博士、ツナ、骸の三人は神殿の隠し階段の底、石造りの扉の前に居た。

「重そうな扉です…。」
「文献によれば、この奥にメドゥサ・アイに対抗する術があるらしい。」
「じゃ、あけるよ…。」

働き者のボスが扉を開けると、そこにはやはり石造りの小部屋が広がっていた。
中央には台座があって、大きな丸い鏡と見た事のない形の曲刀があった。

「なんだろう、アレ…。」
「素晴らしい!アレが英雄ペルセウスの剣と盾だ!伝承通りの形だ!」

博士が懐中電灯で周囲を照らすと

「壁に文字が彫ってありますね。」
「すごいね、びっしりだ!」
「それでは、解読にかかるかな。」

博士がノートパソコンを取り出し、解読にとりかかる。
ツナが不思議そうにそれらを眺めていて、手持ち無沙汰になった骸は小部屋に刻まれた文字を眺める。

「(不思議な気持ちです…。)」

懐中電灯の照らされた文字達は、明かりの向きにあわせて硬質な影を落とす。

「(初めて見た気がしない…。僕は古代文明に縁のあった事なんてないし、眼の記録にあるんでしょうか?)」

つかつかと壁に歩み寄る。文字列をまじまじと眺めてみるが、別に読める訳でもデジャヴがあるわけでもない。

「(やっぱり気のせいですよね。面白くないけれど、これはこれでホッとしたような?)」

ついと、博士の方をみやる。
博士は苦戦しているようだ。この形の文字は見た事が無い、とかつぶやいているのが聞こえる。ツナは出来る事が何も無いと理解したのか、曲刀の刃をなぞってみる。だがしかし、サビが酷くて使い物になりそうにない。
しばらくするとそれにも飽きて、隣の鏡のような盾を覗き込んでいる。

「綱吉君。」
「なぁに?」
「何か見えますか。」
「そうだね。あえていうなら”俺が見える”。」
「へぇ。」

そう言って、骸も一緒になって覗き込む。
黄金の鏡に映るのは、琥珀と、紅と蒼の双子。

「…ホントにただの鏡ですね。」
「うん。まごうかたなきただの鏡だね。」
「あえていうなら金属板?」
「…だよね。」
「昔の盾なんてこんなもんでしょうけど。」

ツナは鏡に向けて懐中電灯を当てて、天井に反射させてみる。

「あらやだ、綱吉君子供っぽーい!。」
「だってヒマなんだもーん。」

天井では懐中電灯の丸い光が行ったり来たりしているが、しばらくすると消えた。

「あれ、やめちゃったんですか?」
「うん。こっちならどう映るかなって。」
「こっち?」

ちらと博士を見る。博士は彼らの事など意にも介せず解読を続けている。
それを確認したツナは声を潜めて

「そ、コレ。」

微笑むツナが見せたのは左の中指に留まるオレンジの炎。

「そういえば、死ぬ気の炎が水面とか鏡に映るのってあんまり見ないですよね。やっぱり、ゆらゆらした光が映るんですかね?」
「やってみればわかるんじゃない?」

そうして、ツナは炎を鏡に近づける。すると…

「うぉわっ!」

盾のフチにいきなり炎が走り、一瞬で盾の円周は鮮やかなオレンジの炎に包まれる。

「なにコレ…?」
「驚いた。神話のの神器って古代の匣兵器だったんですね…。」
「匣はないけどね。でも、神器って呼ばれたのは解る気がするよ。」
「まぁ、今でも匣兵器に関しては解っている事の方が少ないくらいですからね。」
「うん。それにしても…どんなことができるんだろう?」

ツナが鏡の後ろに回って持ち上げてみる。
あいかわらず骸の姿は鏡に映ったままだ。

「お…重っ!」
「大丈夫ですか?落としたらダメですよ。」
「わかってるっつの!」

そうは言うモノの、ツナは正直辛そうだ。見かねた骸が元の戻すのを手伝おうと近寄ろうとしたとき。

「あれ?」

骸は何かの違和感に気がついたようだ。

「何さ!手伝ってくれないのーー!?」
「あ、やっぱ手伝ってあげません…。」
「…何か気がついた?」
「まぁ、ですけど。」
「なになに?…あ、よいしょ!」

ツナが鏡を元の位置に戻してから骸に駆け寄る。
そして再び鏡に目をやると。

「…あれ?」
「不思議ですよね。」

なんと、鏡に映った骸は、最初に鏡をのぞき込んだ体勢のままで映り込んでいる。

「…なんで?」
「さぁ?不思議な事に、さっきから動かないんですよ。まるで貼付けられたみたい。」
「俺は普通に映ってるよね。」

そう言ってツナは腕をぶんぶんふりまわしてみる。鏡の盾のツナも同じように腕を振り回す。
骸も隣でくるっと回ってみたり、ツナをビンタしてみたりするが、一向に鏡の中の骸は動かない。

「…ねぇ骸。俺さ、無意味な暴力ほど腹立つ事はないと思うんだけど。」
「いや、君ならアリですよ。Mr.サンドバッグ?」
「ひどい!」
「あとそれ、雲雀恭弥にも言ったほうがいいと思いますね。」
「やだ!怖い!」
「…あっそ。」

「それにしても…なぁ骸、変わった事とかないか?」
「さぁ…それにしても、なんで僕だけなんでしょう?コレ結構重要だと思うんですけど。」
「それが問題だよね。」
「うーん…?」
「ねぇ、この鏡はさ、神話だとどういう風に使われたの?」
「どうって、ペルセウスはメドゥーサの顔をこの盾に映して、直接本体見ないようにしながら、剣で首を落としたと聞きましたが。」
「じゃぁ、ペルセウスは鏡に映ったメドゥーサしか見なかったの?」
「たぶん…ですけど。」
「でもきっと、メドゥーサも鏡に映った自分を見たよねきっと。メドゥーサは石にならなかったの?」
「…そういえば、石になって切り落とすのが大変だったとも聞きませんね。」
「じゃぁ、メドゥーサの魔法は自分にはきかなかったって事?」
「或は…」

「うむ、わかったぞ!…な、何があった!」

ノールドが顔を上げてこちらに来る。そして、死ぬ気の炎に包まれた鏡に驚いた。

「これは…?」
「あ、えとその!」
「懐中電灯を当てたらいきなり…ねぇ綱吉君?」
「うん!そうそう!メドゥサ・アイといい古代の神器ってとっても不思議だなぁ!あははははは」
「そ、そうか…。」

「あははは…(さすがに苦しかったかなぁ?)…そういえば博士、何か解ったんですか?」
「…あぁ。あの鏡と剣だがな。それぞれに邪眼の力を押さえる事と封印する事ができるらしい。」
「押さえる事と…。」
「封印する事、ですか…。」
「うむ。鏡は、邪眼を映せばよいとある。そうすれば力を一時的に押さえられるらしい。まぁ、対象が鏡に映る範囲内に居る間だけらしいが。」
「(そうか、だから骸が…)」
「(なるほど。では今はスキルを使えない状態なんでしょうね?鏡の前に居る時だけらしいですが。)」
「(試してみれば?)」
「(………………っと。……今やってみましたが、どうやら本当に無理そうです。)」
「剣は、切られた対象の力を奪い封ずるとあった。ただ…」
「ただ…?」
「どちらにもそうだが、アポロンの炎を灯せとある。これが何を示すのかがわからんのだ。」

そうしてノールドは再び考え込む。
どうやら、一度思考に没頭すると回りの事が見えなくなる性質ようだ。

「俺ぜんぜんわかんないや…。」
「……僕解ったかも。」
「なになに?」
「アポロンって、ギリシャ神話において、炎の馬車で空を駆ける太陽の神様なんです。」
「ってどういうこと?」
「大空を駆ける炎。つまり晴れの炎なのではないでしょうか。しかし大空の炎は全ての匣兵器を使えますよね?」
「本来の属性よりも力は落ちるけどね。」
「まぁ、本来の属性がわからなくても問題はないですよ。どのみち他の連中と合流した後に全ての属性を試せばいいだけなんですから。最低でも僕と綱吉君とタコ頭が居れば実験だけは出来る訳だし。」
「それもそうだね、早いとこみんなと合流しよう!骸、みんなはどうなってるかクロームに聞いてもらえる?」
「はい。わかりました!」


“もしもし髑髏?”
“…骸様。”
“そちらはどうですか?何か変わった事はありましたか?”
“…今は街の…港に居るわ。皆居る。”
“そうですか。彼らは有力な情報を持って来ましたか?”
“…うん。”
“そうですか。僕らもいいモノ見つけましたよ。そろそろそちらに向けて出発するかもしれません。”
“早く来て。今…スゴい事になってるから。”
“…スゴい事?”
“うん。”
“わかりました。それでは他の連中にも伝えておいて下さいね。”
“うん。あと、骸様は遅くなってもいいけど、ボスは早く来てね。”
“……ねぇ髑髏。最近僕に対してヒドくないですか?”
“だって、骸様相手に猫かぶってもいい事ないんだもん。”
“…たまに板チョコあげますけど。”
“たまにじゃない。”
“…。”


「ねぇどうしたの骸。片道3時間かけて買いに行ったバームクーヘンをうっかり山本に食べられちゃった時レベルの落ち込みっぷりだけど。」
「…ほっといて下さい…。」
「?」