メドゥサ・アイが奪われてから2日経った。
その日の、まだ日の高い午前。

抜けるような青い空に深い碧をたたえる海。それとは対照的な白い街並が立ち並び、調和する様は非常に美しい。
ここは、ギリシャのとある小さな島の、やはり小さな街の一角でエーゲ海に面した公園である。
その公園の隅では、何の集まりなんだかよくわからない、東洋系の人種を中心とした若い人間達が群れていた。


「はひぃ〜、とってもスゴイです、ハイパーミラクルビューティフォーですぅ〜っ!」
「本当だね、とってもキレイ!来て良かったぁ。」
「…エーゲ海、はじめてみた。…まるで写真みたい。」

ハル、京子、髑髏の女性陣は、海風で翻るスカートの裾をもてあそびながら、楽しそうに海を眺めて雑談している。

「やれやれ、一体どうしたというのでしょう?折角、ボヴィーノのボスの67通目のラブレターを届けに行って来たばかりだというのに。」
「確かにな!しかし、沢田がわざわざ呼び出す程の事なのだ、何かあったのだろう!」
「でもよー、私服でいいって事はさ、仕事がらみじゃないって事だろ?」
「獄寺隼人からの通信には、綱吉のために集まれ、としか書いてなかったよ。…ま、ろくなことじゃない気はするけれどね。」

ランボ、山本、了平、雲雀の四人は近くのベンチに座っていたり、木陰に入ったりしながら今回の件について喋っている。

「ねー柿P?骸しゃんいきなりどーしたんらろ?」
「さぁ…でも、非常にろくでもない事だという予感は、する。」

少し離れた所に居るのは犬と千種。


そこに、獄寺が現れる。
「よし、てめぇら全員そろっているみてぇだな!」

「なぁ獄寺、これから一体何をするってんだ?」
「あぁ。それをこれから言うから黙ってろ!」
「…簡潔にしてよね、めんどいから。」

そして、獄寺は今までにあった事を話し始めた。

「…なるほどね。で、これからその研究者と後ろの組織を探すのにつきあえってワケ?」
「はひぃ!なんだか事件のニオイですよ!博士襲撃事件〜ツナさんは見ていた〜です!」
「だな!極限だーっ!」
「なんだかおもしろそうだねっ!」
「…またボンゴレは厄介ごとを連れて来てくれましたね…。」
「ま、そー言うなって、ランボ!」
「ねーね、うまいことやったらぁ、ツナちゃんごほうびくれるかなぁー?」
「わたし、ボスがごほうびくれるなら…ボスと一緒に食事に行きたいな。」
「めんどい。帰ってシャワー浴びて寝たい。」

「くだらない。僕は帰るよ。」
「んだと!?」
「だってそんなの、ただの綱吉のワガママじゃない。」
「じゃぁ、雲雀は来ないのか?」
「うん。帰る。寝る。」
「残念なのな。久しぶりに暴れられそうな気がすんのに。」
「…。」
「だって、ツナの個人的な頼みで、ひょっとすると殴り込みとかあるかもなんだろ?仕事よりも手を抜きつつ派手にやれるかもなのにな〜。」
「ねぇ獄寺隼人、早く詳細を教えなよ。かみ殺すよ。」
「(やるじゃねーか。)」
「(ちょろいのな〜。)」

「これからやる事は大きく分けて二つ!連中の素性を調べる組と、連中のアジトを探る組だ!これから班分けをすっからなー!耳の穴かっぽじって聞いとけよ!
まず、気合いで素性を調べる方の班は、芝生に芝生妹にアホ牛と柿!
気合いで探れ!そして、くれぐれもこっちの事を感づかれるようなどアホなマネはすんじゃねーぞ!」
「む!俺がそんなヘマをおかすように見えるか!」
「心配無用ですよ、獄寺氏。」
「てめーらが一番信用ならねーんだよ!」
「楽しみだねっ!うふふっ」

「…千種?」
「…今までにない略され方をした…衝撃だ…。」


で、根性でアジトを探る班が山本にアホ女と雲雀に城島犬!
てめーらには文字通り、連中のアジトの場所を特定してもらう。いいか、あくまでも場所の特定だかんな!ずぇぇーったいに手を出すんじゃねぇぞ!特に雲雀とイヌ!」
「うるさいよ、かみころされたいの?」
「イヌじゃねーびょん、ケンだってーの!覚えろタコ頭!タコ焼きにしてかみころすぞ!」
「ちょっと、マネしないでよね!」
「食うぞ、かじるぞ、がうがうがう!」

「で、残りクローム髑髏と俺で本部だ。無線機渡しておくからな、何か掴んだら知らせろよ。こっちからも、もう一班や十代目から何かあったら伝えっからよ。」
「…そういえば、綱吉と骸様の姿がみえないようだけど。」
「あぁ。十代目達は盗まれたメドゥサ・アイについて調べに行っている。…まぁ、アレが悪用される前に取り戻すのが理想的なんだがよ…。」
「間に合わなかった時のために、か。めんどいことしてるね。」
「あぁ、そーゆーこった。つまり、お前らの働き次第だな。んじゃ解散っ!」




こちらは気合いで素性を調べる班…了平、京子にランボと千種。
彼らは海に面した港のある、日当たりの良い広場にいた。

「…とは言ったものの…みんな、どうしよっか?」
「うむ!とりあえず腹ごしらえをしつつチーム名を決めるぞ!」
「ちょっ…笹川の兄さん!?」
「…そうだね。確かにお腹は、すいた。」
「ここの町はねぇ、ワインがおいしくて有名みたいだよ!あ、でもワインは調べものが終わってからだよね。他には…あ、魚介類がおいしいみたい。」
「詳しいな、京子!」
「えへへ、観光MAPに載ってたの。」
「…あーあ…あれ、柿本氏?」
「ん、おいしい。」
「おい眼鏡!それはなんだ!」
「おいしそう〜!」
「そこで売ってた魚介類のサンドイッチ。さすが港町、うまい。」
「俺も買ってくるぞ!」
「お兄ちゃん、私も!」
「まってください〜!」
「もう一個買ってこようかな。」


根性でアジトを探る班…山本、ハル、雲雀、犬。

「さて、どーやって探そっかな~?」
「手がかりも、全然ないしね。」
「でもでも手ぶらで帰ったりしたら、獄寺さんに馬鹿にされちゃいますですよ!ハルはそんなのヤです!」
「それにぃ、柿P達の班が何か掴んれきたりしたらぁ、負けたみたいらし!」
「負けるのは嫌なのな~。」
「そこには、全くもって共感するね。」
「じゃあ、まずはイージーに聞き込みからスタートですぅ!」
「いやいや、俺たちがそいつらの事を調べてるの向こうに知られるのはあんま良くないんじゃねーか?」
「なんれら?」
「だって、こっちが有力な情報を手に入れる前に対策を立てられたり、隠蔽に回られたら嫌だろ?それに、ツナ達が居る神殿に目を向けられても…向こうは手薄だかんな、困る。」
「はひぃ。」
「じゃ、ろーすんの?」
「とりあえず、この街の情報屋を探そうぜ?”組織”として活動しているんなら、末端情報くらいは解るだろ。」
「とりあえず、相手が”何”で”何を生業にしているか”と”アジトの所在地”に”組織の名前”。よほどの事が無い限り、ここまでならそんなにお金もかからないだろうしね。」
「でも、その情報屋さんをどうやって見つけるのかって問題じゃないですか?」
「あぁ、それなら簡単だぜ?」
「はひ?」
「あいつらに聞こう!」

山本が指さした先では、5人位のチンピラが観光客を脅している。
その中のリーダー格と思われる人物は、やたら派手な、金回りの良さそうな格好をしていた。

「あぁ、あの羽振りの良さそうな人に聞くんですか?」
「おしいのな〜。そのとなり!」
「はひ?あの存在感の薄ーいヒトですか?」
「そーそー。ここまで気配を消せるってんなら…情報屋に縁がありそーだろ?」
「…悪くない判断だね。それでどうするの?囲む?」
「ぶんなぐっていいんじゃねーびょん?」
「作戦なんか要らないさ。フツーにケンカ売ろーぜ?俺たちもついに、ただのチンピラデビューなのな!」
「はひ!旅の恥はかき捨てですねぇ?」
「少しは骨があるといいんだけど。」
「ほんじゃぁー、れっつらごー!」




「2組とも無事に出発したみたいですよ、綱吉君?」
「そっか。何か有力な情報をつかんできてくれるとうれしいんだけど。」

今、教授とツナ、骸の三人が居るのはメドゥサ・アイが発見されたという海中神殿。
しかし、海中とは言ってもそれは陸上にあった。
ノールドの話によると、この地方では数週間前に地震があり、その時に地盤が盛り上がって海の底から地上へと神殿が押し上げられたらしい。それが今回見つかったのだそうだ。

「やれやれ、とんだ災難ですよね。さすがは史上最悪のトラブルメーカー。そこに居るだけで災難が口笛にスキップでやって来るなんて!」
「災難災難言うなって。今回は話をふって来たのも、引き受けたいって言ったのもお前だろ?」
「ま、そうなんですけど。でも、こんな事になるなんて普通思わないでしょう?」
「そこは同意するよ。俺だって予想の向こう、そのまた向こうの偉大なる大空の彼方だった。…でも、守護者のみんなの手があいていて良かったよ。」
「今は、バカンスに向けて気合いでやる事全部終わらせた直後ですからねー。」

“骸様”
“あれ、髑髏じゃないですか。”
“骸様、そっちはどう?”
“なんとも。まだ何も進展はありませんよ。そちらは…まだ何もないでしょうね。”
“うん。みんなさっき出発したから。”
“そうですか。好調ですね。”

「骸?どーしたの、ぼーっとして?」
「あぁ。髑髏から通信が入ったんですよ。」
「そっか…てか、本当に無線要らずだな。」
「盗聴の恐れが無いからこういう時に便利でしょう?圏外って事もないし。」
「まーね。謎だとは思うけど。」

“骸様、そこにボスがいるの?”
“えぇ、居ますよ。何か伝えますか?”
“別に…。”
“そうですか。”
“……。”
“あ、そうそう。今しばらくは繋ぎっぱなしにしておいて下さいね。その方が便利ですから。”
“……。”
“僕からはこんなもんですかねー。あと、獄寺隼人にいじめられた時も教えて下さいね。後でぶん殴る理由ができますから。”
“……。”
“それじゃ頑張ってください。僕らも、どのくらい時間がかかるかは分かりませんが…なるべく早くそちらに合流できるように努力します。”
“……。”
“……。”
“髑髏?”
“……。”
“……?”
“ずるい…。”
“は?”
“いつも骸様ばっかり…。”
“…どうかしましたか、髑髏?”
“ねぇ、どうしていつも骸様はボス側なの?”
“はい?何を言っているんですか、髑髏。”
“いつも思ってたけど、わたし達が通信の役目を担う時って、どうしていつもわたしじゃなくて骸様がボス側なの!?”
“へ?”
“わたしだってボスの側に居たいのに!骸様がとっても強いって事だって知ってるわ。でも、ボスの周りにはいつだってありあまる程だれかが居るじゃない!別に骸様じゃなきゃなんない理由なんてない!”
“髑髏、あのですね…。”
“それに、ボスが何かトラブルに巻き込まれるときには、決まって骸様が側に居るのはなんでなの?わたしがボスの側に居る時には何も起きないのに!”
“そんなの偶然じゃないですか!加えて言うならそれ、何も僕に限った事じゃないですよね?いつだって綱吉君に金魚のフンよろしくへばりついている獄寺隼人や山本武なんかは、僕よりよっぽど巻き込まれていますよ。”
“でも!”
“僕が絡むと君にもわかるから、僕がやたら巻き込まれている風に見えるんでしょうけど、そんなに…”
“ちがうもん!”
“え”
“骸様は疫病神だって嵐の人が言ってたわ!”
“僕そんなに…”
“トラブルが起きるのはべつにいいの!”
“いいんですかそれ!”
“ねぇ骸様、どうやったらわたしも疫病神になれるの?”
“ならなくて結構です!ただでさえ疫病神なんてボンゴレ式バーゲンセールで大安売りできるほど居るじゃないですか!”
“でも、わたしもボスと一緒にトラブりたい!”
“ダメです!めんどい!”
“ひどい!骸様のケチ!ボスの事ひとりじめしないで!”
“別にそんなつもりじゃ…。”
“でも、結果的には同じじゃない!”
“…わかりましたから。とりあえず仕事に戻りましょう?”
“ふんだ。骸様なんて大嫌い!”

ぶちっ!

「骸?髑髏、何か言ってる?」
「…なんか疫病神になりたいから、どうやったらなれるのか教えてくれって…。それっきりぶちっと切られました…。」
「…何があったの?。」
「さぁ…。」



「む!」

ツナと骸が機材を運びながらだらだらと会話をしていたら、突如カベを調べていたノールドが声を発した。
「博士、何か見つかりましたか?」
「あぁ!そのノートパソコンと資料ををこちらへ持って来てくれるか?カベに隠し文字が見つかった!」
「はい!えっと…それと、」
「これ…ですよね?」
「うむ、ありがとう。」

するとノールドは資料をぱらぱらとめくりながら、祭壇の裏側へと回る。
そしてツナと骸を交互に、品定めするように眺める。

「博士?」
「どうかしましたか?」

「いやぁね…。」

博士によれば、この石造りの祭壇をズラしたいのだそうだ。
でも…。

「2人とも、細いねー。」
「こっちのミクロでマクロな綱吉君は結構強いですよー。か弱い僕とは全然違って。」
「余計な事言いすぎどこからツッコめばいのさ!…でも、人手が居るなら手伝いますよ。」
「ん!そうだね。それじゃ、祭壇をそっち側から押してもらえるかな?」
「真横に?」
「あぁ。」

そうしてツナと博士は石造りの祭壇を押し始める。

「おい骸、手伝えよ!」
「いや、必要無さそうですよ?」
「そんなことーーーうぉわぁ!」

突如ツナの姿が消えたーーー否、祭壇の下には穴があいていて、そこへ落ちたものと思われる。
骸と博士が穴の中を懐中電灯で照らすと、階段はまがりくねりながら下へ下へと続いているのがわかった。
ちなみにツナは、階段の最初の曲がり角で頭を打ってノびていた。


「ここの地下に対処の方法があればいいのだが。」
「きっと何かありますよ。…最悪の事態に対処できる方法が。」
「そうだといいな。」
「なきゃ困りますってば。」
「そうか…そうだな。でも、その情報が使わなくてすむ事を祈るよ。」
「まったくもって同感です。」
「ところで、ツナヨシ君だが…」
「バケツに水くんできますよ。ぶっかけりゃ起きるでしょ。」
「手荒だねぇ。」
「こんなの全然甘いですよ。(銃撃や殺気や爆音で起こすよりは、…たぶんね。)」