ナチュラルに、京子ちゃんとハルがボンゴレ入りしています。
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只今の時刻、深夜0:00
誰の気配もなく、警備機械の動作音のみが響く真っ暗な部屋に、人影が蠢く。
人影は滑るように動き、巧みに警備機械の穴を突いて進んで行く。
そして、ある一つのガラスケースの前で立ち止まり、ゆっくりとケースを開封する。
中に入っていたのは、美しい細工の施されたブローチ。
人影がブローチを手に取ると、台座の重量感知センサーが働き、ブザーが鳴り響く。
そして、たちまち警備の者達が集まってくる。
人影はそれに気づくとまた滑らかに走り、窓枠に向かい跳躍する。
そして窓から差し込む月光に照らされたその姿は、
闇色の仮面に素顔を隠し、黒装束を纏って、開いた窓から流れる夜風に長い銀髪をなびかせる。
表情は判らないが、おそらくは嘲笑しているのだろう、警備の人間達を一瞥すると、人影は夜空へと、消えて行った。
「畜生!またやられた!」
獄寺隼人が唸る。
ここはイタリア、ボンゴレ本部内のドン・ボンゴレこと沢田綱吉の執務室。
「獄寺君…。」
「警備の連中は何をやっていたんだ!?これで5件目だぞ!」
「…しょうがないよ、盗まれちゃったものは。人員の配置を失敗した俺達も悪いんだし。」
「しかし…!」
今、話題になっているのは最近話題の泥棒、通称「怪盗SILVER」。
ありとあらゆる「高価な、価値のある」物を盗みまくっている。
そして、いつも防犯カメラ、隠しカメラにすら写らずにターゲットを奪う、緻密かつ鮮やかな犯行のせいで最近急激に名をあげている。
そのくせ唯一解っているのが、奴が銀色の長髪の持ち主である事と、盗まれた物はすべてボンゴレが絡んだ、或は所有していた物である、という事ぐらい。
「それにしても!これでもう5件目っスよ、5件目!?もうどうしてくれんだよ!」
「唸ってる所、悪いんだけれどねぇ…。また来てるんだよね。予告状。」
「…あんにゃろう、今度は何を盗むってほざいてます?」
「見てみなよ、予告状。」
「なになに…明日0時、ボンゴレ9代目が愛用したステッキをいただきに参上する……。」
「まいっちゃうよねぇ。」
「十代目!俺を警備に廻して下さい!必ずや、SILVERの野郎を取っ捕まえて見せます!」
「や、それは大丈夫。ザンザスと話をつけてあるから。スクアーロとレヴィとルッスーリアを借りる事になってるんだ。」
「目には目を…って奴っすね?しかし…スクアーロを出すんスか…?」
「スクアーロはとっても優秀だよ。」
「しかし…今までに盗られた物はすべて、ボンゴレ内でも非常に厳重に警備されてた物ばっかりっす。今の所、それらの情報を得られて、警備をくぐり抜けて行ける銀髪の人間なんて…あいつしか…。」
「獄寺君はスクアーロを疑っているんだ?」
「あ……いや、その……。」
「でもそれはしょうがないよね…。獄寺君以外にもそう思ってる人は結構いるみたいだし…。でも、スクアーロにはアリバイがあるよ。2回目の犯行のあった時、俺と一緒に執務室に居た。スクアーロには無理だよ。」
「でも…。何か心配です。リングの守護者もつけましょう。」
「そんなに心配?まぁ…別にいいけど。山本が空いてたハズだから、頼んでみよう。」
「怪盗SILVER!今度こそ、お縄を頂戴してくれる!」
「あはは。そうそう、悪いけど山本に連絡しといてもらえる?」
「ういっす、了解しました!それでは失礼します!」
獄寺が執務室を出てくるのと入れ代わりで勢い良く入って来たのは六道骸。
「綱吉君、追加の書類を持って来てあげましたよ!喜びなさい!ちなみに、緊急なので今日中ですって!」
「はぁ!?なにそれ!無理無理、ありえないから!」
「それがありえちゃうのがボンゴレ…もとい、あのアルコヴァレーノでしょう?」
「むあぁぁぁぁぁーーー!あの野郎—!!……あ!ねぇ骸、今さ、ヒマ?」
「何か、含みがありそうですね?」
「うん、お願いしたい事があってさ。」
「へぇ、僕にですか?」
「言わなくても解るでしょ?俺が何を言いたいのか。」
「さぁ、マフィアの考える事なんて全然さっぱり全くわかりませんねぇ。」
「あのさぁ。今ヒマでしょ?仕事てつだ「いやー、今日は良いお天気ですよね!」
「…そうだねぇ。ひなたぼっこなんかしたら気持ちいいかもしれないね。でも、残念な事に今日はこんなにも仕事があるんだ。ねぇ、手伝ってよ。」
「そうですか。大変ですねぇー、ボスというのも。」
「ヒドイ話だとは思わない?みんなのために部屋にカン詰めになって仕事してて、ふと目を離して観葉植物に目をやれば根っこ腐ってるっぽいし。こーいうときは仕事も上手く行かないような気がしてくるんだよ。」
「まぁ、僕みたいなただの下っ端には、その心境はが分かりかねますが。そうだ、気分転換にオセロやりませんか?」
「そうだね、オセロ。悪くないかも!最近、仕事が減ったからちょっとぐらい気が抜けると思ってたのにさ、いきなり怪盗騒ぎ!嫌になっちゃうよ、もう!この位の憂さ晴らし、リボーンもとがめないよね……?」
そして、骸はオセロの盤の準備を始め、ツナは駒を持ってくる。
そして、ゲームが始まる。
先攻はツナで、白い駒が盤面に置かれる。
「今度こそ勝つから!ううん、今日こそ勝つ!で、俺が勝ったら仕事手伝ってよね!」
「望む所です!まぁ絶対無理でしょうけどね!今日も僕の勝利です…そういえば最近、オセロ好きですよね。」
「まぁね。だって、チェスよりは勝ち目があるもの。勝率も、ね?」
「でも、僕には勝った事ないですよね。」
「うっさい!」
そして骸が黒い駒を盤面に置く。白い駒が裏返る。
「仕事サボってるのばれたら、怒られるでしょうね。アルコヴァレーノに。」
「いいの。今は休憩だから。」
「ちなみに綱吉君、知ってますか?オセロって上手な人が白で、後攻なんですよ。」
「へー、初めて聞いたかも。でも、ちょっと遅かったね。もう始まっちゃったよ。」
「綱吉君には、黒よりも白の方が似合うと思いますよ。あ、でも“弱いから先攻”ってのは変わりませんけど。」
「また嫌味言う!今に後攻の白になってやるんだから!」
「何百年後でしょうねぇ、僕生きてられるでしょうか?」
「…この野郎〜!」
ぱたん、ぱたん。
裏に表に駒が回る。
白は黒に、黒は白に。
回って廻って、今は盤面のほとんどが白くなっている。
今や黒い駒は、ところどころにごま塩のように残るのみである。
「今日こそ勝てそうな気配がしてきた!」
「さぁ、どうでしょう?」
骸が白い盤面に駒を置くと、たちまち黒い列が現れる。
「黒くなりましたよ?」
「まだ大丈夫だよ、このくらい!すぐに真っ白にしちゃうんだから!」
数ターン後。
「…なんでさ…あんなに真っ白かったのに…!」
「僕、最初に言いましたよね?“今日も僕が勝つ”って。」
「でもぉ…!」
「今回の貴方の敗因は、盤面をゴマ塩状態にしてしまった事ですね。」
「なんで?」
「どんなに大きな組織も、内通者が居れば簡単に潰れちゃうのと同じですよ。
綱吉君の作った陣地はとても大きかったけれど、ゴマ塩として残っていた駒を僕は攻撃の拠点にして、内部から変えて行きました。」
「あうう…。」
「やっぱり綱吉君は、ザコのヘボですね。」
「…仕事ぉ……。」
「………まったく、しょうがないですねぇ。ほら、翻訳だけ手伝ってあげますから、そんな情けない顔しないで下さい。」
「むくろ…!ありがとう!」
「あらら、さっき泣いたカラスがもう笑いましたよ。それにしても、これは時間外労働として加算されているんですか?」
「……えっと…。」
「またタダ働きですか。」
「………………むくろおにーさん、ガトーショコラはお好きですか。」
「安いですねぇ。」
「俺の秘蔵のが半ホール、冷蔵庫にはいってます…。」
「足りませんね。最低2ホールは欲しいところです。」
「そんなに食べるの!?」
「常識ですよ!」
「非常識だよ!」
そして深夜0時。
ここはボンゴレの、いわゆる宝物庫。ここには9代目のステッキも安置してある。
電気は消してあり、光源は満月の輝きだけである。
物陰には、警備の為にヴァリアー隊より召集されたスクアーロ、レヴィ・ア・タン、ルッスーリアが潜む。
「うおおぃ!本当にくるんだろーな!?そのSILVERとやらはぁ!」
「…来る、来ないにかかわらずきちんと命令は遂行されるべきだ。」
「そうねぇ、任務を途中で放棄したらボスに怒られちゃうものねぇ。」
「……それは絶対に避けなければ…。」
「完遂したらボスも、ツナヨシ君も喜んでくれるわね。きっと!」
「ボスに誉めてもら「おいおめぇら、少し黙れぇ!」
一瞬、物陰に気配。
(あららん、時間ぴったりねん。)
(……几帳面な奴だな。)
(うおおぃ、奴が動くぞぉ!)
さすがとも言うべきか、ヴァリアー隊の三人は一瞬で気配を消し、SILVERと思われる影に詰め寄る。
(包囲完了ぅ…。)
(…スクアーロ、いつ仕掛ける?)
(アタシは、いつでも大丈夫よ…。)
影が動く!
「動くんじゃねぇぇ!」
スクアーロの剣が閃く。
だが剣は影には届かずに受け止められる。
「よう、お前ら。ツナに言われて手伝いに来たのに、いきなり攻撃するとかあんまりじゃねぇ?」
スクアーロの剣を受け止めたのは、山本の刀だった。
「山本武、まぎらわしい登場するんじゃねぇぇ!」
「いやんもう、びっくりした。」
「……!」
「うおおぃレヴィ、どうかしたぁ?」
「…ステッキが…!」
その声と共に、全員がステッキのあった場所を見遣る。
それと同時に、部屋の窓の開く音。
満月のかかる夜空をバックに窓に足をかけていたのは、仮面で顔をおおった長い銀髪の細身の男。
「うおおぃ!貴様ぁぁ!」
男は一瞬だけスクアーロ達を見回して夜空に消える。
「追わなくっちゃ!」
ルッスーリアが窓から外を見る。
「居たわ!庭!」
一同は三階から飛び降りて追いかける。
それに気がついたのか、SILVERが速度を速める。
「ヴァリアーなめんじゃないわよぉぉぉ!」
「…ルッスーリア、もっと静かに追跡できないのか。」
「うっさいわねレヴィ、おだまりなさい!」
「…やっぱ、こいつらすげー足速いのなー。」
「暗殺部隊に、なんとなく一緒にまじって並走してるって…やるじゃない、山本武。」
「ん?あぁ俺トレーニング好きだから。」
「そーいう問題!?」
「うおおおぃ!右だっ!跳んだぞぉ!」
SILVERは庭園にある庵の上に飛び上がり、そのまま満月に吸い込まれるように消えて行った。
「……っきぃぃぃぃぃぃ!ムカつくわ!してやられたわ!何がSILVERよ!カッコつけちゃって!きぃぃぃぃっ!」
「…ボスに…怒られる……。」
「レヴィ、めさめさしょげてるのなー。元気だせって!」
「貴様が現れなければ、あの場で取り押さえられたのに…。」
「うおおぃレヴィ!山本武に当たるのもほどほどにしておけぇ!……簡潔な報告は今日中に、詳細は明日だぁ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!本当にムカつく満月だわ!」