「死体は見つかったか?」
「いいえ…。多分、見つけた奴がもう回収したのかもしれませんが…。」


…抜かりました。完璧に…僕とした事が。

銃声を聞けば殺人は完了したと思って消えてくれると思ってたんですが…。
かえって死体を回収する為に奴ら、集まってきてしまいましたね…。
さらにマズイ事に、崖下にも居たみたいです。
まだ綱吉君が見つかっていなかったのは奇跡だったみたいなようです。

これからの事を考えると体力は温存しておきたいので幻覚は…使いたくないんですけどねぇ……。
とりあえず、隠れてやり過ごす事にしましょう。
視線を落とすと、隣にいた野良猫と目が合いました。

黒猫です。不吉…なんて迷信を信じている訳ではありませんが、なんか嫌ですね。こーゆー時だと。
その思いが伝わったのか、黒猫は踵をかえし、薮に入って行く。がさがさ……と音を立てて。








「そこに誰か居るのか!」


……訂正。黒猫はやっぱり不吉なようです。

黒服が近寄って来ます。逃げられる余裕はありませんね。腹をくくるべきでしょうかね…?
スキをうかがって、近寄って来る黒服の、武器に向けて蹴りを一発。銃を弾き飛ばす事に成功。
そして、新手が来る前に走る!








「貴様何者だ!ボンゴレの関係者か!?不審な少年が沢田綱吉をつれて逃亡した!追え!」


黒服の声を後ろに走る。応援か。
周りの気配が一気にふくれあがる。

包囲されている。
もう、隠れてやりすごす…なんて、無理っぽいですよねぇ……!
黒服が、道を塞ぎ威圧的に銃を構えてきます。撃つ気配はなさそうだ。
気圧されて動きが鈍った所をとり囲んで生け捕りにする気でしょうかね?ならば…絶対に止まってはいけない。
進行方向を少し変えて、崖に向かって走る。
黒服が、怯えたとか血迷ったとか口走っているが、気にする事はない。


「綱吉君、揺れますよ……。」


崖はもう、目の前にそびえています。
タイミングを計り、大地を蹴る。角度は60度。切り立った崖を少しだけ駈け登り……今度は崖を蹴り、跳躍する!

……犬の好きなアクション映画のシーンから、見よう見まねでやってみましたが…やってみるものですね。黒服の包囲網を飛び越えられました。
人の、人間の呆気にとられる顔とは本当に面白いですねぇ。






さらに走るけれど、もう一度黒服達が包囲網を形成してきます。
綱吉君を背負った僕と、銃だけ持っている黒服、機動力が違いすぎる。
再び囲まれる。
……並森神社が目前、林の終わりですね。
さすがにもう、幻覚を使わないとダメかもしれない…。と思った時。











「草壁が、神社で妙な連中を発見したって言ってたけれど、まさかキミだったなんてね。六道骸。」
「…この状態を見て、僕の方が不審者ですか?あなたの目は節穴以下のようですね…。雲雀恭弥?」


雲雀恭弥…タイミングの良い男ですね、まったく。


「そのガキも仲間のようだ!捕らえろ!」
「わお。こいつら君のお仲間かい?まるでマフィアだね。」
「どう見たら味方に見えるんですか?どうみても僕の方が善人顔ですよ。」


黒服が、雲雀恭弥も巻き込む形で取り囲む。


「ガキ共、ついてなかったな。せめてお友達と一緒に捨ててやるよ。」


黒服達が銃を構える……。


「僕がこの南国果実と友達?ふざけないでよ。」
「僕だってこんな北京ダック、願い下げですよ。」
「何だろうと、変わりはないさ。死ね!」


黒服の連中が銃を構える。
四方八方から撃たれたら…さすがに防ぎようがないですね。逃げるにしても、傷の一つ二つは覚悟しなければなりませんか。


「目的は…俺なんでしょう……?俺が死ねば……いいんでしょ……?」
「綱吉君!」「…どういうこと?」
「…彼らは通りすがりだよ…。何もしら…ない…。」
「…だから見逃せと?」
「……。」


綱吉君の腕に力がこもる。

あぁもう!
僕は周りを見渡し、黒服達の目を捕らえる。


「ねぇ、ところで、並盛の風紀を乱してた奴らって、君たちで間違いないんでしょ?」


雲雀恭弥がどこからともなくトンファーを取り出し、構える。


「……雲雀恭弥、半秒目を閉じなさい。半秒たったら神社に向けて特攻をかけます。」
「……。」
「ここで綱吉君を殺させる訳にはいきません。」
「綱吉、ケガしてるよね。ケガの処置はした?」
「…まだです。」
「僕が先導する。」
「……わかりました。」


雲雀恭弥が目を閉じるのを確認して、地獄六道第一の道、地獄道発動!
イメージは………雨だから洪水にでもしましょうか。

黒服達の絶叫。素敵に阿鼻叫喚ですね。


「一番低級の幻覚です。長くはもちません。」
「行くよ。」


幻覚の入りが悪かった連中を雲雀恭弥がなぎ倒していく。
うずくまったり倒れたりして身悶える黒服達を尻目に、並森神社へ到着。
追っ手をまくために、幻術の結界を張って一旦本殿の中へ避難します。


「追っ手は撒いたみたいだね。」
「幻覚で結界を張りました。追っ手が来たら僕らの影が鳥居をくぐって出て行くように映るはずです。」
「綱吉の容態は?」
「……また気を失ったみたいです。」


一旦綱吉君を背中から降ろして、床に寝かせ、服を脱がせる。
銃創が2カ所、崖から放られた時に出来たと思われる裂傷が3カ所。他は打撲のようです。
幸いな事に致命傷は避けてますが、出血がひどい。


「ひどいね。なにがあったのさ?」
「多分、ボンゴレ十代目暗殺とかなんかでしょうね。」
「…ふーん、大変そうだね。」
「ですよね。」


包帯が無いので、綱吉君の着ていたTシャツを裂いて包帯の代わりにして止血します。
もうどうせ使い物にはなりそうにありませんからね。別にいいでしょう。


「これでも、継ぎ足しにはなるんじゃない?」
「腕章?使い物にならなくなりますよ。」
「どうにでもなるよ。」


腕章もありがたく頂戴して、一応最低限の処置は施しました。
それでも足りない所は、一応幻覚の包帯で補ってますが。


「これからどうするつもりなの?」
「放置できたら最高なんですけどねぇ。でも、死なれたら後味が悪いので病院まで送ってあげるつもりですよ。
…あなたはどうするつもりですか、雲雀恭弥?黒い人達にバッチリ顔見られちゃいましたよ?」
「……それ、遠回しに手を貸せっていってるの?」
「いいえ、まさか。道連れってヤツです。」
「ふぅん…詭弁だね。」
「一人で楽な思いはさせません。」










外を、黒服達が走っていくのが見えます。多分、幻覚の僕らを追いかけているのでしょう。


「今の時間はだいたい…9時くらいかな。
この時間で急患を診られる、というか綱吉を処置できる設備があって、一番近いのは並盛中央病院だね。」
「距離は?」
「方角は南西。徒歩だと30分くらい。」
「相手の数と武装を考えると救急車は危険ですね。車の通れる道は限られる。」
「幻覚はあとどのくらい使えそうなの?」
「そうですね。その時の残り体力にもよりますが……今の状態だと、大きなものだと3回。軽いものだと5回くらいですかね。結構消耗しますから。
そして、使用条件として最低一回は相手と目を合わせなければいけません。強いものを使えばその限りではありませんけれど。」
「微妙に使い勝手悪いね。それ。」
「そうですね。あんまりあてにはしない方が良いと思います。」
「……ここを降りたら南、神社から見て左の方に行こう。
少し行ったらバブル期に建てられた建物の廃墟群がある。建物が壊れて道を塞いだり、道が入り組んだりしていて車じゃ身動きがとりにくい。
彼らに地の利がなければだいぶ時間を稼げるよ。」
「……出来る限り、最短の道案内をお願いします。」
「キミに頼み事をされる日が来るなんてね。」
「まったくですね。まさに悪夢ですよ。」


もうすぐ幻覚の効果がなくなる。
そうなる前に、出発しなければ。