「(嫌な事思い出しちゃった。)」
髑髏はうつむいていた顔を上げる。
いつのまにか露店の通りをすぎて、神社の大鳥居の前まで歩いて来ていたようだ。
先程よりは人がまばらになっている。
髑髏がきょろきょろと首を巡らせるが、骸も千種も見当たらなかった。どうやら骸達ともはぐれたようである。
「(私のバカ。ミイラ取りがミイラになっちゃった。)」
髑髏はとぼとぼと神社の社へ通じる石段を上りながら、小さく嘆息する。
「(私のバカ。私のバカ。私のバカ。役立たず。ドジ。愚図。骸様達の仕事増やしちゃった。最低。役に立ちたいのに。)」
露店の喧噪が少しずつ遠くなる。社の側には昼間に使われていたであろう町内会の神輿がばらばらと置かれている。
石段を上りきった髑髏は深いため息をつきながら露店街を見下ろす。
橙色のぼやけた光に、威勢のいい呼び込みの声。楽しそうな人々。
髑髏はそれらから目をそらし、社の方へ体を向けた。
黒い木々がひしめく奥に、神社の社が闇を携えて静かに鎮座する。
さわさわと流れる風はまるで髑髏を誘うようだ。
「(私にはこっちの方が合ってるのかしら。)」
髑髏は神社へ向けて歩く。
「ごめんください、お借りします。」
手を合わせ、社に勝手な断りを入れると、
賽銭箱の前に座った。
「(きっと、昔だったら出来なかったわ。お化けとか暗い所とか苦手だったもの。)」
座って暗くなった空を見る髑髏の目に、白い煙のような影が映った。
他にも幾つか。それは樹の影だったり社の周囲だったり。
中には髑髏を見つめているものもある。
「(この社は人に愛されているのね。悪いものがいない。)」
骸は幽霊の類いが見えている。しかし、気にするまでもないモノだと思っているので自ら関わるような事はしない。
髑髏も幽霊の類いが見える。しかし骸のように邪魔な物を蹴散らす程呪術方面に長ける訳ではないので、害のあるものだけ避けて、あとは関わらない。
「(私だって似たようなものだわ。これらの…お化けと同じ。居たって居なくたって別にかわりはしない。)」
暫し一人でぼうっとする。
「(ひどい話だけど、骸様がまだ牢獄にいたらよかったのに。そうしたら、何もできない私がここに居る意味なんて考えなくていいのに。でもそうしたら骸様の
願いは達成されない。私が骸様の道具になることを選ばなければ私は今生きてすらいない。)」
「…どっちもどっちだわ。卵が先だって鶏が先だって変わらないのに。」
また深くため息をついていた頃、少し置いてから聞こえた喧噪。
「あー、バカ女ここにいたびょんっ!」
「犬。」
「らんで携帯出なかったんだらびょんっ!あーもーありえねー!」
「ごめん…ここ圏外…」
「骸しゃんも呼んでたってのに!」
「え、そうなの?」
「かーーっ!この役立たず!」
「…あ…。」
「ほら!」
犬に指差された先には、遅れてやってきた骸、千種、ツナの三人が居た。
「犬、早いです…少しはこっちの体力も考えなさい!」
「そうだよ犬…綱吉もだいぶ死にかけてる…いや、死んでる…。」
「ちょっと柿本くん、俺まだ生きてる!殺しちゃいや!」
「…嘘だ。死んでる。この眼鏡に誓って間違いはない。」
「なんで?なんでそこで絡んできちゃうの千種さん!てか千種さんそんなキャラだったっけ!?俺知らないよ?」
「…すっごい面白いですね骸様。」
「でしょう?やっぱり千種もそう思いますか。」
「グルなのそこ!なんか地味なグル来たよ見栄えしねぇぇぇ!」
「千種だけならともかく、僕が居るのに見栄えがしないとは心外ですね沢田綱吉?」
「嫌だゴメンね!超あやまる!だから武器しまってよねぇってば!」
「いやですぅ☆」
「いやでもそれ危ないってば祭りの席で血みどろはやめよう?今日は楽しいお祭りですよ骸おにいさん?」
「じゃぁこうしましょう!」
「変化したぁぁ!幻術すげー!でもこれって…」
「マジカル☆ステッキですぅ」
「うそこけー!これどう見ても釘バットじゃねーか!ある意味前よりも凶悪!」
「心が汚い人には釘バットに見える幻の銀水晶ですぅ☆」
「それ違う!どー考えても俺の方が、お前よりもずーっとピュアでクリアで美しい綺麗な心の持ち主な自信ある!だからそれきっと、心の汚い奴にだけマジカル
ステッキに見えるだけだ!」
「言うじゃないですか。まぁ、殴ればわかりますよね!」
「あ、いや…やっぱ俺心汚いですから…その…」
「くらえ!ムーン・ティアラ・アクション!」
「うぎゃぁぁぁぁ!ただ殴りかかってるだけじゃないかぁぁぁぁ!」
慌てて逃げるツナと喜々として追いかける骸。
「骸しゃん…楽しそうだびゃん…れも…」
「犬、言っちゃダメ。」
「…楽しそう。」
「骸様はね。」
「…クローム、何かあった?」
「千種。」
「なんか浮かない感じに見える。」
「少しつかれただけ。」
「金魚は?」
「いるよ。」
そう言って髑髏は金魚の袋を取り出す。
「時々袋の口を開けてあげてね。でないと酸素が足りなくなるから。」
「そうなの?」
「そう。近いうちに水槽買わなきゃね。」
「水槽。」
「金魚はいいよね、好きだ。イヌみたいに役に立たないし、猫みたいな愛嬌もない。なのに飼育に結構な手間がかかる。それでも」
「?」
「きれいでとても可愛い。しかもあいつら、水中なら何だってできるんだ。」
「何だってできるの?」
他愛ない話だった。
でも髑髏にはなぜか、そのやりとりが深く心に残ったのだった。
そんな小さなやりとりを続けていると、遠くから腹に響く低音が聞こえた。
骸、犬、千種は咄嗟に表情を凍らせる。
それに対してツナは
「あ、花火はじまっちゃった!急いでいい場所探さなきゃ…どしたの?」
「あ、や、何でもないですよ!」
「いきなりだったから。」
「火薬の音は慣れにゃ…」
犬が後頭部に無言の釘バットを喰らっているとき。
「…ボス。ここからよく見えるよ、花火。」
賽銭箱の前から髑髏が声をかける。
「え、でも木とか邪魔じゃない?」
「低いのは見づらいけど、高い花火ならとても綺麗に見えるよ。さっきも…あ、また上がった。」
ツナが髑髏の側で腰を落とす。
それと同時に、空に炎の華が咲き乱れた。
「本当だ!この境内地味に広いしね!座ったらよく見える!ほら、城島君達もこっち来て座りなよ!よく見えるよ!」
ツナに促されて残りの三人も賽銭箱のそばに腰掛ける。
ドン!ドン!と次々に打ち上げられる花火。
色とりどりの華が深く澄んだ夜空に咲き乱れ、煌めきの後に消えて行く。
「た〜まや〜!」
「何らそれツナちゃん!」
「知らなーい!でも見事な花火があがったとき、みんな言うんだ!」
「と言う事は賞賛の言葉ですか?」
「全然知らないけど多分そうなんじゃない?」
「へー、次俺も言う!俺も……あ、た〜まにゃ〜!」
「犬、それきっと違う…すごく小さいもの…。」
青い光。赤い光。金に緑にオレンジ、紫。
かたどるものも多種多様。
土星、動物、傘に菊。
造形ものもたくさん打ち上がる。
「今の何かな?変なの!」
「…俺には蝶に見えた、かな…?」
「私はリボン…」
「僕は砂時計ですかね…あ、また上がった!」
「今度は俺にもわかったよ!触覚があったからあれはきっと蝶だ!」
「次は…あ、ケツだびゃん!」
「犬…あれはハートじゃないの?ひっくりかえってるだけで…」
「…あ、ねぇ骸、次の歪なアレは多分…」
「うわ、僕なんか嫌な事思い出しそうですよ。」
「ナスね…。」
「言わないで下さい。だいたいなんでナス…あ、次のはパイナップル…どうしてこんなものわざわざ花火で表現するんでしょうね…?」
ここで一旦一段落。
冷めやらぬ祭りの興奮の中、元気な中学生たちがまたわいわいとしている。
するとまた、あたりは一気に明るくなった。
「すっげーーー!」
「うわすごい!連発だよ!」
「う、ちょっとまぶし過ぎやしませんか?」
「眼鏡を外すと雲みたいに見える。」
「わぁ…!」
そして花火はフィナーレに差し掛かる。
大きな音が重なるように辺りに響いた。そして一拍あけて。
さっきの連発よりも遥か高い所に、今までの数倍はあろうかという大輪の花火が開いた。
その花火はオレンジ色の線を長く長く描いて、ゆっくりと落ちてくる。しだれ花火だ。
そして、そのしだれに重なるように次々と他にもしだれが花開く。
「…すごい…巨大しだれの連発…!」
「…きれい……!」
「たーまやぁーーーーーっ…びょんっ!」
「かーぎやぁーーー!」
「僕これすごい好きかも…!」
重なり合う巨大なしだれ花火。
夜空を照らして咲いた巨大な枝垂れ柳の、金色をした残り枝が消える頃。
ピカッピカッと閃光が打ち上がり、花火大会の終わりを告げた。
それでも賽銭箱の前に腰掛けた5人の中学生は動かなかった。
まだ空に枝垂れ柳が輝いているかのように、ぽかんと空を見上げ続けていた。