「うわぁぁぁっ!」
「貴様、なにも…ぐああぁぁぁぁ!」
研究員達は招かざる訪問者に戸惑っていた。
抵抗する術を持たない彼らは、訪問者によって地に伏させられてゆく。
そして抵抗する者が居なくなった所で、その訪問者は最奥の扉に手をかけ、押し開ける。
そこには随分と仰々しい巨大な装置があった。
訪問者は、無機質なそれに手をかけ、口角を吊り上げて底の見えない笑みを浮かべる。
「もうすぐ、"この世界"も終わり…か。」
小さな声でつぶやくと、訪問者は装置の起動スイッチに手を伸ばした。
「退屈だなぁ…。」
ツナは一人、自宅に居た。
今日は日曜日。学校はないし、これといった予定も無い。
ランボとイーピンとフゥ太は公園に行っていて居ない。
ビアンキとリボーンは最近ウワサのウナギ屋に、うな重を食べに行っているから居ない。
母親は友人とデパートへ、父親が居ないのはいつもの事。
普段ならば獄寺か山本と一緒に居るだろうが、あいにく獄寺は、昨日(不運にも)食べさせられたポイズンクッキングのせいで体調を崩しているし、山本は野球の合同合宿と、都合が合わなかった。
「本当に退屈だなぁ…。なんでこういうときに限って、二度寝できなかったりするんだろ?しかも、まだ昼前なのに…。」
そんなことを考えていると、ふと、出かける前に母親が言った言葉を思い出す。
「ツッ君、お昼は適当に何か買って食べてね。そうそう、夕ご飯のお買い物もお願い。買うものリスト、ここに置いていくから♪」
(…めんどくさいなぁ。)
そんなわけで、ツナは自分のお昼ご飯と夕ご飯の材料を買いにスーパーへと歩き出した。
しかし、休日の昼間だというのに、不良というものはなかなか元気なもので…まぁ、とどのつまりツナはからまれているのである。
「ちょっとそこのちび助!」
「ひえええええ!ごめんなさい、ごめんなさい!お金ないです!マジで!見逃してくださぁ〜い!!」
「そんじゃ、今持ってるだけでもおとなしく出しやがれ!」
「そーそー、そうすりゃ痛い思いはしなくて済むぜ…?俺たちも、余計な仕事はしたくないわけよ。」
「でも、ほんとーに、お昼代くらいしか…!!」
ツナはすでに泣きそうだ。
腰も引けている。
そんな中、後ろから人影が現れる。そいつは涼しい声で…
「おや、綱吉君。こんなところで…新しい遊びですか?」
「…うわぁぁぁっ!ごめんなさ…って骸!?何さ、おどかさないでよ!おまえこそ何で…って!遊んでない!たすけて!なんとかして!?」
「へぇ、このちびの知り合いか?ひ弱そうな兄ちゃんじゃないか。おいあんた、あんたもが殴られるのが嫌なら、てめぇも有り金「絶対嫌ですぅ☆」
(さすが骸—!即☆答!)
「この野郎!」
ガタイのいい不良が骸にむかって殴りかかる。
骸はそれを軽くよけて、ツナの腕をつかんで引き寄せる。
「逃げますよ!」
「うん!…って、へ!?」
ツナの返事はたぶん、骸には聞こえていないようであった。
骸は、ツナをつかんだまま不良達の間をすり抜け、路地を走る!
「てめぇ、待ちやがれ!」
「待てと言われて待ってくれる人が居るんですか!」
「骸、速いって!腕もげる!」
「もげてなさい!」
「ひどい!」
ツナはもうほとんど骸にぶらさがる格好になっているが、骸は気にした風がない。
不良たちは、お荷物発見これ幸いと速度を上げる。
そして、突き当たりで右に曲がる。
そこには自転車に乗った人間が一人いるだけで、やはり人っけ気はない。
骸はそこで声を張り上げて、
「おまわりさーん!襲われてるんですぅー!たすけてくださぁーい!」
すると、自転車に乗った人物が、この世のものとは言いがたいすさまじい形相でこちらに向かってきて…
自転車とは思えないすごいスピードで骸とツナを素通りして、不良たちの方へと走っていった。
(ツナはあまりのすさまじさに、思わず骸を盾にした。)
「ぎゃあああああああああああ!!」
「待ぁぁてぇぇぇぇいぃぃぃぃ!!」
嵐は去っていった。不良たち&ものすごく顔の怖い警官はどこかへと…行った。
「…綱吉君。」
「?」
「何かひどくないですか?てか、助けてあげたのに、礼も無いんですかね?ヒドイハナシです。それと、いつまで僕を盾にしているつもりなんですか?」
「…ごめん。呆気にとられちゃって。あ、助けてくれてありがと。それにしても、骸は知ってたの?おまわりさんがここにパトロールに来てたって事。」
「えぇ。さっき通ったときに見かけていましてね。下手に暴れるとこちらの分が悪そうだったので、利用させていただきました。」
「へぇー。このパターンで乱闘しなかったの初めてかも。」
「あなたの周り、血の気が多いですものね。」
「うん。…それにしても…あのおまわりさん、すごかったね…なんというか、顔。」
「…ええ、確かに。」
「ねぇねぇそういえばさぁ、骸ってなんで並盛にいたの?」
「あぁ、それですか。綱吉君は知らないんですか?今日は並盛スーパーで卵の安売りがあるんですよ。それに行ってきたん"す、ほら。」
そう言って骸が見せたスーパーの袋には、なるほど卵が1パックと板チョコが一枚入っていた。
「板チョコ…。」
「…いいでしょ別に。好きなんだから。で!それで丁度お昼になってお腹もすいたので、綱吉君の家で何かご馳走になろうと思って。」
「せこい!…でも残念でした。俺はこれからお昼のカップ麺を買いに、スーパーに行くところだから。丁度入れ違いなんだよね。」
「えぇーーーーー。…まぁ、今日はヒマなので、面倒ですがあなたの買い物にも付き合ってあげますけど!とりあえず何か御馳走しなさい!」
「面倒なら来るなよ!!」
「退屈よりはマシです!」
「…俺と居ても退屈だと思うよ…?」
「そんな事ないですよ。あなたは、僕の知る限り最大最凶最悪のトラブルメーカーなんですから。見てるだけでも、全然退屈しませんできません。」
「それってさ、誉めてないよね?」
「誉めてますよ!ちゃんと"超面白い"…って。」
「それ、世間一般じゃ"嫌味"って言うの知ってるか?てか、俺が望んでるのは至極平々凡々退屈な生活なの!」
「えー…。そんなのつまんないですよぉ。」
「つまんなくていいよ!平和で安全な生活がいい!」
「家庭教師が最強のヒットマンで、居候に暗殺者が三人。友人には爆弾魔と殺人剣の継承者。先輩は戦闘狂。ガールフレンドの兄は格闘家。…彼らを一気に尻に敷いて君臨してるんですからね。まぁそりゃ平和でしょうね。」
「なんか物騒—!」
「あ、そういえば僕も手下なんでしたよね。僕は今、一応黒燿中学校の生徒会長ですからね。あーあ、並盛と黒燿一気に手中に収めちゃって。一体あなたはどこまで勢力を拡大する予定なんですか?ねぇ、綱吉君?」
「それ、俺の意思じゃないしー!リボーンのせいだよっ!てか骸、知ってて言ってるんだろ?」
「あたりまえでしょう?もし、綱吉君の意思で勢力を拡大していたなら、少なくともそこらの不良にカツアゲされる、なんて事はないでしょうし。」
「そうだよ。いくらマフィアのボスとかなんとか言われても、俺は所詮ダメツナなんだから。」
「…んーー。」
「…なにさ、人の顔ジロジロ見て。」
「確かに、この情けない顔の持ち主が僕の主なのかと考えると…すごーく複雑なキモチですぅ…。」
「でしょ!…でもそこは、問題ないからね!」
「へぇ、整形でもするんですか?」
「しないよ!俺そこまで自分の顔に絶望してない…。」
「じゃぁ何を?」
「俺がマフィアにならなきゃイイ話でしょ?」
「…まだあきらめてなかったんですか?ソレ。」
「当然でしょ。俺がマフィアにならなかったら、俺は平和に生きて行けるし、骸はマフィアにならなくて済むしで、万々歳じゃん!」
「…まぁ、そうなんですけど。でも、無理だと思いますよー?」
「無理じゃないよ、死ぬ気で頑張るもん!リングだってちゃんと返してさ。」
「僕は、無理な方に全財産賭けてもいいですよ。」
「無理じゃないって!ね、いい?10年後の俺は、日本で平々凡々のんべんだらりと生きてるの!絶対に!」
「…何を賭けますか?」
「…えーと、骸が全財産って言ったよね?だから…えーと…!」
「板チョコ一年分おごって下さい!」
「へ!?」
「きっと、間違いなく綱吉君が払う事になるんですから、現実的に可能な方がイイでしょう?」
「全財産払うのは骸だよ!」
「そんなの、雲雀恭弥の短気が直るよりもありえません!」
「…それは…直っても怖いなぁ…。」
そんなこんなで、ツナと骸はスーパーに向けて歩きだ…
「…うげっ!」
…せなかった。
「綱吉君、今の転び方は見事でしたよ!なんかこう、ドリフ的でした!」
「いてて…ったく、お前いつの時代の人間だよ!んでもって、ヒトの不幸を喜ぶな!…ってあれ、これ何だ?」
ツナは、自分がつまずいた原因になった物を凝視する。
「…あ!これ十年バズーカだ!ランボのヤツ、落としたのか?」
「ランボって、あの牛の子供ですよね?どうやってこれを持ち運んでるんですか?」
「えっと、普段はこう…アフロに突っ込んで。」
「…無理がありませんか?物理的に考えて。」
「さぁ?異次元にでも繋がってるんじゃないの?」
「異次元って…非常識ですねぇ。どこのSFですか。」
「獄寺君のダイナマイト、必ずといっていいほど丁度良く出現する山本のバットとか、気がつくと握ってる雲雀さんのトンファーとか、異次元なんか身近に結構あるじゃない。俺にしてみれば、お前なんか存在自体が異次元系だと思うけど?」
「綱吉君ひどいですよ。どこからどうみても僕のが常識寄りじゃないですか。どこも異次元じゃないです!…ところで、十年バズーカって何ですか?」
「ん?あれ、骸は十年バズーカ見るの初めてだっけ?」
「はい。噂程度には聞いていますが。」
「これに当たるとさ、5分間十年後の本人と入れ替わるんだよ。」
「へぇ。それは面白いですねぇ。」
「…でも、呼び出される方はたまったもんじゃないと思うよ?ランボはよくぶっ放してるけれどもさ、呼び出された方のランボは食事中だったり宴会中だったり…。」
「確かに。向こうの様子が分かりませんからね、下手したら向こうで命に関わるような出来事に関わってる最中だったり…」
「…運にもよるよね。」
「でも、未来の事が分かるってちょっと良いですよね。あ、でも分かっても変えられないのなら嫌ですけど。それに、そのシステムだと、未来の自分も見られないです。」
「…ランボの話だと、必ずしも未来って訳じゃないみたい。未来って変化するモノらしいから。」
「ですよね。過去を振り返っても、If(もし)なんて星の数程ありますもん。」
「でも、Ifの数だけ未来があるって、なんか夢のある話だよね。もしああだったら、こうだったら、とか考えるの。そして、その先にはやっぱり、想像もつかないような未来があるわけでしょ?」
「夢のある未来、ですか。だといいですね。未来があまりにも最悪で、過去ばかり振り返って現実逃避しまくったあげく、麻薬に走ってココロもカラダもボロ雑
巾…みたいな未来ならばごめんこうむりますけれど。でも、どこかにはあるんでしょうね。…現実に耐えられなくて自殺するくらいなら結構リアルです。他にも
なんかこう、発狂するとか。うわぁぁぁぁー…って。」
「急に夢を壊すような発言するなよ!怖いよ!しかも何さ、うわぁぁぁーって!」
「あくまでIfの話ですよ?"もし"ですよ、"もし"。」
「…もし、でもやだ。平凡がいい。幸せならもっといい。」
「実際はたいして良くも悪くもない、普通の未来に辿り着くんでしょうけどね〜…多分。ま、なるようになるんでしょうけど。あぁつまらない、つまらない。」
「つまらなくて結構だよ!変な刺激いらない!」
「刺激がないと、ボケが早くなりますよ?」
「今で十分刺激あるよ!俺がボケたら誰がツッコミやるのさ!」