ボスと別れて少し経った。
私とハルちゃんは一緒に茜色の空の下を歩いている。
ハルちゃんは、黙っている。どうしちゃったんだろう?
わたしといるのじゃ、つまらないのかな?
それとも、さっき、たくさん喋ったからつかれちゃったのかしら?
何か、考え事をしているようにも、みえる。
ふと、のびた影に目が止まる。
もう、夕暮れ。見上げたそらは茜色。
空がとても広く、感じる。
綺麗な色をした夕暮れ時の、そら。
雲一つない、きれいなそら。
きっと明日は晴れるのだと、思う。
広くて、おおきなそら。
…ボス、かわいかったな。
ボスだって、男の子だもの。
いまは、わたしと同じくらいの身長でも、きっとすぐにぐんぐんのびて…わたしよりも、ずっと遠くまで見えるようになるわ。
ちょっと寂しいけれど、きっとボスは喜ぶ。
でも、ボスの周りの人達も、まだのびざかりだから…やっぱりいつまでもボスは小さく見えちゃうのかしら?
未来がそんなだったら、またわたしに愚痴をこぼしてくれるかな?
今日みたいに、甘いケーキを食べながら、わたしに話しかけてくれるかしら?
そんな事を思っていたら、左手の中指にはまったリングを思い出した
ごつくて冷たいリング。
レプリカの霧のリング。
わたしは霧じゃ、ない。
レプリカ。
霧には、なれない。
すべてを隠していられるほどの不透明さは、ない。
すべてを欺ける程深い嘘は、作れない。
でも、必要。
本当に?
足手まといじゃないかしら?
わたしは、弱い?
わたしは本当に、必要?
わたしは、牢獄の骸様の代わりで、依り代だった。でも今、骸様は自由。
わたしは、必要?
わたしは、何?
このリングは、ボスが、骸様がくれた、側にいてもいい証。
でも、迷惑じゃ、ない?
どこまでも不透明。
答えがほしいの。でも、答えをもらっては、いるの。
でも。
どうしたのかしら。
答えはでているのに。望んだ回答は、きちんと左手に収まっているのに。
一体わたしは、どうしちゃったのかしら?
どうして、納得できないのかしら?
なぜ?
どうして?
私が考えごとに没頭していると、ハルちゃんが小さく声をあげた。
そちらに目をやると、ハルちゃんも考え事をしていたのかな、人にぶつかちゃった、みたい。
でも、あんまりいいひとじゃ、なかった、みたい。
「テメェ、ガキ!どこ見て歩いてやがる!」
「はひ!…あ、ごめんなさい、考え事してて…。」
「ごめんで済んだら警察は…へぇ、なかなか可愛いカオしてんじゃん?」
「…!」
「まだガキだが、なかなかの上玉じゃねぇか!」
「…やめてください!」
複数の男の人が、わたしたちを取り囲む。
「ハルちゃん、嫌がってる。手をはなして。」
「へぇ、こっちの子もカワイイじゃん。ねぇ、これから俺たちと遊びに行かね?」
目の前の「たぶんよくないひと」が、わたしのあごを持ち上げる。
「…クロームちゃん!」
「さわらないで。」
「つれない事言うなよ。」
「二回目。さわらないで。」
「そんな事言ったって、カワイイだけだぜ?」
「…三度目の正直。」
わたしは武器を出現させる。
ハルちゃんは何も知らないと思うから、いつもの槍じゃなくて、適度な長さの物干しで対抗する事にした。
きっと、あやしくない。…と、思う。
それで、目の前のひとに向かい、薙ぐ。当たった。
そこから、反動を付けた物干しで、横のひとのあたまにあてる。
ハルちゃんに触ってるひとには、スネに当てて痛がってる時に蹴りを入れて、転ばせる。
「あなたたちじゃ、わたしに勝てない。」
そう言って「よくないひとたち」を睨むと、無様に逃げて行った。
「ハルちゃん、だいじょうぶ?」
「クロームちゃんこそ、大丈夫ですか?」
「…しんぱいしてくれて、ありがとう。わたしはだいじょうぶ。」
再び、歩き出そうとしたとき。
ハルちゃんに呼び止められた。
「…ねぇ、クロームちゃんのおうちは、門限ありますか?」
「ないよ。」
「すこし、ハルに付き合ってはくれませんか?暗くなっちゃうカモですけれど…。」
「大丈夫。」
「たいした時間はかからないと思います。」
そうして、わたしたちは近くの公園に入って、誰も居ないブランコに腰掛ける事にしたの。