次の日。今日はよく晴れている。


仕事の後。
近くのコンビニでミルクとパンを買い、廃ビルの非常階段を使って屋上に上る。
ビルの屋上からは街をかなり遠くまで望む事ができた。屋上を吹き抜ける風が気持ちいい。
みわたせば、すぐに昨日の商店街が見えた。ここからだと、少し、遠い。

私は転落防止用の柵をよじのぼり、心地よい風を受ける。そして柵を蹴って都会の空へと身を投じて、思いきり翼をひろげる。



眼下に目をやりながら、この国の人間達が下ばかり向いている事に感謝していた。
この地球という場所で、何らかの道具の力を借りずにヒトが空を飛ぶなんて事はありえないのだから。
獣人は普通にそこらへんに居るのに、妖怪や魔物、幽霊を信じないなんて変な奴らだ…。


そうこういっているうちに、目的の商店街についたようだ。










昨日の軒下に行くと、私を待っていたのかのように子猫が居た。

みぃ。

この辺はもともと人通りが少ないようだ。
そのかわり、車(大型が多いようだな。)がひっきりなしに行ったり来たりしている。

そんな事を思いながら、子猫にあのビスケットとミルクをやる。
この為だけにわざわざ紙皿を買ってみたりして。


平和だ……。





昨日と同じ、あの軒下の近くの安ホテルに泊まり、そこの電話に軽い魔法をかけて異界の王国にある我が家に電話を繋げる。

「もしもし、あぁ、アッシュか。私だ。昨日、雨の中で偶然子猫をみつけてな…」





暇だったせいもあるのだろうが、なかなか長電話をしてしまった。
子猫のことを延々と喋っていた…かもしれない。とりあえず、電話代が素敵な事になった。まぁ 魔法を使ったから少しは安くあがっては…いないかもしれないが。


それから、仕事帰りには必ず子猫のもとへと行くのが私の日課になった。
近所でミルクとビスケットを買い、あの軒下へ。
毎日こんな感じなのだ。

そして、軒下での他愛ない会話。
何か話す…という訳ではない。ただ、居るだけ。でも会話。

とても、とても有意義な時間だった。
だからかもしれないな。日没を非常に早く感じたのは。



◆◆◆◆◆◆◆

数日が過ぎた。
ここでの仕事も今日で終わり、だった。今日は雨のようだ。
私がいつものように子猫のところへと行くと、見知らぬ人間たちがいた。
どうやら、保健所の人間のようだ。



マズイ。



私は急いでその場に駆け寄った。
案の定、捕まっていたのはあの子猫で、私に気づいたのかこちらを見つめてみぃみぃいっている。


「その子猫、私が飼ってもかまわないだろうか!」



咄嗟に私の口からでたのはそんな言葉だった。
言った後に思う。何処でどうやって飼うのだ。


すると、保健所の人間達は喜んで子猫を手渡してきた。
毛皮の柔らかい感触、どことなくうれしそうな鳴き声。

もう後になど引けなかった。





そういえば、サトウ殿が最近猫を飼い始めたとかショルキーの奴が言っていたな。
子猫の事、相談してみようか。
そうそう、王国の城の所有権も私にあるのだ。
あのでっかい居候共にくわえて、さらに子猫の一匹位…
…なんだ、全然問題ないではないか。

そんな事を考えながら空港ゆきのバス停への歩を早める。

子猫は腕の中でおとなしくしている。
はて、この国では猫をつれてバスに乗れただろうか、と考えていた時だった。
何か大きな影が私に覆いかぶさった。





————————!!!!!!
















何か大きな音。
大きな質量をもったものが何かにぶつかる音と重たい衝撃。
加えて何か生理的に嫌な音。

何が起こったのだろう?真っ暗だ。何も見えない。
私はどうなったのだろう。