綱吉の執務室にて。
綱吉はいつものごとく書類と格闘している。
「あう〜。めんどくさいよ〜!!」
「おや綱吉君。ご機嫌麗しゅう。」
「麗しくない!一体、どこをどう見たらそー見えるのさ!…ところで骸、いいもの食べてるね…。てかお前、いつから居たのさ?」
「さっきから居ましたよ。あんまり暇なモノですから、執務室に遊びに来て差し上げたんです、喜びなさい。あ、このチョコレートケーキとっても美味しいんですよ。あげませんけど。」
「骸のケチ!嫌な奴!いいじゃん、一口くらいさ!すでに一人で1ホールも食べてるんだし!今、2ホール目でしょ?それとあと、構って欲しいんなら別の人のトコロに行きなよ。俺は無理。超絶無理。だってめっちゃ忙しーもん。」
「そんな事言わないで下さいよ、綱吉君のいけず、変態、露出狂、パンツマニア。構ってくれないと僕、寂しくて死んじゃいます!執務室の高価な置物を僕の血で台無しにしてあげちゃいますから!」
「それはやめて!マジで!それに、俺だって好きでパンツ一丁になってたりしてないよ。てか、それももう十年前の話でしょ!どうしてそんなどーでもいい事覚えてるのさ!」
「フツーに衝撃的でしたよ。今でも昨日の事の様に思い出せます!だって今まで、わざわざパンツ一丁になって戦う人間なんて見た事ありませんでしたもの。…てか今、何やってるんですか?」
「あぁ、明後日の運搬計画の人員配置考えてるの。めんどいけど、おざなりにする訳にもいかないもんねぇ…。はぁぁ…。」
「へぇ…。もう、あらかたの配置ってもう決まってるんですか?」
「ううん、これから。てか、今さっき着手したばっかだから、正直まだ白紙なんだよね。あーあ…。リボーンが居たら、多分考えるのにいいアドバイスくれたと思うのに。」
「結構な人数動かすんですねぇ…。そんなに大きな物なんですか?」
「まぁね。お披露目パーティーの時に、骸にも見せてあげるよ!まぁ、パーティーっても、知った顔ばっかりだけどね。」
「へぇ…それは楽しみです。…あれ、この紙は?」
「あぁ、それ。怪盗サンからの新しい予告状。どうやら、さっき話した"ソレ"を盗みたいらしいんだよね。」
「…ふーん…。で、ボンゴレ本部と運搬現場の二カ所ですか?警備が必要なのは。」
「基本的にはね。あと、雲雀さんの話だと…あぁ、最近うろうろしている胡散臭い連中の事、骸に話してたっけ?」
「いえ、されてませんが。でもまぁ、だいだい予測はついてますよ。なんかきな臭いのがはでに暴れてるなぁ、って程度には。」
「そんだけ解ってれば大丈夫。…俺もその程度しか判ってないし。そんでね、怪盗の他に、その連中が襲ってくるかもしれないから、そっちの見張りも強化しな
きゃなんないんだ。雲雀さんが言うには、そいつら、敵対しているマフィアと繋がってるらしいから、そいつらもけしかけてくる、と俺は予想してる。だから、
そっち用にも人数割きたいな、みたいな。でも、誰をどうするか全然決まんないんだよねー。」
「なるほど…。極限にめんどくさいですね。」
「うん、それはもう極限に。」
「あ、僕の配置ってまだですか?」
「うん?まだだね。希望あるの?」
「はい。当日は綱吉君の護衛してていいですか?」
「あ、いいよ。ちなみに、なんでいきなり俺の護衛?てっきり運搬の方で一暴れしたいとか言い出すのかと思ってたよ?」
「そうですか?あ、でも悪くないですよね、捕り物も。でも、空港まで行かなければならないでしょう?千種じゃありませんけれど面倒くさいじゃないですか。
それに、うっかり雲雀恭弥とはち合わせても不快ですし。護衛の名目で本部でだらけていられるのなら、僕はそっちの方がいいです。」
「今、さりげにだらけるっていったよね、この野郎。…まぁいいけど。当日、仕事片付いたらオセロやろう?今度こそお前に勝ってみせるから。」
「山本武にすら勝てないあなたが、僕に勝とうだなんて100年経っても無理ですよー。」
「むー!今度は勝てる気がするんだよ!こんどこそ、こてんぱんにしてやるんだから!」
「無理です。僕の完全勝利以外の予想が出来ません。それに、毎回同じ事言って、毎回完膚なきまでに叩きのめされているのはどこの誰ですかねぇ?」
「う…本気でむかつくなお前。まぁいいや。でも、おかげで大分決まったよ。」
「へぇ?」
「骸が本部に居るなら、獄寺君と山本が運搬。このクソ忙しい時にケンカされても嫌だし。そんで、ランボも本部。雲雀さんは…本人に任せよう。言った所でどうせ聞かないだろうし。了平さんは、他ファミリーの襲撃にそなえて出撃体制で待機、かな?…そんなカンジでどう?」
「……。」
「…まずかった?」
「…そうですね、笹川了平とボヴィーノの牛を入れ替えてみてはどうでしょうか?そして、牛を敵対マフィアの方へ向かわせる。…とか?」
「うーん。でも、ランボ…大丈夫かな?」
「ヴァリアーは?彼らがいるでしょう。」
「うん…。でも、ヴァリアーはザンザスと一緒に決めようと思ってたんだけど。」
「ふぅん、ヴァリアーから誰か入るのなら、牛で問題はないと思いますけれど?」
「骸、やけにランボをプッシュするね?」
「だってあの牛、泣いてばっかでうざいんですもん。」
「わかりやすい理由をありがとう。お前、ランボ嫌いだろ。」
「北京ダックや駄犬よりは好きですよ。刃向かってこないし、シメたらすぐ言うこと聞くし。」
「…あぁ、そう。じゃ、いいか。ヴァリアーの誰かが入れば大丈夫。ザンザスにお願いしてみよう。」
「あ、よかったですね。これで守護者の配置が決まりました。」
「だね!思ったより早く終わってよかったぁ。骸に感謝しなくっちゃね…っていうか、希望言われただけだよね。」
「あら、それでも決めるのに一役買ってるんですよ。もっと感謝しなさい。感謝が足りないですよ!」
「……言いたい放題だねこの野郎。…はいはい、ろくどーむくろさま、ありがとうございました!」
「むぅ。なんか腑に落ちませんね。はてさて、美味しかったケーキももうすぐ食べ終わってしまいますねぇ、悲しいです…。しょうがない、また買ってきますか。」
「あ!ケーキ!俺も、俺も!…てか、2ホール食べて、まだ食べるの…?」
「だって、まだ食べ足りないですもん。…はいはい、一口だけですよ。」
「やった!…おいしい〜!!………でもちょっと…いや、かなり、甘すぎない?」
「この美味しさが分からないなんて!まだまだお子様ですねぇ。」
「いやぁ、俺だって相当な甘党の自覚あるけれど…。てか、普通そのセリフ、甘いモノに対して使わないよね?」
「そうですか?味音痴の子供に対して使う、という点では間違ってませんよ。あと、このケーキは特別製なんですよ。」
「どんな風に特別なワケ?」
「普通のケーキの約3倍の砂糖が入っています。」
「!!!!!!?」
「これに、粉砂糖をたーっぷりとまぶして、練乳をかけて食べるのがおいしいんですよ。」
「へぇ……。(甘党もここまでくると、お菓子にに対する冒瀆だと思うの俺だけ?)」
「今度綱吉君にも買ってきてあげましょうか?2ホール程。」
「けっ…結構です!」
「あら、残念です。」
骸が執務室を出て、廊下を歩いている。
すると、通路の奥からアレッシオが現れた。
「配置は決まったのかね?」
「ええ。当日、運搬に携わるのが獄寺隼人と山本武、本部に居るのは僕と笹川了平で、雲雀恭弥がフリー。ヴァリアーについてはまた後で、との事です。」
「ふふ…。期待以上の働きだね、ムクロ君。これで君の仕事は終わりだ。礼を言わなければね?」
「ギブアンドテイク。僕は僕の求める物の為に動いたまでだ。」
「ふふふ…。」
そう言って、アレッシオは立ち去った。
廊下に立つのは骸一人。
そして、骸はいつもの読めない微笑をさらに深くして、口を開く。
「ランキングフゥ太。いつまで隠れているつもりです?そろそろ出て来たらいかがですか?」
あたりは静まり返る。
しかし、それは一瞬。その後には物陰からゆっくりと躊躇いがちに、フゥ太が現れた。
「盗み聞きなんて、趣味が悪いですよ?」
「趣味が悪いのはそっちでしょ?ツナ兄よりも、あんなオッサンがいいなんてね。」
「釣り人ははくそじじいでも、竿の先に釣られたエサがあんまり美味しそうだったものですから。それに綱吉君の側に居ても、タダ働きばっかりですし。僕、実利主義なんです。」
「確かに、ツナ兄の側に居たら余計な心配ばかりだよね。ボスになっても、かつてのダメツナいまだ健在だし。そこは認めるよ。でも、利益という点において、
ボスであるツナ兄とたかが一幹部のオッサンとを天秤にかけた場合、長期的な目で見れば確実にツナ兄に軍配はあがるよね。」
「そうですね。しかし、全てを長期的な目で見る必要がない場合もありますよ。」
「…ツナ兄を裏切る、あなたがそのリスクの大きさを理解出来ない程の大馬鹿だったなんて。僕はあなたを買いかぶってたみたいだね。」
「クフフ、一応わかってますよ。リスクについては、ね?ただ、そのリスクを冒してまでも手に入れたい物がある。それだけですよ。」
「…馬鹿みたい。」
「あいにく、僕は君と違って、沢田綱吉に傾倒する理由はないし、執着もありません。僕は僕の生きる道を選択した、それだけです。…さて、おしゃべりはここらへんにしましょうか?」
「……!」
骸の紅い右目が揺らぐような輝きを灯す。
フゥ太はとっさに目をそらすが、時すでに遅し。フゥ太の体から力が抜け、急激に意識が遠ざかる。
「あなたはなにも見なかったし、聞かなかった。」
フゥ太は薄くなる意識の中で、骸の言葉が体を浸食するのを感じていた。