獄寺隼人はわくわくしていた。
今手に持っているのは、シェフの新作スイーツである。
自分に割り振られた仕事を一段落させた彼はこれから、これをボスの仕事部屋に夜食として持っていって一緒に一服する。そんな予定だった。
彼にとってボス、沢田綱吉とは14歳の頃からの付き合いである。
昔はよく一緒に遊んだものだったが、最近では時間の食い違いや忙しさもありとんとご無沙汰。
お茶の席を共にするのも久しぶりのような気がしていた。
「十代目ーケーキをお持ちしましたー!赤いイチゴの美味しそうなババロアで……じっ、
十代目ええええええええぇぇーーーーーーっ!!」
獄寺の悲鳴に、そばに居た連中…いや、いつもの顔ぶれがだらだらと慌てて勢ぞろいする。
ぽかんとした顔の山本。
真っ青になるランボ。
顔は真面目だが多分別のことを考えている了平に、不機嫌を丸出しにしながら鳥にえさをやっている雲雀。
殺意剥き出しのハルに困った顔の京子。
彼女にしては珍しく表情で持って「あきれた」を体現する髑髏。
彼等の眼前には血まみれでひっくり返るボンゴレのボスと、その隣に縛り上げられた骸が居る。
それらの前でリボーンが告げる。「何があったのか説明しやがれ」
獄寺が言う。
「はいリボーンさん!俺が扉を開けたら十代目がひっくり返っておられたので、とりあえずそばに居た骸を容疑者として確保しやした!さぁ、白状
しやがれ六道骸!てめぇが十代目を暗殺しやがったんだろ!」
リボーンが続ける。「骸、反論はあるか。」
「ありません。僕がやりました僕が悪いのです。申し訳ございませんでした。」
「気持ち悪いほど素直だな。」
「ひとつ言っておきますけど多分綱吉くん死んでませんよ。生きてます。」
「えっ」
「はひっ!ホントです獄寺さん、よく見たらなんかツナさん生きてますですよー!ぴくぴくしてますです!」
「マジでか!うお!本当だ生きてらっしゃる!」
「うるせーぞ獄寺。で、骸。お前は一体ツナに何をしたんだ?」
「言わなきゃいけませんか?」
「お前、今ギリギリで生かされてんだぞ。」
「うー。」
なおもしぶる骸。
「ここは俺にまかせるのな!」
「あ!チョコ!」
山本が取り出したのは明治の板チョコ(どうみても食いさし)である。よく見ると紐が付いている。
それを骸の前に垂らして、振り子のように揺らす。
「お前はしゃべりたくな〜る、ツナの事をしゃべりたくな〜る…。」
「はひぃ…催眠術ですかぁ?こんなもんで本当にきくのでしょうか。」
「山本武は僕の見込んだ男だよ。」
「委員長さん、そのセリフはもっとかっこいい場面で使ってほしいのです。」
そうこうしているうちに、骸の顔がぼーーーーーっとしてくる。
そしてつかさず山本が告げる。
「…さぁ骸!何があったかぁー、言ってっ、くれるかなー!?」
「いいともーーーー! ……あっ!」
「さぁいいとも出たぜ坊主!」
「さすがだな山本。」
「当然なのな!」
「ううっ…こんなくだらない手に引っかかってしまった…。」
「言っちまったもんはしょうがねぇぞ。さぁ言え。」
「…嫌です…というか、綱吉くんの為にも言わないほうが、聞かない方がいいと思います。」
「だめだ言え。いいとも言っただろ。ここで断ったら大量のタ◯リがお前を取り囲んでマトリックスし始める幻影をフランとマーモンに依頼するぞ?…あぁそう
だ、ヴェルデ開発のグレードアップした幻影実体化マシンの実験をするのも悪くねぇな。」
「やだそれ怖い!」
「さぁ、タモリックスされたくなかったら言え!」
「わ、わかりましたよ言います!でもその前に拘束を解いてくれませんか?きっとただ説明するよりも実演付きのほうがわかりがいいと思うので。この状態なら
逃げるも何もないでしょう?」
◆◆◆◆◆◆
骸の要望により、ツナが血まみれでぶっ倒れた現場を再現する事になった。
執務室で椅子に座り、ツナの代理をするのは獄寺だ。
秘書もどきな骸が言う。
「本当に実演して後悔しても知りませんよ僕。」
「うっせぇよ!」
骸が一瞬イラッとして見せたが、すぐにいつもの涼しい顔にもどした。しかし、こころなしか罪悪感のある顔をしている。
「あぁ綱吉くんごめんなさい、僕はここであったことの一切を君の友人たちにバラします!申し訳ございません!でも僕命かかっちゃいましたから!君のプラ
イドよりもよりも自分の命を取る僕をお許しくださいっ!」
「だから早くやれつってんだろ!」
骸の幻術が発動する。
時計の時間が巻き戻り、机の上には書類が積み上がる。
「皆さん時計を見てください。」
一同、時計に目をやる。
「ご覧の通り、一応終業時間です。僕はヴィンディチェに代わりボンゴレに監視されているという立場上のものもあるんですが…まぁぶっちゃけ、みなさんも経
験あると思うんですけど、時間が来たので勝手に帰ろうとすると、顔面が可愛いだけが唯一の取り柄な沢田綱吉にあるまじき親の敵みたいな怖い顔で睨まれるの
で帰れません。」
「無視すればいいじゃない」
「黙れアヒル野郎。あの顔の恐ろしさを貴様は知らないから言えるのだ」
深くうなづく山本を満足気に眺めると、骸は続ける。
「しかしながら、この次点での綱吉くんの机は見ての通りの摩天楼状態です。そして…想像ついてるとは思いますが、彼は完全にダレていました。ついでにこの
僕を
差し置いて非常に眠そうだったのです。そこで適当に苛立ちながらも早く帰りたい僕は一計を案じました。」
「それって…?」
髑髏が不思議そうに尋ねる。
「ま、簡単に言うと気分転換ですよ。ちょっとしたイタズラをしてみようと。ちょうど退屈だったですし。」
「何をやらかしたんだ?」
獄寺が問う。
「大した事じゃないですよ。」
ふわりと漂う、幻術の気配。
すると…
そこに立っていたのは六道骸ではなく、
真っ赤なギリギリミニのワンピースに身を包んだ、ボンキュッボン悩殺ダイナマイトボディの金髪美女だった!
「えっ…!?」
一同、硬直。
唯一雲雀だけが、「昔からあるビッチのテンプレートだね」と涼やかに言う。
「そうなのん☆だからこれでボスに迫ってみたのよぉん」
そう言いながら、甘ったるい声の金髪美女(骸)はボス役の獄寺にすりよる。
「うっふん」なんて甘いセリフを吐きながら、適当におさわり。
やっぱりダイナマイトな胸元が気になるところだが…
「やっ、や、や、や…やぁぁめろぉぉぉぉぉおおお!」
だがしかし獄寺は正常だった。盛大に骸を突き飛ばす。
再び獄寺が顔を上げると、そこには多少よろけながらも「想定済み」な顔をした骸が尻餅をついていた。
「ねぇ、綱吉ってもしかして。」
雲雀が言う。
山本が可哀想なものから目をそらすように明後日の方角に首を向ける。
髑髏は小さくため息。
ランボは…とてもとても切ない顔。
「もしかしなくてもそうですよ。綱吉くんはあの次点で僕を突き飛ばすどころか鼻血吹いてブッ倒れたんです。」
骸の声が無情にも部屋に響いた。
「僕だってさっきの獄寺隼人みたいな反応を予想しましたよ。気持ち悪いと一発殴ったら仕事再開してもらおうと思ったんです。これが今回の流血事件の全容
です。わかったでしょう?まったく、女性に免疫がないにしたって、ここまでテンプレートを地で行けばさすがに突き飛ばすか殴りかかる程度の抵抗はできるか
なーなんて思った僕が残念でしたよね!」
「じっ…十代目はピュアなんだよ!」
「言っときますけど、この術は幻術の中でも最低級のものです。超直感なんてものがなくたって、炎を扱えるレベルの人間なら実に簡単に見破れるレベルです
よ!」
「うるせー気が動転なさっていたんだ!」
「僕彼の目の前で術使いましたからね!貴方だって先程は派手に突き飛ばしてくれたじゃないですか思いっきり!」
「う…!」
「僕はそういうのを想定していたんですよ!術使うなとか気持ち悪いことすんじゃねぇよとか、そういう反応を期待していたんです!まさか、目の前で変化し
た…中身が野郎だと100%わかっている女の姿で鼻血吹くなんて、誰が想像しますかねぇ!?」
部屋の中は静まり返った。
無情だ。あぁ無常。ちょー無常。マジ無常。
さりげなく監視カメラから映像をチェックしていたハルが、絶望的な声を出す。
「つまりツナさんは………」
「……そうね、ツナ君って…胸の大きい子が好みなんだねっ!」
京子の明るい声。
「はひ!?京子ちゃん!?」
「だってツナ君って、普段私達には普通に接してくれるでしょ?私達と骸さんの変化のなかで一番の違いってそこじゃないかなって思ったの。なんだか意外なと
ころからツナ君好みの女の子が割り出せちゃったね!」
しーん。
「そうね…京子ちゃんの言うとおりかも…」
「はひ!どっ…髑髏ちゃん!?」
「骸様、こう?」
髑髏が、さっき骸がやったように金髪美女の姿になってみせる。
「悩殺?」
静まり返る。
「ナッポーの方がえろかったな!」
思い切り了平が言う。髑髏が即座に反応して更に胸元を強調するスタイルに変化させる。
「俺はもっとケツがデカイ方のが好みなのな〜」
山本の声に、更に髑髏が微調整をかけ…
「ポーズも重要だと思います」
ランボの提案も盛り込む。
隣でハルが胸元を強調するポーズを考案してるのをハスに…
「いや、やっぱ男目線のやらしさだからこその悩殺ボディだな」
リボーンが話題を強制終了させた。髑髏は不満そうである。
「とりあえず僕の処分はどうなりますかね。リボーン裁判長?」ため息つきつき骸が尋ねると、
何か思いついたリボーンがニヤリと笑った。
つぎのひ!
「ふえええええ仕事終わらないよぉぉぉお!」
「うふふ、貴方が悪いのよん☆」
嘆くツナに、投げキッスを飛ばす美人秘書。
リボーンの下した思いつきはこうだった。
お咎めは特になし。しかし…向こう一週間のあいだ、骸は術で女装すること!
ツナは絶望していた。情けないイタズラでぶっ倒れた自分と、目の前で微笑む満更でもない顔をした美人秘書(骸)にだ。
「うー…骸、お前はなんで楽しそうなんだよ…。」
「うふふっ☆だって公式に女性の格好ができるんですよ?女性ならではのオシャレも沢山ありますし、一連のばかばかしい騒ぎを知らないボンゴレ構成員に見つ
め
られたり口説かれたり!これはこれで面白いんですよねー!バカばっかり!クフフ、綱吉くんも僕に釘付けになってもいいんですよ!(ステキウィンクがバチコーン☆)」
「釘付けだよばか!気持ち悪いって意味でな!あと!無駄に胸元とか太ももとか強調する服着るのやめてくんない!?」
「綱吉くん知ってますよね?僕が男だってこと!なら問題ないじゃないですか。」
「ある!散る!」
「性欲が」
「違う!気が!散るの!俺オトコ興味ない!」
「やらしい目で見てるぶんには友情価格でタダですが、一発ヤリたいなら20万円もしくは200ユーロから受け付けてますよ。」
「高い!そしてなんて無駄!」
実は、ここ最近でクロームやハルの服装も少し胸元もろもろを強調した服になっていたのだが、
当然のごとくギリギリでいつも生きているような格好の骸のせいであまり目立た
なかったようである。
おわれ!