———ここはどこなんだ?冷たい…寒い。
———なんだか不安定だ。あぁ、俺は浮いているのか。
———俺は死んだのか?今は三途の川を流されているとかなんかそんななのか?
———だとしたら死ぬってのは思ってたよりもヌルイもんだな。
意識の水面をたゆたう獄寺の目の前に、獄寺の3倍はあるかと思われるグロテスクな魚が現れる。
———あー、俺また死ぬのか?…なんかそれ面倒だな…。
そんな事を考える獄寺に近寄るのは"誰か"の影。人影はまじまじと獄寺を見つめたあとに、とぷんと音を立てて潜った。
◆◆◆
「…うぉあぁ!」
「あ、獄寺も起きたのなー。」
「寝すぎじゃないの。」
「それは極限沢田ではないのか?」
「言えてますよね〜。」
「ツナってば、ランボさんが起こしてあげても全然起きないんだよ〜。」
目覚めた獄寺に、そこに居た面々が好き勝手に反応を返す。
獄寺は頭がぼうっとして思考が追いついていないようだ。無理もない。寝起きである。
「…ここはどこだ?何でてめーらが居るんだ?…俺は死んだのか?」
「それってどうでもよくない?」
「いや雲雀、そこをどうでもよくしちゃダメなんじゃね?だって死んでたら暴れらんねーよ?」
「…。」
山本の言葉にきょとんとした雲雀は、おもむろに自分の脈を測りはじめる。
「さっきまで特に気にしてなかったけど、僕はなんか生きてるっぽい。」
「じゃー多分俺も生きてるのな。」
「僕だって死んだ気はしてないですから生きてます。たぶん。」
「俺は極限死なん!」
「ランボさん無敵だから死なないもんね!」
「何でてめーらそんなに軽いんだよ!」
獄寺のツッコミは誰の意識にもとまらなかったが、この場合非常にまっとうである。
「…で、結局の所ここはどこなんだ?」
見渡せば相変わらず周囲は暗い。
足下には巨大な岩がごろごろとしている。
彼ら一同はそのあたりにあった流木を集めてたき火にしているようだ。今だ目を覚まさないツナもそこに寝かされている。
ここはどうやら巨大な空洞であるようだ。目の前には巨大な地底湖があって、どうやら彼らはそのほとりに居るらしい。
彼方では遥か上空から湖へと、とめどなく砂が流れ落ちていた。そのあたりだけ湖の水が濁っている。
よく見れば(見なくとも)獄寺を含めて全員パンツ一丁という愉快な姿である。まぁ、全員地底湖に落下した事を考えれば納得も行くが。
ちなみに、服は近くの岩の上で干されていた。
「そうか、流砂の下が空洞になっていて、湖があったから助かったのか…。」
獄寺が湖に目をやると、そこには巨大な魚がいた。
「うぉあぁぁあ!、もしかしてさっき俺の事食おうとした魚!?」
「あら?あの時意識あったんですか?」
「は?どーゆーことだよ!」
「どーもこーも、お腹がすいてたので食料調達を兼ねてその辺を泳いでいたら、気絶したあなたを発見したので魚を仕留めるついでに連れて来てあげたんです
よ。」
「なっ…!…というかお前泳げたのか?」
「失敬な。いも虫のごとく拘束とかされてなければ素手で魚捕まえるくらいの泳ぎはできます。バカにしないでください、サバイバルは逃亡者の常識です」
「想像つかね−な。」
「そっかぁ、獄寺も助けられてたのな。俺も助けられちゃってさ。そんでさっき目を覚ました所なんだ。了平さんは落ちた時意識があったから、そのままたき火
の火をめがけてここまで全力で…いつぞやのプールの時みたく華麗に泳いできたらしいけど。」
「獣か!」
「だよな、なんかワイルドでかっこいいよな!」
ランボがてぽてぽと尋ねる。
「ねぇねぇ、ハルはぁ?居ないの?」
「そういや…」
「居ねーな…。」
「髑髏とハルさんなら、向こうの岩場の影に居ますよ。」
「へぇ、どうかしたのか?」
「全身砂まみれになって気持ち悪いから水浴びしてくるって言ってました。」
「あぁ。」
「確かに、気持ちわるいのな…。」
とかいう話をしている最中。
彼らの後ろから声がした。
「うぅ〜ん…。」
「あ、ツナ!起きたのな。おはよーさん。」
「あぁー山本おはよう…って、ここどこ!?真っ暗なんだけど!!??」
目覚めたツナはきょろきょろとせわしなく目と首をを動かす。
そこに、ゆっくりと立ち上がったのは雲雀と骸。
「状況は説明してあげたいと思うよ。うん。そりゃぁ僕だってそこを省略しようと思うほど鬼じゃぁない。でもその前にね、僕は君に対して思うトコロがあるん
だ。」
「まぁ僕だって馬鹿じゃないので、君に非がないって事は解ってますよ。でもね、納得のできない事や許しがたい事って…まー生きてりゃイロイロとありますよ
ね?」
「…あの、俺何かしましたか…?」
「うん、あのね……何もしてないから悪いんでしょ!一発殴らないと気が済まない!」
「鳥と意見がかぶるのはイヤですが僕もです!殴らせろ!」
「え、いや…何?何で…!!?」
「安心しなよ、素手だから!」
「武器使用時よりも痛くはないと思いますよ!たぶん!」
「何、きさまら戦いか?戦いなのか!?ならば極限黙る訳にはいかんな!俺も参加させろ!」
「あ…い、いやぁぁぁぁっっ!」
「てめーら折角お目覚めになられた十代目に何しやがる!」
「まぁまぁ獄寺。今回はしょうがないって。」
「あぁん?山本、おめーあいつらの肩をもつ気かよ!」
「…今回はしかたねーって…。」
-- 間 --
「はい、かんりんなところればくふいしれいてふいまへんれした。(肝心な所で爆睡していてすいませんでした。)」
雲雀と骸と何故か了平による第一回THE☆タコ殴りフェスティバルの後、一同からやたらと丁寧な状況説明をされたツナが最初に言ったセリフがこれだった。
「やれやれ。ツナ、大丈夫か?」
「いひゃい。」
「殴られた所、湖で冷やしてこようぜ?」
「うん…。」
「ついでに、体にくっついてる砂も洗っちまおーぜ?」
「うん。それいいかも。気持ちわるい。」
「ランボさんもー!」
「ま、どーせ服が乾くまでまだ時間がかかりそうですからね。僕も行きます。」
「おぅ!ならば極限ビーチボールなんかどうだ?」
「え、でも…ボールってあったっけ?」
「この牛坊主を使うのだ!」
「えぇぇぇぇっ!ラ、ランボォォォォーーーー!!」
「くぴゃ?」
「へぇ、芝生…いいアイデアじゃねーか…!………覚悟しやがれアホ牛ィ…。」
「極限だ!」
「じゃあはじめよーぜ!皆円陣で位置につけよー。」
「かかってこい!」
「山本ってばーー!」
「ちょっと待ちなよ。」
「ヒバリさん?」
「君たち構えがなってない!」
「はい?」
「綱吉、体勢をもっと低く!獄寺隼人腕を伸ばす!」
「へ?え、えっと…」
「こうか?」
「良くなったよ。次はトスについてだけど…」
「(意外な奉行がきたぁー!)」
少し離れてこちらは女子組。
「ひゃぁ、冷たいですぅ!」
「本当。でも気持ちいいね。」
ハルと髑髏がやはり近くで服を乾かしながら水浴びをしている。
「砂、落ちた?」
「はいですよ!ちょっとしぶといですけれど順調に落ちてます!」
「服についた砂を落とすのにも結構かかっちゃったね。」
「ですねー…。でも、お洗濯できる所があってよかったですよ。」
「だね。砂、とっても細かかったしね。」
「さっきはハルの人生、マジでシャットダウンかと思ってしまいましたですよ…。もう、砂がトラウマになっちゃいそうです。」
「…そうだね。あ、向こうで声がする。ボスが起きたみたいよ。」
「盛大なボコり音がしますですよ…。」
「ボスは悪くないんだけど…。」
「なぜか納得してしまいますですよね…。」
「しかし、コレはおいしい状態ですよね!」
「え…?」
「わからないですか?髑髏ちゃん?」
「…うん。」
「この状況ですよ!こんな、美少女2人が無防備に水浴びですよ!これはノゾキのチャンスですよ!男共が鼻息を荒くして来ますですよ!」
「そうかな…?」
「まずですね、ツナさんがノゾキに来るでしょー、そしてハルはそれに気がついてしまうのです。気付かれてしまって慌てるツナさん!照れるハル!このキレイ
な湖とかいうロマン溢れるステキシチュエーション!愛が芽生えない訳がないのです!」
「…(あ、やっぱりボス限定なんだ…。)」
※ 以下ハルの妄想をお楽しみ下さい。
「(はひ!)」
「(うわぁ!)」
「(ツ、ツナさん!?どうして…!)」
「(悪かったよ。でも、ハルが悪いんだぞ?)」
「(え…?)」
「(ハルがあんまりにも美しく、可愛らしいからノゾかざるを得なかったんだ。解ってくれるよな?)」
「(ツナさん…!)」
「(愛してるよ、ハル。)」
「(ハ…ハルもですぅーーーっ!!)」
「あぁっ、ダメですよツナさん…こんな場所であんな事言っちゃ…ほら、皆さん居るのに…あぁっ、でも嬉しいっ!あぁ〜んツナさん〜!ハルも愛してるので
す〜〜!!」
「ど…どうしよう…!ハルちゃんがどこか別の世界に行っちゃった…!」
「さてさてさてさて!さぁ髑髏ちゃん!誰が!主にツナさんとかツナさんとか誰がノゾキに来てますですか!」
髑髏は言われるままに岩場の向こうをのぞく。
「いったぜ獄寺!」
「おぅ、まかせろ!…いっくぜー…ダイナマイトアタック!」
「なんの、極限レシーブ!」
「どこ飛ばしてるんですか、まったく!…ほら、行きましたよ綱吉君!」
「え…う、うわぁぁぁぁぁぁ!」
「あーあ、何回失敗すれば気が済むんですか!ほらボール拾い!」
「十代目になんて口をきいてんだ!」
「いいって獄寺君!……ごめんなランボ。」
「なんで?ランボさんすっごく楽しいよ?」
「…。」
「ねぇ、いつになったら僕の所にボールが回って来るの…?」
「…みんな向こうでビーチボールやってるみたいだよ。」
「はひ!乙女の裸体を差し置いて!」
「いいなぁ、楽しそう。私も行ってくる!」
「そ、その格好でですか!?」
「うん。」
「そ…ソレはマズイですよ。」
「どうして?裸なんてわたし気にしないよ?」
「いや、髑髏ちゃんがよくてもですね…。」
「みんなも気にしないと思うわ。だって…どのみち大差ないでしょ。」
「えーと…と、とにかくダメです!」
「なんで?」
「へ?……え、えっとぉ……んーと……ハ、ハルが寂しいからです!」
「じゃぁハルちゃんもいっしょに行こう?」
「ハルはこっちに居たいです!だから、ね?」
「じゃぁしょうがないね」
「は、はいですよ…(よかった…。)」