「ジャック!!」



「あ、母さん?おかえり。どうしたのさ、血相かえて。
そうそう、風邪かなり良くなったよ。明日からは働け「立てるわね!?走れるわね!?」

「そういえば街の様子がいつもと違うよね?何かあったの?」
「来なさい!ジャック!」
「!!?」
「いいから!」



そうして俺は訳も何も知らぬ解らぬままに、かあさんと家を飛び出した。


コンクリートむきだしの建物がひしめきあう灰色の街。
常に暗雲たちこめる灰色の空。
いつもの街。
俺たちの街。
その街に異変が起こっている事をようやく俺は目の当たりにした。


悲鳴をあげ、逃げ惑う人々。
路地はパニックに陥った人々で溢れかえってる。
その中をかきわけるようにしてかあさんは進んで行く。
そんなかあさんに引きずられるようにして俺も進んでゆく。


「ねえ母さん!なんで、こんな、慌ただしい事に!なってるのさ!??そろそろ、教えて、くれない??」
狭い路地に溢れかえった人間をかきわけながら俺はかあさんに尋ねる。
……俺の声、母さんに聞こえてるのかなぁ・・



「せ…そ…………が、は…で…………やけ…な………………!」
母さんの声、聞こえないや。
もう少し静かな所まで行ったらもっかい聞こう。




























………もう、大分遠くまで来たんじゃないのかな?

知ってる建物があまり無いや。



「あそこに隠れましょう。」

そうして俺たちはそこに見える廃工場に向かった。










廃棄処分な機械の間に身を隠して、それから俺は母さんに尋ねてみた。


「ねえ、母さん。どうしてこんなに逃げなくちゃいけないのさ?」

「……ジャック…。今、私たちの、この国が戦争をしているのは知っているわね?」

「うん。ちょっと遠くにあるこの国よりは小さいけれど豊かな国と戦っているって聞いたよ。」

「どんな状態かは分かる?」

「………勝ってるんじゃないの?工場のラジオが、そうやって言ってたよ。」

「ううん、違うわ。あのね、拮抗って言ったら分かるかしら?
要は、煮詰まってる、戦況が動いていないという事なのだけれど。」

「ふうん。煮詰まると、俺たちは逃げなきゃならないのか?」

「…こんなとき、ジャックだったらどうする?」

「んーと……相手の事調べたり……最新の武器用意したり………」

「こっそり用意していた最新の武器の事、ばれちゃったら?」

「……ばれちゃったの?」

「噂ではね。そして、その事を知ったスパイが私たちの居るGR-6432番地区に逃げ込んだらしいの。
そのせいで、FR-6498地区からGS-6463地区に住んで居る人間を全てを抹殺する……って命令が出されたらしいわ。」

「それで、みんな逃げたんだね……。」

「そういうこと。」





「・・・・そういえばジャック、あなたはもうすぐ誕生日だったわね。」

「・・・今日だよ、母さん。」

「あら。じゃあ、何か贈り物をしないとね……あら、ジャックったら。もう10になるんじゃない。
 じゃあ、これ、渡さないとね…。」

そう言って、母さんは自分の首にかけていた銀色のプレートのついたネックレスをはずして、俺の首にかけた。

「これ………。」

「あなたのお父さんがね、死ぬ前に“ジャックに”って作ったものよ。いつかの誕生日に……ってね。
本当はもっと早くに渡すべきものだったと思うけれど。母さんからは、今度渡すからね。」

それは、プレートに俺の名前と誕生日が刻んであるだけのすごくシンプルなものだった。
でも。

「お誕生日おめでとう。」

「……ありがとう。」
















その後、3時間くらいか、その工場に隠れていたと思う。










……すると、遠くから足音が聞こえた。多分、2,3人くらいかな?
俺は息を潜める。


「……居たか?」

「いや。」

「……この辺に逃げたのは分かってるんだがな……」


俺たちを殺しに来た兵隊達の会話。
心臓の音がふくれあがる。
俺は母さんの手を強く握っていた。





「あっちか?」

そして、足音が遠ざかって行くそのとき。














がたん!













頭上のパイプがハズれ、それらを支えていた支柱が曲がった。
そして、瓦礫、チリ、機械の一部などが降ってくる!





だめだ!逃げられない!死んじゃう!












俺は死ななかった。





母さんがかばってくれたから。

「ジャック、大丈夫?」

「うん!母さんは?」



「居たぞ!ここに隠れていやがった!」

音に気づいて駆けつけた兵隊達がこちらに銃を向ける。
そして、俺たちに狙いを定めるのが見えた。


頭の中が真っ白くなる。





ドゥン!ドゥン!ドゥン!ドゥン!













弾丸は俺にはあたらなかった。
みんな、母さんにあたったみたいだ。
母さんは、
また、俺を、
庇ってくれていた。


「母さん!」

「……ジャック  逃げ な   さ    !  」

「…母さん! 母さん!」



「ガキの方には当たらなかったみたいだな。」

「…のほうが好都合だろ。
 もし、こいつが機械に適合したら俺ら大手柄だぜ。」

「実験用のガキは可能な限り捕獲しろってか?
 ……ったく面倒な命令だぜ。」



「母さん……!」

後頭部に衝撃。俺の記憶はここまで。