今日は雨なんか降っちゃったりしたケド、
リーダーさんと違って最近パーフェクトに暇なボク、スマイルはユーリの居るジパング……
…のお隣の中国に観光に来ていました!
観光っつったって、ただぶらぶらウロウロしているだけなんだけれどネ!
ん〜、なんか、偽ブランドがいっぱいあったりしてナカナカオモシロイ。
あ、この屋台のお料理オイシイかも。
あ〜、楽しいね!僕めっちゃ堪能してる!!
ぴりりりりりりりりり
…のを、邪魔するのは誰?
とか思いながらケータイを取り出す。
なんだ、アッス君じゃない。
驚かさないでよネ。まったく。
電話の向こうのアッス君はやたらパニクっていた。
言ってる事がむちゃくちゃなんだもん。
「ちょっと、落ち着いてってば!何言ってんだかさっぱりだよ!」
アッス君の言葉を解析するとこんな感じだった。
ジパングのとある街で交通事故が起こったらしい。
事故をおこしたのは大型のトラックだったそうだ。
その事故に巻き込まれて、重傷を負ったヒトがいたんだとか。
そのヒトは今だ昏睡状態なんだそうで。
んでもって、このまま帰らぬヒトとなる可能性が高いらしい。
…そして、そのヒトとは他ならぬ僕らのリーダーだという事。
「ウソでしょ…?」
ボクの観光気分は吹っ飛んだ。
「ウソでしょう!?」
声が荒くなる。
「ねぇ!ねぇってば!アッス君!!」
受話器の向こうから帰ってくるのは荒い息と沈黙ばかり。
「なんとか言えっっ!言いやがれ!!!」
返事は返ってこない。
電話を切る。
「冗談だろぅ・・・?」
ボクはタクシーを呼び止め、「国際空港まで。」とだけ告げた。
少しずつ暗くなってきた。まだ着かないの?
いらいらする。
長い長い長い長い旅を終えて、ボクは今、とある病院の個室の前。
白い扉を開けると、白い病室。
仰々しい医療器具に囲まれた簡素なベッドに眠っているのは、見慣れた顔。
いつも、血の気のない顔…とか思っていたけれど、今回のそれはいつもの比ではなかった。
近づかなくても分かるくらいに青白い。
数日前まで、ボクにあーだこーだと小言を言っていたうっとーしいあのヒト、間違えようもない。
「冗談……みたいっスね。」
アッス君が病室に入ってきた。売店に行っていたみたいだ。
「事故をおこした運転手さんは、軽症で済んだみたいっスよ。」
「…そう。
あのさ、ボクは今着いたんだケド、ユーリ、どうなのサ?」
アッス君の瞳が曇る。
現状は、ボクに電話してきた時と変わらないみたい。
「事故が起こった時、トラックがガードレールを巻き込んでユーリにぶつかったらしいっス。
だから、ただ単にぶつかった衝撃の他にガードレールのヘリでえぐられた深い傷がある、みたいっス。
ここに運ばれたころには、かなり出血していたみたいっスけど…。
でも、人間や獣人…異種族の血を輸血できるか分からなかったから…血止めて、傷塞いで、あとは可能な限りの治療をしてそのままっス。
普通のヒトだったらもう死んでただろうっスけど…
今、かろうじてでも生きているって事は、その、まぁ、アレっスね。
でも、お医者さんの話だと、今回みたいなケースの事故で、その、ヴァンパイアがどれほど頑丈な生き物だったとして…即死、しなかったのは…奇跡、らしい…っス。
……今夜を、生き延びる事ができれば、助かる可能性がある、かも、らしいっスけど…。」
「…………けど?」
「………覚悟を決めておけ、と……」
「…………………………そう…………。」
医療機器の音や点滴の音に、僕らの息。
それしか音はなく、そして、耳障りなほどに静かに夜が更けて行く。
ユーリの胸が、とても、とてもゆっくり、静かに上下している。
ああいった呼吸、どういった状態のヒトがするのか、ボクは知らない。
思い出したく、ない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
———ここはどこなのだろう?
真っ暗だ。まわりが。足下が。
私は歩いている?いつから?どこへ向かっている?
何か、引力を感じる。そちらへ行けばいいのか?
私はそちらへと行けばいいのか?
私は引き込まれるようにそちらへ歩をすすめてゆく。
着いた…ようだ。
目の前には大きな扉。
闇の中にありながら、不思議と…はっきり視えた。
この扉から、抗いがたい奇妙な引力を感じる。
…私を呼んでいる?
扉は、とても、とても魅力的に視えた。
私は扉に手を伸ばす。
魅力的な扉が私を呼んでいる。そして拒む理由もない。
とても、安らかで、少し、寂しい。不思議な気持ちだ。
—————?
左足に違和感。みれば、毛玉が足に食らいついている。
とりあえず、振り飛ばす。
飛んでゆく毛玉。見覚えがあるのは何故だろう?
そして、再び扉に手をかける…また違和感。
また同じ所に毛玉が食らいついている。
さっきと同じように、振り飛ば…なかった。
しょうがないから、手で無理矢理引きはがす。
みぃ。
不思議な鳴き声。この毛玉が発したのだろうか?
とりあえず、毛玉を解放してやる。
すると、毛玉は四本の足で歩き出し、少し進んで振り返る。
まるで私を待つように。
みぃ。
扉の引力が強くなったのを感じた。
みぃ。
毛玉が私を呼んでいる。
扉から遠ざかる、その方向へと。
私は、再び歩き出した。なぜか見覚えのある、不思議な、白い道案内によって。