ツナと王様の空中戦を見ながら、山本が呟く。


「もうすぐ溶岩の波が来るけど大丈夫かな。」
「大丈夫だよ、たぶんね。」
「…ツナに向かって自信たっぷりに言いはなった割には適当なのな、雲雀。」
「このくらい岩盤が大きかったら簡単には沈まないと思うよ。」
「ちなみに、2発目が来たらどうなるかな。」
「さぁ、沈むか僕らのうち半分くらいは死ぬんじゃない?」
「…。」
「たぶんね。でもそれで生き残っても溶岩の滝から落ちて死ぬと思うし。」

「えと、ちなみに獄寺は何か思いついたのか?」
「いや、何も。」
「…。」
「山本さんが言いたい事、ハルはとってもわかっていますですよ。」
「すごいではないか!俺は極限わからんぞ!」
「ランボさんねむたぁくなってきたぁ…」

「…。」
「髑髏、目が覚めたようですね。」
「…骸様?わたし…」
「ねぇ髑髏。」
「?」
「僕ね、僕ッ…! こいつらと一緒に居て生き残れる気がしないですぅ…っ。」
「…大丈夫、今に始まった事じゃないわ…。」




そうこうしているうちにツナとアラダマとの戦いは熾烈を極める。
一進一退の空中戦が続いていた。

「ラチがあかないな…"オペレーション・X"」

ツナが空中で姿勢制御をとりはじめる。
アラダマは急に攻撃頻度を下げたツナを訝しむ。そして、ニタァ…と嫌な笑みを浮かべた。

そしてXバーナーが発射した直後、ツナの頭に何かが多いかぶさり、視界が真っ暗になった。
そして腕に何かがぶつかり、照準が狂う。


「…ッ!?」





ツナがXバーナーを中断してその何かをひっぺがす。それはー


「ムクロウ!?腕にぶつかって来たのは小次郎…!?どうして……!?」

ツナはハっとして意識をアラダマへと向けた。
アラダマの周りにはまだツナの放った炎が漂っているが、ダメージを与えた訳ではないようだ。

「…防がれた…のか?」

「随分と危険な技をお持ちですネェ…」
小次郎の体当たりにより外れたXバーナーが崖を削って発生した煙幕が晴れる。その隙間から見えて来たのはほぼ無傷のアラダマの姿だった。
しかし、ちらちらと垣間見えるのは青とそれから、紫の光。

「お前、黒以外の炎も扱えたんだな…」
「いえ、できまセンよ、そんな事…」
「?」



岩盤にて

「…おい山本!」
「あれー、何か変な感じなのな、力が入らない…」
「妙な感じだね。頭がぼうっとする…。」
「はひ!?委員長さんもですか…?」
「ねーねー、なんでヤマモトとヒバリのアザ光ってんのー?」
「え、ランボちゃん…は、はひぃぃぃぃ!?」


「ふふふ…」
「…ッ、まさか!」
「私は自分で炎を扱う事はできまセンが、"眷属"の炎なら幾らでも扱えるのデスよ…!そして、私自身眷属の炎を用いれば体を修復する事もできマスし…!」
「眷属?」
「"契約印"をお持ちでショ?」


そう言ってアラダマは自分の腕を指差す。ツナの体の同じ箇所にあるのは蝶のアザ。アラダマの口元に刻まれた笑みはどんどん深くなる。


「貴様…ッ!」
「今のがが当たっていたら危なかったですネェ。折角ここまで来られるだけの資質を持った眷属を早速潰してしまう所でした。」

死ぬ気の炎は生命力の一種だと言う話が脳裏をよぎる。
ー疲労が積み重なっているこの状態で無理やり奪われた炎ー
ツナはスっと青ざめた。

「しかし、折角良質な炎が…こんなに手に入ったノだから、派手に使ってみるのも悪くはないのかもしれまセンね!」

「や…やめろっ!」


ツナがアラダマに食って掛かる。
しかし、勢いよく殴り掛かったそれは、藍色の炎をあげて霧散した。

「…楽しませて下さいよ…?」
ツナは上空に現れたアラダマを思い切り睨みつけた。








「あんにゃろう…卑怯な事しやがって…!」
「さっき程じゃないけど、体力ガンガン消費してる感じなのな…」
「ランボさんなんだか疲れたもんね…!」
「だめ…ぼうっとする…」
「はひー!大丈夫ですかみなさん!」
「黙れアホ女…」
「ハルはアホじゃないです!」
「そうだぞ極限だ!」
「それも違います!」
「元気だね君達。」
「そ、そういう委員長さんだって結構ピンピンしてるじゃないですか!」
「多分それ、炎の量か体力の差じゃないですかね」
「はひ…ムクロさん顔真っ青ですよ!」
「…僕、体力の無さなら誰にも負けない自信ありますよ…。」
「それ誇っちゃダメですよぉぉぉお!」
「僕、短期決戦型なんですってば…。だいたい、ついこの間まで引きこもりの漬け物にされていた僕に体力なんてあるわけないでしょ…。」
「軟弱だねパイナッポー。」
「その軟弱者に負けた貴方も大概ですよね。」
「言うねナッポーのくせに」
「言いますよたかがアヒルごときに。」

雲雀と骸が無駄な所で火花を散らしていると




「おい!極限にやばいぞ!」
「なんだよ芝生…っ!」

いつのまにか、流された岩盤は溶岩の滝のすぐそば、30mくらいの所まで来ていた。

「ヤバいなんてもんじゃねーな…!あれに巻き込まれたら今度こそ俺たち全員お陀仏だぞ!」
「…獄寺ちぬの?ねぇねぇちぬの?ギャハハハハ!」
「うるせぇアホ牛!縁起でもねぇ!」

「クッパ城のマリオとかヨッシーもこんな気持ちだったのかな。」
「…そういえばカービィは迫って来る溶岩に追い立てられた後、火山の噴火口から脱出して踊ってましたよね…もしくはランチタイム。」

「…。」
「ん、髑髏どうした?向こう側のガケに何かあるのか?」
「うん、あの崖の真ん中あたりなんだけど…」

髑髏が言う崖の中腹。そこは崖崩れでもあったかのようにえぐれていた。恐らく先ほどのツナがXバーナーを弾かれた時にできた崩落なのであろう。
その崖の崩落は下に小さな瓦礫を沢山抱えていて、まるで溶岩の湖の中において唯一の砂浜のように見えた。

「あそこなら降りられそうだけど結構距離があるな…。」
「ううん、違う。そのもっと左上。」
「左上?」

山本が顔を上げる。
そこは崩落の途中、中途半端になっている岩壁があった。

「…真ん中に家くらいの巨岩があるな。」
「うん、あの巨岩の下…比較的小さな岩が幾つかしかないから…落とせば崩れて来るかも」
「でもよ、落としたらまた大きな波が来るんじゃないのか?」
「…上手に岩を壊せたら、砂浜みたいな所に落とせると思う。そしたら転がりながらあっち側にゆっくりと沈んでいくと思うの…。」
「でも、こっちに来たとしてどうするんだ?どの道ここからじゃ何もできないと思うけ「いいねそれ。やってみようか。」

「ひ、雲雀!?」
「とりあえず岸につかなきゃどうにもならないでしょ。沈没の心配をしながら次の事考えるなんてナンセンスだし。ところでナッポー2号、君はどうやってあの 巨岩を支えてる石をどかすつもりだったの?」
「…えと、んっと…あ…」
「考えてないんだ。」
「…。」
「そう。じゃぁ仕方ないね。」

「じゃぁ獄寺さんが投げればいいんですよ、ダイナマイト!」
「…言ってくれるぜアホ女。ダイナマイトなんて使ったら、岸に岩を落とすために残しておきたい支えまで吹っ飛ばしちまうだろうが。それに一体誰があそこま で投げ…」

獄寺は、ここまで言ってふと山本と目が合った。

「俺、投げよっか?」
「いややっぱダメだ!ダイナマイトじゃ破壊力があり過ぎる!」

「…やーい、バカ寺のアホ〜!ぎゃはははは!」
「うるせぇ黙れアホ牛!」
「ぎゃー、アホ寺が怒った怒った!」
「なぁ獄寺…」
「あぁ?考えてるんだ、黙れ野球バカ!」
「いや、ランボの花火でも強すぎるのか?」
「手榴弾…?」
「なになに?ランボさんの欲しいのぉ??ヤマモトが欲しいならランボさんあげちゃうんだじょ〜?ランボさんいいやつだもんね!ガハハハ!」
「…わかんねぇけど…」

「わかんないなら、やってみるっきゃないよね。」
「失敗したらその時…だよな。」

山本が手榴弾を受け取る。そしてピンを抜いて…

「行くぜ!山本流大リーグボール!」






そうして広場には轟音が鳴り響いた。
爆発で削れた岩による土煙が舞い上がっている。


「やった…か?」
「…いや、傾いただけ…なのな…。」
「でもでも、大分吹っ飛んでるじゃないですか!あと…もう支えてる岩いっこですよ!…あれれ、なんで微妙な顔してるんですか?獄寺さん?」
「やりにくくなっちまったな…」
「はひ?」
「見ればわかるだろアホ女。野球バカの力でもう一度あの岩を狙ったとして、それじゃぁ威力が強すぎる。手榴弾じゃなくてもだ。ダイナマイトなんかもっての ほかだな。」
「ねぇそれ、僕がトンファー投げてもダメかな。」
「当たれば問題ねーだろ。つかそもそもあそこまで投げられんのかよ。」
「むり。」
「…最大の問題はよ、あの岩以外に当てられないってことだ。あの瓦礫の砂浜に落として、反動で転がして溶岩に落とさないといけないのに…!」


一行を載せた岩盤が傾く。


「マズイですね…滝にのまれる前に僕らが沈没って流れもアリといえばアリ…です…。」


「…みなさん、そのへんに石ないですか?」
「ハルちゃん?」
「ガハハ!ランボさんみつけたもんねー!ハルほしいの?」


ハルは髪をまとめていたゴムを解いた。
そして少しだけ確かめるようにびよんびよんと伸ばした後、指に引っ掛ける。

「おいアホ女、それって…」
「見ての通り即席パチンコですよ。」
「え、それで石飛ばすつもりなのか?」
「当然なのです!」
「でもハルちゃん、ヘアゴムのパチンコじゃ…あそこまで飛ばないんじゃ…」
「ノープロブレムなのですよ髑髏ちゃん!このヘアゴムは、リボーンちゃんのお友達のヴェルデちゃんとかいう方が開発したらしい特殊伸縮強化ゴムなのです よ!具体的には72ゴムゴムくらいまでなら対応しているようなのです!」
「72ゴムゴムって何だよ!」

「まぁとりあえずこの威力をご覧あれ、なのですよー☆」


ハルはランボから受け取った小石をヘアゴムパチンコにセットして照準を定める。
そして放たれた小石。
キィンと空を切る音がしたかと思えば、ガケに小さな土煙を発生させていた。

「すごいなハル!今一瞬岩が動いたぞ!」
「すごいではないか!まさに極限だ!」

「ふふん、当然なのです!さぁ他に小石はありますかね?」






その後は、ハルがひたすらパチンコで岩を狙い、次期ボンゴレを担う(かもしれない)守護者たちが小石を探したり、岩盤を削ったりしながら玉づくりに励む シュールな光景が見られた。






しかし…


「ああああああん、もうダメなのですよぉぉ!」
「ハル?」
「見てください山本さん!」
「岩か?大分傾いたじゃないか。」
「でももう無理なのですよ!当たっても力が足りないのですよぅ!」
「?もっと大きな弾が欲しいってことか?」
違うのですよ、見ていてください!

ハルはパチンコに小石(弾)をつがえる。
そして放った。
小石はまっすぐに岩へと向けて飛んでゆき…はじけた。

「なるほど…この岩盤の欠片では強度が足りないんですね?」
「そういう事です、ムクロさんさすが!」
「でもよ、ハル…この岩盤の欠片、ボタンとかよりもよっぽど根性あるぜ?これよりも硬いものなんて…」





一同沈黙する。
もう飛ばせるものがない。せっかくの希望が潰えたかに見えた。が。



「…あるよ。」
「髑髏ちゃん!本当ですかぁ!?」

そう言って髑髏は左中指から霧のボンゴレリングを引きぬいた。

「はい。」
「へっ!?ど…髑髏ちゃ……!?」
「使って。」
「でも…!」
「どうしたのハルちゃん、これはレプリカよ?」


髑髏はリングを差し出す。


「髑髏。」
「…骸様…ごめんなさい。でも、私にはいい方法が思いつかないし、本物を使うわけにはいかないから。」
「…復元は無理ですよ。そこまで精製度の高いリングは簡単に作れません。」
「ちょっと惜しいけど…でもいいの。本物を守るためにこそ、レプリカはあるべきだわ。」

「髑髏ちゃん、本当にいいんですか?大事なもの、なんですよね?」
「大事よ、とても大事。」
「帰って、こないですよ?」
「知ってる。」


ハルは髑髏の手のひらのリングをまじまじと見た。
凝った意匠の、女の子が持つにはだいぶごつい装飾の銀色の指輪は、溶岩に照らされて赤く、美しく輝いている。


「やっぱり…髑髏ちゃん、もうちょっと考えたらきっと…」
「時間なんてない。私達がここから動かなきゃボスは安心して戦えない。」
「でも…」
「私信じてる。」
「はひ?」
「ハルちゃんなら、きっとうまくやってくれるって私信じてる。大事なリング、無駄にしないって信じてる。」
「あ、でも、そんな期待するほどじゃ…」
「大丈夫よ!あそこまでいったんだもの、あと一息!」
「えと…」


髑髏は、ハルの手のひらに無理矢理リングを握らせる。


「言い逃げみたいでごめん。でも私、ハルちゃんなら出来ると思う。信じてる。ハルちゃんを信じる。それが私の覚悟。」

「髑髏ちゃんの、覚悟…。」

ハルは一瞬呆けた顔をした後、きゅっと眉間にシワを寄せた。



「髑髏ちゃん、ハル…がんばるですよ…!」