ここはがけ沿いの花畑。

崖のはりだした広場のような場所に淡い光をまとった銀色の花が咲き乱れてる。
まるで、足下にも星空があるみたい。
本当に、言葉もないくらいに、とってもきれいだった。





「やっとついた………!!」

「ちびが行きたかった場所ってここなのか?」

「……!  …うん、そうだ……。」

「……きれいな場所だな。」

「……この花は月のない夜にしか咲かない“ルェナス”っていう花なのだ。
本で見てからずっと、ずっと見てみたくて、さがしていたんだ。
とってもめずらしい花で、このへんだとここにしか生えてないんだ!
このまえ、やっと見つけて、月のない日さがして……こんなに!こんなにもきれいだったんだ!」

「よかったな。」

「あぁ!来てよかった!!」


そうして、しゃがんでゆっくり花を見る。
銀色にみえるのはまとった光のせい。
花びらは真っ白くて、五まいだ。
図鑑でみたものよりもずっとずっときれいで、かわいらしい。
・・・うれしい!!










「ちび!」

迷子に呼ばれて振り返る。
すると、空からひとすじ星がながれて……


花畑におちた!?



「みてみよう!」







わたしたちは星のおちた場所をのぞきこむ。
そこではたぶん、流れおちた星屑っぽい黄金色にキラキラかがやく石とその破片がちらばっていた。




「なんなのだろう……星がおちてきた……とか?」
迷子が言った。

「かあさまが言ってた。たまに、空からひかりのかけらが落ちてくることがあるんだって。」

「ひかりのかけら?」

「そう。ひかりが、空のうえで結晶になったもの、みたい。」

「じゃあ、めずらしいんだ。
…これ、宝石なんかよりも、ずっときれいだ!」

「ほしいのか?」

「……!……そりゃあまあ……ちょっとは。」

「よいしょ!…と!」
わたしは上着をぬいで、じめんにひろげた。

「ちび!?なにをするつもりだ!?」

「うるさい。それに、わたしはちびじゃない。ユーリだ!」
そう言って、わたしは地面に落ちたひかりのかけらを広げた上着のうえに集める。おおきいのも、ちいさいのも全部!

「……ゆーり?」










「よし、これでぜんぶだ!」

「これをどうするつもりなのだ?」

「おまえにやる!」

「……!?……ほ、ほんとうに良いのか!?」

「あぁ。だから、この場所の事はだまってろ!」

「…秘密の場所、なのか。」

「そうなのだ。星もよくみえるし、風もきもちいい。わたしだけの秘密の場所……だったのだ。」






大きな空、きらめく星達。吹き抜けるやわらかな風に・・・ルェナスの花。
秘密…なんだ。誰にも教えたくなかった。
でも、こいつには、結局知られてしまった。

……さっき助けられてしまったから、おあいこ、なのだ。




「…そうだな。こんなに良い場所は秘密にしなければいけないな。……契約成立だ!」

「よし!約束だぞ!」











そして、しばらく星を見ていた。















「なぁ、迷子?」

「迷子っていうな。ヴィルヘルムだ。」

「…ながい……ヴィルでいいや。」

「だんだん、おまえというヤツが見えてきた気がする…。」

「おまえはどうしてツバサもないのに空が飛べるのだ?」

「飛ぶよりも、浮かぶ……カンジだと思う。えっと、"血筋"らしいぞ。」

「へぇ……いいなぁ。ヴィルは何ていう種族なんだ?」

「炎の悪魔の血を引く一族…らしい。
ユーリはヴァンパイアなのに空飛べないのか?……ツバサあるのに。」

「まだ、空を飛ぶには小さすぎるんだ…ってかあさまが言ってた。
しかも、十になるまでは屋敷の屋根よりも高い所を飛んではいけないんだ…。」

「どうして?」

「しきたりなんだ。…守る気はないけど。」

「へぇ…!じゃあ、十になる前に屋敷よりも高く飛ぶのか。…できるのか??」

「できるさ!空を飛ぶなんて、ツバサが使えなくってもできる!
いま、そのための魔法を考えているんだ。浮遊の魔法を自分にかけるための制御を練習しているところだ!」

「……!?浮遊の魔法って、自分は飛ばない事が原則になってるんだぞ!
しかも、それは昔からたくさんの空を飛べない魔法使いが試して………死んでいるんだぞ…?」

「知っているさ!でも、ツバサが大きくなるまでなんて、待ってられないんだ。
今日、ガケから落ちて……さらにもっとたくさん、こういう、空からの景色を見たいと思った!
理論と式、魔法陣は完成してる。あとは制御だけなのだ!」

「……一人でつくったのか?
いままで、誰もができなかった、完成させられなかった魔法を!?」

「あぁ!夜も昼も寝ないで考えた!きっとうまくいく!」

「……そーゆーヤツを天才って言うんだろうな………。」

「なんか言ったか?」

「…や!…おまえ、ただのつっ走りのバカなちびだと思ってたけれど、"馬鹿と天才は紙一重"…じゃなくて、実はとってもスゴいんだなー………とか思ってな!」

「そーだぞ!いつか、おまえよりもたかーい身長をてにいれてやるのだ!そして、おまえよりもずっと、ずっと高い所を飛ぶのだ!」

「それはムリだ!」

「ムリじゃない!」

「……それより、魔法!失敗したらどうするのだ?ケガでは済まないかもしれないぞ……?」

「失敗などしない!」

「どうして言い切れるんだ?」

「うまくいくからだ!」

「……根拠は?」

「いるのか?そんなもの?」

「…………。」

「……?……ヴィル?」

「なんか、危なっかしいなぁ……。」

「な、なんだと!?」

「だって、なにげにそうとう無茶だぞ。今日のつっ走り具合とか。無謀魔法の具合とか…常識でも危ういぞ?」

「むぅ……。失礼なヤツだな……。」





「………よし!決めた!」

「なにを?」

「おまえ結局、わがはいが迷ってたの助けてくれただろ!?だから、いつかおまえが困ったら助けてやるからな!!」

「……!…よけーなお世話だ!!」

「これも約束だ!」

「よけーなお世話だ!」