溶岩と大岩がどんどんと距離を縮め、一行が青い顔をしている中で、
獄寺が踵をタンタンと打ちながら山本と了平に話しかける。


「おい山本、芝生!」
「どうしたんだ?」
「何だ!」


獄寺が山本と了平へ何か耳打ちした。
頷く了平と指定された位置へ移動する山本。

もう大岩と溶岩は目の前へ迫っている。


「それじゃ芝生!正確に合わせろよ!」
「まかせろ!」

ツナ達の居る岩盤の、壁面と接する両端に獄寺と了平が居る。
そして。


「せーのっ!!」
「うらぁ!極限パンチ!」


正確に打ち込まれたパンチと、計算されたタイミングのボムによる爆発は、岩盤の付け根を破壊した。
岩盤は溶岩の河へと落ちて行く。


「ちょっと獄寺君落ちてる、おちてるぅぅぅぅ、ぎゃっひぃぃぃぃぃぃい!!!」
「ご安心下さい十代目っ!山本!」
「わかってるのな!いっくぞぉーーーー!」

山本の雨の炎が落下する岩盤の周囲を球体状に包む。
直後に、溶岩の河に着岩。跳ね上がるしぶきを雨の炎が弾く。
岩盤の上のツナはぽかーんとそれを見ていた。
少しするとすぐに大岩が姿を表し、その勢いのまま彼らの頭上を飛び越えて落ちていった。
穴からあふれた溶岩は、のったりと壁を伝って溶岩の河に注いでいる。

「ふー、うまく行ってよかったのなー。」
「すごいや山本!かっこいい!」
「十代目、指示したの俺です!俺!」
「見苦しいですぅ獄寺さん…」
「えぇ、見苦しいわ」
「僕も同意します。見苦しい…」
「やっぱりそうだよね。犬的な何か。見苦しいよ。」
「うるせーぞてめぇら!仲良く果てろ!」
「極限だな!加勢するか!?」
「いらねぇ!」

「…あーあ、獄寺君と了平さんにお礼言い損ねちゃったよ。」
「くだらないじょ。」






岩盤は想像以上に厚みのあるものだったようで、溶岩の河の上に浮きながら
ゆっくりと流れに乗っている。

ふとツナが腕を見やると、
痣はいつのまにか腕から肩にかけて広がっていた。


「ひっ…!」
「どうかしたの、ボス?」
「痣が…!」
「…ひどいね…。」


そう言った髑髏の痣は、今は指先から肘まで伸びている。
恐らくは骸も同様なのだろう。
雲雀の首筋の痣は、今は頬まで。
ハルと獄寺のものは肩にかかり、山本の痣は恐らく背中の方に浸食を続けていると思われる。
ランボの痣は顔一面に紋様が走り、了平の頬の物は首にからむように伸びている。

「はぁ…どうなっちゃうんだろう、俺たち…。」
「大丈夫よ、ボス。」
「髑髏…。」
「みんな道連れだもの。死ぬときは一緒。」
「時々思うけど、髑髏と骸ってすっごい似てるよね。」
「骸様と一緒にしちゃいや。」
「…嫌と言われても…」

一行が溶岩の上をどんぶらこと流れていると、またある程度広さのある場所へと到達した。
そこは、形容するならばまさに溶岩の湖とでも言う感じである。
一面が崖であるが、一部分だけ崖がない場所があった。恐らくここからどこかへと溶岩が流れ出ているのであろうと推測される。
溶岩の明かりで天井がうっすらと見える。かなりの高さがあるようだ。


「行き止まりですね…どうしましょう。」
「どうし…ようもないのなーー…。」

ポカーンとする一行。
するとそこに、一旋の黒い風が巻き起こった。

「うわっ…。」
「やだぁ…!」

咽ぶ一行。彼らが再び眼を開けると、目の前には黒装束を纏いフードを深くをかぶった人影が中空に浮いていた。

「…何なの、君…。」
雲雀が探るように言葉を発する。
するとフードの人影は流暢に、歌うように語りかけて来た。


「はじめまして諸君…誰一人欠ける事なくここまで辿り着けたのは、君たちが初めてデスよ…。まさかこんなに幼い子達だとは思いませんでしたガ…」
「…もう一度言ってあげる。君は何?」
「おやおや自己紹介が遅れてしまった。ワタクシの名は…まぁ、名乗る程でもございませんネ。でも名前がないと不便、デスよね?仮に、アラダマとでもしておきまショうカ。」

「荒魂?…ケッ神気取りかよ、偉そうに…。」
「そう言うなって獄寺。きっと荒っていう名前なのなー。んで多分、職業はレーサーだ!サインくれるかな?」
「山本それ違うって…。これなら不幸満載状態の俺でも賭けられる。」

小さなやり取りなどには目もくれず"アラダマ"は続ける。





「フフフ、今一番大切なのは、貴方達がここまで誰一人として欠ける事なくこの"溶岩の湖"まで来たという事です。こんな快挙、いままでにどんな人間にもできはしまセンでした。正直、こんな幼い子供達が成し遂げるなんて思っていませんでシタよ。」
「…だから何だってんだよ、偉そうに…」
「あら、嬉しくはないのデスか?折角ほめて差し上げてイるのに…」
「…その口ぶりですと、僕らの以前にも同じ大冒険をさせられた連中が居そうですね。違いますか?」
「フフフ…えぇ、居ましたよ、たくさん!最も、最近ではあの祠群の転送装置に引っかかってくれるような方も居なくて退屈していたのデスよ。」
「退屈、ねぇ…ちなみに、この冒険はあなたの退屈しのぎの為に用意されたものなのですか?だとしたらこの痣との関連性は?」
「アナタは冷静な子ですネェ…面白かったでショ、大冒険…。痣はオマケ…いえいえ、冒険を面白くするスパイスみたいなもんデスよ。」
「なーんか胡散臭いのな…」
「はひ、ハルもそう思いますですよ。」
「サテサテ、ここまで来た皆サンは、ご褒美に地上まで送って差し上げまショ!」


そうして、岩盤の中央部分に9つの玉飾りが現れる。


「ソノ玉飾りを手に持って、帰りたい場所を願えば簡単に転移できマスよ…」

「はひぃ!これでやっとお家に帰れるのですね!?ハルはもう、随分と長い間ウロウロしていた気分なので、パパやママをブルーにさせていないか心配だったのですが…帰れるのならばノープロブレム、ドントウォーリィなのですぅ☆」
「…これでやっと帰れるわ…」
「ご褒美とか…なんか気に食わねーが、地上に帰れるなら問題ねーか…」
「とりあえず、気持ちよくひとっ風呂あびたいのなー!」
「極限腹が減った!」
「ランボさんもー!!」


「…どうしたの綱吉。玉飾りとりに行かないの。」
「あ、ヒバリさん…あの、なんか妙だなって。」
「妙?言ってみなよ。」
「えと、よくはわからないんだけど…なんか、これじゃダメな気がする…」
「…ふーん…」

そして雲雀はツナから一同の方に向きを変える。

「綱吉が帰っちゃダメって言ってるよ。」

「ヒバリさん!?」
「だってダメなんでしょ?」
「あ、あの俺、そんな気がするって言っただけで…」

「やっぱり、そう思いますか。」
「骸!?やっぱりって何さ!?」
「そのままですよ。僕もいけないと思っただけです。」
「そ…そう…。ちなみに、骸はなんでダメだと思ったの…?」
「…。」
「…骸?」
「………なんか嫌なんですよ、禍々しいというか、すっごいろくでもない気配がするんです。」
「…なるほどつまり、同族発見って事だね。」
「え、どういうこと!?」
「貴方に言われるとマジでムカつきますが、そういう事ですよ。加えて、地上に戻った時に本当に痣が消えてなくなる保証もありません。」
「そうだね、確かに僕もそう思うよ。痣が消えなきゃ本末転倒だし。加えて…本当に遊びだけでここまでやる意味がわからない。…気に食わないな。」

「フフ…子供はもっと可愛らしく無邪気でいいのデスよ…?」
「あいにく、背伸びがしたいお年頃なんです。説明をお願いします。」

「お断りします…と言ったら?」
「…っ!み、みんな、その玉飾りから離れて!」



ツナが叫ぶ。

同時に皆、玉飾りを放り投げ離れるが、髑髏が若干遅れを取った。
玉飾りから凄まじい量の黒い煙が放たれ、逃げ遅れた髑髏とアラダマの姿を隠す。

「髑髏ちゃん!」
「おい三浦!極限行くな!」

少しすると煙が晴れた。その時彼らの目に映ったのは、変わらずに浮遊し続けるアラダマと…それと、虚ろな眼をして立っている髑髏だった。

「髑髏ちゃん、よかったです…!」
「いい訳あるかよバカ女、最悪の状況に近づいてやがる!」
「はひ?ハルはバカじゃないです!」


ハルがそう言った直後、髑髏は槍を構えて飛びかかって来た。
獄寺はとっさにハルを庇い、山本が髑髏を羽交い締めにする。
これで髑髏は動けない。

「危なかったのな!」
「髑髏ちゃん…どうして!」
「うるせぇ!いいか、あの虚ろな目は、幻術に当てられた奴の目だ!今の髑髏は多分正気じゃねぇ!」



「やられた…!」
「ぬん、極限どうしたナッポー1号!」
「…人を操るなんて、誰でも簡単に出来る事じゃないです…。このアラダマとやら、何者…?いや、これは幻術…?だったら…」
「それは色々困ったね。でも、うかうかしてられないんじゃない?」


雲雀はそう言い放ってあさっての方角を見る。視線の先には何もない…
……否、あるはずのもの…周囲を囲んでいるはずの岩壁がない。つまり、溶岩が流れ落ちて滝になっているのである。


「まだ距離はあるけれど、しばらくしたら確実に落ちるね。」
「こりゃぁまずいのな…!」
「…は、はひぃ…。ハルはもう頭ホワイトですよ…!というか、今回はもう本当に落ちすぎです…。」
「そうだね、もうスーパーマリオやりにくいよね。あとカービィの洞窟大作戦。」
「委員長さんは本当に落ち着いていますですよ…色んな意味で尊敬です……。」




「やい、アラダマとやら!これは一体どういう事なんだよ!髑髏に何をしやがった!」
獄寺が叫ぶ。

「いえいえ何も…ふふふ」
「何もしていないだって?どこをどうみたらそう見えるってんだよ!」

そうしているうちに山本を振りほどき、槍を構えなおした髑髏が向かって来る。


「げ!」
「きゃ!」


ガキィン!
それを受け止めたのはツナ。いつものグローブと額には死ぬ気の炎が灯っている。
超死ぬ気ツナは槍の柄を握るとそのまま一歩前に進み出て、髑髏の首すじに手刀を当て昏倒させた。

「どうやらお前が今回の騒動の主犯のようだな。」

ツナはそう言うと地を蹴り"アラダマ"へと向かって行く。
アラダマは空中で身をよじって、ツナが岩盤の端へ向かうようにしようとするが、飛行する事ができるツナにとっては何という事はない。



「ヘェ、飛べるのデスか…。それにしても、貴方の灯す炎は厄介ですね…」


見ればアラダマのローブの端は軽く焦げていた。どうやら避けた時にツナの炎の飛沫が当たったらしい。

アラダマは空中へと舞い上がる。ツナはそれを追いかける

「逃げるつもりか」
「いえいえ…ところでお仲間はあのままでよいのでしょうか…ネ?」
「…」

ハル達皆の乗った岩盤は、ゆっくりであるが、確実に沈みはじめていた。
アラダマの出した宝玉はゆっくりと転がり、一つ一つ溶岩の中に転がり落ちてジュっという音を立てて消えて行く。

ツナの顔に困惑の表情が浮かぶ。

「はひぃぃぃっ!傾いてます傾いてます!いつもより多めに傾いてますジャックポッドでフィーバーフィーバーです!」
「慌てるんじゃねぇ、落ち着けアホ女!十代目、ここは俺たちに任せて下さいっ!」

獄寺がガッツポーズをするのを見ながらツナは首を傾げる。

「…どうするつもりだ?」
「こんだけ頭数居りゃどうにかなりますよ十代目!」
「…」
「……!綱吉君後ろ!なんか来ます!」



「さァネ…ところで余所見しているなんて妬けるじゃないデスか!」

アラダマの周囲が歪み、黒い炎が発生し空中で球体となりツナへと向かってくる。
ツナは辛うじて避けるが、かすった服の一部が妙な煙を出して消え去っている。
お互い、炎が弱点のようだ。

ツナの避けたアラダマの黒炎球が、対岸の崖にぶつかり、崖の一部が崩れた。
それにより溶岩の大波が生まれる。
仲間の元へと戻ろうとするツナへ向けて雲雀が叫ぶ。

「このくらいの波ならどうにかなるから、君はあっちへ集中しなよ!」
「でも…!」
「まだ岩盤は殆ど沈んでないから大丈夫!それよりも2撃目を防いで。」


ツナはアラダマへと向き直る。

「サァ、楽しい遊びのはじまりですネ…!」