神社を抜けて、通りを渡り、今は路地を走っています。
さすが、自称並盛の秩序。まだ黒服にも見つかっていません。
道路を渡るときは細心の注意を払い、黒服に気づかれないように進みます。
「かなりうろついているね…。」
「彼らも、命がけなんでしょうね。失敗はイコール死……って所でしょう。こーゆー稼業だとよくある話です。」
「人海戦術で来られる前に、元工業地帯に行きたいところだね。」
「強行突破は賢くないですよ。僕は両手が塞がってますから、戦えるのは貴方だけなんです。」
「…綱吉をかみ殺したい。」
「同感です。本人が聞いたらショック死しかねませんが。」
タイミングを見計らいながら、路地から路地へ。雨が激しくなって来ましたね。
雨が降ると、痕跡が消えるのはいいんですけど、良くも悪くも視界が悪くなります。
逃げの一手しかない僕らにしては好条件なのですけれど…。
しかし、雨は体力も奪います。
今の所無傷な僕らはともかく、綱吉君が心配です…。気がついたら死体背負ってた、なんてベタですが御免ですからね…。
「あの通りを渡って、右に曲がったら旧工業地帯に入るよ。しばらく細い道になるから。」
「わかりました。」
「綱吉は…大丈夫？」
「意識は無いままですが、僕の肩に爪を立ててしがみついている程度に元気ですよ。」
「通りを渡ったら、少しペースを落とすよ。」
「…残りの距離はどの位ありますか？」
「今は六分の一くらい。」
「まだ結構ありますね。」
「なに？もうスタミナ切れ？」
「馬鹿にしないでください。この程度楽勝ですよ。」
「綱吉を運び終え次第、あいつらと君とまとめてかみ殺してあげるから、覚悟しといてね。」
「その言葉、そっくりそのまま返却しますよ。」
もう、路地の出口ですね。外の様子を伺って…道を渡る！
しかし、僕らの横断中、そこに猛スピードで突っ込んで来る車が一台。
とっさに前方に跳ぶ。
そして、急ピッチで車は旋回し、こちらを向く。
「居たぞ！ガキ共だ！」
最低のタイミングで、黒服が通りかかりやがりましたね！
「加速するよ！」
一気に足を速める。
黒服たちの車が追って来る！
「右側の路地に退避して！コースを変更するから、急いで！」
「…聞こえてます！…………で！どっちですか！」
「みぎ！もう、全然分かって無いじゃない！同じ事言わせないでよ！」
路地へ入り、もう一つ向こう側のブロックへ。
黒服達が狭い路地、車から降りて追って来る。
「向こうへ逃げたぞ！回り込んで捕らえろ！」
路地の向こうに応援が集まって来る前に走り抜けたいですね…。
前方を走る雲雀恭弥が路地を出て右へ曲がるのに習い、僕も右へ曲がります。
背後には、細い道をかっ飛ばして来る黒い車が何台か。
そこから何人かが降りて、足で追って来ます。
前方には、雲雀恭弥の他に…あぁ、可哀想に女の子が一人、歩いています。
哀れな通行人は、この後普通に生きていたら見られないような裏の世界を垣間みるのでしょうね。
まぁ、そんな事を考えながら彼女の横を走り抜けて行きます。
「はひ？ツナさん？」
彼女が何かつぶやいたのとかぶさるようにして銃声が響く！
「撃ってきたようだね。」
「…ヘタクソですがね。」
「はひぃぃぃぃっ！」
……隣から声！？
横を向けば、ただの通行人の女の子が僕らと並走しています！
まぁ…逃げるなら方向はこっちしかありませんからね……。
「……ハルは、なんでこんなデンジャラスでデストロイな事になってるんでしょう〜！？」
「君がどこの誰かは知らないけれども、僕らと来ないでおとなしく震えていた方がいいよ。その方が安全だから。」
「そういうことです。このまま一緒に居ると、貴女まで殺されかねませんよ？路肩に退避していればいつもの夜にもどりますから。」
「…そうですか？てゆーか、てゆーか！何で髑髏ちゃんがツナさん背負って走ってるんですか？ってあれ、そういえば、髑髏ちゃんって女の子じゃ…？あれ、実
は男の子だったんですか！？ハル、初めて知りました！で！なんでツナさん背負って…！あれ、ツナさん、ケガしてるじゃないですか！？どうして……！？」
……どうやら、綱吉君の知り合いらしいですね、彼女…。
というか、僕と髑髏を、見た目で間違えるって…。
「…髑髏の知り合いなんですか？ならば、なおさら貴女を巻き込む訳にはいかないですねぇ。」
「あの！えっと…髑髏ちゃんのお兄さんですか？えっと、この騒ぎ、ツナさんがマフィア……って事と、関係あったりするんですか？」
「君、知ってるの？どこまで？」
「…お兄さん達は、ツナさんをどうするつもりですか？ツナさんの味方……なんですか？」
「僕の質問に、質問で返すんだ。いい度胸してるじゃない。でも、状況が状況だしね。その判断は正しいよ。」
「むぅ。ハルの質問に答えて下さ……きゃぁっ！」
銃声 銃声 銃声！
「さらに撃って来ましたね、ガンガン。景気の良いことで！ハルさん、僕らを追っている連中は、武装しています。標的は…貴女ならば分かりますね、綱吉君です。そして、戦う力も、武器を扱う事もできない貴女がどうこうできるものではない。
今戦線から離脱すれば、ただの不運な通行人Aとして、彼らも見逃してくれるでしょう。」
「それはムリです！」
「貴女が傷つけば、綱吉君が悲しみますよ？」
「……そりゃぁ……ツナさんは悲しむでしょうけれど…！
でもでも、もし、マフィア絡みなら、黒い車と黒い人達とお兄さん達を目撃しちゃった時点で、ハルの運命は終わりかもしれないとか、ハルは考えちゃった訳ですよ！映画みたいに！すると、なんだかとっても怖いです！おもむろに走ってしまいますですよ！」
「…そこまで考えていたんですか？」
「へ！？いや……！？そんな……！！？」
「たしかに、その可能性はあるよね。通行人、君だけだったしね。」
「確率は五分五分…ってところでしょうね。とっさの事態に、よくそこまで頭回りましたね…？」
「ついてくるのは勝手だけど、足引っ張らないでよね。」
「……はひぃ〜〜〜っ！！」
「…次の角、左に曲がって。」
指示に従い、左に曲がる。
「登り坂、ですか……。」
曲がり角の向こう側は、少し幅広の急な上り坂になっていました。
こんな所で体力を使いたくはありませんが、仕方がありませんよね……。
「一気に登るよ。」
「はひぃ〜っ！！これ走って登るんですか！？」
「死にたくなければね。」
雲雀恭弥はさらりと涼しげな顔で言いますが。綱吉君が恐ろしく体重の軽い子であるとはいえ……！
雲雀恭弥に非がある訳ではありませんが、腹の底で舌打ちをしながら続きます。雲雀恭弥死ねばいいのに。
半分くらい登ると、そろそろ追っ手達も角を曲がり銃を構えて来ます。
あぁ、少し広い道ですから、車も来ました……って！かなりマズイ状況ですね。
人間と車ではどう考えても車の方に軍配があがりますから……。
すると、いきなりハルさんが速度を上げはじめて……僕らを追い越し、坂の頂上のゴミステーションに突進し始めました。
「ハルさん！？」
「…………？」
ハルさんは坂の頂上から思い切り叫びます。
「ハルはさっき、カッターを買って来たのです！」
「……は？」
「……駄洒落…ですか？」
そうして、真新しいカッターのパッケージを無理矢理はぎとり、その歯をゴミ袋に当てました。
そのころには僕らも坂を上りきり、その瞬間を見計らって、彼女はゴミ袋の中身をばらまきます。中身は………
「今日は空き缶が回収される日なのです！」
がらん がらん がらん がらん！
がらん がらん がらん がらん！
がらん がらん がらん がらん！
坂を転がり落ちて行く大漁の空き缶。
追っ手達は転がって来る空き缶に足を取られて進めないでいます。
その隙にさらにハルさんは袋を開け、空き缶をばらまく。
遂には車もスリップし始める始末。ちょっと面白い光景ですね。
「…いい時間稼ぎになっったみたいだね。やるじゃない、君。」
「はひ！とっさのトラップだったけど、上手くいって良かったです！」
「さ、オジさん達が楽しく滑っている間に逃げますよ！」
「右に曲がったら、3番目の路地に入って。」
「はひ！了解しました！」
路地は狭く、一人づつ通り抜けるのがやっとでした。
「よいしょっと…！」
「ハルさん？」
「…………完了です！こーやってそこらの板やコンテナを散らかして、更に即席のダンボールバリケードを作っておけば、この狭い道を通るのには更に時間がかかるハズですよ！
ちらっと見えただけですが、いかついオジサンが多めでしたからね。無理に此処をとおりぬけようとしても痛い思いをするだけです。
それに、視界だけでも遮っておくのは心理的な作用もあった……ハズです！たしか！何かの本で見ました！」
「へぇ……無駄に博識だね…。」
「全てはツナさんの為です！」
「……綱吉君…罪な男ですねぇ、あなたは。」
「…そうだね。」
そしてさらに僕らは雨の中を走る。
中学生の僕らが通るのが精一杯の狭い小路。遥か後ろから追っ手達の罵声などが聞こえる。大分大きく引き離したみたいですね。
「三浦ハル…だったっけ？やるじゃない。」
「本当に、かなり効いてるみたいですよ。あの妨害…。」
「はひ！…ありがとう、ございま、す！……でも、ハルは、ここまでみたい、です………。」
「どうかしたんですか？」
「もう、息切れ、しちゃって……！もう、お兄さん達には、ついていけそうにありません…！
だから、その辺の廃墟に隠れて、やり過ごそうと思ってます……！これだけ距離を稼げば、隠れる時間も結構あります、から…ね。」
「……ハルさん、貴女はよく頑張りましたよ。」
「そうだね。そこから左、4番目の小路に入って2番目の廃ビルの4階に居なよ。僕の部下を向かわせるから。」
「お兄さん達、ありがとうです！それでは、ツナさんをよろしくお願いします！」
そう言って、ハルさんは小路へ入ってゆきました。雲雀恭弥が携帯を取り出して部下に連絡を取っています。