共和国連邦共通古代皇国歴39XX年
レラネス共和国歴史書 著:共和国歴史研究所:第76代所長 サトリヴェールド
セドナ戦役とセイラン王国第56代目将軍の頁より抜粋
かのセイラン王統国において、王とは飾りでしかない。セドナ戦争以前はまだかなりの権力があったが、戦争のさなか権力は軍隊側に傾いてゆく。それには第
56代目将軍が深く関わっているとされるが、彼についての記述は非常に少なく、殆どの事が分かっていない。しかし、彼の残した業績は素晴らしく、あの戦争
が終結してから70年が経った今でも彼を英雄と崇める者は大多数にのぼる。
しかし、彼には今だ謎が多く、現状では彼の本名すら分かってはいない。唯一記録に残っているのは、恐怖にまみれた敵国の兵士達が彼を呼ぶ時に使った”獄卒”という呼び名だけである。
一説によると、彼は旧セドナ帝国の士官候補生であったらしい。
彼が自国を裏切りセイラン側についた為に、あの巨大なラナス油田を押さえ、セイランが莫大な資源を得る事が出来たらしい。
しかし、何故国を裏切るような事をしたのか、などの具体的な理由の所在がはっきりしないため、その仮説の有力性は薄いとされている。
彼の活躍のなかでも、もっとも華々しかったのはセドナ帝国帝都ゲルニカ制圧戦(通称ゲルニカ戦争)である。
この戦争において、北の小国セイランが西の大国セドナに勝てたのはひとえに彼の戦略あってこそだと言っても過言ではない。
そのゲルニカ戦争当時、彼の地位は年若くしてすでに将軍であったと云われている。
文献によれば、彼はたった40万の軍勢で300万人のセドナ軍控える帝都ゲルニカを3日で制圧したのだという。
まさに神業である。戦う為にこの世に生を受けたと言っても過言ではないというのもうなずける。
そして、ゲルニカ戦争と並び有名なのは、なんといっても彼の死に様である。
首都ゲルニカを制圧し、大国セドナを手中に収めたセイランは王都をファナベルからゲルニカへと遷都した。
そして、彼が旧ゲルニカ宮殿のバルコニーにて戦勝のスピーチをする為に現れた時、彼の顔は真白く塗られ、血のような紅をさすという異様な化粧な施して観衆
の前に現れた。そして彼は、宮殿前広場に集まった、沢山の人間に、「自分の願いは、かようなものではない。」と一言だけ言い、顔を上げた。その瞬間、彼は
何処かにまぎれこんだ抵抗勢力によって射殺される。
後に将軍を射殺した犯人は警官により拿捕されるが、不思議な事に彼は抵抗勢力ではなく普通の軍人であった。そして、「俺は約束を果たしただけだ。」としか言わなかったらしい。
第56代将軍の異様な化粧については諸説あるが、今の所最有力とされる情報では”彼は自分が殺される事をあらかじめ知っていて自分に死化粧を施して現れた”というものだが、その説を裏付けるようなものは、なにもない。
彼の最後の一言、「自分の願いは、かようなものではない。」を国民は「私がしたかったのはセドナ程度の小国を落とす事ではない」と解釈し、セイランは王国
は大陸統一戦争に踏み切る。だが、彼という優秀な指導者を失ったセイランが歴史からその名を消すのに10年とかからなかったという。
その後、各地で小競り合いが続く事になるが、50年程後に西のレラネス共和国が大陸の統一を果たし、今に至る。
「おい、そこ!」
「あだっ!!?」
「ったく・・・授業中に寝るなと何度言ったら分かるんだ!」
「だって・・・俺、歴史なんてきらいなんだもんよ。」
「自分の住んでいる国の英雄の話くらいちゃんと知らないと恥かくぞ。」
「歴史なんか勉強して何の訳に立つってわけでもないじゃん。」
「役に立つ!」
「どんなときに?」
「試験のとき!」
「ぶーぶー!」
戦争が終わり、武力の時代が去ってもう何百年経ったのだろうか。
復讐の悪鬼は国の英雄となり、爆撃の後には学校が建った。
彼らは知らない。英雄がどんな思いを抱いて戦ったのか。
彼らは知らない。その足下にはどれだけの名も無き死体が転がっているのか。
彼らは知らない。かつての英雄の夢が、科学者になって、この、誰も見向きもしない真っ黒い黒雲を晴らす事だったなんて事。
誰も。誰一人として。知る由もない。
終業の鐘が鳴る。彼らは知らない。ここの学び舎が、かつての英雄のいた軍学校であることも。
もう、軍学校は必要ない。
そして、かつての激動の時代から唯一全く変わらない、暗雲に覆われた空は順調に闇の帳を降ろし始める。
終幕
歴史物もどきは、やるならやっぱり書き慣れたメルヘン王国でやるつもりだったけれど、もうやる気がしません。
設定作りこみすぎて無理。
そして、ギャグ以外のごくそつ君、このサイトにて初めての登場。
pictの彼とのギャップが凄まじい。ユカイユカイ。
そして、よく考えれば初めて書いたシリアスです。
シリアスってこんなに疲れるものなんですね。
そして、この物語のテーマですけど、まぁ、いわゆる「勝てば官軍」です。
歴史とはいつの時代も常に、勝者が都合よく作るものなのですお。
1〜3ページ目までが一応あの世界の史実、最後の4ページ目が後世に伝えられた歴史です。そんな感じ。
以前に書いた「灰色の空」冒頭と同じ世界の設定だよ。一応。