「へぇ、なるほど。そんな事があったんですか。すると、あっちに居るのがいわゆる"パラレルワールドの綱吉君と爆弾魔"で、僕がさっきまで戦ってた相手が…」
「うん、"あっち側"の骸。」
「へー…。なんか不思議ですねー。」
「うん、俺も不思議。ねぇ骸、骸にはこの…"未来の自分に襲われた"って記憶はないの?」
「…えーと……んー…ありませんね。どうやら僕も、"少しずれた未来"から跳んだみたいです。」
「ふーん、そっか。あのさ、聞きたい事があるんだけど、い…」

突如、骸はツナを抱えて跳ぶ。
先程までツナと骸が居た場所には、銃弾の痕があった。そして、その銃弾の軌跡をたどると…そこには、先程倒れた筈の"あちら側"の骸が居た。


「ひぃぃ〜〜っっ!い、生きてたっ!」
「そりゃまぁ、あの程度の攻撃じゃ死にはしないでしょう。」
「ど、どうしよう!」
「どうしようって、ぶっ潰すしかないでしょう?」
「それって、殺すってこと?」
「殺したら君、文句言うじゃないですか。うざい小言はゴメンなのです。」
「それじゃぁ…?。」
「君は僕を誰だと思ってるんですか?僕の辞書に不可能とかいう情けない文字はありませんよっ!」




そう言って、骸は向き直る。
咳き込みながら立っている、"あちら"の骸と目線がかち合う。


「もうちょっと長い間、くたばっていると思ったんですがね。」
「えぇ。大分効きましたよ。随分と体術がお得意なようで。」
「まぁね。強制的に人間業じゃないようなトレーニングに付き合わされたり、自称右腕爆弾魔や、降って湧いたトンファー野郎に10年程ケンカを売られ続ければ、誰だってこの程度は使えるようになりますよ…。」
「(うわ、壮絶そうだ…。)」



沈黙が流れる。




骸と骸は静かに睨み合う。
先に口を開いたのは、"あちら"の骸だった。


「何故、マフィアなぞに与する?」
「なぜって……なんでなんでしょーかね?」
「…なんで俺に聞くのさ。」
「真面目に答えろ!」
「…真面目って…まぁ、状況に流された結果ですよ。沢田綱吉に敗北した後に、なんとなーく生かされて…死んでないのをいいことに、こき使われているんですよ。折角激甘野郎に生かされたんです、甘い汁は吸わなくてはね。」
「それだけ、ですか?」
「それだけですよ。誰だって、わざわざ好き好んで危ない目に遭いたくはないでしょう。"長いモノには巻かれろと"も言いますし。」

"あちら"の骸が"こちら"の骸を見る目に力と憎しみがこもる。


「ただ、それだけの理由で…っ!愚か者が…!」
「…ま、それに関しては反論できないですねー。」


「(…。)」


静かな睨み合いの中で、沈黙が流れる。




先に沈黙を破ったのは"あちら"の骸。

「あなたは、死ぬべきだ。」
「まぁ普通に考えたらそうでしょうね。」



"あちら"の骸は右手を右目にかけようとする。

が。


直後、路地に銃声が響く。
"あちら"の骸の右の手袋の甲は裂け、うっすらと血が流れているのが見て取れた。

「…っ!」
「でもまぁ、僕は死んでるヒマもないくらいに忙しいので死ねませんけど。特に、来週開催される世界のチョコレート博に行くまでは、何が何でも死ねません!それに、来月にはベルギーのチョコレートワッフルを食べに行く予定もあるし!」
「貴様っ…!」
「人生のお楽しみが沢山あってごめんなさいねぇ?そうそう。使わせませんよ?人間道なんて、くそめんどくさい能力。」
「うわっ、骸ってばすげぇ嫌な笑顔してるー!!」
「とーぜんです。他人を妨害する事程面白い物はありませんっ!」
「言い切りやがった!やなヤツ!」
「くり返さないんですね?」
「何を?」
「やなやつ!やなやつ!やなやつ!…みたいな。」
「えー…!ジ●リなのー?耳をすませってかよー!??」
「先週、DVD見たんですよ。…素敵でしたぁ。ときめいちゃいますぅ…。」
「だよねー俺も大好きぃ……って今、こんな事言ってる場合じゃなくない!?俺たちあんなキレイでファンタジーな世界に住んでないって!今は甘酸っぱい理想よりもネッチョリと生ぬるい現実を見とこう?」
「あ!」
「へ!?」
「そうこう言ってる間に発動されちゃったみたいです。…人間道。」
「えぇっ!?こんなオチなの!?」
「え、オチたんですか?」
「もうなんなのさー!」
「僕が聞きたいですよ!」


突然、ツナは骸によって首ねっこをひっつかまれ、後ろに引っ張られる。
間一髪で、ツナの立っていた所を"あちら"の骸の三叉が滑る。

「あら。今のは惜しかった、ですね?」
「…冗談。わざと見える角度から入ったくせに。」
「くふ。遊びはもう、終わり…ですよ…。」


"あちら"の骸が纏う闇がいっそう濃くなる。


「うげげげげげっ!嫌なカンジがビンビンするよぉ!怖いっっ!」
「あーあ、綱吉君が悪いんですよ?僕の気を散らせたりするから。」
「それ、俺が悪いの!?」
「部下の失態は上司が負うものです!さぁ、戦いなさい、十代目!」
「俺まだ中学生なんだけど!…てか、どうすんのさ!俺、グローブ忘れて来ちゃったんだけど…。」
「…この役立たず…。(チッ)」
「なんか聞こえたー!」



「最後の会話は済みましたか?」



"あちら"の骸が笑う。

「まだ喋り足りないですよ。…ま、あなたをやっつけてからおちょくればいい話なんですけど。」

"こちら"の骸は険しい視線で返す。

「おや、そんな顔をすると、余裕がなくみえますよ。」
「そう見えますか?これは"不機嫌"っていうんですよ…。」


直後、"あちら"の骸は地面を蹴る。"こちら"の骸は…



「うぉっ!?」


ツナを小脇に抱えて、華麗な180度ターンを決めた直後に背中を向けて逃げる!

「逃げるんだ!?」
「いい手を考えてるんですよ!今の僕じゃ人間道に対抗できないんです!」
「なんかあったの?」
「…人間道は眼に込められた負のエネルギーを纏う事で、潜在能力を引きずりだすんです!」
「要は死ぬ気?」
「死ぬ気よりもリスクはありますが…まぁそんなもんです!だから、君に眼を浄化された今は大した威力はない…要はさっぱり使えないんですよ!今の僕にできるのは、せいぜい死ぬ気逃げ回る事くらいです!」
「なんか情けねー…。」
「誰のせいですかっ!ぶん投げますよっ!」
「…へ?」


直後、ツナは空を飛んでいた。
つまり。



「ホントに投げやがったあいつーー!!」


ツナが無様極まりない格好で着地…することはなかった。
"あちら"の獄寺が受け止めたからである。

「大丈夫ですか!?"こちら"の十代目?」
「うん平気—、ありがとう!」

骸の方を見ると、いくら人間道といえど完璧極まりない程に逃げの一手に徹している(幻術すら使っていない!)"もう一人"には手を焼いているようで、いつも間一髪の所で避けられている。

「骸…さすがというか…」
「でもあいつ、助っ人のくせにまるで役にはたってねぇですよ?」
「それは、言わない…」
「いや、そうでもないよ。」


獄寺とツナの会話に割って来たのは、"あちら"のツナだった。


「それはえっと、どういうこと?」
「君をこっちに投げてくれた。そして、更にこうして話している時間まで稼いでくれている。感謝しないと。」
「あ…。」
「それに、下手には反撃できないんだろうね。今の状態だと、どう攻撃しても与えたダメージをうわ回る反撃が来る。」
「そう、なんスか?」
「わかりにくいけど、おそらくね。それに気がついていなかったら反撃してるだろうし。そうそう、俺たちが戦線を離脱してる間に少し"俺たち側"の骸について考えてみたんだ。…聞いてくれるね?」
「お、俺でいいなら…。」
「うん。獄寺君と一緒に、"俺たち側"の骸の過去をわかる範囲で洗ってみた。おそらく…骸には今、時間がない。」
「どうして?」
「…これは推測だけど、人間道の対価とはおそらく…精神、あるいは魂そのものの汚染だとか、浸食だとか…なんかそんな感なんじゃないか?…ってこと。」
「…!」
「"君たち側"の骸は、明らかに俺たちの知っている骸とは別物だった。死ぬ気バリバリ超直感ギンギンの俺が、こちらに来てすぐに…君のそばに居た"そっち側"の骸には気がつかなかった。むしろ、先に獄寺君が気がついた。それは君も見ていたよね?」
「うん…。」
「殺気や敵意といったものが無くったって、骸の気配というのは非常に独特だ。そう簡単に間違えたり、素通りするようなモノじゃあない。でも、それほどまでに別物だったんだ。実際に話をしてみても、それは顕著だった。」
「…。」
「君たちとの未来を分った分岐点は、黒燿での戦いでおそらく間違いない。そこから、"そちら側"の骸は君たちと共に行く、瞳に浸食される事のない未来を。そして、"こちら側"の骸は…」
「…浸食されながら行く、えっと、未来…。」
「そういう事なんだと思う。こちら側ではね、彼らはマフィアやギャングを ターゲットにする犯罪グループの一種として暗躍していたんだ。情報を操る事に非常に長けていて、非常に小さな集団ながらも…裏世界を震撼させていたね。六 道骸の名前が出れば、どんな大マフィアだろうが、犯罪シンジケートだろうが後ろ暗い政治家だろうが、多少なりともその世界を知る者ならば、表情を凍らせる ものさ。」
「そうなの?」
「そうなんだよ。もっとも、こっちの骸を見た限りじゃ想像つかないけれどね?」
「うん…。」
「でもね、それも過去の話。」
「何かあったの?」
「3年前、あるギャングにハメられた事があってね。その時に当時単独で動いていた骸を除く全ての構成員が死んだっていうのが噂に上がった。」
「…え。」
「俺のわかる範囲だと城島犬、柿本千種も死んだ、かな。その事件以降あたりからいきなり、六道骸関連の事件が頻発するようになった。大半が単独の犯行みたいだったね。大分無茶もしているみたいだった…。」
「…自暴自棄ってやつ?」
「それもあるかもしれないけどね。見境がなくなったわけじゃないみたい。でも、徒党を組んでいた昔に比べたら、随分と荒い。…俺がわかる範囲の情報だけでも焦っているのが見て取れる。」
「…。」
「今の戦い方をみてもそうだろ?"こちら"の骸は、動きのひとつひとつがとても丁寧だ。だからすぐに次の行動に移せてる。でも…」
「"あっち"の骸は…随分と大降り、だね?」
「そう。スキルによるプラスアルファがなければ、今の君でも戦えるだろうね。…数年前まではあんなに無謀な戦い方はしていなかった…。」
「…。」
「…十代目、俺"こちら側"の骸に加勢して来ます。アイツ一人で8割相手が出来るのなら、俺が加勢すれば確実にアイツを仕留められるでしょう。…過去の十代目は俺の時代の十代目を頼みますよ。」
「えっ?…う、うん…そうだよね?」
「いや。」
「十代目?」
「あのさ、過去の…」
「俺?」
「うん。…なんか変なカンジするなぁ…まぁ、そこは置いておこう。あのさ、さっき骸の瞳を浄化したって言ってたよね?」
「うん、言った。」
「あれって、どうやってやった?」
「え…どうって、死ぬ気の炎で…って、もしかして!」
「…出来ないかと思ってね。いける…かな?」
「十代目、それは無茶です!だいたい…」
「多分ね、獄寺君が加勢に行っても上手く行かないと思うんだよね、俺。」
「そんな事ないです!俺を信じて下さいっ!」
「でもさぁ…。ぶっちゃけ、相性悪そうなんだもの。加勢にいっても戦う前にとりあえずケンカしそう。」
「それはある。」
「十代目ぇ…。」
「ついでに言うなら、獄寺君だってもう傷だらけじゃないか。まともに相手にはできないんじゃない?」
「だ、大丈夫ですって…!」
「無茶だって。…だからさ、俺が行くっきゃないと思うのね。」
「それはダメです!十代目、もうボロボロじゃないですか!」
「いや、いつ俺が自分で戦うなんて言った?」
「はへ?」
「え…もしかして…」
「そ。"こっち"の俺が戦うっきゃないでしょ?ほぼ無傷なんだし。」
「ええええーーーっ!俺?俺なの?無理だよガキだよザコですよぉぉーーーっ!てか、今までの戦いを見てたら判るんじゃないの!?俺ってば足手まといにすらなれてないんだよ!?」
「それは不意打ちだったからだよ。ちなみに、死ぬ気でもなかったでしょ?」
「それはそうだけど…」
「それに、さっき言ってたじゃないか。"獄寺君じゃ相性が悪そうだ"って。」
「だって、それは…でも…。」
「俺が高校の頃に重傷を負いながら戦ったザンザスを、君はもう倒したんだろ?」
「…。」
「あの時はタイマンだった。でも今回は、未来からの心強い加勢が入ってる。君の至らない所は彼がフォローしてくれるさ。」
「…ダメですよ、十代目!だって、アイツの狙いはこの、過去の十代目なんですよ!?」
「わかってるよ。でも、骸一人で戦っても勝ち目が薄いのは見えているだろう?………行けるね、"沢田綱吉"?」


綱吉の言葉に、ツナは静かにうなずく。


「俺はもう足手まといでしかない。だから…コレ。」
「…グローブ!」
「使いなよ。ないよりマシだろ?」
「いいの…?」
「いいも悪いも、君は俺だろ?」
「…うん!」


ツナがグローブを受け取った、その瞬間。



ピキッ。



嫌ぁな音。
数瞬後には左手ぶんのグローブが、崩壊した。


「く、くずれるもんなのぉーーーー!!?」
「あ、やっぱり。」
「やっぱりって何!?」
「いやぁ、さっき戦ってた時に、なんか嫌ぁなカンジがしたんだよねー。」
「したんだよねー…じゃ、ないでしょ!?どーするのさ、コレ!?」
「まぁ………ガンバ☆」
「ガンバ☆じゃ、ないでしょぉー!?しかも古い!エフェクト含めて超古いんだけどーっ!」
「マフィアに二言はないんだよ、過去の俺。行ってきなよ。」
「俺、マフィアじゃないし、ならないしーっ!」
「ガタガタうるさいな。何をいまさら。リボーンから逃げられるワケはないんだって。分ってるだろ?」
「なんか黒いものが見えるっ!家庭教師様の面影がみえるっ!」
「そりゃぁそーだよ。だって教え子だもん。あ、そうそう獄寺君。お願いしたい事があるんだけど。」
「何をっスか?」
「以心伝心☆アイキャッチ!」
「合点承知☆了解しました!」



直後、ツナの足は地面から浮き上がる。

「へ?」

そして、直後に重力感覚が正常の向きからズレ、向かい風がツナを襲う!
そう、ツナはズバリ!


「また投げられてるぅぅぅ〜〜〜!」


二回目の飛行を体験していたのであった。