「えっと・・・・たしか、“ニューヨーク東8番街Zビル脇の路地19:48分”って聞いたスけど・・・本当にあってるんスかね?」
今の時刻は、地球のアメリカ合衆国時間で19:48分。
俺が今居るのはニューヨーク東8番街Zビル脇の路地っス。ちなみに天気は・・・ツイてない事に雨。
俺がユーリの城で夕飯を考えながら料理の本を眺めていた時、ふと鍋料理のページで目がとまったっス。
とってもおいしそうだし・・・楽だし・・・今晩はこれだ!ってカンジで。
材料を確認してみたところ、卵くらいしかなくって。まぁ、昨日冷蔵庫の掃除したからしょうがないんスけれど。
で、買い出しの為に地球に来たっス。さすがにメルヘン王国だと市場の時間でも時期でもないし、材料の調達が超大変だからこうして地球の街まで。
地球のスーパーってマジ便利っスよね。
そうそう、今俺が難儀してる理由なんスけれど。王国から地球に来る時はユーリの作った魔法陣で地球にある拠点ににちゃちゃっと着くんスけれど。
まぁ、普段来る時ってのは8割がた仕事だし、プライベートの時もユーリに帰り用の魔法を作ってもらうっス。
でも、今日はユーリの帰りが遅いみたいで魔法が無いんス。
スマイルに聞いたら、今日はニューヨークの東8番街Zビル脇の路地の奥に異世界と異世界とを繋ぐ道の案内人さんが来る日・・・らしいっス。で、買い物を終えた俺はここで待ってるんスけれど・・・。
なかなか来ねェっスね。
あ、傘の布はずれちゃった・・・。あちゃぁー。気に入ってたのに・・・・。
・・・こん、・・・ぴょこん・・・
「?」
音のする方をみてみると、そこには古そうな信号機がぴょこんぴょこんってこっちに・・・歩いて来た?!・・えぇっ!?
えっと、信号機が一本足でぴょこぴょこ動いて跳んでて・・・うん、まぁ・・・ヘンなの・・・。魔法機械の一種かな・・・・?
「お初にお目にかかりマス。失礼デスが貴方はどちらの世界の住人でいらっしゃいマスか?あと、種族とお名前をお願いしマス。」
「(うおっ!しゃべった!)・・・えっと、メルヘン王国世界、西方人狼種族のアッシュといいます・・・。」
「はい。メルヘン王国世界、西方人狼種族のアッシュ様デスね。間違いはアリまセンか?」
「はい、問題ねぇっス。」
「分かりマシた。では、これカラご案内する世界はメルヘン王国世界・・・でよろしいでショウか?」
「お願いします。」
「あ、そうソウ。それでは通行証を拝見しマス。」
「!!・・・通行証?」
「はい。いわゆるパスポートデス。」
「えっ・・・と・・・無きゃダメっスかねぇ・・・?」
「あ、パスポート落としちゃいマシタか?再発行はいつ頃になりマスか?」
「いや、そうじゃなくて・・・最初から無いというか・・・。」
「・・・ここは地球デスよね?パスポートも無いノニどうやって来たのデスか?」
「えっと・・・・・・ユーリの・・・メルヘン王国北方大森林北西に位置するヴェラスウェード城の城主、ユーリの魔法を借りて来ましたっス。」
「あァ。ヴェラスウェード城の。アッシュさんはそこのお城の使用人さんでいらっしゃるのデスか?」
「・・・友人兼居候です。(まぁ、使用人みたいなものだけれど・・・)」
「そうデスか。そこのお城の城主様は特別な許可がおりていマス。さぁ、ご案内シまショウ。目的地はメルヘン王国ヴェラスウェード城城門でよろしいデスね?」
「はいっ!」
「それでハ私を見失わないようについてきてくだサイ。」
道は紺色にどこまでも続いていたっス。
道?いや、道って形容は正しくないと思う。どこまでも続く紺色の平原て言った方が正しいかも。
そこをいくつもの線が平原・空中問わず、文字どおり縦横無尽に走っているっス。
多分、今歩いている“道”もきっとその“線”のひとつなのかな。そして、ところどころに空間の裂け目?みたいなのが、まぁるく、出たり引っ込んだり変化したりしているっス。不思議だなぁ・・・。
そんな中を目の前の信号機は脇目をふる事も無くぴょこぴょこ進んで行く。
「こりゃあ、道案内サンがいないと確実に迷っちゃうっスね・・・。」
「たまに、はぐれテどこか違う世界へ行ってしまってそれっきりのヒトなんかもいマスよ。」
「そりゃ怖えぇ!」
「うっかり、“世界の入り口”に・・・あぁ、あれらの裂け目の事デスけれど。に近寄ってしまったり、興味本位に他の“道”に踏み込んだりシテは、戻れなく
なってしまいマスよ。ここ、“世界と世界の狭間の世界”には時間とか空間とかいう概念はありませんから、時間を巻き戻す魔法や転移の魔法なども無効になっ
てしまいマス。くれぐれもお気をつけくだサイね。」
「・・・・。地味にユーリの魔法ってすごいなぁー・・・とか実感・・・。あ、そうだ。さっきユーリの許可がどうのこうの言ってたっスよね、あれは一体どんな許可なんスか?」
「あぁ、ヴェラスウェード城の城主様の許可デスか?
たしか、Aランクの許可だったと思いマス。」
「そのAランクの許可の内容って一体・・・?」
「全ての世界をパスポート無しで自由に行き来できるという許可デス。メルヘン王国世界のヴェラスウェード城の城主様の他にはあと全世界中で28人しかその許可の下りた方はいらっしゃいマセん。」
「そんなスゴい許可なんだ・・・。」
「はい。まぁ、世界と世界を意のままに行き来できる程の魔術師なんてそうそう居ませんデスからね。まぁ、そうそう居ても困りマスが。」
「はぁ・・・。(あのユーリがねぇ・・・。)」
俺たちは“世界と世界の狭間の世界”を歩いてゆく。