僕が再び目覚めた時、もう陽は落ちて暗くなっていました。
時刻的には7:00をまわった位でしょうか?
僕はあのまま綱吉君のベッドに居たようですが、部屋に居た筈の獄寺隼人と山本武がいません。時間的に…帰ったのかもしれませんね。
今の所、手がかりが並盛山しか無く、少数ではありますが、数に頼ろうと思ったのに……全く、役立たずな野郎共です。
とりあえず、階段を降りて玄関へ。
黒服の男達の会話が本当ならば、急いで並盛山に向かわなければ。
綱吉君の居場所を知っている男は死にましたが、綱吉君が見つかるのは恐らく時間の問題でしょう。
僕が外に出ようとすると…。
「あら、黒曜の…六道君だったかしら?具合はもういいの?大丈夫?」
どうやら綱吉君のお母様みたいですね…。
「…あ、はい。お陰様で。ご迷惑をおかけしましてすみませんでした。」
「あらあら、全然良いのよ。それより、ごめんなさいね。綱吉ったらまだ帰って来てないのよ。今、獄寺君と山本君が探しに行ってくれたんだけど…。」
「…昨日、道で会った時に、友達の家に泊まりに行くとか言ってましたよ。」
「あらまぁ。それなら一言言ってくれればいいのに…。」
「あ、えっと。それでは僕はそろそろ失礼します。」
「ええ、またね。」
…とっさに嘘ついちゃいましたね…。まぁいいか。
玄関を出るとすぐに走りだす。並盛山…まだ間に合うでしょうか…。
角を曲がるとコンビニがありました。僕の目に飛び込んで来たのは、不良達が停めている自転車。
おや、無駄にラッキーですね。鍵がついたままだ。そこで幸運にあやかり、誰かさんの自転車を勝手に拝借。加速しますよ!
後ろから泥棒!とか不良!とか聞こえますが、鍵をかけておかない方が悪いので気にしません。
それと不良はお互い様だと思います。
人気と信号のなさそうな薄暗い道を選んで疾走します。
まったく。何がどう転べば僕がわざわざマフィア風情の、それも次期ボンゴレなんかの為に、この僕が動くという事態になるのでしょうか!?
綱吉君といいその他もろもろといい、あまりにも雑魚ばかりですからね、僕のように超絶優秀な人材が配下に欲しくなるのも分からなくはないですがね!
まぁでも、余りにも裏社会に向かなそうな綱吉君が、一体全体これからどうしていくのか興味があったかし、あの子ならばついていっても…えっと、面白そうだと思ったからリングを受けとりましたけど!
次期ボンゴレが!
これからこの僕の上に立とうという人が!
こんなにあっさり簡単に誘拐されるなんて!
どんだけあの子は阿呆なんでしょうかね!
前々から思ってましたけれど、警戒心が無いにも程がありますよ!
アルコヴァレーノが居ないと本当、てんでダメですね!
ボスが聞いて呆れます!
とりあえず、綱吉君を見つけ次第、とりあえず文句と嫌みをを言いたい放題言わせて貰う事を心に決め、いつの間にか雲行きの怪しくなってきた宵闇の街をつっぱしります。
綱吉君ですからね、多分無事だと思いますが…、なんだか嫌ぁな胸騒ぎがします…。
いつの間にか雨が降ってきました。…はぁ…。
並盛山に入るには、並盛神社の裏手から行くのが近道ですが、神社入口には「いかにも」な黒い車がたくさん留まっています。
見張りらしい何人か…三人?がうろうろしています。
自転車をその辺に乗り捨てて、鳥居に向かって進む、と…。
「おい坊主、神社は今立ち入り禁止だ。」
案の定。出来れば目立たず速やかに行きたいけれど…綱吉君を連れて来る事を考えると潰しておくべきでしょうか?
「立ち入り禁止という事は…今日は何かイベントのある日でしたっけ?」
僕という予想外の客人に、黒服達が警戒しつつも…子供相手だとナメてますね。
腹立たしい話ですが都合は良い。
「いや…何もない。ただ、野犬が出て危険だから人を入れないようにしている。そういう訳だから坊主はとっとと帰んな。」
他の黒服達もこちらを見て適当な笑顔を浮かべている。
…武装する気配はなさそうですね。まぁ子供相手に武装するのも馬鹿らしい話ですが。
ついと、黒服が僕から目を離した隙を狙って足払いをかけます。そして、よろめいた隙をついて、肘でみぞおちを一撃。まずは一人。
殴打音に気付いたもう一人も、こちらを振り向く前に沈んで頂きましょう。THE☆延髄蹴り!
そして、そいつの後ろから最後の一人が現れ、
「坊主、貴様何もn…!」アッパーカット骸スペシャル!
「僕が何者かですって?見ての通り、別に珍しくもない善良な男子中学生ですよ。」
「ちょろいですね。他に見張りは…無し、と。」
倒れている男から拳銃を奪い、神社の階段を二段飛ばしに駆け上がります。
境内は…がらんどうのようですね。端を一気に駆け抜けます。
出来れば(疲れるから)幻覚はあんまり使いたくないと思っていたのでラッキーですね。
裏手からは木が増え、一気に山の様相を呈します。土の上にはたくさんの足跡。解りやすい。
とりあえず足跡の道を辿りながら気配を探る……。
ここら辺は黒服達も探したみたいですね。進みましょう。
しばらくすると、足跡が分散して道が無くなってきます。さらに分け入って進むと…崖になっていました。
引き返そうと思ったけれど…何か引っ掛かります。
並盛山は、そんなに広くはない。神社前の車の数から黒服の人数を考えると、正直見つかってない方が…
考えろ。僕ならどうする?死体を…どこに捨てる?
「…投げる…………何処から…何処に?……高い所……崖……?」
…たぶんそれだ。
目の前の崖を降ります。大した事ありませんね。
降りたら辺りを見渡します。
木が生い茂り、草も長いし日も落ちて、その上天気も悪いので視界が利きませんが、微かに慣れた臭いがします。
そう、血の臭いが。
崖の上から黒服達の話し声が聞こえたので、咄嗟に木の裏側に身を隠す。
目の前の茂みからかすかに覗いているのは…か細い少年の腕。
「綱吉君!」
茂みの後ろに倒れて居たのはやはり探していた彼でした。
傷口を見るまでもない程の重傷…です。
着ていた服が大分赤く染まっている。
「綱吉君!綱吉君!」
「……だ…れ…?…」
「…よかった…間に合った…!」
「むく…ろ…?」
「綱吉君、大丈夫ですか?動けそうですか?」
「…ごめん…。無理…そ…う…。」
「…怪我の状態は?」
「…わからない…けれど…背中…が…熱い…。」
今の時点で解るのは銃創が2カ所……。致命傷は避けているようですが…深い。
「……。」
「…っ!綱吉君!」
…気を失ってしまったようですね。
とりあえず、ここでは応急処置すらできません。場所を変えないと…。
あぁ、都合よく雨が降ってきました。
これで僕等が居た痕跡は消えるでしょうね。血の匂いも含めて。
とりあえず濡れない様に、綱吉君に僕の学ランを着せて……僕と綱吉君ってこんなに体格差あったんですね…。こんなにも…。一つしか年違わないのに…。
…………。
…そして、奪った銃を空に向けて撃ちます。
轟く銃声。
これで黒服達は、沢田綱吉暗殺は完了したと思って去っていくでしょう。
あとは綱吉君を背負ってずらかるだけ。
おそらく、黒服は崖の上にいるでしょうから、距離を置いて崖下を通って行けば問題無いハズ。
さぁ、出発しますよ!