ツナは薄暗い廊下の電飾の影から影へと移動しながら歩いていた。
時折黒服が通りかかるが、そのたびにツナは荷物や掃除用具置き場などの死角に身を隠している。
未だツナに気がついた者は居ない。

「(ロッカールームとかないかな?このままじゃ目立ってしょうがないや。)」

ツナは脳内で一人つぶやく。
そうこうしているうちに長い廊下に出くわした。

そこには5.6人の黒服が居る。しかも、都合の悪い事にこちらに向かって歩いてくるではないか。

「(げげげっ、どうしよう!さっそくピンチなんだけどぉぉぉお!)」



◆◆◆◆◆◆◆



こちらは硬直した港町。

獄寺の前に広がるのはトマトとキャベツとレモンとパン。それからオレンジ。

「おい。」
「あれ?獄寺さん食べないですか?美味しいですよ?」
「ちげーよ」
「はひ?わかりませんねぇ獄寺さんお昼買ってこいって言ったじゃないですか!。」
「言った。」
「じゃぁ問題ないじゃないです…か、れ、れ、レモンすっぱいれす!はひぃぃぃぃっ!」
「…どうしたの三浦ハル。いきなり声を荒げるのは風紀違反だよ。」
「レモンがすっぱいのれすよ!あと獄寺さんがお昼ごはんに文句つけて来ます。腹立つのですよ、どうしましょう委員長さん!」
「…なるほど、トマトが嫌いなんだね。」
「え、マジですか?好き嫌いはいけませんですよぉ!」
「違う!俺が言いたいのはそんな事じゃねぇ!俺は!食い物を買ってこいとは言った!だがな、とれたてぴちぴち新鮮な生野菜を買って来いだなんて!一言も! 言って!ねぇんだよ!」
「注文の多い男はモテないのですよ。」
「トマト美味しいのに。」
「貴様らぁぁぁぁぁぁ!!」

「そんな事言ったってですねぇ、この街は殆どが固まっちゃってるんですよ。ランボちゃんの言ってた何か、丁度ハル達と入れ違いだったみたいです。」
「だから代金だけ置いて持って来たのさ。詰んであった下の方の野菜とかなら固まっていなくて食べられそうだったからね。」
「職人さんも、調理場も固まってしまっていましたからね〜。」

「なぁ。」
「はひ?」
「ところで山本はどうした。」
「あれー?ランボちゃんと委員長さんと、髑髏ちゃんと博士と…ハルと獄寺さんしか見当たりませんねぇ。はひー?」

首を傾げるハル。
すると獄寺の携帯が丁度いいタイミングで鳴る。

「獄寺さん?」
「メールだな、山本からだな……………なん…だと…!?」


◆◆◆


「送信完了っと。」

同時刻。山本は鼻歌を歌いながらジープの後部座席に座っていた。
「何を送信したんら?」
「あー、拉致られちゃったのなーって。そんな内容のメールを獄寺に。」
「なるー!」
「ちゃんと言わないとあいつ怒るだろー?」
「わかるわかる、よーくわかるびゃん!無駄になぐられるのはごめんらしー!」
「うるさいですよ、2人とも…」

ジープの運転席には犬。助手席には骸、後部座席に山本である。
彼らは今、町から少し離れた所にある灯台と観測所へと向けて、車を走らせていた。


時刻は少し前。ハル達が買い物に向かった時の事だ。
思う節があった山本は理由を付け彼らから一旦離れた。
そして骸のいた路地へ向かうと、そこでは犬がこの町に入る際に使ったジープを用意し、骸が乗り込んだ所だった。
山本は止めようとしたが、不意打ちで骸の幻覚をくらい気絶してしまった。
そして目が覚めたらジープの後部座席にいたという訳だ。

「なー骸、今からでも一旦戻らねーか?」
「戻りません。」
「獄寺怒るぞ?」
「だから何ですか。行動が遅い方が悪いのです。彼らもすぐ僕らに追いつくでしょうよ。」
「えと、そんなら今おまえ一人で突っ込まなくてもいいだろ?」
「港や町の様子を見たでしょう。あんなの、簡単に出来る事じゃないです。急ぐに越した事はありません。」
「待て待て待てっ!獄寺から聞いたぞ、魔術の類いに予備知識無しで突っ込むのは危ないってお前言ったんだろ?あの獄寺が突っ走りたいのこらえてるんだぜ、 今博士と剣、加害、邪眼の関係について解析してるはずだからお前もちょっと待つのな!」
「そんなの、メドゥサ・アイに関わらないように上手いこと綱吉君を救出した後でいいじゃないですか。」
「おいおい…しれっと言うなよ。よく考えろって…」
「よく考えてます。僕一人じゃロクな判断力がないって言うんでしょう?だからあなたと犬を連れて来たんじゃないですか。」
「でも俺の意見聞いてくれてないのな。」
「当然。それにあちらにはクロームだって居ます。十分じゃないですか。」

頑として譲らない骸に、山本は小さく溜め息をつく。
こうなった骸はテコでも動かないことは、今までの短いような長いような付き合いで十分すぎる程によく分かっていた。
説き伏せるのをあきらめた山本は、これからどうするのかについて考える。


「なぁ骸、博士の話を聞いた限りじゃ、ツナはお前の目の事ちらっと言ったみたいだろ、そしたらすぐに手を出されるって事はないんじゃないのか?」
「そうとも言い切れません。メドゥサ・アイを持って行った連中が何なのか、貴方は知っていますか。」
「そうだな、漠然とかな。確か”金色の眼”って名前だったっけ。」
「…秘密結社金色の眼。悪魔崇拝のカルト宗教の一種です。」
「知ってるのか!?」
「いえ、詳しくはわかりません。ただ、邪眼や邪視についてやたら情報を集めている組織だということくらいなら。まさか彼らと関わりを持つ事があるなんて ね。」
「なぁ骸、お前は金色の眼の事どこまで知ってる?」
「詳しくは知りませんが…。元々はソロモンの72悪魔の1体、邪眼の悪魔バールを崇拝していたようです。そこから転じて己で邪眼を扱うため、そして手に入 れるために暗躍しはじめたと聞いています。そこそこ昔からある組織みたいですよ。」
「…何の為に?」
「そりゃぁ、崇拝する為じゃないですか?信者が集まればいろいろ便利ですし。僕の知る限りでは、結構お金もちだった気がしますよ。信者の話は聞けど中枢の 連中までは知りませんが。基本的に手段は選ばないらしく、いい噂は聞きませんね。」
「お前本当に詳しいのな!なんでそんなに詳しいんだ?」
「僕言いましたよね、彼ら邪眼の情報に聡いと。」
「あぁ、言ってたな。」
「自分の知名度くらいは知ってます。あと金で情報が買える邪眼使いなんてそうそう居るもんじゃありません。」
「あー、理解した!じゃぁ、向こうからお前にコンタクト取って来たのか?」
「何度も何度も商談に来てますよ。最近は門前払いですが。」
「商談?」
「えぇ、綱吉君にね。」
「えー、お前の目が欲しいなら、お前に持ちかけるんじゃねーの?なんでツナなんだ?」
「そこまでわかっているのにわかりませんか?…簡単な事ですよ、すごく。」
「?」
「彼らは”僕”ごと買いたいんですよ。邪眼の適性があって使いこなせる人間なんてそう簡単には居ませんからね。彼らにしてみれば最高に魅力的な研究材料で しょうね。」
「でもツナはお前を売ったりはしないだろ。」
「当然です。だって僕とっても優秀ですから。」
「あーそうだな優秀だ。たぶん。」
「多分ってなんですか失礼な!…あ。」
「ん?」
「…いや、なんでも。」
「言えよ気になるだろー?」
「…。」

荒野に風が吹き、土煙が舞い上がり、容赦なくジープに襲いかかる。
幾つか紡がれた骸の言葉と可能性に山本は表情を硬くする。

「骸、それ…獄寺に言ったか…?」
「確証のない話です。ただの可能性ですから。」
「…一応探るだけやってみるのな。俺とりあえずもう一度獄寺にメール送る。ツナの事は俺たちに任せて、邪眼の方を優先しろって。あと、お前が話してくれた 分の金色の眼についてもだ。…あ、もちろんさっき言ってた事は伏せておくのな。そんな気持ち悪い不確定要素はどうでもいい。」
「あなたって結構融通聞きますよね。」
「頑固者の知り合いが多いからなー。」
「えぇ。あと馬鹿ばっかり。」
「それに、今のお前の推測が当たってたりしたら、なおの事獄寺達に言わない方がいいのな。あいつ真面目だからきっと混乱する。それより先に頭数揃えて大元 にぶつけた方が絶対に楽そうだ!」
「…そうですね。あぁ、見えてきましたよ。」



荒野の果て、崖の向こうにはどこまでも青い地中海が広がっている。
そこに立つのは小さな神殿と観測所、セットになった灯台だった。
恐らく、拠点にしていたあの町の港に船を導く為に立てられたものだろう、雨風に晒された石造りの外壁は結社の拠点のというにはあまりにも質素だった。

近くに転がる岩の影にジープを止めた骸、山本、犬は、少し離れた所から観測所を見る。

「情報屋が言うにはここなんだけど…なんか質素すぎるのな。」
「見張り一人すら居ないびゃん…」
「でもなんだか見覚えのある黒いバイクが数台止まっていますね。」
「それに、この辺の地面おかしいのな。」
「おかしいと言うと?」

山本は地面を軽く足で掘る。するとすぐそこに鉄で補強されたコンクリートが露出した。

「地面が補強されていますね。大型車両やヘリコプター、この荒野の広さがあれば小型飛行機の離着陸も容易でしょう。何もないように視えますが、幻術の気配 もそこかしこにします。」
「やな感じだ!こーんなはずれの観測所なんてそうそう一般の人間が来るような場所じゃないし、隠しモノするのにもうってつけなのな!それに、施設の大部分 は地下っぽいし…探索、急いだ方がいいかもな。」


彼らが話していると、2機の小型飛行機が現れた。
その中から現れたのは性別も年齢も姿もばらばらな人間達のの姿。ざっと見た所30人程であろう。
そんな彼らの共通点は、飛行機の乗務員まで含む全員が皆仮面をつけているという事。

「皆金持ちっぽいのな!あいつらの服、絶対高そうだ!」
「骸しゃん、あいつらの中にまぎれてったらろーれしょー?」
「それ俺も思ったのな!でも俺たち仮面ないから…奪う?でも俺たちの服装じゃねー…。」
「そうらねー。俺ばりばりのウニクロらしー。」
「俺も、どこか忘れたけど特売のパーカーとジーンズなのな…」
「どこか問題ありますかね。」

骸がそう言い終るころには彼らの服装は変わっていた。
ボンゴレ本部に居る時に一番多いパターンの黒スーツ、それから仮面姿。

「ほら早く行きますよ。そして余計な事は喋ら無いで下さい。」
「幻術って便利なのなー」
「あいあいさー。」