なんだか結構歩いたような気がするっスねぇ・・・。
どこまでも紺色。交わる線や裂け目・・・”世界の入り口”に変化はあれど、基本的にはどこまでも一色っスからねぇ。
さすがに、飽きてくるっス。

案内人さんに何か話しかけてみようかな・・・
どんな話題がいいだろう?





「・・・えっと、案内人さん?」

「はい?」

「案内人サンはその、お給料とかもらって仕事をしているんスか?」

「キュウリョウ?」

「対価のことっス。」

「はい、もらっていマスよ。」

「いくらぐらいなんスか?・・・というか、どんな物なんスか?」

「簡単にいうと、“時間と命”デス。」

「・・・なんかものスゴイっスね。でも、時間とか命なんてどうやって・・・てか誰が?」

「さぁ。誰でしょう。私は知りまセン。ただの信号機デスから。
でも、案内の仕事をする前は至極普通の動かない信号機でシタよ。それが、この案内の仕事を引き受ける対価に自由をもらいマシた。」

「へぇ。じゃあ、休みの時にウロウロして他の信号機さんと会ったりして・・・」

「休みはありまセンよ。ここでは時間は流れまセン。休息もありませセンしね。」

「え、じゃあ自由って・・・。」

「そんな事を説明しマスと、ちょっとした長話になってしまいマスよ?」

「構わないっスよ。この風景にも大分飽きて来たし。」



「私はとある世界で寿命を迎え廃棄処分が決まった信号機でシタ。
私はまだ働きたかったけれども、もう光って人々を導く事もできまセンでした。
でも、私は幸せでした。
だって、寿命まで働けたという事は、それだけで幸せでショウ?

そして、幸せな私は街から取り払われマシた。
その後をできたての信号機が建てられマシた。私も少しだけその姿を遠くから見まシタが、その姿はきらきら眩しく輝いて。
この汚い信号機とは雲泥の差でシタね。
“まだ働きたい”なんて思った自分を軽く恥じまシタ。

そして私は処分場に運ばれまシタ。
まだ“私”が“私”でいられる猶予はもう少しだけありまシタ。

そのとき、たまたま私のいる瓦礫の山が崩れまシタ。
その時に私の位置もズレて、空しか見えなかった私には遠くにいるまだ現役の信号機が見えまシタ。

その信号機を見た時。まだ働きたい。と強く思いまシタ。
まだ誰かを導きたいと思いまシタ。
誰かの助けになりたいと思いまシタ。
しかし、私はただの壊れた信号機。電気が流れたとしても何もできない信号機。悲しかったデスね。

そうしたら、なんだか瓦礫の山の頂上あたりから誰かの声がして、私に“働かないか”と言うのです。
思い詰めていた私の返事は・・・言うまでもありまセンね。

そうして私は案内の仕事をもらいまシタ。
生きて働き続ける自由。それが私の自由デス。
だから私はとても幸せで自由な信号機なのデス。」



「生きて、働き続ける自由・・・。」








「あぁ、アッシュさん、着きましたメルヘン王国北方大森林ヴェラスウェード城門前、ただいまの時刻はメルヘン王国時間20:10分デス。
今宵のメルヘン王国は大変きれいな三日月のようデスよ。」






















「アッス君、どうしたの?帰って来てからずっと考え込んでるみたいだよ?」

「ちょっと、自由と不自由について考えてるんス。同じようで違うようで、でも・・・・??」

「・・・なんだか難しいねぇ。アッス君のアタマも完全についていってないの丸出しだし。
まぁ、参考になるかならないかは知らないけれど、ボクの考えというか答えを教えてあげようか?」

「スマイルの答え?・・・知りたいっスね。」

「シアワセと自由はイコールだ・・・っていうのがボクの答え。」

「・・・俺は自由じゃないシアワセも自由な不幸せも、どっちもあると思うっス。」



「ボクの理屈だと、"シアワセである"と感じる時って、大抵はある程度自由な時じゃない?フシアワセな時なんて、大抵は不自由。
だって、"あぁ、なんて不自由でシアワセなんだ!"・・・なんて思う事めったに無くない?
そんなら、シアワセ=自由の式が成り立つよ。

でもボク今は不自由。でもシアワセ。分析してみると、
外出する時はアッス君やユーリに声かけとかなくちゃいけないし、思いつきとかでふらっ・・と旅に出たりできない。だから不自由。でも、"ボクはこのお城に 居着く"という自由の上でこの不自由を享受する。その対価として、キミらと過ごし、Deuilというバンドのベーシストとして演奏する権利を持つ、という シアワセを享受している。と考えれば、それは自由。
ようは捉え方次第なんだけれどね。コジツケみたいでも、ボクの持論なの。

あえて自由を享受しないのも、おとなしく享受するのも自由。
選ぶ権利がある、という事がすでに自由。選択の自由・・・ってヤツ?

ちなみにその理屈だと、シアワセを享受しないのも自由なんだけれどね。
そんなバカなヒトも世の中には結構いるんだよ?物好きだとは思うけれど。ま、自由だから。」



「・・・・深いっス。知恵熱でそう。知恵熱で死ねそう。」

「それは困るよ。特にお腹が減った時とか・・・・
・・・そういえば、ユーリ早く帰ってこないかなぁ・・・お腹好いた。餓える・・・。」

「もうそろそろっスよ。ほら、我慢我慢。
ユーリが待ち遠しいなら空でも見てりゃイイっスよ。ひょっとしたら見えるかも。」

「むぅ〜・・・。
あ、今日は月がとってもキレイ・・・。」

「・・・そうっスねぇ・・・。」



空はまるで、紺色のビロードを垂らしたような空に、猫の爪を引っ掛けたような月がかかってたっス。
案内人サンが言っていたように、それはそれはキレイな夜空だったっス。

きっとあの古い信号機さんは、今日の空のようにどこまでも紺色な世界で、休む事無く誰かを案内している・・・そう思うと。




「スマイル。」

「ん?なぁに?」

「早く、鍋食べたいっスね。」

「・・・そうだねぇ。お鍋楽しみ・・・。」



今のシアワセの為にこき使われてやるのも、悪くないな。
とか、思ったりして。

それが、今の俺の"自由の選択"っス



おしまい


アッス君のお話。
ってか、マイワールド200%全開フルスロットルな気がします。
まぁ、いつもの事ですが。

今回の話はある絵(pictにて展示)を描いている時に、描きながら思いついた話だったりしましてます。
この信号機、絶対しゃべるぞ。—妄想はここから始まった—・・・みたいな。