かみ殺されたツナは了平にかつがれている。
しばらくすると目の前にまた、抜け道が見えてきた。


「おいてめーら、あそこに行くんで問題ねーな。」
「なぁ獄寺、問題はないんだけどさ、」
「んだよ野球馬鹿。」
「ちょっと、抜け道の入り口で休憩しよーぜ?みんな、さっきの騒ぎで皆かなりバテバテだ。」
「情けねーな、蛾ごときで。」
「…でもよ、ツナじゃなくてもさぁ…アレは来るぜ、精神的に…。」
「理解は、できる。」


ツナが蛾を追い払った後。彼らが歩いて来た道は、正に死屍累々という表現が正しかった。
一帯には生き物の焼けた匂いと、植物の…おそらくはキノコが焼けた際の毒々しい香りが漂っている。
見事に焼けた蛾や幼虫。難を逃れたが半焼けになって喘ぐ蟲。そして、動けなくなった蟲達を喰らう、生き残った蟲達。
死骸や動けない蟲の躯を喰おうと取り合って、いろんなモノをぶちまけながら戦う蟲。
てらてらと光を反射しながらゆっくりと流れる体液に、その辺に散らばっている臓物や、よく分からないぐちゃぐちゃした物体に、よく分からない方がよさそう な液体で湿っている地面。
漂う生ぐさい香りが鼻の奥から妙な気分を呼び出してくる。
とどめに、巨大蛾の翅が風に煽られ目の前をかすめて行けば鬱な気分にもなるだろう。

「よし、抜け道の前でちょっと休憩。吐きたいヤツはあっちの方で吐いとけよ。」

いつもは何かと騒がしい彼らが、珍しく静かだった数少ない時間である。











そしてしばらく休憩し、ツナも目覚めた後。

「おーし出発するぞー!」
「うるさい…」

山本の声に、雲雀が文句を言いながら一行は抜け道に入る。

「また下り、だねぇー…。」
ツナが鬱な声を出す。

「ん?ツナ、イヤなのか?登りよりはマシじゃね?」
「うー…それはそうなんだけどさぁ。」
「けど?」
「…そろそろ足痛いしさぁ。」
「つまり弱音ですか。軟弱ですねぇ。」
「うるさいなぁ!そういう骸は平気なんだ?体力あるねぇうらやましーい!(棒読み)」
「そんな事ないわボス。さっきね、すごいヘバり方してるの見たもの。」
「こら髑髏!」
「へぇー、そうなんだ!ふぅ〜ん!」
「…弱音吐かないだけマシでしょう。」

先ほどの部屋で、かろうじて生き残っていた光るキノコを少しだけもいで明かりの代わりにしながら、彼らはまた下り坂を降りてゆく。

そして。





ゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオォォォォォ!!!






「うわぁ!」「きゃ!」「うお!」「はひぃ!?」
「おい何だ?」「なに?」「あららのら?」「おおっ?」「ぬおっ!」


鳴り響く轟音とともに地面…抜け道が揺れる。


「くぴゃぁ!じしんだ、じしん〜!!ゆれゆれ〜〜!」
「はひっ!?地震ですかぁ!?」
「ハルちゃん…!」
「うわ、嫌なのな…。」
「…そうですね、そろそろアザの不運がぶり返してきそうですし。」
「僕、すごくイヤな予感がするよ。」
「俺も…。」
「十代目も…ですか。超直感っスか?」
「わかんないけど…。」


地面の揺れが収まる。
しかし、轟音はやまない。そして、再びまた地面が揺れる。
しかし、今度は先程のような不規則的なものではなく、もっと規則的である。


「ねぇ、この地鳴り…何かおかしいとは思いませんか?」
「何がって言われるとわかんねーけど……確かにヘンだな…。」
「ヘンなのはバカ寺の頭だじょ。」
「うるせぇぞこのクソ牛!」
「なぁ獄寺、あのさ…」
「だまれ山本!」
「いや、その…抜け道の入り口って、どうなってたかな…ってさ…。」
「入り口?」
「えっと…。」
「確かですねぇ、ハル達が入った後、蟲が来たらイヤだよねって話になって…」
「みんなで、塞いだわ…、転がして…大きな…」



ゴゴゴゴゴゴゴ…




轟音は近づいてくる。


「私たちの背丈よりももっと大きな岩で…」


クロームの声は轟音にかき消されていた。
しかし、皆まで言わずとも彼らは理解していた。

そう、蟲とキノコの空間を後にする際に、彼らは巨大な岩を全員で転がして運び、通路の前に置く事で道を封鎖したのだった。
そこへ偶然の地震である。
加えて言うのならば、ここまで全て下りだ。
そしてそれは…言わずもがなである。


真っ青になったツナ一行は、一目散に全力疾走を開始する。

「うわぁぁぁぁぁ!!!!俺たちいま超不幸のドン底なの、忘れてたよぉぉ!なんであんなバカな事しちゃったんだよーーーーーなにこのリアルイ●ディ・ ジョーンズ!!!!」
「落ち着け沢田!あんな岩、俺の拳で粉砕してやるぞ!」
「お兄さん、さっすがぁ!!!」
「ダメですってば!」
「なんでさ骸?」
「今はまだ見えませんが、岩はすごい回転をしているはずですよ!触ったら巻き込まれて右腕を失うどころじゃありません、全身スプラッタです!」
「うわわわわ…」
「ぬん…それは、極限イヤだな…。」


「そうだ、こんな時こそランボの花火の出番じゃね?」
「くぴゃ?」
「それもやめた方がいい。」
「雲雀?」
「手榴弾って、爆発で破片を吹き飛ばして相手に傷を負わせるものだし。破壊するつもりなら火力が足りないよ。」
「…獄寺の花火は?」
「それはわかんないや」「うるせぇ、準備中だ!」
「はひ!?てことは、獄寺さんはもうスタンバイですね!」
「そういうこった!いくぜ、果てろ!」


一行はボムを仕仕込んだ後に安全な場所…として、30〜40mくらいの距離をとった。道は直線なので身を守る物はないが、弾くなりなんなりの対処は出来る 距離である。

そして、大岩が視界に入る。






「………3…2…1…Fire!」



かけ声と供に仕掛けが作動し、ボムが爆発する。
獄寺のボムは見事にヒットした。
爆音とともに、一行を熱風が襲う。



「うわっ…煙…!」
「すみません、十代目…げほっげほっ…。」

「岩…なくなった、のか?見えねーな…。」
「…?」
「はひ?髑髏ちゃん?」
「ねぇハルちゃん、爆発の音って一回だけだよね?」
「…あれ、そう言われてみれば、なんかいっぱいしてますね?」
「反響…じゃないよね。なんだろこれ、爆竹みたいな…。」

「…もしも僕の予想が当たってるなら…逃げた方がいいかも。」
「雲雀さん?」
「綱吉、ここが地底だって事はわかるよね?」
「はい。」
「地震で何が起こるかはわかる?」
「…くずれる、とか。」
「その逆もあるんだよね。」
「地形が変わる、みたいな?」
「そう。そして、それらの起こる地形の多くは…」
「…。」





轟音の中に、はち切れるような音が混じりはじめる。
そして、一気に気温と湿度が跳ね上がる。



「…こんなのって…アリかよ!?」
「り…流砂の時点でおとなしく死んでおけば良かったんじゃないかな、僕…。」
「何だ!あの極限に輝く壁の紋様は!」
「む、むくろさま、あれって…もしかして…。」
「はひぃぃぃぃぃ!!!!」

「綱吉、覚えておきなね。地震で地殻変動の起こる場所、その多くは…火山だって事!」







轟音を従え、闇を切り裂き黒い壁に無数に走るは、紅く煌めく血管の如き樹脈紋様。
それらは地鳴りの時間に比例してどんどん拡大している。



「花火が引き金でこんな事になるとかマジありえねー…でも、まだラッキーなのな!俺たちの進路は無事だし。」
「そ。そうですよね!ハルたちウルトララッキーです…。」


「とりあえず…みんな、走れぇぇぇぇぇえ!!」






ツナの号令を聞くまでもなく、皆走り出す。
後方ではダイナマイトで壁が崩落して止まっていたた大岩が、再びゆらりと動き出す…。

「おい沢田!さっきの岩だが…」
「知ってますよ、お兄さん!」

大岩は、再び転がりはじめる。今度はそのボディに溶岩を纏って。
大岩の後では、ついに通路のカべが決壊して溶岩が追いかけて来る!


「くぴゃぁーーー!!なんなの、映画みたぁい!くぴゃー!」
山本の頭にへばりついているランボが黄色い声を上げる。

「UZEEEEEEEEEEEE!滅べ!消えろ!牛の丸焼きになりやがれぇぇぇぇぇ!!」
「ははーー!!俺たちもまとめて丸焼き候補、みたいなーってかー!」
「その冗談縁起悪すぎですよね!まったく、少しは空気を読みなさい!この愚か者!」
「愚かなのはキミでしょ。焼きナッポーなんて今時流行らないよ。」
「黙りなさい、あなたももうすぐほかほかの北京ダックですよ!」
「焼きナッポーよりは高級じゃない?確定で。」
「上海万博の卓上に並んでなさい!」
「願い下げだね!」

「ああああああああのですねツナさん!」
「ななななに、ハル!」
「どど、どこまで下ってるんでしょうかね!この坂道は!」
「ささ、さ、さぁ?」
「も、もも、もし、ちなみに、行き止まりだったらぁ…あぁぁ?」
「えっと…そそ、そんな事考えちゃ…ダ、ダメだよ!何か楽しい事かんがえよ!薫製食べたいとか…あぁこれアウトじゃん!何かないの何か!たのしいこと!」
「なら歌うか!?まーるかいて野球、まーるかいて野球、まーるかいて野球、俺山本ー。」
「俺たち人間だし!歴史作る方だし!他にないの、もう!」
「え、えーと…ふそそそそそそ…なのなー…」
「おまじないは いらないよ!」
「綱吉君僕ありますよ、楽しいの!」
「え、マジで!」
「はーたふってはーたふって、はたふってパレーd …むぐっ」
「靴ひもが結べなくたって、置き去りにするだけだからな!!」
「大丈夫ですよ、僕マジックテープですから。」
「うっそぉ!」
「財布ですけどね!」
「おまえ日本人だろ、空気読んで発言を慎め!」
「無駄です、僕威圧感で会話できない。」
「されてたまるか、ばかぁ!」




ツナがそう言った直後、轟音がさらに増す。
背後から流れる溶岩の量がこころなしか増えた気がする。





それでもなお、道は下り彼らは走り続ける…。


「はぁっ、はぁ…」
「髑髏!」
「ボス…。」
「だいじょうぶ、きっとそろそろ出口だよ。がんばろう!」
「うん…。」

「ええい!」

「芝生!?」「了平さん!」
「このままではラチがあかん!俺が岩と溶岩に一発お見舞いしてくれるわ!」
「お兄さんだめぇぇぇぇ!そんな無謀なことしたらダメですってば!」
「止めるな沢田!逃げるなど俺の性に合わん!死なばもろともだ!」
「ダメダメ!溶岩に勝負を挑んでも相手にされませんってば!シカトされてごちそうさまですよ!千年後に化石になって研究されるだけですよ!?」
「構わん!殴らんと気がすまん!」
「だからダメだって…えっと、だいたい、火傷したら京子ちゃんに何て説明するつもりなんですか!」
「何!」
「そうですよね。困るよね!」
「うーむ…」
「(あぁぁ…何で俺、全力疾走しながらこんな無茶な会話してるのさ…!)」
「決まった!」
「へ?」
「思いついたぞ!京子には、かめはめ波が打てたから怪我をしたという事にするのだ!」
「はぁーーー!!?」
「馬鹿じゃないの?」
「雲雀さん!なんというまさかの助け舟!」
「どどん波こそロマンじゃない。」
「微妙なのきたーーーー!!!」
「微妙って何さ!餃子(チャオズ)かわいいじゃない!きみはほんとに分からず屋の草食動物だね!」
「いや、だってさ…」
「何言ってやがる!ロマンは太陽拳(クリリンVer)だろうが!」
「獄寺君まで!しかもさらに微妙!」
「俺は天津飯派なのな!」
「ダメよ…天津飯じゃ、サイヤ人と戦えないわ…。」
「ちょっとそこの連中!偉大なるピッコロ大魔王を忘れるとは何事ですか!」
「はひーー!!解説係は論外ですよ!ハル的にはミスターポポさん素敵だと思うんでーすよぉー!」
「ちょっとみんな、ヤムチャの事も思い出してあげてぇーーー!ってゆーか、なんで"あの漫画"の事叫びながら溶岩から逃げないといけない訳!イミわかんな い!」
「いいじゃんツナ。皆でDB語って楽しく……れっつごー、とかな?」
「いくない!どこにれっつごーすんのさ!三途の川?集◯社?グルメ界?箱庭学園?どこだって無茶だ!」
「俺的には大航海時代がいいのな!ひとつなぎの大秘宝を探すんだ!」
「それダメ!悪魔の実ナシとか、どんなハンデ!」
「何言ってるのさ山本武。人柱力の忍者に勝負を挑むんでしょ。」
「それも違うよね!その前に螺旋丸の餌食だよ!」
「ねぇ綱吉君、卍解って素敵ですよね!」
「崩玉でサッカーして斬り殺されればいいよお前!」
「ボス…私、異世界の私達に会ってみたいな…?」
「それ色んな意味で絶望しそうだからやめて!」
「十代目!俺、魔界探偵事務所に…」
「獄寺君ドMだっけ!」
「ランボさんねぇ、宇宙で万事屋さんしたいのぉ!」
「地球人どころかイタリア人で手一杯なのに天人とかもうマジ勘弁!」
「ハル的には、もう少しお色気が充実してもいいと思うんですよ!」
「このむさ苦しいメンツでパンチラロマンなToL◯veるはキッツイと思うんだ俺!…というか、みんな言いたい事言いすぎでしょ、もう!全力疾走で頭おか しくなってるの!!?…ぜぇ、ぜぇ…」
「まさに極限!」
「お兄さんピッタリのセリフをありがとうだけど、うれしくないよ…はぁ、ぜぇ、はぁ。」


「なぁツナ!ちょっくら空気の流れが変わったぞ!」
「あら。そう言えば流れが変わりましたね。って事は、この先がどこかに合流しているという事ですね!」
「…やったぁ!もう…ちょっとだ!」




そして、息もからがらな彼らの目の前にはぽっかりと空いた出口が見えた。
だがしかし…彼らはその出口で立ち止まる。






「はひぃ!?道がないって…どういう事ですか!!?」
「しかも溶岩道だね…逃げ場がないよ。」
「う…うわぁぁぁぁぁ!!!どうしようどうしようどうしよう!!やだよ俺死にたくないよ!」
「ボス…」

通路の先は渓谷だった。眼下には溶岩の川が見える。
ツナ達が居るのは丁度壁面の穴である。
大きな岩盤が若干出っ張っていて、その上に居る形だ。
多少の広さはあり、大岩をやり過ごす事はできそうだが…溶岩が来たらアウトである。


「せっかくここまできたのに…!!」


絶望する一行に、大岩と溶岩が容赦無く距離を詰めてくる…!