ツナが栓を開けると、中からドス黒い煙のようなものが立ち上がり、空中に一回溜まったかと思うと、ものすごいスピードでツナ目がけて襲って来た!

「う…うわぁぁぁーーーっっ!!!」
「ツナ、ちょっと伏せてろっ!」
「う…うん!」

山本がツナの前に立ち、持っていたバットを一閃する。
バットは太陽の光を照り返しながら白金に輝く刀に変化し、黒い煙を切り裂く。
そうして煙は霧散した。

「大丈夫か?ツナ。」
「うん、ありがとう…山本。」
「いやいや、大した事ないって。それより、なんだったんだろうな?アレ。」

「…アレは、昔並盛に居たって言う悪霊かなんかの一種だと思うよ。」

「雲雀、知ってるのか?」
「昔、僕の伯父さん…先代の並盛神社の神主だったんだけど、その人が言ってた事を信じるならね。」
「へぇ…じゃぁ、よかったな、ツナ。取り憑かれる前に追っ払えて!」
「うん…。」
「…?」

返事とは裏腹に、こまったような顔をして、視線を落とすツナ。
つられて、なんとなく視線をツナの目線に合わせる雲雀。
雲雀の視線はツナの左腕で止まる。

「…! ねぇ綱吉。左腕見せてみなよ。」
「へ?あ、ハイ。左腕…えぇっ!?な…なんだこれ!!?」

ツナが左腕を見ると、そこには点で構成された蝶のようなアザが、カラスの羽のような黒で入れられていた。



「どうかしましたか?十代目。」
「なんか…変な模様がついてる…。」
「はひぃ…。ふしぎな紋様ですぅ。」
「なぁ雲雀。これは…わかるか?」
「わかんない。」
「は!てめぇ、本当に使えねぇな!」
「や…やめなよ獄寺君。」
「…でもソレ、さっきの悪霊っぽいのに触られた箇所だよね?アイツと関係があるのは間違いないと思うよ。」
「そうですか…。でもコレ、本当になんなんだろう?」
「そうっスね…悪霊が印をつけるってのは、大抵取り憑くときの目印とか、悪い事をする時の目印ってのが定石っスけれどねぇ…。」
「他には死の宣告とかね。」
「はひぃぃぃぃぃぃっっ!!じゃ、じゃぁツナさん、死んじゃうんですか!!?」
「そんなっ!十代目は…。十代目は…!!?」
「や、やめてよハルってば、獄寺君も!こわいから!…ヒバリさんも、怖い事言わないで下さい!!」
「僕は知ってる事を言ったまでだけど。」
「まぁまぁ。とりあえず落ち着けってツナ。獄寺やハルもさ。まだ、そのアザが何なのかわかんないんだし…。」
「でもでも山本さん!このアザが大丈夫な物ってのも確定じゃないですよ!なんか、うっかりしてて手遅れとか、ハルは、ハルはそんなの嫌ですぅ…!!」
「…おい山本。そーいうからには、何か手があるんだろうな?」
「いや、特になにも。」
「オイ!!」
「…あ、でも骸なら何か知ってるんじゃないか?」
「うわ。」
「げ…。」
「はひ?」
「最低。」
「…でも、この場合一番アテになりそうだよねぇ…。」
「ツナ、電話で聞いてみたらどうだ?」
「うん、そうする。」

ツナが携帯を取り出して、骸に電話をかける。

“もしもし。”
「あ、骸?今電話してだいじょうぶだった?」
“はい、大丈夫ですよ。でも珍しいですね、綱吉君から電話だなんて。”
「うん、ちょっと困った事になっちゃってさ。」
“困った事?”
「うん。さっき、悪霊っての?に襲われて、左腕に変なアザつけられちゃったの。」
“…あなたは、一体何をやらかしたんです?こんな真っ昼間っから…。”
「…ちょっとした宝探しを…。」
“はぁ……。”
「あからさまな溜め息つくなよ!シアワセ逃げるぞ!」
“綱吉君の?”
「俺のじゃない!おまえの!」
“心配ご苦労様です。でも出るものはでます。しょーがないでしょ?なんでこんなのがボスなんだか…。”
「…まぁ、そりゃしょうがないでしょ。俺だって嫌なんだから。で、話を本題にもどしたいんだけど。」
“あぁ、アザの話ですね?ソレ、どんな形ですか?”
「うん、なんか、蝶々?みたいな、お花、みたいな…。」
“大きいですか?小さいですか?”
「えっと、おっきい?の?どのくらい?」
“…僕に聞かれても。”
「え、で、でも…?なんて表現したらいいの?えっと…。」
“どうやら、僕がそっちに行った方が早そうですね。”
「そうしてもらえるとうれしいいな。今は並盛小学校の裏山に居るよ。」
“そうですか、わかりました。それでは裏山の入り口付近に居てもらえますか?”
「うん、わかった!」
“それじゃあーーーーー………。”
「…あれ?」
“ガタガタ…ザーーーーー…。”
「??」
“…もしもしボス?”
「あれ、髑髏?」
“わ…わたしも行っていい?”
「あ、うん、いいよ?」
“ありがとう、ボス!…ガチャ。ツー、ツー、ツー。”


「どうでした、十代目?骸のヤツ、なんて言ってました?」
「なんか、こっち来て見てくれるって。んで、いきなり髑髏に替わって…切れた。なにがあったんだろう?」
「そっか。あいつ、いっつも訳わかんないからなー。」
「山本、さりげにヒドイな…。」

「はひ…。ムクロさんって、どんなひとなんでしょう…?」
「僕からは最低としか言いようがないね。」
「そ…そんなにヒドイひとなんですか!?」
「うん。特に態度とか髪型とか…まぁ、全てにおいて、アイツよりも最低な人間はいないね。うん、人間ってカテゴリに含まれるのかも怪しいな。パイナップルで十分?いや、それじゃパイナップルに失礼かもしれない。」
「あの、風紀委員長さん…?」
「なに?」
「ぶっちゃけ、個人的に嫌ってませんですか?その…ムクロさんのこと。」
「文句ある?」
「…いえ、ないです…。」


そして、裏山入り口にて。

「ボス!…ハルちゃん!」
「あ!髑髏ちゃんです〜!この間の日曜日ぶりですね!」
「うん!そうだね!」

「こんにちは綱吉君。今日はまた一段と群れてますね。」
「うるさいね、かみ殺すよ。」
「おや、鳥頭まで群れているなんて本当に珍しい。しかし僕は綱吉君に挨拶したのであって、あなたなんて眼中にすらありませんでしたよ?ヒトの視界に勝手に介入しないでくれます?目が腐る。」
「言うじゃない。…いやいや、腐りはしないよ。だって、いくら僕でもこの間までシロップ漬けになっていたナッポーを腐らせるなんて芸当は流石にできないよ。」
「…群れた鳥串のくせに。」
「…なんか言った?木偶の坊パイナポー。…今日はしかたないんだよ。どんな厄介事でも一度関わったらには最後まで面倒見ないと後味悪い。」
「…ふーん。そうですか。…そういえば綱吉君は?」
「いるじゃない目の前に。」
「いませんよ。」
「いや、いるよ…あれ?」
「さっきまでは居たんです、よね?」
「居たよ。さっきまでは…。」

雲雀が振り返ると、やはり誰もいない。…否。
獄寺と山本が、地面にぽっかりと空いた穴の淵にしゃがみ込んでいる。

「どうかしたんですか?」
「いやぁ、まぁその…たまたまさ、マンホールのフタが開いててさ…。」
「十代目—!大丈夫ですかぁーーーー!!」

「……なんとかー…。」

数秒後にエコーのかかった声が帰ってくる。

「…落ちたの?」
「…まぁな。」
「つーなよーしくーん。地上まで登ってこれそーですかー?ハシゴ掴めてますー?」

「……なんとかー…。」

「それじゃー死ぬ気で登って来て下さいねぇー。せぇーっかく来てあげたんだぁーからぁーっ!」

「何をやってるんだか…。」
雲雀のつぶやきに、ハルと山本は複雑な顔をした。




数分後。

「十代目、お疲れ様です!どこもぶったり擦ったりしてませんか?」
「うん、大丈夫。…でも…つかれた…。」
「まったく、お馬鹿と言うか何と言うか。しかし、たまたまフタの空いていたマンホールに落ちるなんて一体どんな奇跡なんです?」
「奇跡じゃないよ、こんなの。」
「奇跡ですよ。こんなこと、そうそうないですよ?大抵体のどっかこっか引っかかって…アザ作ったり湿布のお世話でしょう?」
「うー…。」
「でも、よかったね、ボス。キレイに落ちたおかげでケガしなくて済んだよ。」
「まぁ…そうなんだけどさ。」
「そうそう、ところでなんですが、さっき電話で言っていたアザってどんなものなんですか?」
「あ、うん。こんなの!きもちわるいよぉ…。」

ツナは骸に腕を見せる。
ご丁寧に、半袖の袖までまくりあげている。

「これは…呪術印の一種のようですね。何らかの…あまり良くはない術の力を感じます。どうやら綱吉君を呪った悪霊は、生前はハイレベルな呪術師…あるいは高位の祈祷師だったのかもしれません。結複雑で難易度の高い
術のようです。」
「はひぃ!それって、呪い…ってことですか!?」
「ま、平たく言うとそうなりますね。」
「えぇぇぇぇーっ!ってことは俺、いきなり呪われちゃったの!?どうしよう!」
「大丈夫です、十代目!おはらいすれば、すぐにこんなの取れますよ!」
「へー、呪いとか本当にあるのなー。初めて知ったなー。」
「…死ぬ気の綱吉とかナッポーズの幻術とか見といて、いまさらそんな事を言える君って、結構大物なんじゃないの…?」

「あのですねムクロさん。ところでなんですけど、ツナさんのアザって…具体的にはどういうものなんですか?ただの目印なんですか??」
「いいえ、多分…」

「みぎゃぁっ!」
「うぎゃぁぁぁぁ!」
「ボス!」
「十代目っっ!」

ツナは、一瞬よろけた拍子に偶然そばを歩いていた野良猫のしっぽをふんずけたようで、顔面を引っ掻かれていた。

「はひぃぃぃぃぃっっ!」
「ハデに引っ掻かれていますねぇ。ぼくが見た所、あのアザは不運を呼び込むものの類いのようです。」
「じゃぁ、あれもアザが呼んだ不幸とか、そんななんですか!?」
「まぁ、そうとも言えます。あ、ほら、こんどは野良犬が問答無用で襲ってきていますよ。」
「うわわわわわわぁ!」
「十代目にかみつくんじゃねぇぇぇ!」

獄寺がダイナマイトを構えて、放る。その照準は犬から少しハズれて道路の片隅に向いている。どうやら威嚇のようだ。

だが、弧を描くダイナマイトに向かって一瞬突風が吹いた。

「はひ!すごい風ですぅ!」

それはダイナマイトの軌跡を変えた。ダイナマイトは風に煽られて向きを変え、ツナへと突っ込む。
んでもって。

どっかーん

「きゃいんきゃいん。」
野良犬と野良猫は煙を上げて逃げ去って行った。ツナもボムの余波で黒くなっていた。

「いたたたたた…。」
「思い知ったか野良犬&野良猫め。」
「ツ、ツナさん、大丈夫ですか?」

ハルがツナに駆け寄ろうとする。
「ねぇ、三浦ハル。ちょっと急いでこっちにおいで。」
「はひ?どうしましたですか、風紀委員長さん?」

ハルが進路変更すると、そこをカラスが通過して…

「あがっ!」

ツナをどついた。
「はひ…!」
「あぶないね。このまま突き進んでいたら巻き込まれる所だったんじゃない?」
「でも…ツナさん、痛そうです。」
「べつにいいんじゃない?あの程度じゃ死なないでしょ。」

そして今度は二羽めがすーっと飛んでくる。今度は山本を巻き込むルートだ。

「うおっ!」
「うげっ!」

山本は華麗に避けたが、ツナはまた後頭部をやられて…

「なんか…あったかい…イヤな予感…。」
「…綱吉君、後頭部…。」
「言わなくていいよ!この流れだとフン引っ掛けられたりしてるんだろ!」
「…。」
「…む、骸らしくないって!停止しないでよ!そんな同情の目線を投げかけないでって!」
「十代目…。」
「綱吉…。」
「ツナさん…。」
「あぁもう!こんなに、かつてない勢いで同情しないでったら!」


「ボス危ない!左から…!」
「う…うわぁ!………あぶなかった…ありがとう…。」
「み…みなさん!いつのまにか周りがカラスだらけです!ベリーデンジャラスですよ!」
「とりあえず近所に公園があったハズだから、そこに行こうぜ!そこなら水道があるし…広い方が避けやすい!」


こうして、一行は大量のカラスに追われるように公園へと走って行ったのである。