七日目 〜 Oratorio 裏切り者の聖譚曲 〜

いよいよ犯行の時刻がきた。
トラックはハイウェイを走っている。

山本の運転するトラックの助手席には無線機が置いてある。
そこから、トラックの斜め後ろを走る車に居る獄寺の声がした。

「来たぜ!奴の車は右だ!右から付けて来てる!」
トラックの斜め後ろを走る車に居る獄寺の声がした。

「…へぇ。…だとよ!後ろ、聞こえてるか!?」

すると、無線機から今度はレヴィの声がする。

「見えている。奴は今、トラックの後ろに入った。囲む準備はできている。」
「へへっ!ざまぁみやがれ!」
「………!」
「…おいレヴィ、どうした?」
「今、SILVERと思われる人間が車の上に乗って、ロープで荷台の上に上がった!」
「なんだと!?」
「安心しろ、スクアーロが追っている。」


トラックの荷台に乗っかる、巨大な箱の上にて。
月光のもと銀の髪をなびかせるスクアーロと、やはり同じ色の髪をなびかせる怪盗が対峙していた。


「うおおぃ…。てめぇには、絶ッ対に負けないぜぇ…。」

怪盗は静かに、底の見えない笑みを浮かべる。
対するスクアーロは、凶暴な笑みを張り付けて構える。


そうして、ハイウェイでの攻防が始まった。


















場所は変わって、執務室。


執務室にいるのは、部屋の主であるツナと、いつになく神妙な面持ちをした了平、了平とは対照的に、いつもの如くソファの上でだらけている骸の三人が居た。


「…はぁ。」
「綱吉君、お疲れですね?」
「うん、さっきベル達と居たんだけど、オセロもトランプもぼろ負け。一勝もできなかった。それにさ…」
「全部ビリ、ですか?」
「…お見事。よくわかったね?」
「わざわざ当てるまでもないですよ。それだけ重たい空気を背負っていれば。それに、あなたが勝った方がびっくりです。雹でも降るんじゃないか…って。」
「あ、ヒドイ!でも…どうしてこう、俺って弱いんだろ?」
「顔に出るからですよ。何か良い手、あるいは悪い手を引くとすぐに顔に出ますからね。」
「そうなんだ。」
「オセロやチェス、将棋のような、頭を使うようなゲームだと、IQが心配になってくるような場所に打ってきますしね。」
「…俺、そこまでバカ?」
「あなたは常に、予想の斜め45度上をスキップで通り過ぎて行きますよ。」
「それって誉めてる?けなしてる?」
「お好きなようにとってくださいな。」

「…ちなみに今、俺ってどんな顔してる?」
「不細工です。」
「いや、そうじゃなくてさ。…て、即答かよ。」
「見たままを言ったまでですよ。」
「…そっか。」












そんな会話をしていると、唐突に執務室の扉が開かれる。
入って来たのはアレッシオだ。



「…アレッシオさん、ノックぐらいして下さい。」
「すまないね、うっかりしていたよ。」


アレッシオは悪びれる風もなく、つかつかとツナの方に歩み寄り、丁度執務机をはさんでツナと向かい合う形になった。
アレッシオはゆっくりと、くわえた葉巻に火をつける。
そして、やはり慣れた動作で紫煙を吐き出す。

「執務室は禁煙です。それと、何か御用ですか?」
「まぁそう固い事を言うな、ボス。…あぁ、用件だったね。今日この場に来たのは他でもない。…お願いがあってね?」
「……お給金上げて欲しいんですか?それとも、もっといいポジションにつきたい、とか?」
「おおむね、間違ってはいないよ。ただ…」
「……ただ?」


「もう1ランク、高い所が欲しいね。」




ぱちん。


アレッシオが指を鳴らすと、扉から10人程、銃を構えた男達が入ってくる。
そして、銃口はツナに向けられる。

「…これは?」
「見ての通りさ。言ったろう?欲しい物がある、とね?私は貴方の座る、その椅子が欲しいのさ。」



ツナは眼だけを動かして周囲の様子を探る。了平はうつむき、骸は笑っている。

「守護者をあてには出来ないよ。」
「……どうして、そう言い切れますか?」
「取引さ。ササガワ・リョウヘイとロクドー・ムクロ。彼らには一部の手引きと今夜の事を黙っている事と引き換えに、それぞれの願いを叶える事を約束しているのさ。」
「…すまない、沢田…。」
「ごめんなさいねぇ、綱吉君。」


今、武器を構えているのはアレッシオの部下だけ。
彼らとツナとの間は、距離にして約3メートル。
リボーンの超近距離射撃によって鍛え上げられたツナの避けであれば、人数が居るとはいえ初撃を避ける事はできる。
初撃を避けて重厚な執務机の影に隠れれば、グローブをつけてハイパー化するのに十分な時間を稼げるだろう。

そう判断したツナは防御の姿勢を取ろうとする。
が、それと同時に更に扉が開き、そこからアレッシオの部下がもう一人と、後ろ手に縛られ、銃口を突きつけられた京子が現れる。


「ツナ君!お兄ちゃん!」
「京子ちゃん!」「京子!」
「動かないでおくれよ、ボス。可愛い部下の儚い命を、散らせたくなければね。さぁ、両手を上げてくれないか?」
「……骸はともかく、了平さんが素直に貴方の側についた理由が分かったよ…。」



ツナはアレッシオを見据え、静かに両手を上げた。
アレッシオは、ゆっくりと己の銃を取り出し、銃口をツナの額へと押し付ける。


「チェックメイト、かな?愚かで小さく、無能な沢田綱吉。
 残念ながらこの世界は、君みたいに可愛いだけが取り柄の、無能なシンデレラ・ボーイには厳しすぎるのさ。」


アレッシオは引き金に指を掛け、口元に笑みを浮かべる。
ツナは静かに眼を閉じる。

そして。



銃声。
















銃声と同時に世界は崩壊する。
高価な絵画が掛けられた壁は無骨なコンクリートへ。
豪奢な絨毯は固い鉄板に。
きらびやかな装飾品の置かれた執務室は、殺風景な地下室へと変わっていた。

重厚な執務机は消え失せ、その向こうに居た筈の綱吉は先程よりも少々ずれた位置に立ち、アレッシオの頭に短銃の銃口を向けている。





「チェックメイトはあなたです。反逆者アレッシオ・ガーウェル。」

「……なんだと…執務室が…一体、どういう事だ…?」
「麻薬業者のお友達がいらっしゃるのに、ご存知ありませんか?幻覚なんて、すでに見慣れてると思ったのは俺の勘違いのようですかね?」
「幻覚、だと…?」
「知らないとは言わせませんよ?貴方の後ろに居るでしょう?人間なんだか化け物なんだかよくわかんない、濃すぎるブラックジョークの大好きな幻術使いが。」
「…化け物ってヒドくないですかね?もーちょっと格好よく言って下さいよ。タダ働きしてあげてるんですから。」
「…ムクロ!貴様、裏切るつもりか!」
「ごめんなさいね、ミスタ・アレッシオ。僕やっぱり、脂っこい中年オヤジを眺めるよりも、IQが心配になる程の大馬鹿なガキんちょを眺める方が、まだ耐えられるみたいなんです。それに、葉巻きも嫌いですし。」
「……ふふ、優位に立ったつもりかね?沢田綱吉?こちらにはまだ、笹川京子が…!」



「私がどうかしたの?」



アレッシオが言葉を発した時に、ふと彼の隣に現れて見せたのは、囚われの筈の笹川京子だった。


「…!」
「何か驚くような事でもありましたか?」
「…なぜ、笹川京子が…?」
「貴方が連れて来たのは、京子ちゃんだけではなかった、ということです。京子ちゃんに銃を突きつけていた貴方の手下。あれは幻術で変装したクロームだった。それだけですよ。」
「…馬鹿な…入れ替わる隙など…!」
「隙などなくても、問題はありませんよ。彼女は最初からずっと、貴方の側にいたのだから。」
「…何だと…?」
「反乱を企てるのならば、一番厄介なのはおそらく守護者。京子ちゃんを使って了平さんを脅迫する…結構いるんです、そう言う輩。予想はついていました、だ から姿を隠したクロームに同行を頼んだんですよ。そして、京子ちゃんが連れて行かれた後、クロームはすぐに京子ちゃんを解放し、2人一役で『囚われの笹川 京子』を演じながら貴方の身辺捜査をして、骸を通じて情報を流してもらいました。」
「…ムクロ、貴様…!」
「だって、綱吉君にもらった秘蔵のガトーショコラ、美味しかったんですもん。」

「…あぁ、これで了平さんも貴方の側につく必要がなくなりましたね?クローム、お疲れさま。」
「ううん、こんなのなんでもないよ。」




了平は、静かに拳を構える。
アレッシオが吠える。


「…だがしかし、状況は変わらない!私の連れてきた者達とて、名うての名士ばかりなのだからな!たかが若輩者5人など、ひねり潰してくれるわ!」

「…無意味。みてみたら?後ろ。」

クロームはつぶやくように、しかし毅然とした口調で言葉を紡ぐ
クロームの言う通り、アレッシオは首を巡らせる。
すると。







「なんだ、骨のないヤツだな!」
「このパターンで骨のあったことなんて、ありましたか?」


彼の部下は全滅し、骸と了平が呑気な会話していた。
その時、無遠慮に扉が開かれる。
現れたのは、雲の守護者・雲雀恭也である。


「なにやってるのさ。」
「…地獄に仏とはこのことか!ヒバリ、サワダは抑えた!残る者共を殺せ!」
「どうして?」
「見て分からないのか!貴様は"こちら側"だろう!?」
「確かに、聞かれたことには答えたけれど、それだけでしょ。僕は立場は表明しなかった。」
「…貴様も裏切るつもりなのか!」
「裏切るも何も、こちら側とかあちら側とか、僕には関係ないし。僕の立場は僕のもの。あと、僕に命令しないで。」
「ヒバリさん…。あぁ、ところで何かあったんですか?」
「あぁ…空港で獄寺隼人御一行に遭っちゃって、胸糞悪かったからその辺で暴れてた…ラヴェッタファミリーとかいったっけ?なんかうざいからかみ殺しちゃったけど、問題ないよね?」
「あぁ、全然問題ないですよ。近々なんとかしなきゃと思ってたから、ちょうど良かったです。」
「…ヒバリ…!」



雲雀は口角を軽く吊り上げ、

「沢田綱吉を簡単に裏切れる程、僕は退屈してはいないんでね。」







綱吉は口を開く。

「さて…そろそろ。京子ちゃんとクロームさんはアレッシオを拘束して。了平さんと骸は残り以下略をお願い。」
「まかせて!」「うん、わかった。」「おう!」「…はいはい。」



指示を出した綱吉の携帯に、電話が入る。山本からだ。
「もしもし。」
「お、ツナ。こっちはキレイさっぱり片付いたぜ!無事にSILVERも捕まえた!」
「へぇ、偽物誰だった?」
「幹部にいただろ、デボレって。あいつの腹心だ。名前は忘れちゃったけどな〜。あ、今はそいつ、獄寺の車の中にいるぜ。獄寺キレてたからな〜。、スクアーロがそいつを拘束してから、見ていて気持ちいいくらいに盛大にぼっこぼこに殴ってた!」
「そっか、なんかそっちは楽しそうだね。」
「あぁ、そりゃぁもう!そっちは?」
「なんとか一段落…ってカンジ。あ、キャッチはいってる。ゴメン山本!」
「いいさ!あ、あと一時間半くらいでそっちに着くからな。」
「OK!」


そしてツナは山本との通信を切り、繋ぎ直す。今度連絡を入れて来たのはランボだった。
「もしもし。」
「ボンゴレぇぇ!」
「…どうしたのさ?」
「ベルフェゴールが、怖いです!」
「はぁ!?」
「なんか、騒ぎの連絡を受けて俺が到着したころには楽しそうにナイフを投げてたけど、ビニール袋踏んで、滑って転んで鼻血出してからなんか様子が変なんです!「王族の血がぁ〜」って!なんか暴走してます!惨劇です!怖いです!」
「…他に誰か居た?」
「えっと、藍色のおしゃぶりのアルコヴァレーノと、オカマと…」
「…そんなら多分大丈夫だから。」
「で、どう?うまいこといってる?」
「首尾は完璧です。…多分。」
「多分ってなんだよ、多分って。」
「ロッソファミリーは、ヴァリアーが壊滅させました…。キャバッローネも応援に来てくれたし…。でも、ここには居ないハズの幹部のヒトが居て、えと、捕ま えちゃいましたけど…。もういっこ、ラヴェッタファミリーとかいうファミリーが向こうの方で暴れてたらしいんですけれど…、なんか、向こう側がいきなり静 かになっちゃって、怖いです…。」
「あ、ラヴェッタファミリーはかみ殺されたそうだから、多分大丈夫だよ。」
「本当、ですかぁ…?」
「…本当は現場に居る人が確認しなくっちゃいけないんだけどね?今回は例外だからね。わかった?」
「…はい…。」




「ふぅ。」


電話を切りながらツナは一息つく。
そして、

「アレッシオ、貴方の計画は全て潰れたようですよ。」
「……。」
「…ねぇ綱吉、全部終わった?」
「はい、雲雀さん。俺の知る限り、全部終わったハズです。」
「そう。なら、日本から来た時に、折角だからおみやげにいちご大福買ってきたんだけど、執務室で食べない?」
「え、本当ですか!?うわぁ、いちご大福とか久しぶりなんだけど!うれしいな!あ、でも…。」
「後始末なら私達ががやっておくから、ボスは行ってていいよ。」
「でも……いいの?」
「…はぁ…。あのですね綱吉君?後始末までボスがやるなんて話、聞いたことないですよ…。少しはボスらしくしたらどうですか?」
「え、あ…、うん…。」
「じゃ、いこうか。」






雲雀とツナが居なくなった地下室にて。


「さて、それじゃ後始末をしちゃわなければいけませんねぇ。」
「ひいっ…!」

「貴方がなにも考えなければ、ボスは今ごろ久しぶりの休暇を楽しんでいたハズ…。」
「ツナ君、最近忙しそうだったから…。やっと休みだって喜んでいたのよ?」
「うむ、沢田は極限頑張りすぎる気があるからな!たまに心配になるのだ!」
「ったく、貴方のせいで僕は時間外手当ももらえないタダ働きの連続だったんですよ…?」

「「「「どうやってオトシマエつけてくれる(の?)(かな?)(のだ!)(んですかね?)」」」」」


その後、地下室で盛大にタコ殴りタイムが始まったのは、言うまでもない。