四日目 〜 Barcarole ヴェニスの舟歌 〜

本日、綱吉は船上の人だった。
此処は水上都市ヴェネツィア、かの有名なヴェニスのゴンドラの上である。


「うわー、すっげー!!テレビで見たのとまんまだぁ!」
「ツナ、あんまりはしゃぐと落ちるぞー。」
「あはは!落ちたら拾ってやるさ!」
「おいおいボス!んな事言ってて、ボスがおちたらどうすんだ。」


綱吉と一緒にゴンドラに乗っているのは、櫂を器用に操りゴンドラを操作している山本と、綱吉の向かいに座るディーノ、その隣にロマーリオである。

綱吉と山本は、まだ日の出まえからわざわざボンゴレの自家用飛行機に乗って来ていた。
彼らは随分と楽しそうだったが、勿論観光に来ている訳ではない。(もし観光ならば獄寺が黙ってはいない。)



「天気は良いし気持ちいいし。今日は絶好の観光日和だよ!それに、ゴンドラって本当に滑るように進んで行くんだね。」
「そーは言っても、これ結構むずかしーんだぜ?第一、水路がとっても狭いし!」
「でもお前、まだ一回もぶつけてないだろ?すごいとおもうぜ?」
「へへっ、そーか?照れるなー。」





「そうそう、ツナ。2種間前位まえに言ってた不穏分子がどうのってアレ、どうなった?」
「うん、あぁ…。かなり大きくって、あっちこっちに根を張ってるみたいです…。はぁ。」
「おいおい、大丈夫か!?手は打ったのか?」
「うぅ…何もしてない訳じゃないですよ。変化はないけど、順調に芽は出てるハズです………たぶん。」
「…そうか。ならいいんだが。」
「はい。でも、俺の予想より連中、遥かに大きくなってて行動が大胆になって来ているみたいです。その事を考えれば、そろそろ潮時かもしれません。一昨日雲雀さんが寄ってくれた時に少し話してくれたんですけれども…日本にいる雲雀さんでも感づくくらい…みたいです。」
「そうか。恭弥がいくら聡いとはいえ、大陸の向こうの事態に気づいちまう程…厄介な事態になってきてるんだな。」
「…はい。」

「不安そうだな?」
「……はい。」
「そういえば、初めてか。ツナがボスになってからこんな山場は。」
「そう、です。」
「怖いだろ?」
「…怖いというよりも、不安です。とても。」
「誰を信用したらいいか分からない。…とか。」
「そうじゃ、ないです。」
「なら、どんなだ?」
「…誰を信用したらいいのかなんて、解りきっています。守護者にヴァリアーは絶対に大丈夫。他の幹部のうち、半分も多分大丈夫。みんな信用出来ます。俺が不安なのは…、本当に計画がうまくいくかどうか、です。」
「ツナ…。計画に100%を期待するなよ。多分、現実70%うまくいったら、相当いい方なんだ。」
「70%…。」
「それに、絶対なんて言葉はない。常に、誰かを疑え。辛いだろうが。」
「……。」
「この世界で生き残る為には、それも必要なんだ。」
「……。」
「こんな事を話した後で言うのもなんなんだが、一応さ、俺はツナの味方だぜ?…いつでもどんな時でも、な。」
「ツナ、俺もいるからな〜?」
「…ディーノさん、山本、ありがとう…!」
「いいってことよ!」
「だって、親友だもんな〜!」


「あ、そうだ。ディーノさんに頼みたい事があったんだ!」
「お、なんだ、ツナ。言ってみろ。」
「はい、えっと、向こうの連中がいつ動くのか、一応見当ははついているんです。」
「ほう。」
「多分、三日後。俺は雲雀さんに、"あるもの"の運搬を依頼しました。それは結構大掛かりな物で、運搬にかなりの人員を割かねばなりません。リボーンも丁 度居ないので、彼らにとっては絶好のチャンスでしょう。雲雀さんがもたらしてくれた情報によれば、連中、ロッソ・ファミリーと繋がりがあるみたいなので、 けしかけてくる可能性があります。ロッソは新興とはいえ、無視出来ない規模があって…という所までしか解りませんでした。もし良ければロッソについて、何 か情報をくれませんか?」
「…俺の知ってる限りじゃ、暗殺者のギルドと繋がってる、と聞いた事がある。多分、それなりの数の暗殺者をけしかけてくる…可能性は、あるな。他には… あ、麻薬をあつかってる業者をたくさん抱えてるらしいな。ぱーっと売りさばいて、結構いい金になってるらしいぜ。…俺が知ってるのはそのくらい、かな?大 した事なくってごめんな。」
「ありがとうございます。助かりますよ、これで資金の出所が分かった気がします。」
「いやいや、大した事じゃねぇよ。そうだ、応援いるか?」
「えっ!…いいんですか?あ、でも、何かお礼になるような物…えっと…。」
「お礼なんて気にすんなって!あ、でも、もし良ければ、恭弥に開発させてたもの、何なのか教えてくれねぇか?話せないなら別にいいけど…ただの興味だし。」
「うーん…ごめんなさい。それは、今はまだ言えないんです。」
「そっか。ならしょうがねぇな。」
「あ、でも!完成の記念にパーティーをやろうと思ってるんです!まぁ、知人ばっかりのささやかなホームパーティーですけど!もし良ければ、それに来てくれませんか?そのときに、お披露目予定なんです!あ、ロマーリオさんも一緒にどうですか?」
「へぇー、いいのか?楽しみだな!」
「俺もいいのかい?ドン・ボンゴレ。」
「はい!日にちと時間は…。」










ディーノと別れ、本部へ向けて再び機上の人となったツナと山本。


「ヴェネツィアすごかったな、ツナ?」
「うん、そうだね。今度はさ、休暇の時にまた一緒に行かない?」
「そりゃぁいいな!楽しみだ!」
「…うん。俺もたのしみだ…。」
「…ツナ?」
「……もっとあっちに居られたら良かったのに。本部に帰るの、気が重いや。」
「そっか。帰ったらまた…考えなきゃだもんな。」
「うん。それに、こうしてる間にもいろいろ進行してるのかなー、と思うとめんどくさくて。」
「めんどくさい、か。」
「うん。ディーノさんはあぁいってたけど、計画の成功に関して俺は疑ってない。誰を信用したらいいのかも、解ってるつもり。…なんだけどなー、なんか不安だ!」
「あはは。そういうもんだって大将ってやつは!野球のキャプテンもそういう気持ち、らしいぜ?勝ちの決まってるような試合でも、絶対に負けられない時は緊張するし、不安になるって、高校の時部長がこぼしてた。」
「そう、かな?」
「あぁ!それに、ツナがうまくいくってんなら俺は信じるぜ!」
「そっか、うん。そう、だよね!」
「それに、ツナに刃向かってくるヤツはみーんな刀の錆にしちゃうのな〜。」
「山本それ怖いって!…でも、なんか元気でた!なんかやれそうな気がする!」
「そっか。なら良かった。そうだツナ、そういえば警備とか強化したりすんのか?」
「うーん。…しない、つもり。」
「あぶなく、ないか?」
「でもさ、急に強化したりしたらさ、敵にばれちゃうんじゃないかなって、思う。」
「あぁ〜。でも…。」
「うん。山本の言いたい事はなんとなく解るよ。なるべく獄寺君か山本か、ヴァリアーの誰かにそばに居てもらうようにする。でも、そのくらいが限界だよな。でも、向こうも何か計画してくるだろうと思うけれど、その時…運搬の時までは何も仕掛けてこないと思うんだ。」
「だな。なぁツナ。」
「なぁに?」
「こんな時だ。ディーノさんも言ってたけれど、あんまり簡単に周りを信用するんじゃねぇぞ。」
「あはは、わかってるって。」
「ツナ…。」
「そんなに心配しないでよ。危ない連中はみんな刀の錆にしちゃうんでしょ?頼りにしてるよ、親友?」
「…あぁ、まかせてくれ。」
「…あ!」
「どした?ツナ?」
「あのね、山本に計画の事話してなかったよね、今話しても、いい?」
「…いいのか?極秘なんだろ?」
「まぁね。でも、山本ならうまく立ち回ってくれると思うし!」
「信頼されてるのなー、俺。よし、一丁教えてくれよ!」
「あのね…」







「…ツナ、そんな事考えてたのな…。」
「もう、種はまききったと思うの。あとは…待つだけ、なんだ。」
「…大丈夫。きっと、上手く行くさ。」
「…うん!」