ざばざば…公園の水道で、ツナが獄寺と髑髏にに手伝ってもらいながら頭を洗っている。
そこから少し離れた所では、雲雀が鳥にエサをやっている。
その中間あたりで、山本、骸、ハルが一休みしていた。


「やれやれ。とりあえずカラスは幻術で追っ払えましたけど…どうやら予想以上のようですね、そのアザ。」
「あう…。やっぱりやっぱり、一連の不幸はそのアザのせいなんですか?」
「えぇ。おそらくは…ですけど。」
「なぁ骸、対処法とかは知らないのか?」
「一番一般的で簡単なのはお祓いですけど…綱吉君のは下手に手を出さない方がいいかもしれませんね。」
「正当なところでも、か?」
「えぇ。一流を保証されるような人間ならともかく、うっかりハンパな手の出し方をするようなのに当たったら…最悪、暴走して取り返しのつかない事になる。…そういう類いの物のようだと思います、アレはね。」
「…じゃぁ、きちんと祓えるヤツをさがさなきゃ、なのか?」
「まぁ、一般的に考えるならね、ですけど。しかし…今回はそうも、言っていられないかもしれません。」
「はひ?どうしてなんですかぁ?」
「気がついていますか?」
「何を?」
「獄寺隼人の二の腕、ここから見えます?」


山本は、骸に言われた通り、ツナの頭を洗う手伝いをしている獄寺に目をやる。


「あ…!!?」
「気がつきました?」
「あれ…ツナさんのと同じアザ…!」
「えぇ。」
「…もしかして、俺にもあるのか?」
「あります。山本武は首の後ろ。ハルさんは右の肘の辺りですね。」
「ほ…ほんとにありますです!ど…どぉしましょぉ~~~っ!」
「…じゃあ、俺にも不幸がくるんだな。」
「そう悲観した物ではありませんよ。」
「じゃぁ…どうにかなるのか?」
「いや、そうではなく。…全員にアザが転移してるので、道連れがいっぱいいます。」


そう言って骸は左手の甲を山本に見せた。そこには、いっそ鮮やかなまでに真っ黒な蝶のアザがあった。
山本が首を巡らせると、右手の甲に黒い蝶のアザをつけた髑髏がツナの方に駆け寄るのが見えた。
少し離れた所では、雲雀がいつも連れている黄色い鳥にエサを与えているのが見えた。雲雀の首筋にも蝶がついている。


「…なぁ骸。それ、解決してなくないですか?」
「しかも、ただでさえ解呪の方法が運任せになりそうなのに、その全員が不吉不運のド壺です。」

「そんなぁぁぁ!」
「どーにかなんねーのかよ!」


そう言って、ツナの頭を洗い終えた髑髏と獄寺と、ツナがこちらに来ていた。


「ちょうどいいので、あれについて、今の段階で僕が出した考えを言っておきましょうかね。
まず、このアザは不幸を呼び込む、あるいは不吉をまき散らす類いの物です。そしておそらく、近くに居る人間にどんどん憑いて増殖する。そして多分、同種のアザが近隣に増殖し、密度を高めることで力を増す、と考えられます。
その証拠に、綱吉君の腕…本家のアザは進化しています。」

「ボス…?」
「うわぁぁぁ!なんか、おっきくなってる!根っこみたいのが追加されてる~!キモい!超キモい!半端なくキモイよぉぉぉぉっ!!!」
「うわ、本当に気持ち悪いね。」
「うわぁヒバリさんいつの間に!…そういうヒバリさんだって、首になんかついてますよ!まだキモくないけど!」
「自分じゃ見えないのが残念だよね。…まぁ別に問題はないんだけど。」
「ねぇ骸様。みんな、少しずつ紋様が違うみたいだけど…?」
「おそらく、憑いた時間によるのでは?」
「…そういえば、わたしと骸様のアザは小さい…。」

「おそらく、耐性による個人差もあるとは思いますけどね。そして、これがどんどん増殖するタイプのモノならば、取り去るときもまとめて一緒がいいでしょう。そして…なるべくこれからは他人に会わない方がいい。」
「それってさ、やっぱり広めちゃうから?」
「えぇ。対処がわからない人間の間に広まると…大変な事になります。」

「それってそれって、もしかして…アザが取れるまでお家に帰れないってことなんですか!?」
「まぁ、そうなりますよね。折角祓っても…身近な人間に保有者が居れば、すぐにぶりかえしてしまいますから。…幸いこのあたりは人通りが少ないです。良ければ、そのアザをつけられた元凶の居た場所に案内してもらえませんか?何か判るかもしれません。」
「ん、そうだな…。わかった、案内するぜ。」



こうして一行は歩き出した。そして、公園を一歩出たときの事だった。
だが、道路を渡っている最中の一行に、トラックが突っ込んで来たのである!

突然の出来事に一行が呆気にとられていると、彼らの目の前でトラックが吹っ飛んだ。



「な…なんなんだ?」
「…はひぃ…!?」

「笹川了平、極限に推参!」



どうやら、トラックは了平が吹っ飛ばしたようだ。
さぞかしトラックの持ち主も泣いていそうな状況である。


「おい、おまえら!極限に眠たいときであろうと、極限に空腹であろうと、極限に筋トレ中であろうとロードワーク中であろうと、交通ルールはきちんと守れ!あぶなく事故を起こすところだったではないか!」

「あ、お兄さん…ありがとう。でも…。」
「そういえば沢田!」
「ツナぁ~!」


了平の影から、牛柄の服を着た子供…ランボが顔を出す。
どうやら泣いているようだ。


「ツナぁ~!!ランボさん…ランボさん、泣いてないんだもんね!迷子になって寂しくなんてなかったんだもんね!」
「そこで迷子になって泣いていたのを見つけたのだ!…良かったな。」


そう言って了平はランボの背中をそっと押してやる。
ランボはツナに駆けよろうとするが、しかし…


「ら…ランボ、こっち来るなって!」


ツナは逃げる。


「…ツナ?」
「沢田?」
「お兄さんも…えっと、ごめんなさい!」


ツナと一行は、了平とランボから逃げるように走り出す。


「ツナぁ~!!ランボさん、わるいこと、なんもしてないよぉ~!行っちゃやだぁ~!!」


ランボは小さな足で一生懸命に逃げるツナを追いかける。
しかし、ツナも足が遅いとはいえ14歳。足の長さではランボを遙かに上回るのだ。両者の距離はどんどん開いていく。








「ランボちゃん、泣いてますですぅ…ハルもつらいです、ハートブレイクですよぉ~!」
「やっぱ、あんまいい気はしねぇよな~。」
「…でもよ、アホ牛に感染させてみろ。…本当に手がつけられなくなるだろ?」


そんな事を言いながら一行は走る。


「沢田っ!」
「うわっ!お兄さん!?」


ツナは、ただ純粋に、ランボを抱えて走ってきた(だけの)了平に腕を捕まれた。


「見損なったぞ!幼い子供を置き去りにするとは何事だ!」
「うわぁぁぁぁぁん。」

「お、お兄さん、これには訳が…。」


ツナがしどろもどろしていると、了平の頬に、黒い蝶の紋様が浮かび上がる。
同じタイミングで、ランボのおでこにもそれは現れた。


「はひぃっ!?京子ちゃんのお兄さんとランボちゃんにもっっ!?」
「骸さま…なんだかアザの感染速度が…。」
「おそらく…アザの所をダイレクトにつかんじゃったからじゃないですか?あーあ、まったくもう。言った側から…。」
「もう、あきらめるっきゃなさそーなのな…。」


一同がそんな会話をしている裏では、ツナが一生懸命に事の顛末を了平に説明していたりしたのだった。