「ごちそうさまでした!」
こんなうまい食事初めて食った!


そして、空腹も満たされたところで。
俺は幾つか質問をしてみる事にした。




「なぁ、ところでここは何処なんだ?」

「お前、おとぎ話を読んだ事、あるいは聞いた事はあるか?」

「あるけど……それ、答えになってなくないか?」

「十分なっていると思うぞ。ここはそのおとぎ話の中だ。正確にいうと、この世界自体が。」

「……冗談!」

「心の底からそう思うか?」

「……だって、あり得ないだろ?そんなの……!」

「お前がこの世界に現れた時、満月を引き裂いて降って来た。我輩にはそちらの方が“有り得ない”と思うが?
その上、異世界から生きたまま流れてくるなど、ここの世界の法則では少なくとも“有り得ない”事なのだがいかがかな?」


「…もしかしたら俺は、体の半分以上は機械のサイボーグだから、生きてたのかもしれない……。」


「…なるほど、やはりな。普通ではないとは思ったが。
お前が空を割るのを見ないで、治療もしていなかったならば我輩も“有り得ない”と言っていた所だ。
お前の世界では、皆、そういった機械を体に内蔵しているのか?」



「俺は実験体で軍人だから特別なんだ。
 …なぁ、さっき、ここはおとぎ話の中の世界だ、って言ったよな。」

「あぁ、この世界はおとぎ話によって生み出された世界。ちなみにこのあたりは“メルヘン王国”と呼ばれているがな。」


「あのさ……魔物とか…いるのか?あと……悪魔、とか。」

「居るぞ。」

「あの、違ってたら流して欲しいんだけど…あんたの名前“ヴィルヘルム”だったりしないか?」

「……。」

「でさ…結構偉い…と、いうかさ、強い……悪魔、だったりしないか?」

「…その通りだが。知っていたのか?」

「…やっぱり。小さい頃に誰かから一冊だけ、貸してもらった絵本。その中に……あんたが居た。
……へへ。俺、あんたの仮面とった素顔、知ってるぜ。瞳の色、赤いよな?
魔法も使えるだろ?結構おっそろしいヤツ……。そして、この広い屋敷に一人で住んでいる。」

「全て正解だ。ちなみに地位は伯爵である。」

「……その偉い伯爵サマはどうして俺なんかを助けたりしたんだ?」

「気まぐれ。」

「…………………そんだけ?」

「ついでにいえば異世界への興味、といったところか。不満か?」

「いや?……へ……へぇー………。」




わぁ。なんか俺助かったの奇跡みてぇ。
きまぐれと興味で生かされてしまったよ。













「そういえばジャック、お前はこの後どうやって生きて行くつもりだ?」


……思い出した。どうしよう。
ここの土地勘とか一切無いよ。俺。
ここでほっぽりだされても生きていく自信もない……。
俺の常識、どこまで通じるんだろうか……。



「我輩に提案がある。」

何だろう?

「我輩には今、為すべきことがある。その為には必要な情報がたくさんあるのだ。
 それらの情報の入手はとても難しく、並の者では話にすらならない事と思われる。」

「………。」

「我輩にはお前の体に埋め込まれている機械に関する知識は無いが、それは筋肉に働きかける類いのモノであろう?」

「あぁ。単純に言うと普通の人間の何倍もの力が出るんだ。」

「それをここで役立ててはみないか?」

「……人を殺す事はあるのか?」

「場合によりけり、だな。それ自体が目的ではない場合はうまくやれば何もせずに済む。」

「……俺次第なのか。」

「降りても構わないぞ。」


「……何も分からずに承諾するのは気がひけるな。でも、他にここの世界で生きて行く方法も自信も無い。
 ……あんた、これ以上質問しても何も答えないだろ?きっと。」

「あぁ。まだ言う事があるとすれば、衣食住は保証するということぐらいか。一応給料も出すぞ。」

「…俺はあっち世界では殺戮人形だった。仕事内容は主に暗殺や情報収集、殺戮や破壊だった。そういうのは向いているかもしれないな。
 そして、できればもう、人は殺したくない・・・」

「……。」

「それにもう、あの世界に帰りたいとも思わないし……それに、これ以上の好条件を望むつもりもない。つまり、願ったり叶ったリだ」

「…我輩の元で情報収集の任に就くと言う事で構わないのか?」

「あぁ、任せといてくれ!」

「ふ……。」




そうして、ヴィルヘルムは立ち上がった。
そして、その羊みたいな仮面を取った。
あかがね色の髪と深い赤の瞳が印象的で、絵本で見た姿より凛々しかった。










「そうこうしているうちに夜が明けたようだな。」


窓から光が差し込んでくる。
すごい。
空が、青い!?


「今日も良い天気のようだ……。」


山の端から輝く光の玉が上ってくる。
雲がない。
なんてきれいなんだろう。
光が溢れて……目がくらむ!




「……日の出がそんなにめずらしいのか?」

「俺のいた世界じゃ、空はずっと灰色の雲が覆っていたんだ。晴れるなんて、有り得ない事だったんだ!
なぁ、この世界ではこんな光景がいっつも、毎日みられるのか!?」

「いつもと言う訳ではないな。曇って雨が降る事も雪が降って吹雪く事も、虹がかかることもある。」

「そんなにいっぱいあるのか!?全部見られるのか?すごいんだな!いつ見られるんだ??」

「いずれ、わかるさ。」

「……むぅ。」





「……よし、ジャック。
これから最初の任務を言いわたす!心して聞くように!」

「………!!」

「本日我輩は古き友である北の城の吸血鬼に会わねばならぬ用事がある。」

「はいっ!」

「よって荷物持ちとして同行せよ!」

「了解いたしました!」

「良い返事だ。あそこの城に行くと、
大抵何か美味いものが食える事を覚えて準備しておけ!」

「……楽しみだ……。」

「返事!」

「はいっ!!」




こんなに幸せな楽しい気持ちになったのは随分久しぶりだと思う。
俺はメルヘン王国が好きになれそうだ。

あぁ、外に出るのが楽しみだ!



おしまい


ついに完結〜☆
あぁ、長かったなぁ。
そして、この話も随分予定よりも長くなってしまった。

この話を思いついたキッカケは”ヴィルヘルムって何者!?”って事でした。
だって、ジャックと違いすぎる・・・!!!
ジャックは近未来的な感じがするのに、
ヴィルは16世紀ヨーロッパちっく・・・
ど・・・どこに共通点が!?う・・・動き??

続編(というかサイドストーリー)書く予定です。
今度は極卒くん出てきます。
構想はあるので早い……カモ!?