スタジオからの帰り道のことだった。



—見知らぬ街並—


今回はソロの活動だから一人で動いていた。


—初めて見る風景—


この街に来たのは初めてだったのだ。
そりゃあ、一応地図くらいは用意したのだぞ?

でも。



まあ、その。

…迷う事ぐらいある。


空をどす黒い雲が覆い始めた。マズイぞこれは…。


子猫に子守唄を


私はユーリ。ヴァンパイアだ。
空だってとべるし、魔法を使う事もできる。
大抵の事ならばそつなくこなせるだろうと思える程度に体力もあるし、
永い生に退屈して自分でいろいろ研究していたりもしていたので知識もかなりある。
と、思う。
(スマイルが私は学者系だとか言っていた。はて?)



それでも、自分が本当に無力だと思い知るのはこんな時。



土砂降りの雨(最悪だ。)の中、
見知らぬ街(迷ったものはしかたがないだろう!!)を、
全速力で突っ走り(こんな雨の中で空をとぶのはただの馬鹿かドラゴンの一族ぐらいだ!)ながら、
ついでにこれから泊まる宿も決めていない。(昼寝なんかしているんじゃなかった…)

おおきなため息…きっとズボンのすそを見たら、もう一度派手かつ盛大にため息をつくのだろうな。

…早く到着しろ!どこかに!











どれだけ走ったのだろう。

いままで周囲を覆っていた天をも貫くような摩天楼は、
いつのまにか林立する薄汚れた商店街になり、
黒々としたアスファルトは日に焼けた色になって、
車や人影もぜんぜんなくなった。
とりあえずシャッターの降りている店(長い間あけた形跡がない)の軒下を借りる事にした。



ああもう、どうしてよりによってこんなときにかぎって雨がふるのだ、私が宿についてから降ればいいものを、タイミングが悪いぞまったく、それにここはだいたい何処なのだどのへんなのだ、ただでさえ知らない街にくどくど・・・・

はぁ・・・

よく見れば(見なくても)濡れネズミではないか。
これならば走っても歩いてもかわらなかっただろうな。もうこのさい飛んでも良かったのではとさえ思ってしまう。









みぃ。





…現実に引き戻された。動物の鳴き声だろうか。
音の方に目を向けると、そこには、一匹の子猫がいた。


もとは真っ白であっただろうその毛並みも今は泥がついたりずぶ濡れたりでぺったりとしている。
そして、私を見上げて大きな瞳で何事かうったえている。


…腹でも減っているのだろうか?




何かないかと上着のポケットの中に手を突っ込むと、一枚のビスケット。(包装されていたおかげで無事だったようだ。)

子猫が瞳をきらめかせる。
袋をあけてやり、掌に菓子をのせて子猫にやるのと、私の腹が鳴るのは、ほぼ同時だった。



子猫はだいぶ腹が減っていたのか、なかなかいい食べっぷりだ。
その姿を見ながら、今頃他人の城でだらけくさっているであろう人狼と透明人間を思いだす。
そういえば、珍しい調味料を手に入れただとかギャンブラーZのDVDboxを買ったとか言ってたっけか。

今回の収録は長引きそうだ。
城に帰るのは当分先になりそうだ…な。

気がつけば、手の中にあったビスケットはきれいになくなり、私の手は子猫が一生懸命に舐めてべとべとになっている。全然気づかなかった。

雨はおとなしくなる気配もない。



足が疲れてきたこともあり、座り込む。
ここは軒下だから濡れてはいないが、やはり座るとつめたい。

隣で丸くなっている子猫を抱き上げて、膝の上におく。
服に泥がついてしまうが、寒いよりよっぽどいい。



もう、日も暮れたようだ。本日の宿はこの辺で決まりだな。
そういえば雨が降り出した時、すぐに近所のコンビ二かどこかで傘を買えば、濡れずにすんだのだな。


子猫は私の膝が気に入ったのか、眠ってしまった。
それを見ていると、傘のことも“まぁ、いいか"と思えてくる。おめでたいことだ。