言い切ったツナは、顔を下に向ける。耳まで紅く染まっていたりする。
「ツナ君…。」
「あ、あのっ。俺からは…そんだけ…。」
「そう…。」
「う、うん…。」
「…私に言っては、くれないの?」
「な、何を?」
「わかんない?」
「…ごめんね?」
旗色が変わった。悪態をつきまくったのぞき達も再び耳をそばだてる。
「何か、さっきと雰囲気違くねーか?」
「…あぁ。何か、変だ。」
「確かに。」
「なんか雲行きが怪しいですね。」
「えっと、京子ちゃん…。一体どうしちゃったんでしょう?」
「わかんない…。」
「本当にもう、ない?」
「…うん。」
「…ツナ君は。」
「…。」
「ツナ君は、私にイタリアに来て欲しいとは思わないの?ツナ君の周りのみんなみたいに。」
京子は静かに尋ねた。
ツナは目を見開く。
「どうしてそれを…!?」
「ちょくちょく、色んな話の節々で言ってたよね。リボーン君だったり、ランボ君だったり。」
「それは…」
「最初はね、獄寺君もイタリアからの帰国子女って聞いてたし、髑髏ちゃんのお兄さんもイタリア育ちって聞いてたから縁があるなぁって思ってただけだったの。でも、少し違うよね?」
「…。」
「コロネロ君もイタリアからだし、一時期ツナ君の家にいたバジル君やランチアさんもイタリア。ちょくちょくお兄ちゃんに勝負を申し込んできたサングラスの外人さんもイタリアからって言ってた。さすがにちょっと不自然かなって。」
「…京子ちゃん…。」
「そして今回の進学のハナシ。」
「…。」
「不思議よね。ツナ君のお友達、みんなイタリアの、同じ大学。しかも、ものすごい名門校だったわ。どうして?」
「なぁ…ちょ、十代目、ヤバいんじゃないか…?」
「何か…話してんな…。」
「おや、綱吉君ったら話してなかったんですね。」
「だって、ボスだもの。」
「綱吉、どうするつもりなんだろ。」
「はひぃ…。」
「さぁ…ぐ、偶然じゃないかな?」
「そうかな?」
「うん、偶然だよ。」
「お兄ちゃんの時はボクシングで推薦がついてたの。いろいろな学校から来ていた中から選んだから、すごいんだなぁって思った。髑髏ちゃんのお兄さんの時も、すごく頭のいい人だって聞いてたから不思議じゃなかったし。でも。」
「…でも?」
「夏休みに帰って来たお兄ちゃんが委員長さんの話をしていたよ。不思議だよね。あの委員長さんが並盛を離れるなんて。しかも、どうしてツナ君の悪口言ってたんだろう?」
「…。」
ギャラリー席。
無言の視線が雲雀に集まる。
「…僕は悪くないと思うんだけど。」
「十代目を困らせた罪は重ぇぞ。」
「…そんならかみ殺」「雲雀を責めるな!」
突如として響いた声の主は…
「はひぃ!京子ちゃんのお兄さんですか!!?」
「び…びっくりしました…。なんと唐突な。いつからいたんですか!」
「雲雀を責めるなと言っている!雲雀が思いつく限りの沢田への罵詈雑言を吐きまくり、ノートへ鬱憤を詰め込んではひたすら焼却炉に投げ込んでいた事をうっかり京子に喋ったのは他ならぬこの俺なのだ!責めるならば極限俺を責めろ!」
「何言ってるのさ!そして、なんで君がその事を知ってるの!」
「ゴミ出しに行った所、消却している後ろ姿を見かけたのでな!あと、そこで焼き忘れて行ったノートを…」
「見たのか。見たんだな生かしちゃおかない!かみ殺すかみ殺すかみ殺すかみ殺す!通り越してかみ潰す!」
「俺、雲雀に同情するぜ。」
「俺もなのな…。」
「わたしも…。」
「ちょっとそこの群れ!群れるからには覚悟決まってるんだろうね!」
「「「…。」」」
「ち、ちょっと何さその目!同情するなら金よこしなよ!」
「さりげないネタも忘れない辺りが素晴らしいですね。」
「かみちぎるよパイナポー!」
「不思議な事ばっかりだね。」
「…そう、だね。」
「だからね、まさかとも思ったけどロンシャン君に聞いてみたの。マフィアとか、信じられない。現実味がないわ。でも、筋は通るなと思って。」
「…。(ロンシャンあの野郎ぉ〜!)」
「でもね、だってあのロンシャン君だもの。もっと確実な情報源が欲しかったから…冬休みに帰省して来たお兄ちゃんとコロネロ君を問いつめたの。私はまちがってなかったみたい。」
「…。」
「この芝生ぅぅぅぅ〜〜〜!!」
獄寺が了平のほっぺをひっぱりまくる。
「すはんほふへあ。いっへひはっあ(すまん獄寺、言ってしまった!)」
「いいですねぇ、獄寺隼人。もっとのばしてしまいなさい。僕、一度生でゴム人間を見てみたいと思ってたんですよ。」
「人類の夢だよね。悪魔の実。」
「ですよねですよね〜。れっつごータコ頭!」
「うるせぇよ!指図すんな、パイナッポー!」
「ほろほろはあへ、あほへっど(そろそろはなせ、タコヘッド!)」
「だれがアホヘッドだ!」
こちらではこそこそと内緒話。
「(ハルはデジャヴを感じるですよ)」
「(なつかしいね。)」
「(あの時はごめんなさいですよ。)」
「(一緒にランニングしたりしたよね。あんまり続かなかったけど…。)」
「(今なら出来る気がします!)」
「(ハルちゃんがやるなら、わたしもやる!)」
「ツナ君マフィアのボスになるんでしょ?みんなは…ボス直属の部下になる。」
「…そうだね。間違ってない。」
「どうして。」
「…。」
「どうして、皆なの?」
「お兄さんの事?あぁ、それなら悪かったと思ってる…」
「違う!」
「え?」
「私が言いたいのはそんな事じゃないの…!」
「じゃぁ、どういう…」
「どうして…。」
「…京子ちゃんは、マフィアって聞いてどんな印象がある?」
「…黒ずくめで、銃もってて…。」
「間違っては、いないよ。実際にその銃を使う事もある。」
「…。」
「仲間に裏切られる事もある。それが元で殺されちゃう事もあるんだって。リボーンが言ってた。だから、信頼できる仲間を日本から連れて行く。それだけだよ。」
「…。」
「…。」
「ねぇ、ツナ君。」
「…なぁに?」
「わたしは、信用…できない?」
「京子ちゃん!?」
「わたし、ずっと待ってたの。お兄ちゃんとコロネロ君から話を聞いたのは去年の冬休みだった。ずっと待ってた。きっといつか、ツナ君がイタリア行きの話をしてくれるのを。」
「…。」
「ずっと待ってたんだよ。獄寺君や山本君がクラスでイタリアの話をしてるのを聞きながら。ハルちゃんや髑髏ちゃんが耳慣れない言葉の練習してるのを聞きな
がら。今日呼び出したのだって……私にも言ってくれるかなって思ったから。ねぇ、どうして私にだけ言ってくれなかったの?」
「…本当は。」
「…。」
「本当はだれも連れて行きたくなかった。」
「え…。」
「でも、俺は知らない国で一人で生きて行く自信がなかった。寂しいのは嫌だったんだ。だから獄寺君と山本にお願いした。いつか戦いに巻き込まれる事もあるって聞いた。だから強い人に…雲雀さんや骸やお兄さんに頼んだ。俺から誘ったのはそれだけだ。」
「髑髏ちゃんや、ハルちゃん、は。」
「髑髏は、あの子は俺の管轄じゃない。骸が決める事だから。でも、…いわゆる超能力の類いの使い手で、べらぼうに強いから…来てくれるって言ってくれてす
ごく嬉しかったな。ハルは、あれで射撃の名手なんだよ。遠隔狙撃なら俺に並ぶかもってリボーンに言わせたくらいの天才だそうだ。イタリアの事、どこからど
うやって嗅ぎ付けたかは知らないけれど…あのリボーンにそこまで言わせたってんなら、そんな逸材放っておくワケないじゃない。」
「…。」
「2人とも、俺のそばに居たいって言ってくれた。だから連れて行く事にした。それだけ。」
「じゃぁ、私に何も言わなかったのは…。」
「…ごめんね。俺は弱いから、誰かをかばってなんて生きられないんだ。最低限自分で自分を守れる位は強くないと、連れては行けない。」
「…。」
「仲間はずれみたいな事をしたのは本当、悪かったよ。ごめんね。」
「…いいの。聞けてよかった。」
「…。」
そう言って京子は笑った。
こぼれた涙がひと雫、落ちて地面に跡を作った。
「…京子ちゃん………ごめんね。」
「いいの。だって、今日は卒業式。泣いてもいい日よ!知らないの?」
そう言って、京子は走って行った。
後に残るのは悲しげな表情をしたツナ。
「これでよかったんだよね…。」
誰に言うでもなく、独りつぶやく。
うつむくその姿からは、言葉にならない想いが滲んでいた。