暗くなった街を、いつもの道を通って家に帰る。
あたまの中が、ごちゃごちゃする。


ハルちゃんが公園から走って行った時の、寂しそうな顔が忘れられない。

ハルちゃんは、どんな気持ちでわたしに打ち明けてくれたんだろう?
わたしは、それに対してなんて思った?



わたしは、ともだちの、ちからになりたい。
助けてあげたいの。
もっと、いっしょに笑い合いたい。


ハルちゃんはきっと、ボスにとって、必要なひとに、なれる。
でも、ボスといっしょに居てほしく、ないの。
無能なわたしの、みにくい、わがまま。



全部言いたい。知りたい事、おしえてあげたいの。
言いたくない。知ってる事、ひとりじめしたいの。



そんな事を考えてたら、家についた。
だれもいない、いえ。

そう思ったら、家に鍵がかかっていなかった。
よくみると、カーテンが閉まっていて、車も止まっている。

パパかママが帰ってきているのかしら?
めずらしい。


でも、会いたくないな。



そうだ、黒燿ランドに行こう。
骸さまに聞いてもらおう。

わたしはまた、歩きはじめる。
もう、陽は沈みきって、夕映えの光も山際に残るだけ。
道は暗い。まるで闇が染み出て、光を喰らっているみたいだわ。早く誰かに会わないと、わたしの影まで闇にたべられてしまいそう。









黒燿ランドに足を踏み入れる。小さな明かりが灯ってた。


「骸さま。」
「おや、クロームじゃないですか。どうしたんです?もう大分遅いですよ。」
「……。」
「…?」
「…犬と千種は?」
「あぁ。犬はもう寝ていますよ…僕が、生徒会の後で学校から帰って来たら、もう寝ていました。授業中から相当眠かったのかもしれませんね。昨晩はかなり遅 くまで起きていたようですから。千種はゲームセンターに行ったきりですよ。新作が出たと言っていました。ひょっとすると、今日はゲーム仲間と夜通しかもし れませんね。やれやれ。ま、楽しそうなのは良い事ですけれど。」
「……。」
「クロームはどうかしたんですか?顔色が良くないですよ、何か困り事ですか?」
「……。」
「…まぁ、立ち話もなんですよね。とりあえず座りなさいな。そうそう、クロームはコーヒーよりもお茶の方が好き、でしたよね?」



そう言って骸様は立ち上がり、少し離れた所に置いてあった魔法瓶を手に取った。
魔法瓶からは温かいお湯。
骸様は、近くの湯のみを二つと、緑茶の缶を手に取ってお茶を煎れた。
わたしは…今日のことを話したい。なんて切り出したらいいかしら。



「………骸様は、ボスを困らせたいと、思う?」
「冗談で済む範囲なら、ね。それ以上は状況次第ですかね〜。」
「……。」
「たしか、今日は綱吉君に会いに行っていたんでしたよね。…当たって砕けでもしましたか?」
「…ううん。ちゃんと、お礼言ったよ。そのあと、ボスのお友達の子たちとケーキ食べたり、おしゃべりしたりして、とても楽しかった。」
「へぇ。それは良かったですね。ケーキ、美味しかったですか?」
「うん、とっても。それに、友達もできた。ハルちゃんと、京子ちゃんっていうの。」
「……!それはそれは…。良かったですね、綱吉君も極々稀にはイイ所もあるじゃないですか。」
「……うん…でもね。」
「…恋敵でしたか?」
「……あのね。」
「…?」
「帰り、ハルちゃんと方角が一緒だったの。おはなし、したよ。」
「へぇ?」
「…………いっぱい、おはなし、したの。」
「……聞いても?」
「…うん。聞いてほしい。」
「じゃぁ、お願いしますね。」
「…ハルちゃんに、リングのこと聞かれた。」
「あら。誰が教えたんでしょうかね?」
「ううん。自分で気付いたみたい。」
「それは、なかなかの洞察力の持ち主ですねぇ。」
「そう、だよね。」
「クロームはなんて答えたんですか?」
「何も。」
「あら。」
「何も、言わなかった。」
「何か考えがあって、ですか?それとも、ふさわしくないと判断しましたか?」
「ううん、そうじゃない。」
「隠し通した、すっとぼけきった、みたいな?」
「そう、なるのかな?わからない。…あのね…。」


そうして、髑髏はとつとつと語りはじめる。
骸は静かに耳を傾ける。


「…なるほど。」
「……。」
「確かにそれは、悩みどころですね。立場を守りきるか、信頼に応えるか、なんて。」
「……もう、わからないの。どうしたらいいのかしら。」
「困りましたね。」
「…うん。」
「ねぇ髑髏。一つだけ聞いてもいいですか?」
「はい、骸様。」
「髑髏は僕に、なんて答えてほしいですか?」
「?」
「ぬいぐるみみたいに、黙って話に付き合って欲しいですか?それとも、何か助けが欲しいですか?」
「えっと、…その…。」
「僕は多分、髑髏の望む答えを持っていませんよ。」
「……。」
「えぇ。もし仮に、持っていたとしても提示する気はないです。」
「…それは…。」
「意地悪とか、そういうのではありませんよ?真剣に悩んでいる部下を相手に暇つぶしする程、僕も暇ではありませんから。」
「…なら、どうして」
「僕は、霧の守護者”六道骸”としてあなた、”クローム髑髏”に命令する権利があります。しかし、今回の件に関しては、僕はその権利を行使するつもりはないからです。」
「…。」
「僕が禁止した所で、それは髑髏にとって、とても苦しいものになるかもしれません。逆に、言えと言ってもまた同じ。あなたが自分で決めるのと何が違うのはわかりますか?」
「…責任の、在処。」
「いい子ですね、髑髏。その通りです。」
「…でも、わたしは。」
「ねぇ、ハルさん、でしたっけ?髑髏の友達なんでしょう?好きになさいな。人の口に戸なんてたてられないんだから。」
「でも、情報を流す事は、よくないと、思う。」
「…まぁ、そりゃぁそうですよね。当たり前ですけど。」
「何が起こるか、わからない。わたしは…」
「……。」
「わたしは、ボスにも、迷惑はかけたくない…。きらわれたくない…!」



それを言ったら、わたしは泣き出してしまった。
別に泣きたかった訳じゃないの。
ただ、涙がとまらなかった。
涙が、あとからあとからながれてくるの。どうしよう。
骸さまは、何をするわけでもなく、ただそこに、ぼろぼろのテーブルの向こう側に座っていた。
動作も、たまにお茶を飲んでいたくらいで、本当に何もしていなかった。
でも、今のわたしにはとても、ありがたかった。





「…ひっく…ごめんささい、むくろさま…。」
「別に、どうもしませんよ。少しは落ち着きましたか?」
「うん。」

そしたら、骸様はまたもう一つ湯のみを用意してくれて、新しく温かいお茶を煎れてくれた。
とても温かくておいしかった。

なんだか、泣いたら頭がすっきりしたかもしれない。
心の中がすごく透明になった気がするの。
そこには、一つの結論が沈んでいた。




「ねぇ、骸様。」
「はい。」
「わたし、ハルちゃんに全部言おうと思う。」
「えぇ、いいんじゃないですか?」
「ハルちゃんには、口止めする。ボスには…ごまかす。シラを切る。にげる。」
「えぇ。」
「でも。」
「?」
「…ボスが。あるいは、ボスの家庭教師の子が、骸様を問いつめたら。」
「知らん顔をしますね。ついでに、とんずらします。責任も取ってはあげません。ひたすら逃げます。」
「…。」
「僕の監督不届きと言われても、シラを切り通します。この件については全てあなたのせいにします。好きなようにしなさい。」
「…ありがとうございます。」


そして、わたしは立ち上がる。
遅くなってしまった。もう、帰らないと。
骸様の居る部屋から出ようとしたら、骸様が何か言った。




「ま、何かトラブったらそのつどどうにかしなさいな。無理だと思ったら、適当に周りを巻き込めば誰か彼か助けてくれるでしょう。案外なんとかなりますから。」
「…。」
「まぁ、それでも助けてくれと泣き付かれたら…その時は協力してあげるくらいの優しさは、持ち合わせているつもりですけどね?」
「…骸様、ありがとう!」





「…さて、時間が本格的に遅くなってしまいましたね。家まで送りましょうか?」
「ううん、大丈夫よ。私は強いから!」
「…えぇ。良い瞳です。では、気をつけて。”…いってらっしゃい。”」
「はい!”行ってきます!”」


そして、わたしは黒燿ヘルシーランドを出て、駆け出す。
帰宅の途中、"よくないひとたち"に絡まれても、槍で蹴散らして帰って行く。











こちらは黒燿ヘルシーランド。
骸は一人、廃墟の中でもう一杯自分のために紅茶を煎れる。

「やれやれ。答えなんか最初から決まっていたのでしょうに。」

骸は紅茶を手に取って、大穴の開いた壁に近寄り、外を眺める。
ヘルシーランドの敷地を飛び出し、走る少女が見える。

「"最後の一押し"ですか。…手のかかる妹分ですね。それにしても、綱吉君も罪な男です。明日あたり、おもいっきりほっぺをつねってやりに行きましょうか。」

そう言って、骸は一人、心底楽しそうに笑うのだった。