黄昏時の、川沿いの道。
ツナは買い物袋を下げて、ヘタクソな歌を口ずさみながら上機嫌で歩いている。


「
I believe the morning sun

Alway gonna shine again and
♪」


昨日まで続いていた雨が、まるでウソみたいに晴れた。
きもちのいい風が、髪をゆらして吹き抜ける。


「I believe a pot of gold

Waits at every rainbow's end

I believe in roses kissed with dew

Why shouldn't I believe the same in you? ♪」











「いい曲じゃないですか。」
「!」


ツナの背後から声がかかる。
その声の主は骸だった。


「続けて下さいよ。」
「…。」


「I believe in make believe

Fairy tales and lucky charms and
……あぁもう!」
「どうかしたんですか?」
「…歌いにくい。」
「どうして?」
「…おまえが居るから!」
「僕何もしてませんよ?」
「でも!なんかこう…、あるだろ!」
「…そんなこと言われてもわかんないですよ。」
「うー…、」
「エスパーじゃあるまいし。目じゃなくて口で言って下さい。」
「…て、照れくさいだろ、なんか!」
「そーですかぁ?」
「思いつきでサンバを歌えるような人にはわかんないだろーけど、俺レベルの音痴には非常に恥ずかしいの!」
「それはまぁ…ヘタですもんね、基本的に。」
「そう!それを知ってるから人に聞かれたくなかったの!」
「じゃぁ、歌わなきゃいいじゃないですか。」
「…だって、天気はいいし、気持ちいいし…それに、こんな人っ気の無い道で、知人に遭遇するなんて思わないだろ?」
「まぁね。」
「そーゆー骸はなんでこんなトコに居たのさ?」
「僕も散歩ですよ。久しぶりに晴れましたしね。こんないい日に閉じこもってるなんてもったいないじゃないですか。」
「だよねぇー。ほんとーにいい気持ち!俺は買い物を頼まれたから外に出たんだけど、出て来てよかったな。」
「もう夕刻ですけどねー。」
「まーね、今日はやることあったんだし、仕方ないじゃん。」




「ところでさっきの歌ですけど。」
「さっきの…俺が歌ってたヤツ?」
「えぇ、そうです。あれ、いい歌ですね。」
「そう…かな?意味はわかんないんだけどねー。」
「やっぱり、意味は解ってませんでしたか。」
「やっぱりってなんだよ、やっぱりって。…まぁ、認めるけどさ。」
「こないだのテスト…悲惨だったんでしょう?全教科。特に数学と英語。推測は簡単なのです。」
「…うるさいなー。べつにいいじゃない。ってゆーか、なんで知ってるのさ。」
「テレパシーですぅ。」
「へ?う…ウソでしょ?」
「ウソですよ。」
「だ、だよねぇ…?」
「なに焦ってるんですか。そんな事できる訳がないでしょう?アルコヴァレーノが言いふらしてたのを小耳に挟んだんですよ。」
「あ…はは…。(お前なら出来そうな気がしなくもないんだよ!)…って!リボーンのヤツ!」
「それはもう、笑わせてもらいましたがね!」
「…ほんとーに嫌なヤツ!」




「話がずれてしまいましたが、僕、君が洋楽を聴くような趣味があるなんて初めて知りましたよ。」
「俺も自分からなんてなかなか聞かないよ。」
「…街角でかかってた、とか?」
「ううん、違う。」
「映画音楽?」
「それもちょっと違うなぁ。」
「でも、昔からある有名な曲って訳ではないですよね?僕は初めて聞く歌でした。」
「うん。俺も知らない歌だったよ。」
「じゃぁ、なんで歌えるんですか?」
「あのね、今日は昼間に、母さんと物置の掃除をしていたんだ。そうしてたら、レコードとかCDがたくさん出て来てさ。母さん曰く、父さんと結婚する前によく聴いていたモノらしいんだけど。」
「へぇ。」
「そのなかで、なんとなく気になるジャケットのがあってさ、一緒に出て来たプレーヤーで聞いてみたの。それがこの歌だよ。なんていうか、聴いてるうちに気に入っちゃってさ。何回か聴いてたら覚えちゃった。」
「なるほど。それなら納得ですね。ちなみに曲名、なんていうんですか?」
「えと…たしか、"Pollyanna"…だったかな?」
「"Pollyanna"、ねぇ。………クフフ。」
「な、なにさ。俺おかしい事言った?」
「いえいえ。ぴったりだなと思って。」
「あ、イミ的なカンジで?」
「えぇ。君が気に入ったのも頷けますよ。まさに君の事ですからね。」
「あ、そうなの?」
「超ピッタリですよ。」
「そうなんだ!じゃ、意味教えてよ!」
「"お馬鹿さん"」
「へ?」
「だから、意味です。"Pollyanna"のね。」
「…そうなの?」
「だから言ったじゃないですか。君にピッタリだって。」
「…確かに…。でも、なんかそう言われてみるとがっかりかも。」
「そうですか?」
「うん。歌詞の内容、あとで調べてみようと思ってたけど…なんかもう、いいや。」
「もったいない。」
「でもさぁ。」
「折角、超珍しく君に勉強意欲が宿ったってのに。」
「…あっそ。」






「ねぇ、綱吉君?」
「なにさ。」
「さっきの"Pollyanna"、最後まで歌ってくれませんか?」
「イヤ。」
「別にいいじゃないですか。」
「イヤったらイヤ。」
「ケチ。」
「うるさい。そんなに聞きたいなら、俺の家に来なよ。まだプレーヤー出してあるハズだから。」
「イヤです。君に歌って欲しいんです。」
「やだよ。音痴だもん。」
「知ってますよ。知ってて言ってるんです。」
「発音だって悪いし。」
「何を今更。」
「折角音源あるのにさ。」
「ぶー。」
「…お前、なんでそんなにこの歌にこだわるのさ。」
「そんなの、僕も気に入ったからに決まっているでしょう?だから続きが聴きたいんです。」
「じゃぁ、俺の家で…。」
「イヤですよ、行くのめんどくさい。」
「用のない時は勝手に押し掛けて来るくせに。」
「それとこれとは別の話です!」
「別なの?」
「別です!」
「…あっそ。でも、歌わないから。」
「えぇー。」
「それとこれとも別だもん。」
「…ふーん…。」
「…へ?」

ツナの首に、骸の手がかかる。

「…絞めちゃおっかなー…?」
「お、俺の首絞めたらお前、更に前科追加だぞっ!」
「法律的に考えれば、すでに今の段階で僕の罪はこれ以上重たくならない所まで来てますぅ。」
「…うっ……えっと、せっ、折角牢獄出たのにまた戻されるぞ!」
「…それはイヤですぅ。でも、首締めて気絶した所で油性マーカーと一緒にアルコヴァレーノに引き渡すというのも悪くないですよねぇ。パンツ一丁に引ん剥いて道路に放置ってのも悪くないです。そこに、クロームの姿を借りて笹川京子を呼んで来ても…」
「わ、わかったよ!歌う…歌うから、それだけは勘弁して!」
「くふふふふふふふふふふふ…」



 ・

 ・

 ・



 ・










ツナと別れた後の骸が、黒燿ランドへと続く道を歩いている。


「I believe the morning sun
          <朝にはいつでも太陽が輝くって信じてる>
 Alway gonna shine again and         <必ず登って世界を明るく照らしてくれるんだって>
 I believe a pot of gold
           <虹の麓には>
 Waits at every rainbow's end        <金貨の詰まった壺が埋まってるって思ってる>

 I believe in roses kissed with dew      <バラは朝露に口づけされるんだって信じてるし>
 
Why shouldn't I believe the same in you?  <同じようにあなたを信じたっていいでしょう?>♪」



口ずさむ歌は"Pollyanna"。
日が暮れ始め、少しずつアスファルトに落ちる影が長くなる。。



「I believe in make believe            <おとぎ話やお守りを>
 Fairy tales and lucky charms and      <信じてみるのも悪くはないね>
 I believe in promises             <君が心の中で祈ってくれるのならば>
 Spoken as you cross your heart       <交わした約束だって信じるよ>
 I believe in skies forever blue        <空は永遠に青いって事も信じてるし>
 Why shouldn't I believe the same in you?
 <同じようにあなたを信じたっていいでしょう?>♪」



四つ辻の向こうから髑髏が現れ、骸のそばに駆け寄る。
隣を歩きはじめる髑髏に声をかけようと、骸が歌を止めようとする。

「…続けて?」

骸は一瞬驚いたように瞬きをしたが、すぐに柔らかく笑って見せた。



「You may say I'm a fool           <そうだね、バカかもしれないね>
 Feelin' the way that I do            <自分でもそう思う>
 You can call me Pollyanna          <"お馬鹿さん"って呼ばれても構やしないよ>
 Say I'm crazy as a loon           <本当に気違いみたいにおかしいんだから>
 I believe in silver linings           <でもね、わたしは希望の光を信じてる>
 And that's why I believe in you
        <それがあなたを信じてる理由>♪」




骸が歌い終わるのを見計らって、髑髏が尋ねる。
「そんな歌、初めて聞いた。素敵な曲だと思う。」
「そうですか。それはよかった。」
「どこで聞いたの?」
「さっきね、綱吉君に会いまして………」

歩く2人の影を長く伸ばして、今日も日は暮れる。
鮮やかなオレンジ色の光が町を包み、東の空には気の早い一番星も現れはじめた。
美しい夕暮れからは、きっと明日も良い天気なのであろう事が伺い知れた。



おわり


部屋で、なんとなくPollyannaを聴いてた時に暇つぶし半分で描いたお話。

この曲すっごい好き!
知ってる人は知ってると思うけど、この曲アレね。任天堂のMOTHERの曲。スマブラでも使われてるよ!
聞いてみたい人向け ⇒ http://www.youtube.com/watch?v=bmA5bGv6FSQ&translated=1


あと歌詞。
幾つかの訳から選んでコピペしようと思ったがなかなか気に入る訳が無かったため、
結局自分で訳してみたよ。訳ってゆーか…殆ど作文だねぇ…。




Pollyanna について

「ポリアンナ」……エレノア・ポーターの小説に出てくる少女で、

苦境のなかでも「いいこと、いいところ探し」をしていく。

そこから、脳天気なまでのすごく楽天家なひとを指す比喩として使われる。

今回の訳は、骸が使うにあたって適当な形ににするために、
"お馬鹿さん"で訳したけど、あながちすっ飛んでもいないと思う。
意訳だからね。←逃げ腰