メルヘン王国辺境領

元レイカス王国領ライネ砂漠周辺に暮らす民に伝えられている物語。





むかしむかしのお話、

まだここが青々とした山々に囲まれた
立派な美しい城下町だったころの物語。



この町はとても大きくて、
町の中心では商業が
郊外では農業が盛んでした。
交通の要所であった事も手伝い
町はいつも人でごった返していて
とても活気がありました。

町を囲む山々もとっても美しく
たとえようもないほどでした。


そんなすてきな国は今春を迎えたばかりでした。
畑には青々とした麦が風にそよいでいます。
畑の作物達もやっと芽をだしはじめました。


本来ならばこの時期には豊作を願うお祭りがあって、
陽気なポルカやワルツがあちこちに流れている筈なのですが
今の町はとても静かです。



というのも、つい先日
長いことこの国を守り導いて来た王様が
亡くなられたからです。


国民はみな嘆き悲しんでいます。
とりわけ、
王妃様と王子様は
言葉では言い表せないほどにも悲しげです。


そして、
王妃様達は今日も、御亡くなりになられた王様のお墓参りに行って来たようです。
するとその帰り道、馬車道の脇に人影がありました。
その人は怪我をしているようだったので
御者は思わず馬を止めました。


王妃様はその人を見て、
まず名前を尋ねました。



その人は自分はユーリという名のヴァンパイアだと名乗りました。
家来達は目の前の人食いの魔物(ヴァンパイア)に震え上がりました。

なおもユーリは言葉を続けます。
ユーリはどうやら
怪我をしてしまったので、自分の居るべき場所に帰る事が出来なくなってしまったようです。
だから、怪我が治るまでこの国において欲しいと頼みました。


王妃様はこの目の前の傷ついたヴァンパイアが悪い魔物には見えなかったので
傷が治るまでお城に居ることを許可しました。

ただし、
この国に居る間は絶対に魔法を使わないように、
とだけユーリに約束させました。
ユーリはそんな事ならばと快く承諾しました。








ユーリをお城においてから、
不思議な事が起こりはじめました


何もかもがうまく行き始めたのです。
ずっと続いていた戦争に勝利したのを始まりに
国の経済の周りも良くなり、
王子様の婚約相手もさる大国の美しい姫君にと、
まるでトントン拍子です。


気がつけばいつのまにか国は裕福に、
国土は見渡す限りに広大になっていました。


王妃様はこのことをとても喜びました。
そのお金で王妃様は毎日たくさんの服と宝石を買いました。
毎日御馳走を食べました。

とても、とても幸せそうでした。