ツナ達が遺跡を出発した頃、守護者達は全員港に居た。
獄寺とクロームも到着した模様である。
「ど…どうしちまったんだよ、コレ…!」
「何があったの…?」
獄寺とクロームも硬直する。
「だろ?びっくりしちゃうのな。」
「こんなミラクル、想像つかないですよね。ノットイマージュです。」
「想像がつく方もどうかしていると思うけどね。」
「骸様の幻術のが、若干まだマシなんて思ったのはじめてらー。」
「そうそう、それでですね獄寺さん!ここです、これなんですよ!なんか下もぞもぞしているでしょ!?」
「んんー?わかんねぇ…あ、今動いた!」
「そう!でしょ?見ましたよね!気になるでしょ?実は獄寺さんを呼んだのはこれなんですよぉ!」
「ハァ?これって何だよ!」
「だーかーらぁ、ハルは中身が気になってしょうがないんですよ!だから嵐の炎でちゃちゃーっとテーブルクロスを分解してほしいのです!」
「なっ…その為に…!?猫かなんかだろ、くだらねぇ。」
「はぁ?何言ってるんですか、ハル達は情報収集超ウルトラマジに頑張りましたですよ!そこで美味しい物を食べていたでしょう京子ちゃん達よりもさらにめっ
ちゃがんばってます!んでもってその間獄寺さんはただ本部で座って資料見たり電話番してただけなんでしょ、本当は一発かましてやりたいレベルなのですが今
回は大目に見てあげますですよ!しかしながら、ハル達の興味の為にそのくらいの些細かつ豪快な働きは当然ですよねっ!ねー委員長さんっ!」
「異論なし。」
「ほら、委員長さんもそう言ってるじゃないですか!」
「は、何で雲雀の許可がいるんだよ!」
「とりあえず獄寺さんはハルの言う事を聞いて、おとなしくクロスを分解すればいいんですよ!」
「どーしてテメーの言う事を聞かなきゃならないんだよ!俺は十代目の右腕だ!十代目がおっしゃられるのならともかく!」
「十代目沢田綱吉直属の部下、雲の守護者を任ぜられた僕、雲雀恭弥が命令するよ。とっととやって。」
「委員長さんかっこいいですぅ、ハルしびれちゃう!まぁ一番はツナさんなんですけど!そんな訳で雲の守護者様の許可が出ましたので、獄寺さん早く言う事きいて下さい!」
「うるせー!テメーも俺も同格だろうが!んでもって俺が!右腕!」
「僕腹心。」
「あああああああああ十代目は!いつ!そんな事を言ったぁぁぁぁぁ!」
「それを言うなら右腕もどうかと思うけど。」
「うっ…!お、俺はいいんだよ!」
「勝手にに名乗るだけなら問題ないって事ですね?ならハルはやっぱりツナさんの妻なのです!」
「それなら僕腹心って名乗っとこ。色々便利そう。」
「う…うるせぇうるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!俺はいいがテメーらはダメなの!」
「委員長さぁん、獄寺さんうるさいですぅ。騒音は風紀違反ですよねぇー?」
「そうだねぇ、あれはもう髪の分け目と目つきの悪さからしてかなりヤバイ風紀違反だね。かみ殺さなくっちゃ。」
「く…くっそぉぉぉぉぉ!!!髪はどうでもいいだろうがぁぁぁぁ!!目つきの悪さはてめーも同罪だぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「だって僕風紀委員長だもん。取り締まる側だからおっけー。」
「ぐうぬぅぅぅぅぅう!」
「お、獄寺詰んだな。」
「今回はがんばったほーなんじゃねーびょん?」
「…2分30秒だから平均値よ。」
口論に負けた獄寺(たんこぶ2コ付き)が、しぶしぶクロスを分解すると、そこに居たのは丸くなって震えているランボだった。
「ありー、ツナちゃんとこの牛ガキじゃねーびょん。」
「はひ?ランボちゃんですかー?なんか期待はずれですぅ…いやいや、無事で良かったのです!」
「ハル姐さん…ホンネがだだ漏れです…。」
あきれつつもホッとした顔をしているランボに、山本が尋ねる。
「なぁランボ?お前は京子達と一緒に居たんだよな?他の連中はみんな固まっちまってるのに、どうしてお前は平気なんだ?」
「それは…わからないです。」
「うーん、それ結構重要な気がするのなー。とりあえず、事の顛末を話してくれないか?」
「え…あぁ…いやぁ…(ヤバイ!これははヤバイ!仕事しないで遊んでたのがバレる…)」
「ん、どうした?ランボ」
「(ひ…ひぇぇぇぇ!なんかめっちゃ見られてる!)あ、あのですね…」
「ねぇランボちゃん、京子ちゃん達の事は置いておいてですね、ここで何があったのか、ハル達にも教えて下さい。」
「あ、それなら…」
そしてランボは話しはじめる。
◆◆◆
チーム極限なんたらが、港の道路脇にあるオープンカフェでとりあえず昼食を取っていたときの事だ。
突然周囲が騒がしくなった。見れば脇の道路を爆走するトラックが突っ込んでくる。そしてランボはテーブルの下に隠れた。
いつもならば極限太陽兄妹が蹴散らす所なのだが、今回に限っては何の音もしない。
不自然な程の静寂。ランボは不思議に思ってテーブル下から出ようとしたが、石のようになった、地面に届く程の長いテーブルクロスに阻まれて出られない。
仲間はどうなったのだろう、トラックはどうなったのだろう。
静寂の中混乱するランボの耳に車のエンジン音が聞こえた。
車の主は停車し、アスファルトの上に降りたったようだ。革靴の音と男の話し声。
「…このぶんだと期待以上の効果が得られそうだな。」
「しかしガーフィールド博士、暴走させずに扱うとなると難しいのではないでしょうか。毎度毎度、起動の度にこんなことが起きれば…」
…ガーフィールドの名に、ランボの眉間にシワがよる。獄寺の説明にあった名前だ。
「安心しろ、その為のオルニスだ。」
「はぁ…。」
「解放状態のデータはとれた。研究所に戻るぞ。」
「はい。…あ。」
「どうかしたのか。」
「えと、」
「言え。」
「…はい。西の…この間浮上した神殿の方面に向かうノールド博士の車を見かけたものが居るそうです。追いますか。」
「神殿か…厄介だな…。」
「何かあるのでしょうか。」
「あの神殿には、ペルセウスの剣と盾がある筈だ。手に入れられると厄介だ。」
「わかりました、すぐに追っ手を!」
「…いや。追うな。」
「では、」
「神殿に行ったのなら、帰りは西の荒野を通るはずだ。待ち伏せろ。捕獲したら、資料を根こそぎ奪え。…そしてノールドは確実に殺せ。」
「はい!」
「そしてもし盾と剣を持っていたら、絶対に奪え。あれらはメドゥサ・アイの力を脅かすものだ!」
「了解致しました!只今追撃部隊に連絡を!」
そしてまた、エンジン音は遠くなって行った。
「…って感じです。まぁしばらくは動けないし怖いので震えていましたがね。」
ランボが大儀な風合いに話し終えた。
「おいアホ牛。」
「どうしました獄寺氏。俺の知っている事はこれで全部です。」
「どうしてその後すぐにメールなり電話なりよこさなかったんだ。」
「だって俺のケータイ、クロスの外だったんですもん。あとそこまで頭回らなかったし。」
「…あの」
「あぁ!?どうしたナッポー2号!俺は今機嫌が悪い!」
「…さっき骸様から通信…」
「へ?」
「…今こっちに向かうって…しばらく前…」
一同が顔を青くした、その直後!
ブォォォォォッ…キィィィィィ!
港の舗装された道路をかっ飛ばして来たのは、一台のぼろぼろのワゴン車だった。
車は一同の眼前で急停止する。
停止した車の扉を開け、現れたのは…
「やぁ、ゴクデラ君…」
「おっさん…!な、何があったんだ!?」
停止した車に乗っていたのはノールド博士、それから疲れきった顔をした骸だった。
「ノールド博士、車を降りて…彼らに事の顛末を話していただけますか?」
「ムクロ君…」
「いろいろ大変な事になっているようですが…とりあえず僕は車を止めて来ます…。」
博士が車から降りると、入れ替わるように獄寺が近寄る。
「おい骸。十代目はどうした。」
「…獄寺隼人……とりあえずはノールド博士の話を聞いて下さい。」
「俺は十代目の事を聞いてんだ。」
「………。」
「…お前、もしかして…!」
「………僕はそこの道の脇に車を止めて、しばらく中に居ます。僕もうフラフラですよ…。」
「………わかった。おっさんが全部知ってんだな。」
「えぇ。博士の話を聞いた上でわからない事があれば僕に聞いて下さい。もっとも、僕も…博士と同程度しかわからない、ですがね…。」
骸の乗った車が道脇に停車するべく動き出すと、獄寺は犬と髑髏に骸の車を追いかけるように、小声で指示を出す。
そしてノールド博士に近寄り、
「ゴクデラ君、ここにいるのが君の友人達かね。」
「あぁ、まぁ…うぅ…あ”ーー……、まぁ…、あんま認めたくねぇがそんなモンっすよ。ところで何があったんすか?十代目は…?」
「その事も含めて、私達の身に何があったのか説明させてほしい。」
そしてノールドは話しだす。
内容は、神殿の事、メドゥサ・アイについて新たにわかった事。女神の盾アイギスの事。それから…この街へ向かう道中の事。
3時間前、神殿からこの街に向けて移動するべく、博士とツナ、それから骸は準備をしていた。
「えっと、鏡と剣…それからノートパソコンにバッテリー…資料はこれでいいですか、博士?」
「あぁ、これで全部だ。こうしてみると、この鏡の盾は結構大きいね。」
「本当ですよね、あー重かった!」
「おまえは運んでないだろ!」
「僕剣とノート持って来ました!超重かった!」
「俺は盾と資料とパソコンとバッテリー…重かった!お前よりも大変だった!」
「嘘おっしゃい!」
「骸のが嘘!」
「2人ともすまなかったね。重かったろう?」
「いえいえ全然!」
「そうですよ全然です☆」
「さぁ、それじゃぁ出発しようかね」
博士が車に乗り込んだタイミングでツナが言う。
「ねぇ骸、俺なんだかいやな予感がするよ…。」
「嫌な予感?」
「うん。早く町に行かなきゃ。」
「…そうです、ね。」
博士が運転席に座り、アクセルを踏む。
「博士、僕運転しますよ?」
「いやいや、君たちには機材を運んでもらったじゃないか。」
そう言って博士はカラカラと笑った。博士のボロワゴン車が発進する。
助手席の骸は軽い溜め息を一つ。後部座席ではツナが諸々の荷物の隙間で小さくなっている。
「(やれやれ、ボスの乗った車の運転を民間人にまかせたなんて、知る人が知ればお説教じゃすまないですよ。)」
しかし、骸の内心とは裏腹に博士は鼻歌なぞ歌っている。
「(…ま、博士も運転が下手な訳ではないし僕も居るし……町が近くなるころには博士も疲れてくるでしょうから、頃合いを見て運転手を交代すれば問題ないでしょう。)」
「…ねぇ博士。」
「んん、どうしたかいツナヨシ君?」
「次に休憩する時でいいので、すこしだけモノの配置を換えてもいいですか…?」
「あぁ、すまないねぇ。狭いだろう?もうしばらく頑張ってくれ。」
「…はい…。」
「(大ボンゴレのボスが、荷物置き場と化した後部座席で丸くなってはさまってるって…なんかすっごいシュールですね。面白…!)」
「どうしたのさ骸。にやにやしちゃってさ。」
「いや、バックミラーに映ってる君の姿が滑稽だなーって思ってただけですー!綱吉君ちっちゃーい!」
「うるさいなー。俺結構気にしてるんだぞ!」
「牛乳飲めばいいじゃないですか?」
「ばっちり飲んでる!」
「ヨーグルトは?」
「メープルシロップかけて食べてる!」
「チーズ好きですか?」
「超好き」
「魚は?」
「骨までバッチリ」
「最近は錠剤も売ってますよね。」
「朝食の後に飲んでるよ」
「ぶらさがり健康器でも伸びそうですよね!」
「毎晩寝る前にやってる!」
「努力しすぎじゃないんですか?なんか必死すぎてかっこわるい。」
「うるせーーーーー!だから言ったじゃん!気にしてるって!成長ホルモンの投与だってやってみた結果がコレだよ!骸、おまえには生涯わからない苦しみだ!」
「そうですね、クフフ…絶対に一生理解出来なさそうです。でも身長高いのも大変なんですよー?低い所や小さいものが見えなくって!しょっちゅう綱吉君見失っちゃいますし!」
「贅沢だとっても贅沢だ!くたばれ!」
「残念ながらくたばりません。帰ったらワッフルとマドレーヌ食べなきゃいけないですし♪」
「UZEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!」
「ははは、君たちはとっても仲良しなんだねぇ。」
「誰が!」
「誰と!」
「いやぁ、こんな見事な掛け合いなかなか出来ないぞ、はっはっは!」
むくれるツナと、笑う骸と博士。
道のない荒野を博士のおんぼろワゴン車が一台、町へ向かって走って行く。
見通しのよい荒野だ。ところどころに塔の如く巨大な岩が転がっている以外は、彼方の霞んだ山まで見える。
ツナがそっぽを向きつつ、何気なく外に目をやる。すると大岩が目に入った。
「(大岩の上に人がいる…?何してるんだろう…)」
一体何をしているのか、ツナは眼を凝らす…
「(大岩の上の人、伏せた。機材もあるみた…煙?)……2人とも伏せて!博士ハンドル切って、スピード上げて!」
博士と骸がツナの指示に反射的に従い、伏せた瞬間にフロントガラスに亀裂が走り、運転席のあるシートの頭の部分に風穴が開く。
「何だ、一体何が!」
「博士、スピード落としちゃダメだ!荒野を一気に突っ切って!狙われてる!」
「ぬ…!」
「綱吉君、相手の位置は?」
「10時の方角!大岩の上!」
「…距離にして500mって所ですかね。」
ここから2人は声を潜める。
「(反撃しようにも、狙撃の装備なんてそうそう持って歩かないよね。俺今手袋しかないよ!)」
「(…僕も、空港で全部取っ払ったままです。毎度お馴染みの槍と”霧フクロウ”は居ますが…博士の前で匣を使うのはまずいでしょうね。)」
「(あうう…史上例のない丸腰だよ…!)」
ガン!ガキィン!と音がする。車の外装に何発か当たっているらしい。
見れば、他の岩の上にも狙撃手が居るのが見える。
「博士!」
「わかっておる!これが限界速度だ!」
「(骸、幻術で反撃するなら、限界ってどのへん!?)」
「(気絶させるので100mが限界です。有幻覚の銃でもそのくらいが多分限界…。でもこのままなら集中している間に銃弾喰らってさよならかも。)」
「(…もどかしいな。手袋で反撃できると思うけど…今相手に炎を見せない方がいい気がするんだよな。)」
「(…それは、どうしてですか?)」
「もし相手の狙いが鏡の盾なら…炎を見せたら、奴ら鏡の秘密に気がつくかも。)」
「(…それは…)」
「わかんないよ。わかんないからカンに従う!あってるよたぶん!」
「賢明ですね、たぶん!」
骸が言い終えた所で車が激しく揺れる。
「うわぁ!」
「は、博士!?」
「ぬ…!タイヤをパンクさせられたようだ…!」
ヨロヨロと走る車の周りには、いつの間にか黒ずくめのライダー達が取り囲んでいた。
そして彼らはおんぼろワゴン車に銃を向け、銃口の動きで停止しろと伝えて来た。
「綱吉君…」
「博士、車を止めて下さい。」
「しかし…」
「ここで抵抗しても、俺たちに勝ち目はないよ…」
「くっ…」
緩やかにワゴン車は止まった。周囲を取り囲んだライダー達も一緒に止まる。
「貴様等、車を降りろ。…おっと、命が惜しければ妙なマネはするなよ!」
博士、ツナ、骸の三人は黒ライダー達に両手の平を見せるように挙げて、ゆっくりとワゴン車を降りる。
そしてバイクを降りたライダーにより、武器はないかと簡単なボディチェックをされた。
「武器になりそうなものはなにも持っていな…あ、このジジイ…ナイフなんてもっていやがる!」
「旧友が物騒な友人を連れ回しているのでね。怖いじゃないか。」
「…へぇ、なる程。あんたがガーフィールド様の知り合いか。」
「そうだ、ノールドと言う。チーズが好きだ。あんたは?」
「…トイコスだ。ヨーグルトのが好みだ。」
「(何か自己紹介してるーー!!)」
「(これが本当の事故紹介…なんちゃって。)」
「(やだ骸くだらない!それすっごくつまんないんだけど!)」
「(なら丁度いいじゃないですか。今は笑っちゃいけない所ですよ)」
「(やめて、そう言う事言われると…ツラい!笑いたくなるじゃん!あああ、意識したら余計に面白く感じて来た!)」
そうこうしているうちに、黒ライダー達のボス格らしい男が現れた。
ライダー達は一斉に姿勢を正す。
「博士は捕獲したようだな」
「はっ!武器も取り上げました!」
そう言ってライダー(トイコスさん)は博士のナイフを男に見せた。
「ふぅん、年季の入った発掘用ナイフじゃないか。それで?そこのにやけ顔の2人は何者だ」
「え!(やだ顔に出てたの!)」
「はい!?(え、僕もですか!?)」
「…さぁ…多分、メドゥサ・アイを手に入れた時に博士の側に居た連中と似ているな。武器も持っていなかったし…おそらく学生だ思われます。にやけているの
は…おそらく襲撃された恐怖で顔が引きつっているものかと。どのみちザコのようなので、気に留める必要はないと判断しました。」
聞き終えて、骸が若干イラッとしたのが見て取れた。気にせず黒ライダーの会話は続く。
「なるほど学生、ね…。」
「…その子達がそんなに気にかかるのか?君たちには彼らの事よりも、先に済ますべき用件があるように見えるのだが。」
「なる程聡しいな、博士。」
「目的は何だね?」
「簡単な事さ。メドゥサ・アイについての資料を譲ってもらいたいだけだ。」
「貴様等、ガーフィールドの手のものだろう?メドゥサ・アイの資料ならば私よりも奴の方がより良質な資料を持っているはずだが?」
「氏によれば、資料を照らし合わせてみて欠けがあっては困るとの事だ。情報は多いに越した事はない。それに、魔眼を封じる道具など、眼を持たぬ貴様等には不必要だろう?」
「ぬ…」
博士が言葉を詰まらせる。
博士が話す裏では、車に積まさった荷物がライダー達により運び出され、黒ライダーのトップが来た直後に現れたトラックに積み込まれている。
「(ねぇ骸、幻術使ってる?)」
「(…使って…ないです。)」
「(!)」
「(さっきから何度も試みていますが、何故か発動しないん、です…!)」
ツナは首を動かさずに目だけで周囲の様子を見る。
狙撃により壊れて吹き飛んだ車の扉からのぞく鏡の盾が目に留まった。
盾には、運んでいるライダー達は気がついていないようだが微かにツナの大空の炎の残滓が見て取れた。
そして、布をかぶっているせいでよくは見えないが、骸の長い髪の一部が映り込んだまま制止しているのも見える。
「(骸!あれ!)」
「(あ!………なんて厄介な事に…)」
そうこうしているうちに、黒ライダー達による積み込みも完了してしまった。
「オルニス様、残りペルセウスの剣のみです!」
「わかった。これで作業の7割終了といった所か。あとは…」
「博士、貴方の亡骸を持ち帰れば完了だ。どのみちメドゥサ・アイの知識を持つものは2人もこの世界に必要ないのだからな!」
黒ライダーの頭、オルニスが言い放ったのと同時に彼は博士を撃った。
しかし、反応はツナの方が一瞬早かったようだ。ツナはオルニスが引き金を引くよりも一瞬早く、博士に足払いをかけて転ばせる事に成功した。
そしてまだ目を白黒させている博士を、骸に押し付け、車に放り込ませる。
「早く運転席に座って!博士を連れてここから逃げなきゃ!ここで博士を死なせちゃダメだ!」
「…わ、わかりました!」
骸が壊れた車のエンジンをかける。
ツナは、剣を運んでいる黒ライダーに体当たりをかまして剣を奪い取り、扉を失ったワゴン車に放り投げた。呆気にとられるライダーなど気にかけず更に走り、前方にいたライダーから、博士のノートパソコンを奪い取り、再び車へと放り投げる。
「ちっ!」
「学生のくせにいい気になりやがって!」
荷を運んでいた黒ライダー達はツナへとナイフを向ける。
他の手のあいたライダー達も銃を構える。
囲まれ、手のなくなったツナは声を張り上げる。
「車を出して!早く!」
「でも!」
「いいから博士を!」
「しかし…」
「博士と資料を持って逃げろ!町まで行けばみんなが居る!」
「なら僕が!」
「メドゥサ・アイを持って行かれた今、残ってるのはお前の持つ邪眼だけだ!とにかく逃げろ!」
「貴方は、僕の役目が何なのか知っているんですか!」
「知ってる!その上での判断だ!いいか、これは命令だ!」
「………っ!」
骸は車を出した。タイヤは少し空回りしたあと、勢い良く回転した。
すぐさま黒ライダーが追いかけてくる。
「…ムクロ君、ツナヨシ君が…!」
「いい。」
「しかし…君の友達じゃないのか」
「…。」
「今戻ればまだ…」
「…っ、うるさい黙れ!」
「わかった…。」
走り出したはいいものの、敵はバイクであり、こちらはパンクした上に満身創痍のワゴン車だ。
加えて彼らのうち数人は持っている銃を構えはじめた。
骸の目付きが鋭くなるり、一瞬空気が揺れた。
するといきなり、ライダー達があさっての方向へと方向転換した。そして、壊れて吹き飛んだはずの扉が一瞬で復元される。ガタガタだった走行も、パンクする前のように静かなものになった。
これらの現象に博士は非常に興味をそそられたが、口に出す事はなかった。
ハンドルを握る骸の手が震えていたのは、悪路のせいだけでないだろう事は、容易に想像がついた。