「なるほど。私達が固まっている間に、そんな事になっていたんだね。」
「うぬ。しかし極限わからんがな!」
「面倒だけど、骸様が行っちゃったなら仕方がないな。」
「俺、話について行くだけでいっぱいいっぱいです…」

今、各自この町に来た時の手段を用いて岬の観測所へと向かう。
出発してからやく1時間と40分。
小さな観測所が徐々に見えてくる。

岩陰に車を止め、クロームの幻術を使い身を隠して建物に近づくが…

「すごい…」
「はひ?どうしましたクロームちゃん?」
「幻術で隠されているけれど、飛行機とか車とかいっぱい…!」
「おいそれはどーいう事だよ!」
「むぅ、獄寺さんクロームちゃんびっくりしてるじゃないですかぁ!いきなり出てこないで下さい!」
「うるせぇぞアホ女!んで!クローム、幻術で乗り物が隠されているだと!?」
「…うん。」

クロームはリングに炎を灯す。
取り出したのはD・スペードの対幻術用魔レンズ。
獄寺ものぞき込む。

魔レンズに映しだされた景色は、小型飛行機やヘリコプターが整然と並び、一種異様な雰囲気を醸し出していた。

「確かにただの観測所…とは言えねぇ雰囲気だな…。」
「うん…」
「胡散臭すぎるね。」
「本当にめんどくさい。
「こんなに沢山あるのに見えないなんて変な感じだね!」
「本当ですよ、京子ちゃんの言う通りですぅ。」
「つまり極限だな!」

わらわらと寄ってたかる中でランボが、
「ところで術師はどこなんでしょう」と一石を投じる。
一同はきょろきょろと辺りを見回すが、誰も見当たらないどころか気配すらしない。
全員一旦散開して、囲むようにして観測所の入り口へと近寄るが、中から誰かが出てくる気配もない。

千種は一気に扉まで近寄り、調べる。
そして再び素早く扉から離れながら、やはり物影に隠れている他の者に唇の動きだけで伝える。

「(足音がする、誰か来るっぽい!)」

全員が素早く隠れる。
隠れ終わった頃に黒い服を着た数人が外へと出て来た。
彼らが歩き出し、扉から離れた時…小さく砂利の音がした。

それは一瞬の事だった。
彼らは何が起こったのかもわからぬままそこに伸びている。

「暇つぶしにもならないね。」

現れた数人の黒服を一瞬でなぎ倒し気絶させたのは、いいかげん状況に飽きて来た雲雀だった。

「ハルも麻酔銃用意してたのに!委員長さんいじわるですぅ!」
「こうなるなら何も準備しなくてよかったな。」

ここぞとばかりに準備をしていたハルと千種が不平を漏らすが、
そんな事を気にせず獄寺は言う。

「そこの奴ら、一人くらいは意識あるだろ!起こしてここの事吐かせろ!」

「しかし獄寺氏…見事に皆気絶してますよ?」
「ランボ、電撃くれてやれ。」
「えぇっ!?」
「文句言ったら殴るぞ。」
「それは嫌です。サンダーセット!」

これから起こされる不運な黒服を、喜々として幻術の準備をしたクロームと謎の薬品が入った注射器を構えたハルが、ここぞとばかりに見つめていた。


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扉を開けて、驚くツナの目の前に居たのは…


「…あれ、お前、骸じゃないか!」
「静かに!…ったく、綱吉君貴方は本当に世話が焼けるんだから…!」
「よかった。無事?ケガしてない?」
「当たり前です。貴方こそ…なにもなさそうですね。それにしても蜘蛛の巣まみれですね、いったいどこの異世界に行ってきたんですか…」
「…俺すっごい大冒険だったよ、マジで!」
「はいはいわかりました、スリラーバークですね。それじゃとっとと脱出しましょう。」
「あ、待って、俺…………っ!」

ツナの目が驚愕に見開かれる。
骸がそれに気がついて振返った。

そこには、荒野で2人を襲撃して来た黒バイクのリーダー、オルニスと呼ばれていた男が居た。
歪な笑顔を浮かべるオルニスの足下からは白い煙が吹き上がる。

ツナと骸が気がついた頃にはすでに、足下に白い煙が充満していた。

「あ…!」
「ちっ…迂闊でし…た…!」

慌てて口元を押さえるも、2人はその場に崩れ落ちた。



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研究室の隠し扉をくぐった山本の目に飛び込んできたのは、片付けられた解剖台だった。
あちこちの袋から死臭が漂っている。

「(見た感じだけど、すげー最近使われた形跡があるのな。実験に使われたのは鼠と豚が70%。あとの30%が人間かな?犬を研究室の入り口に置いて来て良かったな。)」

少し歩みを進めるとまた台がある。その周囲にはうずたかく詰まれているのは不可思議な象形文字の書かれた書類の数々。

「(読める文字と読めない文字がごごちゃごちゃなのな。…あれ?)」

山本はいきなり顔を上げて辺りを見回す。見えるのは数多の標本と検体。

「(…この資料が本物ならば…あ!)」

薄暗い研究室の壁に、扉を見つけた山本はそちらに近寄り、開ける。
中には鎖につながれた数人のやせ細った、脅えた目をした人間が数人居た。

「あんたは…何なんだ?今度は誰を連れて行くんだ…?」
「俺は山本ってんだ。ナイスでイカした東洋人さ!ちょっと訳あって研究室荒らしをしてるのなー!」
「研究室荒らし…あぁ、あんた研究者じゃないのか…」
「あぁ!…あ、でもこれ内緒なのな〜。そうそう、忘れる所だったけど、あんたら鏡の盾の話って聞いてないか?」
「…。」
「知らないなら仕方がないのなー。」

出て行こうとする山本に囚われの男が声をかける。

「あんたが探している鏡ってのは、研究者連中が話していたメドゥサ・アイとかいうものに関わるものか。」
「あ、それそれ!知ってるのか?」
「…もし俺たちを解放してくれるのならば、その鏡のありそうな場所とメドゥサ・アイについて話してやってもいいが」
「んー、それはちょっとむつかしいのな…。」
「…そうか…。」
「なんてったって俺潜入中だし。一応ボスには掛け合ってみようと思うけど…それじゃダメか?」
「…構わない。もとより、言ってみただけのようなものだ。」
「ごめんな。」

「ここで研究されているのは、邪眼とかいうものの制御についてだ。」
「…あんたらのお仲間を使ってか?適性のある奴が簡単に見つかるとは思わないけど。」
「最初はな。」
「あり?」
「最初こそ人間に邪眼を制御させようとしていたが、力の暴走があまりにも多かったらしい。それから考えられたのは黒魔術を用いた制御だ。」
「魔術…。」
「このご時世に魔術など馬鹿げているだろう?しかし本当さ。おそらくあんたが探している鏡と魔術を併せて制御するつもりだぜ。」
「…人間が扱うのとどう違うんだろうな。」
「さぁな。…連中が言うには、人間が扱えるエネルギーよりも遥か膨大な力を制御出来るらしい。」
「俺がざっと見て思った感じだけどさ、邪眼の持っている力を魔術のエネルギーに変換するシステムって感じか?理詰めシステムでいくなら、人間みたいに融通は利かなそうなのなー。」
「あぁ。それに暴走を引き起こした時はシステムをそのままぶっ壊せば止まるとも言っていたな。」
「…へぇ…!それとっても便利そうなのな!」
「人間の手に余るものを手の届かない所で管理するのは、いかがなもんかとは…思うがな。」
「…え、手に余る?」
「そうだろう、わけのわからない力を、定義すらわからないシステムで管理するのだ。おまえはあの邪眼の暴走を見た事があるのか!」
「…まるで見た事があるような言い分なのな。」
「…!」
「俺はあんたの事、被検体かと思ったけど違いそうだな〜。」
「…。」
「…。」
「あぁそうさ、俺は研究者だったものだ…もっとも、教団に意を唱えてこのザマだがね。」
「そんなら仕方ないのな。」

そして山本は一瞬考える。

「なぁおっさん、おっさんは囚われの身の上になる前はここの研究者だったんだよな?」
「あぁ…?」
「おっさんこのままだと死ぬのか?」
「多分な。」
「…生きたいとか思ってる?」
「!」
「もしおっさんが寝返って協力してくれるなら逃がしてもいいぜ。」
「…俺があんたを裏切るとは考えないんだな。」
「そんだけ痩せてりゃ、裏切られた所でたかが知れてるのな。ま、裏切ったらすぱーんと景気よく殺すけど!」

囚われの研究者はニッと笑い頷いた。
山本は研究者を捕らえていた鎖を破壊した。