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「しかし、ハルさんの機転は素晴らしかったですねぇ。」
「本当にね。君、霧の守護者変わってもらったら?」


雲雀恭弥が携帯をしまいながら答えます。


「クフフ、冗談!髑髏の友達を危険にさらす訳にはいかないでしょう?
それに、いくら彼女が優秀でも……綱吉君を可愛がる楽しみは譲れませんからねぇ。」
「綱吉、こんな変態パイナップルを相手にしなきゃいけないなんて、なんて不憫なんだろ。可哀想に。」
「戦うしか能のないフライドチキンが何を言いますか。こんなに無能な部下をもつなんて、綱吉君も悲しいでしょうに。」
「……かみ殺されたいの?」
「あなたこそ地獄旅行してきますか?片道ですけど。」








「……次の小路、左。」

小路から小路へ。時には塀の上や瓦礫を越えたり。今は廃墟の屋上から屋上へ飛び移っています。
そんな事を繰り返して廃墟地帯を抜け、一般路に出る直前に廃屋にて軽く休憩をはさみます。結構身体を酷使しましたからね……。
しかし、大変なのはこれからです。街の中心の方に入って行きますから。
身を隠す場所は減りますし、大きな道が増えます。

追跡は一応撒いたとはいえ、追っ手は綱吉君が怪我を負っている事を知っています。
人数にもよるでしょうが、大きな病院の周囲は見張られているでしょうね、きっと。
そんな事を考えながらしゃがみ込む。さすがに、息がきれますねぇ……。




「綱吉、降ろせば?」
「そうしたいのは山々なんですけれど……。」
「…降ろしたらマズそうなの?」
「背負い直すのが面倒なんですよ。」
「それだけ?」
「……………。多分、雨のせいだと思いますが、綱吉君の体が大分体が冷えたように感じます。できれば床につけたくない…。」
「そんなにやばいの?」
「体温を保つ為に体力を使わせたくないだけですよ。……僕の体温でも、床よりはマシでしょうからね。」
「出血は?」
「わかりません……。ただ……すごく…ぬるぬるします。」
「それじゃ分からないよ。」
「…お馬鹿さんですねぇ、あなたは本当に。」
「それは君でしょ、もう限界なんじゃない?代わってあげてもいいよ。綱吉背負うの。」
「…休憩中ですから。すぐに回復しますよ。それに、連中に見つかった瞬間から激戦が予想されます。あなたが盾に回る方が得策では?槍よりはトンファーの方が小回りが利くでしょう?」
「馬鹿だね。“君が回復するまで”に決まってるでしょ。」
「それには及びませんよ。僕は大丈夫です。」
「…綱吉落としたら、かみ殺すから。」


おもむろに雲雀恭弥の携帯が鳴る。メールみたいですね。


「…三浦ハル、無事だってさ。」
「朗報ですね。……そろそろ、出発します、か…?」


僕が立ち上がろうとすると、雲雀恭弥がつかつかとこちらに歩いて来ます。


「?」
「…綱吉。」
「……………あぁ。無駄ですよ。神社で一度意識を回復してから、一度も目覚めていませんから。」
「……本当に生きてるの?」
「拍動は感じます。多分生きてますよ。」
「綱吉、生きてるなら起きなよ。」
「無駄ですよ。というか、無茶です。」
「…………あとちょっとだから。死んだら……かみ殺すから。」
「…………。聞こえてませんよ…。」
「別に…、いいよ。」
「あと、死んでからかみ殺すって難しいと思いますよ?」
「…パイナップルはだまって酢豚にでも入ってれば?」


外で声。黒服達のものかもしれない。息をひそめる……。
すると唐突に、叫び声。














「じゅうぅぅだいめぇぇぇぇ!」

………脱力!


「……帰りたい。」
「…おおむね同意します。」


あぁ、奇跡ですね。鳥と意見がほぼ完全なまでに一致しました。


「おい獄寺、そんなに叫ぶなって…。ご近所に迷惑だろ?」
「うるせぇ山本!この辺からは廃墟ばっかりだからいいんだよ、別に!
それより十代目が一人でこんな危ない所に居る方がよっぽど危険だろうが!」
「街に溢れかえってる黒服の連中が気になるからこんな時間までさがしてみたけどさ…。…さすがにもう、こんな時間だぜ。帰ったんじゃねーの?」
「だからうるせぇっつてんだろ、山本!そんなに言うならとっとと帰れよ!」
「お前、ツナが居ない時にほっとくと何するかわかんねーだろー?」


あぁ、漫才。
敵でなくて良かったとか、増援かとか、どこをほっつきあるいていたんだこの役立たず共がとか、そういう事を思う前にまず面倒くさいと思います。


「…あいつらがこの綱吉を見たら大騒ぎしそうだよね。」
「野球馬鹿の方はともかく、駄犬の方はウザそうですね。」
「………無視したい。」
「その気持ちは胸くそ悪い程に理解出来ますが、そうもいかないでしょうね。これからの行程を考えると。」
「……パイナップルだけでも滅茶苦茶嫌なのに。」
「鳥だけでも手一杯なのに、漫才コンビまで……先が思いやられますね……。」
「………。」
「………。」
「…行って来るよ。状況だけでも説明しとかないと厄介だ。」
「僕らはここに居ますよ。せいぜいダイナマイトを投げられないようにしておきなさい。」














雲雀恭弥が出て行きました。ここには僕と綱吉君の二人きり。
僕は再びその場にしゃがみ込みます。


「………重い。」


水を吸った服が重い。
死にかけた綱吉君が重い。
血を吸ったシャツが、奪った拳銃が、疲れた体が、濡れた髪が、全てが重たい。

重すぎて息が切れる。
身動きが、取れなくなる。

廃墟の外に、雲雀恭弥以下略の声が聞こえます。
いつものように「かみ殺す」で済ませているのかと思えば、それなりの説明をしているようです。律儀ですね。
ま、質問は禁止のようですが。





ふと、背中に違和感……。あ、綱吉君、起きたみたいですね。


「おはようございます。今は夜ですけれど。」
「……むくろだけなの?」
「おや、不服ですか?」
「ううん。……ただ…どうしたのかな…と…おもって。」
「雲雀恭弥ならば外に居ますよ。野球馬鹿と駄犬の漫才が聞こえたもので。」
「あはは……ひどい…いわれようだ…ね。」
「見たまんまだと思いますが。」
「いえてる、か…も……。」


綱吉君は直後に咳き込み、少し血を吐きました。
もし、負った傷が内蔵の方にまで達しているのならば、あまり喋らない方が良いのかもしれません。


「あ、しゃつ……。」
「……別にいいですよ。どうせ、もう背中には綱吉君の血がべっとりついてて……洗ってどうにかなるレベルではないでしょうからね。」
「…ごめん。」
「だから好きなだけ吐いときなさい、とつけたしておきますよ。どのみち制服も、もう使い物にならないでしょうしね。」
「………。」
「新しいシャツと制服の代金は、全てボンゴレに請求しますから気に病む必要はありませんよ。」
「……そっか。」
「あぁ、ついでに靴も新調しましょうかね。」
「あは…は……それ、いい…かも…。」



「もう、ずいぶんとぼろぼろですね。大丈夫そうですか?」
「……おれ、こんなだから…やまもととごくでらくんと…きっと、しんぱいしちゃう、かもね?」
「それは間違いですよ。訂正を要求します。」
「………?」
「二人ではありません。四人、です。察して下さいよ、もう。」
「あはは…。むくろと、ひばりさんにも、しんぱい…してもらえる、なんて、よそうがい…だな。」
「そうですか?ま、とりあえず珍しい事だと思うので喜んでおきなさい。」
「うん…、そうする…。……あ。」
「……? …どうかしましたか?」
「あのね…これ、ぽけっとにはいってたから…。」
「銃弾?」
「たぶん…リボーンのが、まぎれこんだんだと、おもう。ふつうのよりも、ちょっとだけ、こうきゅうそう、じゃない?…きらきら、してて…さ。」
「……これをどうしろと?趣味の悪い。まさかお守りのつもりですか?」
「……さいあくのばあいに、おちいったら、うって。…おれの、あたまに…。」
「僕に、貴方を、殺せと?」
「……うん。……そう…、だね。」
「酷い事を言ってくれますね。」
「へへ……。でも、じゅうを…もってて、あつかえるの、むくろだけ、でしょ……?」
「…否定は、しません。」
「やくそく…してよ…?おれだって…しらない…ひとに、ころされたく、ないし。」
「………それは命令、ですか?」
「…ううん。……ただの、おねがい。」
「………約束、しましたよ。…でも、」
「な、に…?」
「先程、雲雀恭弥は意識の無い貴方に“死んだらかみ殺す”と言っていました。」
「あは………じゃ、しねない…ね。」
「…死なせませんよ。」
「……じゃあ、やくそ…く…だか…ら…ね……。」


その言葉を最後に、綱吉君はもう一度、血を吐いて……また、意識を失ったようです。




しかし……。
僕が彼を、綱吉君を殺す、かもしれない、なんてね……。しかも、本人からのご指名で。これは随分な皮肉、いや、名誉、ですね。
先程、ちらりと聞こえた野球馬鹿と駄犬の話が本当ならば、黒服は街に溢れかえっているようです。
彼らも遂に、本腰を入れて来たのかもしれません。

対する僕らは、戦える、という観点で考えれば僕と綱吉君を除く三人だけ。
少人数の最大のメリットは小回り。しかし、どんなに細くても、車の通れる幅のある道が殆どを占める町中。
きっと、黒服の追撃も激しくなる事でしょう…………。



なんだか似ている。あの頃と。
エストラーネオを壊滅させ、沢山のファミリーを潰し、ヴィンディチェから指名手配を受けた頃と。
逃げ惑い、傷つき、最後には追いつめられ、絶望する。
同じなのだろうか。また。
すべて、奪われてしまうのだろうか。
……綱吉君…。
折角……僕等の事も“仲間”だと言ってくれたのに……。


理不尽だ。
何故こんなに、僕ばかり!両親の次は眼!眼の次は自由!自由の次は……仲間!
生きてさえいれば光が、希望が見えると思っていたのに!どんなに辛くても、醜くくとも、生き抜けば、生きてさえいれば、何か、たとえどんなに歪でも、何かを掴めると……信じていたのに!
だのに、いつだって、希望は指の間をすり抜けて……この手が掴むのは暗闇ばかり。


もう、嫌だ。


綱吉君が死んだら、ついでにこの奪った拳銃で自殺してやろうか。
もうこんな人生はまっぴらだ。
輪廻したとしても、また“僕”として生まれる訳ではないのだし…。
……いや、わざわざ自殺しなくても、黒服達が証拠隠滅の為に殺してくれますね、きっと。

逃げたい。全て投げ出したい。楽に…なりたい。

つと、取り出した拳銃を見つめる。
銃弾の残りは2発。それに加えて、綱吉君が渡してきた手持ちが、一発。



……きっと、ぼくは、さわだつなよしを……。


…いや、まだ決まった訳じゃない!
きっと、病院に行ける。
きっと、間に合う。
きっと、死なない。いや、死なせない。絶対、大丈夫!
生きてる。きっと生きてる。絶対に生きてる!
大丈夫。絶対。絶対に、間に合う!大丈夫。失わない!
大丈夫。絶対に、奪われない!大丈夫!大丈夫!絶対に大丈夫だから………!






「僕とした事が…情けない……。」

夜の廃墟は暗くて、冷たくて、重たいけれど、背中はまだ、暖かい。絶対に、大丈夫…!
もう、悪夢なんて終わったのだから!

























「じゅうだいめぇぇぇぇぇ!」:
「ツナ!」
「君たち、騒がないでって僕言ったよね……?」


唐突に声がする。


「うるさいですよ…。そんなに地獄に堕ちたいんですか……?」


俯いていた顔をあげると、馬鹿面が雁首そろえてそこに居ました。
こいつらの顔……あ、ところどころにかみ殺された痕がありますね……。
しかし…間抜け面ですねぇ…。


「説明は受けましたか?」
「あぁ、一応な。」
「じゃあ、分かりますね。時間がありません。」
「おい、その前に。」
「何か?」
「十代目の容態はどうなんだよ!」
「あ、それ。俺も聞きたいのな〜。」
「…雲雀恭弥。」
「そこは、僕もよく分からないから言わなかっただけ。一応、良くないとは言ったけど。」
「………見てのとおり、としか言いようがありませんよ。傷が深く、出血が多い。ひょっとしたら、内蔵まで達してるかも……ま、そこは予想ですが。」
「そんなにヒドイのか?」
「そうですね。かなりの重傷です。あ、まだ死んではいませんよ。心臓は動いてますから。」
「あたりまえだっっ!」
「ねぇ、外。いるよ。」
「!」


慌てて気配を消す……。
外ではは黒い車が走り去って行きました。


「出発した方がよさそうだね。」
「そうですねぇ。ま、何にせよ長居は無用ですし。」
「そんじゃ、いっちょ頑張るか!」
「十代目、すぐに病院に連れてって、楽にさせますからね……。」
「獄寺、それ病院で……。」
「殺すみたいだね。」
「あるいは薬物ですか?」
「てめぇら!十代目がピンチで無かったら殺してたぞ!……フン、命拾いしたな!」


「かみ殺したい……。」
「…かみ殺せばいいじゃないですか。僕は止めませんよ。」
「まぁまぁ…かみ殺すのなんていつでもできるだろ?今は獄寺よりもツナだしさ。」


「山本武、なかなか酷い事言いますね…。」
「……本音なんじゃない?」

「ん?どーかしたか?」
「「いや、何も。」」