ツナと骸が他愛なく話していると、不意にぼひゅうっと音がして煙がたちこめる。
「何ですか!?」
「ランボも獄寺君もいないし…でも、見覚えのあるような煙…?」
煙が薄くなる。そこに映るのは長身の男の影。
「あれ、さっき…人なんかいましたっけ?」
「… !! …なんか…」
「綱吉君?」
「なんか、ゾクゾクする。嫌なカンジ…。」
「…?」
煙が晴れる。
そこに立っているのは、黒のロングコートをはためかせたオッドアイの男。男は藍色の髪を肩のあたりで軽くなびかせて静かに立っていた。
「…誰でしょうね?ハタ迷惑な。…でも、何か見覚えのあるような気が…するような?しないような…?」
「頭と瞳は骸に似てるね。」
「僕、あんな愉快な頭してませんよ。」
「そう?でもきっと、骸がそのまま大人になったらあんなカンジ?…って!え、でも…?」
「どうしました?」
「そういえばさっきの煙、十年バズーカの煙にそっくりだ…でも、骸はここにいるし…?」
ツナと骸が混乱していると、男がゆっくりと尋ねる。
「あなたが、この時代の"沢田綱吉"、ですね?」
「…へ?うん、そうだけど…?」
「……この時代の…?」
「返答、受け取りました。」
次の瞬間、未来の骸は地を蹴って槍を振りかぶる。
完全について行けないで、呆然としているツナに代わって、骸が瞬時に出現させた槍で攻撃を受けとめる。
「…綱吉君、何ぼーっとしてるんですか!」
「えっと…え、え?」
「おや、その姿。過去の僕じゃないですか。…しかし、沢田綱吉とつるんでいる所を見ると、どうやら"僕"の過去ではなさそうだ。きちんとIfの過去に跳んだようですね…?」
「…あなた、誰です?僕は出会い頭にいきなり、挨拶の一つもなく攻撃してくる程の礼儀知らずなんてっ、知りません…よ!」
骸と骸、両者距離をとり、にらみ合う。
未来の骸は笑みを携えつつ。現代の骸はツナの前に、かばうように立つ。
「まさか、過去の僕に会うなんて予想外ですよ。それも、例えIfの過去であるとしても…マフィアの中のマフィア、ドン・ボンゴレをかばっているなんてね!Ifとはいえ、反吐が出る。」
「…僕もびっくりですよ。Ifの未来とはいえ、まさか自分の未来をみるなんてね。それも、ものすごぉぉーい歪んだ悪人顔してます。こんな大人にはなりたくないですねぇ。」
「僕だって、マフィアを庇っているような過去は要りませんね。汚点でしかない。」
「…貴方と、どこで道を違えたのかは知りませんけれど、これにはこれで訳があるんですよ。教えてなんかあげませんけど!それより僕には、なぜ貴方がわざわざ"この世界の綱吉君"を狙っているかの方が気になりますね。」
「教えてあげません。だって…無意味でしょう?まぁ、あえて言うならば"目的のため"とだけ。」
「…マフィアの殲滅にも、世界の崩壊にも、Ifの過去が必要だなんて思いませんけどね。」
「おや、言わずとも分かります?さすが僕ですね。確かにそれらが目的ですよ。そして、その為には"過去の調整"が要るのです。Ifだからこそ、使い道はあるのですよ…。」
「……。」
骸(現代)は無言で槍を構える。
骸(未来)はその様子を眺め言葉を付け足す。
「…マフィアは殲滅されるべきです。そして、そのためならば僕は労を惜しむつもりはない。邪魔者は殲滅する…"僕"とて、例外ではない。死にたくなければそこをどき、おとなしく沢田綱吉を引き渡しなさい。今ならまだ、見逃しますよ…"そちら"の僕?」
「貴方の知る沢田綱吉がどんな立派な人間なのかは知りませんけれども、あいにく"こちら"の沢田綱吉はまったくもって、殺す価値すらもないバカでダメダメの"ダメツナ"なんですよね。」
「それでも、庇う価値はあると?」
「ケガさせると周りがうるさいんですよ。」
凍り付く空気。そんな中、ツナが言葉を発する。
「…骸…逃げよう?」
「…おとなしくしてなさい。すぐに追っ払いますから。あ、卵よろしくお願いします。…板チョコ割っても怒りませんけど、卵割ったら怒りますよ?」
「…10年の差は大きいよ。それに…すごく嫌なカンジがするんだ。」
「……。彼が僕なら、きっとおとなしく逃がしてはくれないでしょうね…。」
骸がそう言った直後、戦いは始まった。
幻術により、世界は変形する。
合間を縫うように閃光が走り、それらは刃となる。
骸(未来)は幻術の隙間を跳んで挑んでくる。それに対して骸(現代)は刃をすりぬけながら、確実に防御する。
「どうしました?防御ばかりですよ!」
「…妙な小細工は、考えない方が良さそうですねぇ…っ!」
骸(未来)が右下段からの逆袈裟の一閃放つ。身を引く事でかわした骸(現代)は、槍を振り切ったタイミングで間合いを詰め、右最下段から左上段へと回し蹴りを放つ。
骸(未来)はそれを右二の腕で受け止めて、左に持ち替えた槍の柄で、開いた骸(現代)の腹を狙って薙ぐ。
それに対して骸(現代)は軸足を折り曲げ身を低くする事でやり過ごす。そこから、槍を回転させ、骸(未来)の足下を薙ぐ!
骸(未来)はバックに跳んでこれを避ける。タイミングを合わせるように幻術の刃が4本、上下左右から骸(現代)を襲う。
骸(現代)はそれを右に跳んで避けるが、
「骸、後ろ!」
「!」
後ろからも二本。丁度交差するように飛んでくる。…このタイミングだと、避けられない!
その瞬間。
幻術は解かれた。
正確には、何者かによって強制的な介入をされたために、幻術による世界の維持が断たれた、と言った方が正しいのかもしれないが。
介入して来たのは、目にも鮮やかなオレンジの炎と、それを纏った薄茶色の髪をした青年だ。
傍らには銀の髪をした青年も居る。
しかし、どちらもこの時代の人間ではないようである。
「見つけたぞ六道骸!…もう、逃がさない。」
「へぇ、早かったじゃないですか。」
「研究所からの応答がねぇからカメラを回してみたら、案の定だ。…てめぇの好きには、させねぇぞ。」
「おやおや、手厳しい。」
「…果てろ!」
未来の獄寺の手から、ダイナマイトが放たれる。
その爆煙に混じり、死ぬ気の炎を灯した未来のツナが突っ込む。
「…ひょっとして…!?」
「…今度は…未来の綱吉君、ですか?」
「獄寺君も居るみたい…。」
「敵じゃなさそう、ですよ…?多分…ですけど…。」
「…うん…。」
「加勢するべき、なんでしょうかね…?」
「…えっと、狙われているの、俺っぽいしね…?でも、どうだろう…?…てか俺、状況ぜんぜんわかんない…。」
「えっと、未来の僕が来て、いきなり襲われて…交戦中に未来から綱吉君?と獄寺隼人?が来たっぽいカンジ、ですよ…?」
「…どうしよっか…?」
「どうしましょう…?」
爆炎は晴れた。そこに立っていたのは未来のツナただ一人。その背後から悔しがる獄寺の声がする。
「ちっくしょー!また逃げられた!」
「そうだね。また別の時代に行ってなきゃいいけど…。」
「…あ!」
不意に獄寺がこちらを向く。骸とツナ(どっちも現代)と目が合う。
「てめぇ骸…この時代でも…!!」
「…へ、なに?」
「…なんですか、この状況?」
「逃げよう骸!」
「わかりました!」
「待ってよ2人とも!ちょっと話を聞いて!」
突然割って入るツナ(未来)の声。
「あんなこと言ってますけど…。どーします?」
「…聞こっか。…俺だし、ヒドい事はされないと…多分だけど…思う、し。」
「ですね。綱吉君ですし。なぜ襲われたのか、理由も気になります。…それに、ホントに未来の綱吉君なら…今の僕らが戦ってどうにかなる相手じゃない、と、思います。」
「…だね。」
骸とツナが2人の方に行こうとすると、
「てめぇ骸!すぐに過去の十代目から離れやがれ!」
「やめなよ、獄寺君。…この世界のの骸は敵じゃないみたいだ。悪寒もしないし、悪意も敵意も感じない。何より、過去の俺が警戒していない。」
「…っでも!」
「なんか骸、すごく嫌われてるみたいだね。」
「まぁ、さっきの礼儀知らずが"彼らの世界の六道骸"なら警戒もするでしょうね。」
「だよね、怖かったもん。」
「僕は平気でしたけど。」
「危なかったよね。」
「…何の事でしょう。」
「さっき、こう…後ろから刃が飛んれ…いひゃい、いひゃいぃ!」
「おや、綱吉君のほっぺ、意外とよく伸びますねぇ!!」
「はにゃひてぇ〜!!」
「てめぇ十代目に何してやがる!」
「あなたに指図される謂われはありませんよ、未来人!」
「…なんか、俺の知ってる六道骸とえらく違う気がするけれど…危険はなさそうだし、まぁいっか。あのさ2人とも、これから事情を説明するから近所の喫茶店に行こう。」
「おごりですか?」
「即答でそれかよ!てか、十代目をはなせ!」
「うん、おごるからさ…そろそろ過去の俺のほっぺ、はなしてくれない?」
「嫌です。自業自得…あ!」
「…やっと逃げられた…!もう、痛かったんだから!」
「過去の十代目!大丈夫ですか!?」
「へ?あ、うん。大丈夫、痛いけど。」
「死にやがれ!六道骸!」
「は!きれいさっぱり叩き潰してさしあげますよ!」
「お願いだから、状況を説明させてってばぁ!」
(あぁ、未来でも俺は苦労する運命なのか…。)