「綱吉ッ!」

執務室の扉が、ノックもなく思い切り開かれる。
開いたのは、雲雀であった。

雲雀は、つかつかと綱吉の執務机に詰め寄る。
そして、一枚の紙を机に叩き付ける。
そこに書かれていたのは”果たし状”の4文字。


雲雀の態度は真剣だ。
その場に居合わせた獄寺、山本もリアクションを取る前に、その尋常ならざる雰囲気に硬直してしまっている。

ツナは、その果たし状を開き、目を通す。
そして、静かに口を開いた。


「ヒバリさん。」
「断るとは言わせないよ、綱吉。」
「…わかっています。そろそろだと思っていましたから…。俺、逃げるつもりはありません。この挑戦…受けて立ちます。」
「ふん…上等。」

「十代目!?」
「ツナ…?」

「場所は…いや、わざわざ言わずともわかるよね。時間は、そこに書いてあるだろ?」
「…わかりました。」
「今年こそ、君をその椅子から蹴落としてあげるから。首、洗っておいてよね。」


そうして、雲雀は荒々しく執務室から出て行った。





「十代目、本気ですか?」
「大丈夫だよ。…たぶん。」
「ツナ。」
「山本も、心配しないでよ。俺は大丈夫。絶対に。」
「…雲雀のヤツは、本気です。何を吹っかけられるか…。」
「わかってる。でも、何せ相手はあの雲雀さんだ。おいおいと見逃してはくれないだろうし、それに…ここでこの挑戦から逃げる訳にはいかないんだ。俺にも、一応プライドがあるから。」
「…無理は、するなよ?」
「わかってる。…雲雀さんが姑息な手を使ってくるとは思わないから…多分真っ向勝負で決まり、だと思う。」
「…。」












そして、約束の日が来る。




舞台はニュージーランドの広大な牧場の一角をまるまる貸し切ったものだった。
天候は快晴。そよ風が頬をくすぐる絶好の決闘日和。
指定の場所には、「世界選手権会場」と書かれていた。

その隅に佇むのは、黒髪、黒目に黒パーカーの雲雀恭弥。


「来たね、綱吉。エントリーは済ませたのかい?」
「えぇ。…ヒバリさんは場内に居た連中を見ましたか?今年も猛者ぞろいみたいですよ。…困るな。」
「何を言っているのさ。どうせ、頂上は僕か君の二択でしょ。」
「ふふ。まぁそうでしょうね。」
「ねぇ綱吉。」
「?」
「僕は負けない。絶対に。…何が何でも君に勝つ。そのためには、手段だって選ばないつもりだから。」
「俺、例えヒバリさんが相手でも、負けるつもりなんてさらさらありませんよ。」
「ふ。上等だよ。今にその鼻っ柱、へし折ってあげるからね。」
「楽しみにしてますね。…がっかりさせないでくださいよ?」




そして、少し離れたこちらに居る人達は、この前の騒動の時に何事かと見ていた野次馬達。
観客ともいう。


「世界選手権で決闘とは…雲雀め、極限にシャレているではないか!」
「すごい…死ぬ気じゃないボンゴレが…よりによって雲雀の兄さんに、あんなに好戦的な目を向けてるなんて…信じられない…。」
「ボス…かっこいい…!」
「十代目っっ!…勝負は見えてますっ!雲雀の野郎に、目にもの見せてやってくださいっっ!」
「しっかし…こんな大会あるんだな。初めて知ったぜ。」
「ま、それはそうですよね。この戦いは、一応公式とはいえ、情報が出回りませんから。まず大会の情報をつかむ所からが戦い、と言われています。そして、情 報を掴んだものが…その情報そのものがそのまま出場条件となる、と聞いています。確かに、これぞまさに世界一を極める頂上決戦、ですよね。」
「はひぃ。そんなにすんごい戦いだったんですか!?そこで決闘…ですかぁ。はひぃぃぃぃぃっ!ドキドキですぅ!」
「ツナ君…大丈夫かな?」





観客達がそうこうしているうちに、草原に作られた巨大なリングに、緊張が走る。
参加者達は全員同じ、手に持ったおよそ指先から肘くらいの長さの、細い棒を構える。

そして…ゴングが鳴り響く!



それと同時に、参加者達は指に、あるいは棒に糸を絡ませて、地を蹴る。
狙いは…他の参加者達の…獲物!

雲雀は、他の参加者達の猛攻を軽く受け流して、指に絡めた糸を手繰りながら戦う。
そして、そこに突っ込んでくるのは…炎の灯らない薄茶の、ぼさぼさ頭!

ツナの一撃は雲雀の手元の糸をくゆらせる。
雲雀も黙ってはいない。手元の棒を使い、巧みにツナの糸を荒らす。





「すっげぇ…」
思わず獄寺がつぶやく。
それに、何人かが頷く。それ以外の者は、そのつぶやきすら聞き逃す程に、戦いに魅入っていた。

そして、激しい攻防の末、雲雀がバトルフィールドから飛び降り、審判者に獲物を渡す。
雲雀が何かを渡した直後、ツナもフィールドから飛び降りて、やはり獲物を審判者に手渡す。



後は判定待ちのようだ。











そしてしばらく後、司会者がマイクを取り、壇上に上がる。

「今回の、"セーターの早編み無差別格闘級世界選手権"、今年度のチャンピオンに輝いたのは…サワダ・ツナヨシ選手!」

わぁぁぁぁぁーーーーー!!っと歓声が上がる中、雲雀が司会者に講義する。




「ちょっと!タイムが短かったのは僕じゃないの!?」

すると、司会者は雲雀の作ったセーターを取り出し、一カ所を指差す。
「タイム的にはヒバリ選手の方が上でしたが…3カ所程、ほつれが見つかったので減点です。その結果得点が少々下がりまして、結果的にサワダ選手に軍配が上がったのです。」

見れば、3カ所程ほつれがある。
雲雀は眉間にシワを寄せながらも、納得したようだ。




優勝者ツナに、仲間達が群がってくる。

「十代目っ!素晴らしいですっ!あれだけの猛攻のなかで、こんな見事なセーターを編まれるなんて…っ!!」
「すごいですツナさんっ!だってこのセーター、ほつれひとつありませんよっ!カンペキですぅ!」
「それに、柄もすごいよ!とってもきれいだねっ!…でも、最初に貰った毛糸玉、ひとつだったよね?一玉でセーターって、編めるの?」

京子の質問に、ツナが答える。

「ううん。無理だよ。…毛糸玉はね、他の参加者から奪って調達するの。俺だって雲雀さんとばっかり戦ってた訳じゃないもの。」
「でもでも、すると色がとってもデンジャラスな事になりませんか?なっちゃいませんですか?」
「うん、そこできれいな模様をつくるのも評価点数の一つなんだ。スピード、完成度、芸術の総合点で決まるからね。」
「はひぃ〜。あれだけの戦いの中でそんな事をするんですかぁ?」
「うん。結構大変なんだよ。」

談笑するツナの後ろから、雲雀が呼びかける。

「綱吉。」
「ヒバリさん!」
「今回も、僕の負けみたいだね。」
「すいませんね。」
「…いや。こないだのセーターの早編み公式世界選手権じゃ3列も差を付けられてしまっていたからね。格闘が混じれば勝てると思ったけれど…ちょっと甘かったみたい。」
「でも、ヒヤヒヤしました。ヒバリさんがフィールドから降りた時、負けたかと思いましたもの。今回の勝ったのも…ギリギリだし。」
「ううん。そんなことないよ。ほつれ3つの差は大きい。それに…。」
「?」
「減点対象のほつれは3つだったけど、対象じゃないほつれ、目の荒れなんかを見てると…この出来じゃ、僕は満足できない。」
「それでも、そんじょそこらで売ってる物よりよっぽどキレイだと思うけど…。」
「そんなの当然さ。僕は自分の腕には自信を持ってる。でもね、同じ条件で…ノーミスなだけじゃない、どこからどう見ても完璧にセーターを編むヤツが居るんだ。これじゃ、勝負には勝っても…満足なんかできないっ!…ねぇ綱吉。」
「…はいっっ!?」
「わかってると思うけど、2ヶ月後の”リリアンの早編み世界大会”と”餃子の早包み世界大会”じゃ、今度こそ僕は王者の名を手に入れるからね。そして、セー ターの早編みから始まる一連の大会、君が王者で居られるのは今年だけなんだから、せいぜい今のうちにチャンピオンの椅子の感触を覚えておくんだね。」

そう言い捨てると雲雀は去って行った。
あとに残るのはツナと野次馬達。
悔しいのを隠そうともせずに去って行く雲雀を見ながら、ツナは楽しげに笑う。

実は、それらの大会は、ツナが死ぬ気にならないで雲雀に勝てる数少ない大会なのだった。




おわり。


 もともとは拍手お礼として書いたもの。
でも、書いてるうちにすこしずつ膨らんで、長くなって…今ここに至る。みたいな。
雲雀は…いや、雲雀に限らず皆、妙な特技を持ってると思う。
「不思議生物鑑定士2級」とか「うなぎのつかみ取りチャンピオン」とか。
あと、書きそびれたけど雲雀は絶対に「ひよこの♂♀鑑定士」の資格を持ってると思う。