学校なんてとてもつまりません。
決まり事を守るなんて、正直、とても面倒で退屈なのです。
・・・そんな事を思っても、口に出すような愚かな事はしません。
もし口に出してしまったなら、軽く見積もっても10回は背中に鞭を喰らうでしょうね。
そういう所ですから。軍の士官学校とは。
この国・・・セドナ帝国は、もう随分と長い事戦争をしています。
今の戦争の相手国は何と言う名前だったか分かりません。
それくらい、次から次へと戦争をしています。自分の故郷も遥か昔はこの国を相手に戦ったそうです。
莫大な領地、莫大な領民、莫大な資源、莫大な国力。
だからこそ常勝を続けている。
どんな国も敵わない。
負けを知らないから、戦以外の喜びに疎くなる。
戦以外の力の使い方を忘れていく。
もし、今現在開発中と噂される超広範囲を跡形も無く吹き飛ばすという爆弾。
もしもそれを、天高く打ち上げたならばこの世界の全てを覆う、晴れる事の無い黒雲を一時的にでも吹き飛ばせるだろうか。この空に雲が無くなったなら、どんな色を、姿をしているのだろうか。
そんな考えなど、考える事も許されない事だとは知ってはいるけれど。
そんな訳で今日も無為に時間がすぎていきます。
あぁ、もったいない。
せめて父様が元将軍なんて位でなければ士官候補生として軍学校に通う事もなかったですのに。
故郷を離れる事も、こんな無機な灰色の街に来る事も、
退屈な勉強をする事も、
剣の重さも、
大砲の当たりにくさも、
たかが一人の人間の命の軽さも、
鞭をくらった後の背中がどれほど痛むのかも
全て、まったく知らなかったというのに。
・・・あぁ、どうして、自分は・・
・・・・・・・やめましょうか。こんな無意味な思考は。
考えたところで所詮何も変化はありません。
ここでは泣く暇も思考する暇も許されないのですから。
「遅いっ!足並みをずらすな!」
あぁ、誰か遅れたのでしょうね。
ご苦労な事です。教官殿。
こんな、行進の練習などに、意味などあるのでしょうか。
まったくもって不可解ですね。
あぁ、今日も暑い。
蒸し暑いだけの夏なんて無くなればいいのに。
・・・あら、校舎の中から誰か走ってきました。伝令の方のようですね。
その誰かさんは、そそくさと教官に耳打ちして、また何処かへと走って行きました。
その直後、教官は自分を呼びました。
一体何なのでしょう。面倒な事でなければ良いのですが。
「おいお前!」
「私ですか?」
「そうだ貴様だ。お前の父上、元大佐殿に不幸があったそうだ。お前には、只今をもって一週間の帰郷を許可する!」
自分は、あまりの衝撃にまるで雷にでも打たれたようになってしまって、即座に反応出来ませんでした。
「返事!」
「・・・!はいっ!了解しました!直ちに帰省させていただきます!」
なんという朗報!なんという幸運!
そもそも、自分がこの学校に身を置いたのは父様の命令です。
体の弱い兄様の代わりに、自分が軍人になって武功をたてろと。
母様と兄様は、近い将来自分が危険な戦場に身を置く事を案じて士官学校進学を反対なさいました。
父様の居なくなった今、ひょっとすると軍学校を止めさせて下さるかもしれません。
いえ、きっと止めさせて下さいます!
その思いを胸に、故郷へと続く汽車に乗り込みます。
故郷までは鉄道を使い、丸2日程かかります。
あぁ、自分は早くこの薄汚い首都を出たい。そしてもう二度と戻りたくない。
汽車は自分を乗せて、灰色の世界を走ってゆきます。