇ千種…バスの時間って確か…」
「まずい。滅茶苦茶まずい。」
「お祭りの混雑を甘く見てましたね、花火の後すぐに出発すれば大丈夫だと思っていたんですけど…!」


ツナ達は凄まじい混雑の中に居た。右も左も人、人、人。これらは皆、お祭りから帰る人である。
メインである花火大会が終わり、足の踏み場もない程にごったえす人ごみをかきわけて進む。
普段は並盛、或は黒燿とそ周辺の田舎くらいしか知らないツナ達ド田舎中学生は、酔う程の人波にうまく乗れず右に左に流されている。
それでも辛うじてはぐれないのは、高い身長と夏でも気にせずニット帽な千種を目印にしているからだ。

町中の通りを抜け、町の中ではなく外へと続く道へ出る。
すると驚く程人が減って歩きやすくなった。
さらに歩いて駐車場をもすぎるともう、そこにはツナ達しか居なかった。

息も絶え絶えな白い光を放つ、古くさい汚れた街灯の下で少し休憩。
目で人数を確認しあって、無言で息を整える。

そして千種が時間を確認した。
「あと7分。」
そして互いに頷き合い、走りはじめる。

交差点を左に曲がって1区画。そして信号を渡る。赤信号でも車が居ないのならば構うものか。
さらに2区画を全力疾走。最後の角を曲がるとそこには、サビのついた古くさいバスが、こちらに背を向けるように停車している。

ツナ達の顔に安堵の色が宿った。だがそれもつかの間。
バスは若い客に気付く事なく発射してしまった。
先頭を走る犬の10m程手前で、黒燿町経由並盛駅行きの最終便は、赤いランプを背中に灯して行ってしまった。
後に残ったのは空っぽのバス停と、驚きとも諦めともつかない顔で絶望する5人の少年少女たちだけだである。

「まだ後2分あるのに…」

空虚なバス停に、息切れした千種の小さな声が、妙に大きく響き渡っていた。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「らぁいたい、(ズルッ)らんれ(ズルズル)バス、いっちゃったんらってーの!(ズルズル)」
「そーだよ、そうそう(ズルズル)、千種さんの話じゃ(ズルッ)まだ時間に余裕が(ズルズル)あったはずじゃ(ズズゥーッ)ん!マジありえないし!」

「おっちゃん、替え玉お願いしますらびょんっ!」
「ねぇ、水どこ?ティッシュは!?」

「犬…綱吉も、汚い。」
「貴方達、お祭りで迷子になった時に随分食べてたじゃないですか。焼き鳥のチラシも使っちゃってたし…なんでまだそんなに食べれるんです?燃費悪すぎ じゃないですかねぇ。」

そう言いながらティッシュと水を手渡す骸のどんぶりも空である。どんぶりの底の「ありがとうございました」の文字をくっきりと読み取る事が出来る。

ここは町外れにあるラーメン屋だ。
国道沿いのこのラーメン屋は町から町へと遠距離を移動する人がよく利用するため、少々遅い時間でも平気で営業している。

「骸様は…いいの?替え玉…。」

そう言う髑髏も、食べているのは大盛りである。
げに恐ろしきは食べ盛りなり。




彼らがこんな時間に町外れに居る理由、それはただ一つである。
峠の歩道を歩いて黒燿まで帰る為である。

バスに乗り遅れたツナ達は、仕方がないので過盛市内のホテルに宿を取る事にした。
しかし、おのおの携帯(あるいは電話帳と公衆電話)で調べて電話してみれども…どこもお祭り効果で満員御礼。幾つか見つけた所でも、未成年であるツナ達だ けでは泊まる事ができなかった。

替え玉に喰らいつく犬達の脇で、骸とツナがだらだらと話している。


「最悪ラブホでもいいやとか思ってた僕らも甘かったですよねー。まさかあんなにびっしりとは。もうリア充みんな爆発すればいいんですよ。そしたら空くじゃ ないですか。」
「そーだねー。でもどうせならカップル爆発よりも家族づれ爆発の方がいいんじゃなーい?そしたらおいしいご飯の出る旅館に泊まれるよー。」
「それいいですよねー。でも年齢確認出たらアウトですよねー。」
「そういえば俺たち未成年だもんねー。こういう時には日常ってうらめしいよ。ここだけファンタジーで結構って感じ。」
「やろうと思えば免許証の偽造とかもできますが、今別にそこまでリスク犯す必要もないですしねぇー。」
「発覚した時がめんどくさそうだもんねー。だって骸達不法入国でしょー?」
「不法ですよー。でも一応日本国パスポート持ってますー。」
「えーなんでなんでなんでー?」
「ボンゴレ経由。偽名でーす。」
「なるほどー。やっぱり偽名なんだー。お前犯罪者だもんねー。ちなみに何て名前?」
「李小狼って名前ですぅ。」
「うわいかにも偽名!ってゆーかお前中国人魔法少年かよ!」
「いや、ツバサを求めて世界をさまよう方の少年です。」
「無理!そして無茶だ!お前なら魔法少女相手に詐欺まがいの営業している白い獣の方が似合うぞ!」
「僕と契約して傀儡人形になってよ!」
「やなこった、蜂の巣にするかんな!」
「そんなの嫌です。こーなったらハンサムエスケープします。」
「うわぁ無茶だ!しかもお前、どちらかと言うとみんなの憧れスーパーヒーローじゃなくて捕まえられる超能力犯罪者の方だろうが!」
「そんなワケだから戸籍つつかれたらアウトですよー。」
「そんなワケってどんなワケー!もう多分なんとかなるだろお前なら!」
「まぁ、なんとかはなると思うんですけど、ボンゴレにこれ以上借り作りたくないですもん。」
「…ちなみに…あのこれずっと疑問に思ってたんだけど、今日のバス代とかこのラーメン代ってどこから出てるの?」
「ボンゴレから僕らに生活費が出てます。その中からですよー。未来のボスー。」
「納得—……最後以外はー…。」


ツナが解せない顔で納得した頃、犬達は無事に食べ終わったらしい。
お代を払って店を出る。

そして眼前にそびえる巨大な峠。


「ねぇ、本当にこれ歩いて越えるの?」
「大丈夫だ綱吉。この峠は自転車で旅する人がよく通るから、歩道はしっかりしているはず。」
「いや、そうじゃなくてさ…!」

そして彼らは歩き出す。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





こんな時間にもかかわらず、ひゅぅんひゅぅんと音を立て次々と車が走ってすれ違って行く。その脇でツナ達はガードレールに沿ってひたすら徒歩で峠を登る。
山を削って作られた道は、半分が山の黒い木々で、半分が星空という不思議な景色だ。
だが、星空の方は下がコンクリートで覆われた崖であり、落ちたら一巻の終わりである。

「ねー綱吉君、また次急カーブですよ。」
「本当だ、事故注意の看板があるね。」
「ここの峠、事故の名所なんですよね。いろいろ化けて出そうだと思いませんか?」
「…やめてよ、俺そーゆーの苦手だって知ってるだろ!」
「うーらーめーしー…」
「ぎ…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!い、今後ろにお、女の人!白い…わわぁぁぁ!」
「幻術で髪を真っ白にしたクロームですぅ。」
「ボス怖かった?びっくりした?ごめんね、すごく可愛かったわ。」
「えー!俺可愛くないよ!」
「そうですよ、面白いだけです。」
「うー、言ってくれるじゃない、骸のバカ!バカバカ!」
「僕馬鹿じゃないです天才ですぅー。」
「天才なもんか、お前なんて天災だ!」
「天災ですか……そうだ、忍法土遁の術!崖崩れ!」
「やめてー!崖っぷちの道でそーゆーの言うのシャレにならないからやめてー!うぅ…こうして見ると急カーブ注意って看板が怖く見えるよね!交通量も地味に 多いし事故ったら痛そうだよ。」
「大丈夫よボス。この辺を走る車の速度なら、事故を起こしたら崖じゃなくても即死だから。巻き込まれても大丈夫…きっと痛くないわ。」
「俺今別の意味で戦慄したよ!」
「私は…ここでなら死んでもいいかも。」
「…へ?」
「ここは星がきれいだから、きっと死んで幽霊になっても退屈しないわ。」


見上げれば、満天の星空。峠の頂上を背にすれば、星空は一面に広がる。
遠くに過盛市の明かりが小さく見えた。もう彼らはこんなにも歩いてきたのだ。

ツナは天の川に沿って首を巡らせる。
道の先には次の急カーブが見える、

「なんだか、このまままっすぐに行ったら天の川を歩けそうだね。」
「天の川を…歩く?」
「そう。この先急カーブで道がなくなって見えるでしょ?そこと天の川がドッキングして、急カーブの先から天の川に道が繋がってるように見えるなと思って。 実際にやったら確実に死んじゃうと思うけどね。」

皆が前を道の先に意識を集中したせいで、少しだけ沈黙が訪れる。


「ボスは…どこに行けると思う?」
「ん?」
「天の川の道。どんなところに繋がっていると思う?」
「俺は…」
「俺ね俺ねー、宝石みたいなちっさい星がいっぱい散らばってると思うんらびょん!天の川って星の集まりらんれしょー?売りさばいて大もうけらびゃんっ!」
「なんですか犬、夢がないですねー。」
「そーゆー骸しゃんは夢があるんれすかー?」
「僕ですか?僕は甘くて美味しいこんぺいとうがいっぱいゴロゴロしてる所につながってると思いますよ。」
「うわー、骸ってば想像以上のふぁんだじーだねぇ。」
「骸しゃん…」
「なんですか2人とも、その顔。しかもなんで千種は微妙に笑ってるんですか。」
「私は…」
「髑髏?」
「私は、お花畑とか、いいなぁ…。きらきら光るお花がいっぱい…そうだ、ボスはっどんなところだと思う?」
「俺は…」


ツナが道の先を見据える。


「俺は…道だと思う。」
「道、びゃん?」
「うん、道。どこまでも続く道。」
「ほう、どこまでも?」
「うん、果てしなくどこまでも。で、その道をずっと歩いて行けたらいいなぁ。」
「ボス、一人で?」
「一人は淋しいからみんな一緒がいいなぁ。どこまでもどこまでも、一緒に歩いて行きたいな。」
「どこまでも、か…。」


千種が目を眇めた時、ごおをいう音と共に、山へ向けた風が思い切り吹き抜けて行った。


「ひゃぁー、びっくりしたびょん!」
「すごい風だったねぇ!」
「大丈夫…ですよね?山の風ですか、流石峠ですね…!」
「……クローム、どうかしたの?」


一人静かに山を見つめるクローム。その視線の先には…


「なんか白いの飛んでるー!?あれ何!?おばけ!?」
「上着…。」
「へ?」
「寒いから羽織ってたの。飛んで行っちゃった。」

上着は黒々とした峠の木々の上をふわふわと飛んでいた。

「ハルちゃんとお揃いで買ったの…。気に入ってたけど仕方ないね。」


夜空を見上げる髑髏の視界が、急に明るくなる。


「まだ大丈夫!」


両の手に死ぬ気の炎を灯したグローブを嵌めたツナは、そう言い残して光の尾を引いて上着を追いかけて空を飛んで行った。

「ボス…」

クローム達は夜空に彗星のように尾を引いて飛ぶツナと、のらりくらりとツナを避けて飛んでいく上着をハラハラしながら見つめていた。
しばらく格闘して、ツナが上着を無事に捕まえたのを見てほっとしたのもつかの間の話。
集中の途切れたツナは、そのまま両手の光を失って……


「…墜落…しましたね…」
「ボス…」
「……アホらびょん…」

「…ねぇ千種、どこに行くの?」
「綱吉を探しに行く。夜の山に入るのは嫌だけど…しょうがない。」

「仕方ないですよね…怪我してないといいんですが。」
「あ”ーもう、手がかかるびょん!」

そう言って彼らは道路を車が途切れるのを見はからう作業に入った。
遅い時間なのに、川の流れのように途切れない車道の光の向こうには、人の手が届かない山林の暗闇が広がる。
誘うように背を押すそよ風に、骸は小さく舌打ちした。