あれから三時間が経過した。




こちらは笹川組。

「ようし、決まったぞ!」
「うん、これでバッチリだよ!柿本君も問題ないよね!」
「実に素晴らしいと思う。」
「俺達の班の名前は…”チーム☆オブ☆極限サンパワー眼鏡牛”だぁーーーーっ!!」
「お兄ちゃんかっこいい!」
「めんどくさがらずに考えたかいがあった。なかなかに良く出来たいいネーミングだと思う。」
「あの…。御三方…?」


ここは三時間前と同じ公園。
ランボは困惑していた。

「(彼らは自分たちの役目を覚えているんだろうか。)」

カフェのテーブルにうずたかく積み上がってるのは皿、皿、皿。
空いたワインのビンが数本に、デザートの皿まである。

「(てか、この人数でこんなに食べられるもんなんだ…。さすがは笹川兄妹、ボンゴレ一の大食いコンビ…いやいや、柿本氏だって相当なものだ…って違う!感心している場合じゃない!このまま帰ったりしたら獄寺氏のサンドバッグ確定!)」

ランボの脳内にはぼこぼこにされる自分の姿がありありと浮かび上がった。

「(そんなのいやぁぁぁぁぁぁぁ!)」

ランボの心配をよそに三人は楽しそうな会話を続ける。

「…こっちのワイン、なんて銘柄だっけ?」
「あれぇ?…あぁ、これこれ!ちゃんと書いてあるよ!」
「お土産に買って帰ろうかな。めんどうだけど。」
「あぁ。ムクロさんに持ってくの?」
「それはない。あの人下戸だから。飲むのは髑髏の方。」
「何?そんなの初めて聞いたぞ!」
「わたしも!…でも、この前ウイスキー飲んでるのみたよ?」
「あれは薄めたウーロン茶。ちなみにワインはブドウジュース、ビールは泡立てた麦茶でごまかしてる。」

「(柿本氏それ言っちゃっていいんですかぁぁぁーーーー!)」
ランボのツッコミはむなしく彼の心の中に響いていった。(エコー付きで)

「ウッソー!」
「おもしろいな!そんな事ができるのか。ならば是非帰ったらやってみたいものだ!」
「一口で酔うくせにさ、酔ったら何しでかすかわかんないから。有幻覚で周囲を人食い植物だらけにされた時は…あと一歩気絶させるのが遅かったら大惨事だった。まったく、思い出しただけでもめんどくさい。」
「そんなおもしろ…ううん、大変な事があったんだねっ。知らなかったよ!」

そんな中、ランボは気がついた。
馬鹿話をする千種の頬はうっすら赤みが差している。

「(この人ワインで酔ってるー!)」

ランボの危険度センサーがMAXをさしていた。
この話は多分、超ウルトラ極限MAXトップシークレットで確実だ。もしもランボが知った事がバレたら。

「(……廃人は嫌ぁぁぁぁぁぁ!)」

ランボの頭に連帯責任とか言う文字はなかった。今ランボの頭の中にあるのは、素晴らしいまでの骸の笑顔と人形と化した自分の姿オンリィである。
そして、ふと先日ツナと交わした会話の一部がよぎる。

「ヒバリさんって、すっごいザルなんだよー。」

「(いやいやいやいやいや。それすっごいどうでもいい!あ、でも元委員長様にバラしたら骸の兄さんから守ってくれるかも?………………………………いや無理!クローム嬢もいるし逃げ切れない!今の話は忘れろ俺!俺は聞いてない、俺は聞いてない…!)」

三人が楽しそうに談笑して、ランボが一人で青い顔をしている。

どろろろろろろろろ…!

そんな平和なオープンカフェに、いきなり爆音をあげたトラックが突っ込んできた。
まっすぐ、ランボ達のテーブルへと、猛スピードで向かって来る!

「何事だ!」

了平は拳を、京子は蹴りの体勢に入る。
千種は次の皿に手を付けようとしている。
ランボは悲鳴を上げてクロスをまくりあげ、テーブルの下へともぐってきつく目を閉じた。

そして、世界は静まり返る。
人間離れした体技がミラクルヒットを決め込む音も、車が崩壊する音も、何もかもが存在しなかった。
ただ、いささか不可解な静寂が世界を包み込んだのだった。







チーム☆オブ☆極限サンパワー眼鏡牛がやたらと長いランチタイムを楽しんでいた時、名無しの別働隊チーム山三雲城(仮)はどうしていたかというと…


「…いいネタ仕入れられたな。あの情報屋、予想以上だったのな〜。これなら誰にも文句は言われねーだろ。」
「ですね。ちょこっと脅したら大分負けてくれましたし!髑髏ちゃん、獄寺さんにいじめられてないといいですけど…。」
「もう群れたくないから帰りたい。」
「はらへったびゃん…。」

ベースに向けて帰還中のようであった。

「一人見つけたら芋づる式に出て来たな。」
「やっぱ、情報屋さんには情報屋さんのネットワークがあるんでしょうね。」
「お金は結構ばらまいちゃったけど…あとで綱吉に請求すれば問題ないしね。」
「じゃーさ、じゃーさぁ、請求ついでにらんか食おー?んでもって、全部ツナちゃん持ちにしちゃうってのはー?」
「はひ!犬さん、それはヒドイんじゃないですかぁ!?」
「らにいってんら。らいたいツナちゃんが呼んだんらかあ、昼飯くらいおごってもらっても悪くねーびょん!」
「一理ある。どうせタダ働きだろうしね。」
「そんならあっちに行こうぜー?うまそーな匂いがする!」

そう言って山本は港の方を指差す。

「あっちに何かあるのかい?」
「さっき、ちらっと見えたんだけど向こうの港ははこの街の観光の目玉の一つらしいのな。」
「だったらきっと何か売ってますですよねー。」
「そゆこと!」
「うめーもんあるといいびょん!」



そして彼らは歩きはじめる。



しかし、そこで彼らが見たのは玉突き事故の起こっている、まさにその瞬間だった。

てんでバラバラな方向を向いた車が例外無く道の外、何処かへと突っ込むような向きを向いて停止している。そこにいる人々も、恐怖の表情そのままに立ち尽くしていたり、逃げ出そうとしたりしたまま固まっている。道行く女性の思わず取り落としたと思われるバッグは地上に触れる寸前で静止して浮いていた。
空を飛ぶ鳥は、窓の辺りで中途半端に羽を広げて宙に浮いている。
動くモノの無いそこは奇妙なほどの静寂が包み込んでいた。

例えるのなら、巨大なジオラマに迷い込んだとでも言うべきなのだろうか。
経費で昼食を食べようとしていた山本達は、このありえない現実に硬直するよりも他にしようがなかった。


「なにこれ…。」

最初に我に帰り言葉を発したのは雲雀だった。
雲雀は一歩、二歩とゆっくり歩きながら自分達の歩いて来た小路と、その停止した海を望む公園を見比べる。
思えば、小路の張り紙も不自然なはがれ方をしたまま停止している。
手を触れればいまにもはがれそうな張り紙は、はがれる事も無く彫刻のように不自然に硬い事がわかった。

その様子を見ていた他のメンバーも次々と我に帰る。

「な、なんなんですか!?コレは!何があったんですかぁ!?」
「ほんとに、何なんだ?人も車も…彫刻みたいに動かねぇ。」
「ムクロしゃんの幻覚れも、ここまで悪趣味じゃねーびゃんよ。」

「きもちわるい…。」
そうつぶやきながら雲雀が歩を進める。
他のメンバーもそれに続く。

港の風景も停止している。海は凪いでいて、波すらも停止しているのかはわからない。風は軽く吹いてはいるが、立てられた旗は静止していて視覚的に感じる事はできない。

「誰も、何も…うごかねぇ。なんだか、俺たちが動いてるのが気持ちわるくなってくるようなカンジがするのな…。」
「…お人形遊びの世界にまぎれこんじゃったみたいですぅ。」
山本やハルがつぶやく。きょろきょろとしていた犬はある一点で目を止める。

「あれ、あそこに居るの芝生ゴリラじゃねーびょん!?」
「はひ!京子ちゃんもいますです!」
「行ってみようぜ!」
「何かわかるといいけど。」

一行がチーム☆オブ☆極限サンパワー眼鏡牛の所に辿り着いた。

「京子ちゃん!京子ちゃんのおにいさん!メガネさん!大丈夫ですか?何があったんですか!?」

ハルが呼びかけるが、返事がない。やはり、彫刻のように固まったままである。

「やっぱり…固まってるのな。」
「そうだね、あえて言うならこの班は使い物にならないって事くらいだしね。なにさこの豪華な昼食。」
「…確かに、うらやましい限りです。」
「まったくなのな。作業中なのにワインとかあけてるし。」

「あれぇー?」
「どうしましたですか、城島さん?」
「テーブルの影がぁ、今”もぞっ”って動いたみたいな…気のせいびょん?」
「そうだな。俺も見たのな。」
「何か居るんでしょうかね?」

そう言ってハルがクロスをめくろうとするが。

「む…ふぬぬぬぬ…!」

めくり上がらない。

「なぁハル、手を貸そうか?」
「うっさいですよ、山本さん!…テーブルクロスをまくるのに人の手を借りるなんて!」
「でも、無理そうじゃない?」
「カンジンなのはあきらめれすよ〜。」
「そこ2人!シャラップです!ぬおおおおおおお…ふんがぁぁぁーーーーーっ!」

ハルが気合いを込めるが、クロスがまくり上がる事は無かった。

「…かよわい乙女には無理ですよぅ。」
「今、乙女にあるまじき声出したよね。」
「おっさんくさかったびょん!」
「何をいまさら言ってんだ。ハルだぜ?」
「ちょっとみなさん、失礼ですよっ!」
「失礼じゃないびょん!正直な感想ら!」
「そーそー。」
「事実でしょ。」
「がびーん…。」

ヘコむハルをほっといて三人の興味は再びテーブルに戻る。

「この方が早くね?」
犬がテーブルを蹴っ飛ばそうとするが、思い切り足をぶつけて涙目になったり、山本が吹っ飛ばそうとしても一向に飛ばなかったりして、最終的にはしびれを切らした雲雀が破壊を試みようとするも、渾身の一撃ですら、テーブルクロスの角を欠かせただけという結果に終わった。

「なんなんだ、ありゃ…!」
「知らねーびょん!」
「なんだかすっごい疲れたよ。」
「こーなったら、かくなる上は…!」
ハルが立ち上がる。

「どーすんだ?」
「あんまり頼りたくないんですけど、獄寺さんを呼びます。」
「なるほど。役立たずもろともダイナマイトで吹っ飛ばすんだね、最高。」 「気持ちは解りますけど違います〜!」
「わかったぜハル!嵐の炎で分解してもらうんだろ?」
「はいですよ。ハルたちがイロイロやっている間だって、クロスの下がもぞもぞしてました。手がかりになるかもしれないし、それに…。」

((((何かわかんないけどすげー気になる…。))))

この一点に置いては声に出さなくとも四人の思惑は共通だった。