止まった町の港。脇道に崩壊しかけた車が止まっている。
運転席の側には2人の人間がいる。

「じゃぁ、ボスは…!」
「むくろしゃん…。」

「犬、貴方はここまでどうやって来ましたか。…足を貸しなさい。」
「えと、柿ピーのジープれす。」
「敵がどこに居るか、知っていますね。案内しなさい。」
「れも…!」
「犬。」




「どこへ行くつもりだ。」

骸が運転席から出ると、そこには獄寺と山本が立っていた。

「博士の話は聞いた。次はテメェに聞く番だ。」
「…僕は命令を遂行しました。次は僕が好きにさせてもらう番だ。」

そう言って骸はそこから立ち去ろうとする。

「待ちやがれ!」

そう言って獄寺は駆け出す。そしてー…思い切り骸に殴り掛かる。
鈍い音が路地に響く。

「きゃ!」
「てんめー、むくろしゃんになにしやがる!」
「おい、獄寺!」

獄寺は山本の制止を振り払い、
かろうじて踏みとどまった骸の襟首に掴みかかる。

「離しなさい。」
「テメーがどこに行きたいかは大体察しがついている。」
「…ならば問題ないでしょう、離せ!」
「一つ聞く。お前につかみかかっているのは誰だ?」
「さぁ。誰であろうと同じ事。ただの邪魔者だ。」
「ここでテメーに掴みかかっているのが、雲雀や山本なら納得がいく。だがな、ボムも炎も使わない俺に捕まるって事がどういう事かわかるか。バカじゃねーなら気付きやがれ!」
「五月蝿い!黙れ!離せ!」

「おい、獄寺…」

山本の声に答えるように、獄寺は骸を自由にしてやる。
骸は少しよろけながら、弱々しく獄寺を睨み返す。

「十代目がなんと言ってお前を送り出したか、博士から聞いたぜ。十代目はどうしてお前が邪眼を持っている事をバラすように送り出したのか、ちっと頭冷やして考えろ!」

そして獄寺は後部座席の剣を運ぶように髑髏に指示すると、港へ向けて歩いて行く。山本がいそいそとついてく。



「いやぁ、やっぱりおまえの予想どーりだったのな!でもお前が殴り掛かった時はどーしようかと思ったぜ!」
「うるせー俺だっていつまでもガキじゃねぇ!」
「でもツナが居ない時は大体俺が止めるハメになるのな。」
「うるせーうるせー。」

「…俺幻術師のあーゆー部分好きになれねぇ。」
「ん?」
「あいつら基本的に何があっても…それこそ絶体絶命な状況でもヘラヘラしてやがるくせに、執着する対象に影が差した瞬間に、簡単に暴走しやがる。」
「仕方ねーじゃねーか。…強固な幻は心の強さ、なんだろ?……あ。ツナもどきとかなら獄寺でも作れそうじゃね?」
「うるせー。俺が美術関係得意じゃないの知ってるだろーうが!俺が十代目を作ったりしたら、それたぶん十代目じゃなくてただの美味しいウニだっ!」

獄寺と山本が路地から港に戻って来ると、
雲雀、ハル、ランボ、博士が話をしていた。

「獄寺氏、これから一体どうします?」
「もちろんツナさん救出大作戦ですよね!」
「それとも、剣と鏡について調べるのが先?」
「ゴクデラ君、私は…」

博士が何か言いかけたとき、山本の腹が盛大に鳴った。

「わり−な、腹減った!」
「おい野球馬鹿。」
「だって俺まだ昼食ってねーし…!」

獄寺は盛大に溜め息をついた。

「わかったわかった。山本が食ってないって事はお前らもどうせ食ってないんだろ。とりあえずハル、雲雀、山本は何か調達してこい。車は俺と髑髏が乗って来 たやつを使え。ここは小さい町だし、これだけのことが起きてんのに騒ぎになってないって事は、町が殆どやられているか…もしくは別の場所でより規模の大き な騒ぎが起こっているって事だ。気をつけて行けよ。」
「獄寺、お前はどうするつもりなんだ?」
「あぁ、俺は博士からもう一度話を聞こうと思ってる。鏡の事についてもある程度まとめるつもりだ。ランボの証言も照らし合わせる必要があるしな。」
「ふーん、なる程。そんじゃぁ行ってくるぜー。」



◆◆◆◆◆◆



ぐ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

青い海と空の港から打って変わって、こちらは随分と暗い。
光源は汚れてくすんだ電球が一つ。
壁は無機質な打ちっぱなしのコンクリートの部屋である。鉄の扉の窓にはガラス越しに鉄格子が嵌め込まれている。広さはそこそこあるようだ。

部屋の中央部では、椅子に座った状態で後ろ手に縛られたツナがいた。

「お腹すいた…。」

ツナは博士、骸と別れた後に、
取り囲まれたライダー達の誰かにより後頭部を殴られて気絶した。
そして気がついたらこの部屋に囚われていたのである。

「ここ、どこなんだろう?今は夏なのに、なんか変に寒いし…」


「目が覚めたようだな。」

鉄の扉が開く。
黒尽くめの男達が部屋に入ってくる。
その男達にまぎれて、白衣の男が一人。

「ガーフィールド…博士…。」
「私の事を覚えていてくれたようだな、光栄な事だ。だが私は君の事を知らないし、興味もない。学生などどうでもよいのでな。」

黒尽くめの男達が凶器に手をかけるのが見えた。

「ところで爆発頭君。君に聞きたい事がある。」
「俺に?あれ、学生には興味ないんじゃないの?」
「口答えをするな。」

轟音がしてツナの近くの床が甲高い音をあげる。どうやら発砲されたようだ。
ツナは身を堅くする。

「次に口答えをすれば貴様の体に風穴が開くぞ。」
「はい…」
「オルニスの報告によれば、お前は去り際、仲間に邪眼に関する事を言ったらしいな。」
「じゃがん。」
「とぼけるな。この中に、貴様等を襲撃したライダーもいる。奴らも聞いたと言っている。言い逃れは出来ないぞ。」

部屋の壁には様々な道具が置いてあったり、かけられていた。
よくわからない形状のものも多々見受けられるが、ここが拷問部屋である事は容易に想像がついた。
ツナはもそっと考える。

「(これは結構本格的な拷問部屋、だな。床の傷や匂いの感じでは、頻繁に使われているみたいだぁ…。怖っ!
俺はどのくらいの間気絶していたんだろう…?あの神殿の近くには、町なんてないし。)」

「(でも、財布含めて全部獄寺君に渡しておいて、丸腰でラッキー…な時ってのもあるもんだよね。俺の身分を証明するものは一つもないし。だから彼ら、俺が学生だと本気で思っているんだもん。
さてどうしようかな。なんて答えよう。用済みなんて言われて殺されないように。かと言って、痛い思いもしたくないんだよな…。)」

ツナは正面に立つ白衣のガーフィールドを見る。
シワの深い血色の悪い小男だ。

「(うー、あんまりいい方法が思いつかないよ…。)」

ツナは下を向く。
「おい学生、早く答えろ!」
「う…」

ガーフィールドがイライラと手元の銃をいじりはじめる。


「じ、じゃがんなんて非科学的なもの、この21世紀にあるワケないじゃなですかぁ!」

ちゃきっ。銃が構えられる。

「ひ、ひぃっ!銃、やだ、怖い!」
「ならば早く喋ってしまう事だな」
「だってあいつ、仲間だもん友達だもん。簡単には言いたくないよ!」
「ならば痛い思いをしたいということか」
「それもやだ!」
「ならば言え!」
「…言っても言わなくても痛い事するくせに!」
「なんだと?」
「なんか、言ってもいい事なさそうってゆーか、殺されちゃいそうとうゆーか…ねぇ、もし言ったら俺の事逃がしてくれる?自由にしてくれる?」
「…貴様の返答次第だな」
「あぅぅ…。」

黒服の一人が、部屋の奥から鞭を取り出す。

「!」
「やだ、怖い!言うよ、わかった言う!だから怖いことしないで!(えっと、なんかないか、なんか!)
あ、あのね、妖怪って知ってる?ジャパニーズモンスター!信じるかどうかは勝手だけど、友達がそいつに襲われてなんか片目がおかしくなっちゃったみたい で、えっと、誰に言っても信じてくれなくて、だから…その時にメドゥサ・アイの話を聞いたから、その人なら信じてくれるかなって、それで日本からギリシャ まで来たんだ!博士は話を聞いてくれたからお手伝いしてたの!だから学生じゃない…じゃないや、えと、俺たちの邪眼は、メドゥサ・アイとは違うものな気が するよ…?
ってゆーか、君たちが欲しいのはメドゥサ・アイの情報だけでしょ?他の邪眼の事とかどうでもいいじゃない!(あああ何言ってるの俺ぇぇぇ!我ながらめちゃめちゃだよ!)」

ツナは一気にまくしたてる。

「フン、邪眼は…力のあるものは押さえておくに越した事はないだろう。さぁ続けろ。」
「な、何を?」
「貴様の知人が持つ邪眼についてだ。」
「な、なんもないよ…だって、妖怪に襲われて変質しただけみたい、だし…。(無茶な言い訳だな…。)」
ツナは心の中でひとりごちる。

「も、もういいよね?」
「まだだ。だがこれで最後だ、安心しろ。貴様の仲間はどこに居る。」
「ま、町だよ。名前はわかんないけど、襲撃された地点から1時間くらいの地点の町…」
「仲間はどのくらいいる?」
「博士の授業を受けてる学生さんが、10人くらいいたよ…。」
「もう用はないな」
「い、言ったよ!だから殺さないで!」

「…フン。」
鼻を鳴らすと男達は出て行った。

ツナは縛られたまま、ほっと溜め息を一つ。
そして、「逃がしてはもらえなかったなぁ…。」と呟く。

ツナは体をひねってひねって、ひねりまくって、椅子を少しずつ動かしてにじにじと壁際へ行く。そして、鉤のついた拷問器具に手を縛っている縄を引っ掛けて切る。
手が自由になればあとは楽勝、ツナは簡単に自由の身となった。

ツナは立ち上がると大きく伸びをして、軽く体を動かす。
そして適当に…鞭、とロープを拝借してベルトに吊る。メリケンサックは…ツナの手には合わなかったので置いて行く事にした。

そして鉄の扉に近寄る。鍵がかかっている。

「(…こんな刃物の多い所にロープで縛っただけの人間放置するとか不用心だなぁ…それに、見張りもいないのか。
…まぁ、俺のさっきの演技の賜物かな?あんだけ脅えてみせたら逃げっこ無いみたいな?…………いやごめん演技じゃない本音です。)」

重そうな鉄の扉の前で、一人で舞い上がったり舞い下がったりしているツナは靴の踵をタンタンッと鳴らす。すると、靴底からわずかに銀色に光るものがはみだした。
ツナはそれをひゅっと取り出す。10cmくらいの針金のようだ。それを鉄の扉の鍵穴に差し込んでカチャカチャ動かすと、ガチャっと音がして鍵がはずれた。

「(うまくいってよかった!シャマル様々だよ!でも…)」

ツナは寂しそうに自分の手を見る。
そこにはいつも身につけているボンゴレリング、アニマルリング(ナッツ)がない。

ツナは一瞬考える。
今回、ツナの荷物関係は全て獄寺が持っていた。
財布すら持たなかったが、神殿へ向かった後に例の町に行き、獄寺以下他のメンツと合流するのだから問題はなかった。
しかし、それが今功を奏している。ツナは今、身分を証明するものを何一つ持ってはいないのだ。
つまり、ここでツナがボンゴレのボスである事を証明するのは不可能であると言う事である。

「(でもボンゴレリングはないとマズいんだよな。顔見知りの皆なら俺の事すぐにわかってくれると思うけど、もしもここがみんなの居る町から遠かったりしたら…ボンゴレに助けを求める事も出来ないもの。やっぱ優先事項はリングの回収だよね。
それに、ナッツまで居ないのはなんだか心細いし。)」

再び靴底に針金を戻す。
そして、扉に手をかけようとして「あ」と小さく声を上げ、針金が出て来たのとは反対の靴底を少し手でいじる。

「(靴底の仕込み発信器も無事作動…っと。でもこれ緊急用だからすっごく電波が弱いんだよね…ここが地下なら絶対アウトだろうな。
なるべく外か窓際、最低でもここが地上かどうか確認しなきゃ!)」

そしてツナは顔を上げる。

「(よし、まずは地上に出よう。そしてここがどこかを調べて、その後でリングを回収!で、脱出だ!)」



そしてツナは暗闇の廊下を駆け出す。